フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 立ったまま寝ているアーチャー961の姿を見る、モモとバーサーカー。アーチャーを思いやるような態度や言動を見せるバーサーカーに対して、モモはその理由を聞く。彼は「大切な人に置いていかれた者同士」、だからだと答えた。
 
 星が煌めく外から、車内に帰り、眠るモモ。彼女は夢の中へと迷い込む。
 夜遅くまで机仕事をしていた、着物姿の老人と出会う。
 何をしていたのかとモモが訪ねると、彼は死ぬ前の身辺整理だと答えた。
 会話を続けるうちに、目の前の老人の正体に気づいてしまうモモだったが、名を呼びたくてもその名が分からない。
 彼もモモへ名を告げようとするが、なぜかうまくいかない。
 けれど、老人は大声をあげて、面影のある顔で笑う。
「書けばよいのか! 至極単純明快! あーっはっはっはっ!」
 ……その後、彼はばったり倒れて、二度と起き上がることはなかった。

 翌日。
 落ち込んだ気持ちをアイスで上向きにしてから、上級都市レグルスにたどり着いたモモ達だったが、そこは、無数の穴が空き、砂と瓦礫積もる廃墟と化していた。
 情報と物資を求めて、探索をするモモとバーサーカー。
 バーサーカーでは通れそうにない崩れた道を、モモは潜り込んで先に行く。
 目の前にあったのは、円形闘技場。出会ったのは、赤いドレスに身を包んだ美しい少女剣士。
 彼女は突然現れた謎の黒い影を倒すと、モモに問うのであった。

「──答えよ。そなたが、余の敵か?」


第8章 されど『想い』だけは永久(とわ)に続く
第27話 心、解かして


 

 

 暗い影で出来たような敵を全て斬り伏せた少女は、光降り注ぐ小山に立つ。

 真紅のドレスを身に纏うその美しい姿に見とれ、立ち尽くしている私に声が投げかけられた。

 

「そなたが、余の敵か?」

 震える全身を諫め、緊張からくる冷や汗で濡れた手を握りしめながら、私は気持ちを伝えるべく懸命に答える。

 

「私、は、モモタ・トバルカイン、といいます。敵じゃ……ないです」

 私の答えを聞いた少女は、首を気だるげに傾けた。結んでいない金の髪がさらりと揺れ動いて、彼女の物憂げな顔を覆う。

 敵の攻撃によって出来た白い頬の傷は治らないままで、赤い血が流れ、ぽたりぽたりと顎から垂れ落ちていた。

 

「……ではよい」

 それだけを言うと、剣を砂と瓦礫が積もって出来た丘に刺し、少女はゆるゆると身を横たえた。

 

「余は眠る、起こしたら怒るぞ」

 まるで糸が切れた人形のように、彼女はその身を停止させる。

 

「……あの」

「余は寝ている! 寝ーてーいーるー!」

 声をかけてみるが、投げやりになっている子どものような口調で突っぱねられた。

 

「……ふん!」

 花弁に埋もれ、髪を無造作に砂の上に投げ出して目を閉じている、謎の少女。

 先ほどの動きを見るに、サーヴァント、もしくはそれに近しい存在だとは分かるが、何者なのだろう。

 

「マスター、すごい音がしたけれど大丈夫かー!?」

 崩れ落ちた柱や天井の残骸を取り除いて、後から軽い鎧をかちゃかちゃ音たてながらやって来たバーサーカーは、私を見て、その次に砂の丘に眠る少女を見た。

 

「……サーヴァントか」

「助けて……くれたんだけど」

「けど? 何かあったのか?」

 事情をよく知らない彼に、私は起きた出来事を説明する。

 

「眠りたいんだって、起こしたら怒るって……」

「困ったな、ようやく見つけた手がかりなのに」

 バーサーカーは暗い緑の目を細めた。

 

「よーし、交渉をしよう」

 自らの手のひらを拳でぽんと叩くと、彼は無遠慮にずんずんと彼女に近づいた。

 

「新顔か……余は寝るのだ、構うな」

 不機嫌そうな声を出す少女。

 

「構いますよ。我らは流浪の旅人、少しでも情報が欲しいのです」

 その態度に気圧されずに、話しかける私のサーヴァント。

 

「無礼な男だ……余にもう少し気力があれば、首を切り、はね飛ばしているところであった……」

 すねたような声色だが、バーサーカーと少女の会話は続いている。とりつく島のなかった私とは大違いだ。

 ……最も、彼の会話術は相手の神経を逆撫でする事でやり取りを成立させるものなので、真似したいとは思わないけれど。

 

「私はバーサーカー04、あなたは?」

「セイバー0066……しかし、慣例に従った数字の羅列など寂しかろう。

 紅の剣士、赤セイバーと呼ぶが良い」

 謎のサーヴァントはセイバーのクラスであるらしい。知っている、剣にまつわる伝説持つ英雄が当てはめられるクラスだ。

 

「2、3個でいい。聞きたい事がある」

「ええい! 分からぬ奴だな!」

 少女は体を素早く起こすと、砂に刺していた剣の柄を右手で掴んだ。

 

「余に構うな! あっちへいけ!」

 そして、左の手で赤いガラスで出来た造花を持ち、胸元へ寄せる。

 

「マスターから贈られたこの薔薇を見つめながら! 死の眠りにつくのが余の望みなのだ! 

 邪魔立て、すれば……切……る……」

 初めこそ怒りと威勢が込められていた声だったが、次第に力が失われ、剣にもたれかかるようにへたり込んでしまった。

 

「頭痛が……うう……」

 顔は青ざめ、握れなくなった剣が砂埃を立てながら、ぱたんと横倒しになる。

 

「……赤きセイバーよ」

「なんだ!」

 薔薇だけを抱えた少女は、いらだちの混ざった声をバーサーカーに飛ばす。

 私は2体の会話をはらはらしつつ見守っていた。

 

「死ぬ前に、うまいものが食いたいと思ったことはないか?」

「……なんだと?」

 少女は虚を突かれたのか、素直に言葉を返してしまう。

 

「冷たいアイスクリームがあるぞ。合成粉乳で作られたものじゃない、牛からとったクリームで出来た最高級品だ」

 ……私は混乱した。

 

(えっ? なんでそこでアイスを勧めるの?)

 体調が悪そうなのであれば、それを心配する言葉をかけるとかが、一般的な思考であろう。

 しかし、私のサーヴァントは何を考えているのか、美味しいアイスを交渉の場に持ち出し始めた。

 

「……そんなもので釣られる余ではない」

 彼女は目線を横に向け、一度断った。

 

「……が、この砂ばかりの世界でそのような物が真にあるのか、確かめてみたくはあるな」

 オリーブ色の明るい瞳が、きょろきょろと左右に泳ぐ。

 

「よし! じゃあアイス食おうぜ! アイス!」

 バーサーカーはにんまり笑いながら拳を天に突き上げた。

 

「……えっ?」

 どうしよう、理解が追いつかない。

 サーヴァントとは、アーチャー961みたいに、人智を超えた存在で、強くて、格好良くて、美しくて、油断なんてしなくて、そんな、アイスに釣られるような存在では……。

 

「時にバーサーカー04よ、フレーバーはいくつあるのだ?」

「ミルクのみです」

「むー……余は蜂蜜や桃、薔薇を味わいたい気分だったのだがな……。

 アイスを食べたら! 余はここに戻って眠るからな! な!」

 赤い少女はガラスの薔薇と剣を手に持ち、てくてくとバーサーカーの後ろをついて歩いていく。

 私だけが、砂に埋もれかけの円形闘技場にぽつねんと残された。

 

(……アイスって、何なのだろう)

 サーヴァントすら魅了するあの冷たい甘いお菓子の存在に、私は強くうろたえた。

 

 

 タブレットにマッピングされた通りに道を戻って、デザートランナーの側まで帰ってきた私とバーサーカー、そしてセイバー。

 アスカとアーチャーの短い自己紹介もそこそこに、赤の少女に紙カップ入りアイスとプラスチック製スプーンが手渡される。

 

「うむ……これは確かにアイスクリーム……余を罠へ誘う(はかりごと)ではなかったか……」

 近くの瓦礫に腰をかけ、足をぷらぷらさせながらセイバーは真剣な眼差しでアイスを見つめた。

 手に持つ半透明のスプーンで菓子の表面を突き刺し、もこもこと白い中身を浮き上がらせる。

 そして口を開けて、冷たい中身を味わう。

 

「んー……なんと美味なる氷菓か! 滑らかな舌触り……絹のような、新雪のような……」

 ぱたぱたと空を蹴り、乾いた大気をかき混ぜる足。

 

「深い味わいのクリームが舌の上を滑り、何のとっかかりもなく喉へと落ちていく……たまらぬ……」

 まぶたを閉じ、うっとりとアイスに舌鼓を打つセイバー。冷たいお菓子はあっという間になくなってしまいそうだ。

 

「人である以上、甘味には勝てないんだな……分かったかい、モモ」

 貴重な粉のコーヒーをカップにお湯を注いで作りつつ、バーサーカーは私に語りかけた。

 

「美味な菓子であった……感謝しよう、見知らぬ旅人達よ」

 アイスを食べ終わったセイバーは、初めて出会ったときの気だるげな印象から一転して、華やかな笑顔を見せた。

 

「うむ、うむ!」

 次に、目をきらきらと輝かせて周りを見る。緑の瞳に映る瓦礫、デザートランナー、そして。

 

「モモタ・トバルカインに、アスカ・ピオーネ……と言ったか? なんと見目麗しい少女か! 

 あちらに立つ弓兵も……おお! 堂々とした佇まいはまるで古代の主神像のようで!」

 セイバーは私達3人を褒めそやすと、胸に手を当て、嬉しそうに語り出す。

 

「瞳に映す美も重要なのだ。

 この世界は……都市は画一的で、外は砂と荒野ばかりでつまらぬ! 

 まぶたの裏で歌劇を幾度も再演するのも、飽きてきたところであった……」

 それだけに留まらず、瓦礫からぴょんと軽い調子で飛び降りると、ドレスをひらひらとさせながら、私達の周りをくるくると歩く。

 

「最後にこのような美を見ることができ、余は実に幸運なサーヴァントだ……」

 バーサーカーがコーヒーを片手に持ったまま、セイバーの様子を観察していた。

 

「俺はどうなのです? 真紅のセイバー」

「む」

 自らの行動を中断させられた不満で、彼女の頬がぷくりと膨れた。

 

「見目は悪くないが……性根が好かぬ。協力すれど、信頼することはない。余の魂が警戒をしている」

「なるほどなるほど? コーヒーいるかい」

「しかし、どれほど怪しい相手であろうと、贈り物を無碍にはできぬ。

 いただこう……純真なマスターの前で毒を入れるほど愚か者ではあるまい……」

 立ったままコーヒーを受け取り、そっと口に含むセイバー。

 

「……味はともかく、氷菓の後の苦味は心地よい」

 遠くを見つめるような眼差しをしたまま、コーヒーをこくこくと飲むと、カップをバーサーカーに返した。

 

「……さて、受け取るばかりで与えない、というのも余の信条に反する。

 知っている事は少ないが、出来る限りはそなた達に話すとしよう」

 ぽすりと、再び瓦礫に彼女は座った。

 おずおずと、静かに待っていたアスカが口を開く。

 

「赤いセイバーはレジスタンスの一員なのですか? この都市の崩壊の理由は知っていて……」

「待つのだアスカよ。いくつか認識の齟齬が生まれているのでそこから正そう」

 私達は丁寧に言葉を返してくれるセイバーをじっと見る。

 

「余はレジスタンスと呼ばれるものの一員ではない。そなたらと同じ、砂の海を行く旅人だったのだ」

 彼女は丸い穴から覗く空を指差しながら、話を始めた。

 

「そこに崩壊した建物の破片で出来たスロープがあるな? 余と余のマスターもそこから降りてきたのだ。

 別の広場に、移動に使った車がある、4輪のものだ」

 廊下から吹き抜けてきた風が、彼女のドレスの裾を揺らした。

 臨戦態勢のまま構えているアーチャーの白い服も、あわせてひらひらと動く。

 

「……余の始まりから話そう。

 AIとやらが定めた上流階級、その1人に召喚された余は、オークションにかけられ、あるマスターに競り落とされた……らしい」

「らしい?」

 バーサーカーが彼女の言葉を繰り返した。こくんとセイバーは頷く。

 

「どうやらオークション後に記憶処理が行われたようだ……忌々しい、故に実感がないのだ」

 その話を聞き、私はうなだれる。

 サーヴァントはこの世界において物、人格は無視されている。その事実を思い出したから。

 例としては、持ち主が変更された際の記憶処理や、非人道的な方法で作られている機械化サーヴァントなど。

 

「余を買ったマスターは芸術家であった、余の事も尊重してくれた。

 そなた達とアーチャー、バーサーカーのような魔術的な繋がりこそ無かったが、関係は良好であった。

 歌い、踊り、芸術を極め……余は、何の責任も背負わない、童女の如くすごしていたのだ……」

 セイバーは恥じらうように顔を伏せてから、胸に飾っている赤い花を指先でいじる。

 

「これはだな、余の奏……マスターが作ってくれた薔薇の造花なのだ

 ガラスを熱し、伸ばし、花弁へとなるように小さく切っては、摘まんで、吹いて……」

 慈しむような優しい語り方は、私の脳裏にある光景を鮮明に浮かべさせた。

 美しい彼女のためだけに、炉の前に立ち、熱くとろけたガラスに挑み、永遠に朽ちぬ薔薇を作る彼女のマスターの姿。

 それを嬉しそうに眺めている、火の熱で頬を赤く染めた、セイバーの姿。

 

「もちろん! 余は芸術においても万能の天才故な、この様な物だとて自らの手で作れようが……しかしな、マスターが作ってくれたということが嬉しいのだ」

 指が触れる度に花は小さく動いて、きらりきらりと輝いた。

 

「嬉し……かったのだ」

 声は小さく、か細くなって、顔を伏せたままセイバーはしばらく沈黙した。

 遠くから、風に揺らされた金属部品の軋む音がする。

 

「……話を戻そう」

 ぱっと上げた彼女の顔にある瞳は、少しだけ潤んでいるように見えたが、その理由について言及する者など誰もいなかった。

 セイバーの話は続く。

 

「都市運営のAIが聖杯戦争を宣言し、人間と人間の殺し合いが始まった。

 持たざる者が、持つ者へ牙を剥いた」

 アスカが苦しげな表情をした。語るセイバーの顔を私はじっと見続ける。

 

「マスターは富を、生存権を持つ者であった。故に、誰の助けも得られず、敵対者が次々と襲いかかったのだ。

 余は剣を取ったが……マスターは争いを望まなかった、涙を流し、首を横に振った」

 セイバーにすがりつき、剣を振るおうとする腕を止めさせた、誰かの姿が見えたような気がした。

 

「余のマスターは美を理解する芸術家ではあったが……戦う者ではなかった。

 他者の命を踏みにじってまで生きようという、闘志は無かったのだ」

 ずいぶんと遠い場所から、がらがらと何かが崩れ落ちる音がする

 

「余とマスターは車を手に入れ、逃げた。燃料が尽きるまで走り、この都市にたどり着いた、という訳だな」

 セイバーはそこまで話すと、瞳を伏せて押し黙る。

 丸い空の縁から砂がさらさらとこぼれ落ち、円錐形の小山の上に静かに降り積もった。

 

「余の話はこれで終わりだ。そなた達の旅の事情は聞かぬ、色々あるであろうしな」

 彼女はさっと立ち上がり、剣を持って去ろうとする。

 

「丘に戻る、マスターを待たせているのでな」

 2輪の薔薇の造花が刺さっていた丘、そこで眠りにつこうとしていた彼女。

 

(セイバーのマスターは……死んでしまったんだ……)

 それをはっきりと彼女は口にしなかったが、振る舞いや言葉で、私は事実を感じ取った。

 私達へ向けられた背には、ただ寂寥感のみがある。

 

「お待ちになって」

 そんな彼女をアスカが呼び止めた。

 

「む?」

 セイバーは振り返り小首を傾げた。額の上にある、ぴんと立った1本の金の髪がふよふよ揺れる。

 アスカは制服のスカートの裾をひらひらさせながらデザートランナーのタラップを登り、中へ戻ると、何かを持って出てきた。

 

「……櫛?」

 急いで取って来た物は、静電気が発生しないように合成樹脂で作られた白い櫛だった。

 息を乱しながらアスカが答える。

 

「綺麗な髪ですのに、少し乱れていますから、解かせて下さいな」

「むぅ……そうだな、結んでもいないし、絡まって、砂もついている……」

 セイバーはアスカに言われて始めて気になったのか、腰の辺りまで伸びている自分の髪を触った。

 

「頬に血もついています、綺麗に拭きましょう?」

「アスカの言うとおりである……マスターに美しくない姿は見せられないからな」

 彼女の提案を、はにかみつつ受け入れるセイバー。

 

「よいぞ、余の後ろに立つがいい。()く栄誉を与えよう」

「はい」

 セイバーが石の上に座ると、アスカは髪に櫛を通し始めた。

 白い手の上に金の髪が乗り、櫛の歯がもつれた場所を優しく(ほぐ)していく。

 そんな穏やかで微笑ましい時間が続いた。

 

 

「うむ……先ほどまでの姿から少しは見違えたか?」

「髪がきらきら光って、とても素敵です、セイバー」

「麗しい少女にそう臆面も無く言われると、流石の余も照れる……」

 セイバーを見上げながらアスカが彼女をほめる。

 こうして並んでいる所を見ると、微妙な身長差がよく分かる。140cmであるアスカより、セイバーの方が10cmほど高い。

 

(あと……胸、の大きさとかも、違う……うう……)

 赤いセイバーの体は、小さい中に良いもの全部ぎゅっと詰まっている……トランジスタグラマーというか、そんな感じだ。

 

「しかし困った……また余は貰ってしまったな……」

 さらさらになった髪を指に絡ませながらいじるセイバー。

 

「そうだ! そなた達、この都市を探索するのであろう? その間、この白き車を余が守る……というのは」

 アーチャーが彼女の提案に指先を動かしてから反応した。

 

「私は……」

「アーチャー殿、セイバー66はデザートランナーに傷を付けることなんて出来ないよ」

 何か話そうとした彼へ、バーサーカーが声をかぶせた。

 

「大理石のような純白さでありながら、この車輪の無骨な黒が、なんとも言えぬアクセント……」

 セイバーは私達を誉めそやした時と同じ様に、瞳をきらきらさせて、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、白い車体を夢中になって見ている。

 

「美しいものを壊そうとなんてしないって、よく分かるだろう?」

「……そのようですね」

 2体のサーヴァントの意見が一致し、私とアスカの考えも同じとなった。

 セイバーに車を任せ、懐中電灯や飲み水に携帯食料、サーヴァント用の液体リソースボトルの予備などを持って、私達は広大な上級都市探索に出発した。

 

 

 2人より4人の方が探索は進む。

 重たい瓦礫も、アーチャーとバーサーカーが協力し合って取り除いてくれるし、私では気がつけなかった手がかりも、アスカが教えてくれる。

 3時間後。

 都市の探索はスムーズに進み、私達は大きなホールへとたどり着く事ができた。

 天井は崩れていないが、電気が通っていないため、中は深い闇に覆われている。

 持ってきた懐中電灯をかちりと音させながら点けて、足を踏み入れた。

 地面には封の開けられた缶詰めや、アルミの袋、飲料水が入っていたであろうプラスチックボトルのゴミがごろごろ。

 

「これ……パネル?」

 天井を照らしてみた。リニアの駅の行き先を表示するような、大きな液晶のパネルがぶら下がっている。

 砂埃がうっすら被っているが、画面に割れもないし、壊れているようには見えない。

 

「電気があれば動く……かなぁ」

 ホールの中央にある円柱状の装置をがさがさと探っていたバーサーカーが、声で私達に見つけたものを伝えてくれた。

 

「内部に自家発電機がある。けれど、燃料がない!」

「デザートランナーから融通できない?」

 私は大きな声で返事をしたが、彼は気落ちした様子で返した。

 

「難しいだろうな、俺達が旅をする分が無くなってしまう」

 細かい瓦礫の中身を探っていたアスカの肩が、落胆と疲れでがっくり落ちるのが見えた。

 

「起動出来たら、当時の都市の様子が分かるかもしれませんのに……」

 彼女の言葉を聞きながら、私も同じ様に落ち込む。

 アーチャーがタブレットで何かを確認した。

 

「もうすぐ日没です、安全のために一度戻りましょう」

 今日は彼の提案に従い、暗闇から抜け出て、デザートランナーのある広場に帰ることにした。

 

 

 

 

「ふむ、都市のコンピューターを動かし情報を閲覧したいが、燃料が無いと……」

「はい」

 日はすっかり落ち、過去の攻撃で丸く開けられた空に、星が瞬いている。

 4つの懐中電灯が広場の中心に置かれ、廃墟を白く照らしていた。

 夕食は塩味のインスタント麺。タンパク質キューブがどっさり入っている特別製のもの。

 赤いセイバーにも振る舞い、彼女は上機嫌でそれをもぐもぐ食べた。

 夕食の後、私とセイバーは外でこうして話し込んでいる。

 

「……燃料を得る方法は知っている……が」

 瓦礫に腰掛けているセイバーは口ごもった。

 

「危険すぎる」

 白い手を祈るような形に組んで膝上に置き、彼女は黙ってしまった。

 デザートランナーの開いている出入り口から、寝室の用意をしているアスカの声が聞こえる。

 しばらく、私達の間にそれ以外の音はなかった。

 

「……私、聖杯戦争を止めるために旅をしているんです」

 長い沈黙の後、意を決して旅の理由を話してみる。セイバーがぱっと顔を上げた。

 

「私とアスカが住んでいた都市は、聖杯戦争のせいで壊されました……沢山の人が亡くなるのも、見てきた」

「そう……だったのか」

 金の眉の間に、悲しげなしわが寄った。

 

「止めるためにも、他の上級都市に行きたいんです。戦争の理由を知りたいんです、首謀者も……。

 私、何も知らない、まだスタートラインにすら立てていない、だから、情報が少しでも欲しくて……!」

 気持ちを込めて私は訴えかける。焦燥感が胸にあった。

 セイバーは地面の一点を見つめたまましばらく黙っていたが、ゆっくりと立ち上がり、ドレスの裾の砂を払った。

 

「アスカを呼び、アーチャー961とバーサーカー04をここへ。燃料のある場所を教えよう」

 赤い剣が粒子をこぼしながら彼女の手の内に現れ、その後ろにある星は強く瞬いて見えた。

 

 

 第27話 心、解かして

 終わり




 単語説明


 アイスクリーム
 乳製品主体の氷菓。終末を迎えた世界においてはとても貴重なもの、
 実験都市である都市711は少数ながら乳牛も育てているため、キルケーの個人的な趣味でアイスクリームが作られていた。試作段階でもあり。バニラなどが入手できないので、フレーバーは現在ミルクのみ。
 その甘さと冷たさは、凍てついた英雄の心を解かすほどの魅力を持っている。
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