フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 囚われたサーヴァントを救うため、クッキングバトルに挑むモモとアスカ。
 食料生産管理AI、ソラリネ・ヘルゼルマガツは「人類の作ったお料理を食べるのが夢」と語る。
 彼女の食べたいものを探るためにも、少女達は食料生産施設の見学に向かうのであった。

 設備で次々と作られる食品ブロックを見つめながら、工場の奥へ進む2人。
 最後の一部屋には、料理や食品に関する大量の資料が集められていた。
 「参考に頑張ってほしいです」と語るソラリネの言葉を信じ、本や電子タブレットを用いて調べ物を始めるモモとアスカ。
 しかしモモは、『S文書』を女神が探しているという謎のスパムメールを偶然にも目に入れてしまう。
 「白紙のページ」であるという一文に、バーサーカー04が見つけたあの本のことを思い浮かべてしまうが、今は置いておき、資料探しに取り組むのであった。

 アスカとの話し合いも経て、ソラリネに作るお料理が決まった。
 数百年前に撮られた料理番組を見ながら、滅びてしまったかつての世界に、モモは思いを馳せるのであった……。



 ……前回のあらすじは「全体的にふざけすぎ」だと、あるサーヴァント男性から苦情が入ってね。
 いやー参るよ、私が好き勝手にあらすじを付けているだけだというのに!


第41話 焼きたての真心をあなたに

 

 

 映像資料、『トミーのワンダフルキッチン』の閲覧が終わった。

 インターネットを通じて静かに仕事をしていたソラリネ(目を閉じていて、まるで眠っているみたいだった)へ声をかけ、必要な分の食材をお願いする。

 

「任せるです、いつもタマモキャットに使わせているフードプリンターを使って、特急でお作りするです」

 資料室の片隅に置かれていた四角い箱型の機械に、運搬ロボットが運んできたペースト状の材料が流し込まれると……四角く固められた食材がぽこぽこと出てくる。

 茶色と白い層が交互に重なるベーコンブロック。

 黄色く着色された固形油、昔風に言うとマーガリン。

 どれも透明な袋でぴっちりと隙間なく包まれていた。

 

「フードプリンターは上流階級の娯楽用でもあるです。

 出来た食品はビニール包装されているので、実に衛生的なのです」

 続けて出てきたのは、ほうれん草くらい濃い緑色の野菜ブロック、その次は、玉ねぎに食感を近づけた白の野菜ブロック。

 

「次に基本材料を渡すです、落とさないようにしっかり持つです」

 パン用の炭水化物粉末……つまり小麦粉、調理用の液体油、人工卵液、そして塩を受け取った。

 

「言われる前に手を貸すネコ」

 材料をアスカと分担して持ち、タマモキャットにも手伝ってもらい、私達は特設キッチンのある広場に戻ってきた。

 

「マスターお帰り」

 檻の中でバーサーカーはあぐらをかいており、アーチャーは片膝を立てて静かに座っていた。

 

「ただいま。何かしてた?」

「暇だったので脳内将棋してた」

「……誰と?」

「そりゃあ自分と。アーチャー殿は都合悪そうでしたので。

 えっ? マスターは自分以外の人間と脳内将棋をするのですか? 怖ぁ……」

 分かりやすいボケにツッコミはいれず、隣の檻の弓兵へ声をかける。

 

「大丈夫? アーチャー」

「……若干の疲労を感じていますが、お気になさらず」

 彼はそう言うが、声には元気がない。

 

(やっぱり、早く助けなくちゃ)

 腕いっぱいに持ってきた材料をキッチンに並べながら、私は決意を固くした。

 

 

 

 

「それで、モモとアスカは何を作るのです?」

 タマモキャットの尻尾にすっぽりくるまれながら聞いてくるソラリネ。

 

「えっと、『キッシュ』を作ろうと思いまして」

「……確か、フランスのある地方で生まれた料理だったです?」

 アスカの答えた単語に、ソラリネはAIらしく正確な答えを付け加えた。

 

「ではキャットはキッチンに立ち、2人を見守り時にアドヴァイスを飛ばそう。

 かつて全てのネコが人類にそうしていたように……」

「よろしくお願いします」

「頼もしいです、タマモキャットさん」

 私もアスカも彼女へ頭を下げる。

 

「そう言えばさ……バーサーカーって、料理出来る?」

 檻の中で座り込んでいる彼に、期待はしていないが聞いてみる。

 彼は左にある緑の瞳を輝かせながら、自信満々に話し始めた。

 

「芋の茎をいい感じにぶった切って、味噌をとにかくぶち込んで……煮るだろ? 

 ──それを炊いた大量の米で食べる!」

「……大味すぎる!」

 サーヴァントからのアドバイスは許されていたが、04はあてになりそうにも無く。

 

「アーチャーはお料理とか……出来まして?」

 アスカも自分のサーヴァントに聞くが。

 

「……?」

「アーチャー?!」

 961も助けにはならなさそうだ。

 

(お料理だって出来そうなんだけどね……)

 彼に対しては何でもそつなくこなしてくれる印象がある、今までの旅でいっぱい助けてもらったからだろうか? 

 

「……よし、とにかく頑張らなくちゃ」

 檻の中のサーヴァントの事から頭を切り替える。

 エプロン、三角巾をつけ、両手を爪の先まで洗って、水気を清潔な布巾で拭いた。

 

「……よくよく考えたら、両者が戦っていないとクッキングバトルとは言えないです?」

 そんなAIの声を聞き流しながら、オーブンを予熱して、粉やマーガリンなどを計量していく。

 必要な器具もキッチンに並べられ、本格的なお料理が始まった。

 

 

 

 

「小麦粉をボールに入れて、マーガリンは固い状態のまま、最後にお塩ひとつまみ……」

 計った材料を入れ、ゴムベラの縁で切るように粉類と混ぜ合わせる。

 脂の表面に粉がついて、白い小さな塊となっていく。

 

「うむ、調理初体験とは思えぬ手つき、もしや平行世界の己のスキルをダウンロード済み?」

「資料映像の見よう見まねだよ……」

 手を動かしながら、タマモキャットにぼやく私。

 キッチンの隅で、アスカが次の行程に必要な人工卵液を、金属製のボールへ計ってくれていた。

 

「バターが粉の中で細かい粒になっていくよう、ヘラの縁で刻んで……卵を加えたら、練らないようにさっくりと混ぜる、でしたわね」

 彼女と細かく手順を確認。

 

「何だか難しそうだよね……」

 映像の中の男性、トミー・ランナーは手つき軽やか、事も無げにやっていたが。

 

「卵液を注いで……」

 白い生地に卵が加わり、美味しそうな黄色に。ソラリネの髪と同じ色だ。

 

「アスカ、オーブン温め終わったかな?」

「はい、熱々になっています」

 キッチンコンロ下のオーブンの予熱も忘れずに。

 

「生地を台の上に出して、小麦粉を振って、道具類とくっつかないようにする。

 混ざった生地を平べったくして、千切って重ねて……また平たくのばして、円盤状にしたら、ラップで包んで、冷蔵庫……」

 生地をちぎっては何枚も重ねていくこの複雑な工程が、サクサク感に繋がるそうだ。

 

「では、このキャット呪術式冷蔵庫で生地を休ませよ。

 秘密のシステムを利用することで、本来は3時間かかるところを何と! 40分で済む!」

「すごい!」

「食材自身が呪術を行使することで美味しい状態に己の体を導くという、自己暗示じみた内部構造の組み替えなので、高度な精神構造を有する生物がうっかり入ると頭がおかしくなって死ぬ」

「怖い!」

 タマモキャットのおかげで、工程にかかる時間がうんと減った。

 待っている間、中に入れる具材の準備をしないと。

 

「洗い物するね」

「では、わたくしは食材を切ります」

 段取り通りに進めていく私達の様子を見ながら、獣系バーサーカーは深く何度も頷いていた。

 

「後でまとめて行うのも選択であるが、分担し、平行して片付けをするのも賢き選択。

 戦闘時の判断に長けているマスターは転じて料理もお上手なのだ。

 クッキングはその人の素質をツンツンし、成長もさせるのだな」

 濡れ布巾で小麦粉の散らばっている台を拭いて、水気を取るため乾いた布巾でもう一度拭く。

 

「ほうれん草代わりの野菜ブロックを、切って……」

 アスカの前には、まな板の上に乗った、緑、白、人工ベーコンのブロック。

 包丁を恐々と握って、ネコの手……丸めた指先で食材を押さえ、刃を落とす。

 すとんとした音の後、緑のぺらぺらとしたものがまな板の上でへにゃりと広がる。

 

「……次も、次も、気をつけて」

 真剣な表情で材料をしっかりと見つめ、具材を刻んでいくアスカ。

 緑ブロック、白ブロックは薄切りに、ベーコンブロックは厚めの長方形になった。

 

「炒める工程やろうか? 油が跳ねたりして危ないし……」

「いいえ、わたくしがやりますわ。

 だって、アーチャーの存在がかかっているクッキングバトルなのですもの!」

 アスカは強い口調で宣言し、フライパンに液体油を入れて、ベーコンから順に食材を炒めていく。

 

「それなら私は別の物を用意しているね」

 卵と、脂肪分の多いクリームをボールの中で合わせ、泡立て器でよく混ぜる。

 隣からお肉の焼ける良い香りが漂ってきた。

 

「生地を取り出して、伸ばさないと」

 タマモ呪術式冷蔵庫からひんやりとした黄色い生地を出す。

 焼く時に使う、金属製の丸い形からふた周りくらい大きくなるよう、生地をめん棒で伸ばそうとしたが……。

 

「冷えて固いし、均等な厚さにならないや……」

 プラスチック製の棒へ体重を乗せ、力任せに平たくしようとするが、うまくいかない。

 

「──焦るな、ショッキングピンク色の乙女よ」

「タマモキャットさん……!」

 私の前で仁王立ちをする彼女のメイド服の裾が、風でひらひらと動いている。

 ……どこから吹いてきた風なんだろう、ここ地下空間なのに。

 

「焦りは、失敗の主要な原因である。

 落ち着け、そして大切な存在かネコを思い浮かべよ。ネコが大切なものならばそれでいい」

「私の……大切な人……」

 ふっと頭に思い浮かんだのは。

 

(バーサーカー……)

 彼、だった。

 7歳の頃からずっと一緒で、彼のおかげで私の人生から孤独は無くなった。

 何をするときも、彼がいてくれたから安心して出来た、勇気が貰えた。

 

(……ひとりじゃ無いんだって、思えた)

 私は生地をめん棒で押す。心を落ち着かせるために時間を使ったからか、黄色いそれは少し柔らかくなっていた。

 

(私の大切な家族なんだ! 取り戻さなきゃ)

 タマモキャットの方を見ると、彼女は琥珀色の瞳を優しげに細め、私を見つめていた。

 

「タマモキャットさん……いや、キャット師匠……!」

「その称号は一尾のネコにはヘビーレインなのだな……」

 台の上の生地を回し、細かく角度を変えながら薄く伸ばしていく。

 読んだ資料によれば、一方向からのみで伸ばしていくと、焼いた時に形が歪んでしまうそうだ。

 

「タルトの型に入れて、隙間がないように敷き詰める、フォークで均等に穴を開け、不燃性のシート広げて、タルトストーンで重しを……」

 銀色の小さな粒も敷き詰め、生地を焼く準備ができた。

 

「上手に焼けますように……」

 祈りを込めながら、予熱してあるオーブンに入れる。

 

「具材もバッチリですわ!」

 フライパン片手に、コンロの前へ立っているアスカは嬉しそうだ。

 白の野菜ブロックは、薄切りにしてからじっくり炒めたことで、透き通った茶色になっている。いわゆる飴色玉ねぎ、それの代用品だ。

 

「チーズをすり下ろすね」

 専用のおろし器でチーズブロックを細かくする。

 

「何だか、山に降り積もる雪みたいですね、モモ」

 キラキラした瞳でアスカは作業を見つめながら、楽しそうな声で呟いた。

 

「それにしても……調理器具いっぱいあるね」

 すり下ろし終わった私は、周りをぐるりと眺めてみた。特設キッチンには、西暦2000年代の様式のオーブンコンロ、本格的な調理小道具も揃っている。

 

「タマモキャットさんが、マスターであるソラリネにねだったのですか?」

「違うぞ、艶ある葡萄酒の如きアスカ・ピオーネ」

 彼女がちらりと自らの主を見る。

 

「ソラリネ・ヘルゼルマガツが資料を元に作り、ある時は発掘し、揃えたのだ。

 いずれ来る存在、世界を救うもの、『お料理』をしようとする人間がやってくるのを」

「……世界を救うもの?」

 私が気にかかったことを詳しく聞こうとしたとき、オーブンが短くチンと鳴いた。

 慌ててミトンをつけ、焼きあがった生地を取り出す。

 オーブンの扉を開けるなり、香ばしい匂いが辺りへ広がった。

 

「生地の熱がとれるまで、片付けをしようか」

 私は脚付きの丸い金網に、まだ熱すぎるキッシュの生地を置いた。

 

「はい、そうしましょうモモ」

 アスカと協力して、水と洗剤、スポンジを使って調理器具を洗い、布巾で拭いて。

 そうしている間に、生地が触っても火傷しないくらいの温度になった。

 

「焼けた生地の、形を整えて……」

 型からはみ出ている部分は、ナイフでカリカリと削り落とす。

 焼く前にフォークで生地に開けていた穴を、少量の小麦粉で塞ぎ、アスカが炒めてくれた具材と、卵入りのクリームを中にとろりと入れる。

 

「上からすり下ろしたチーズをたっぷり乗せて……あとはオーブンで焼くだけだ!」

「オーブンの扉、開けますわね」

 庫内の熱い壁にうっかり触れて火傷しないよう気を付けながら置いて、アスカに扉を閉めてもらった。

 

「もうひと頑張りだね」

「楽しみです!」

 そんな会話をする私達を、幼い姿のAIは、無表情にも見えるほどの真剣な面持ちで、じっと見つめていた。

 

 

「すごく綺麗……甘くて良い香りもする……」

 型から取り出せば、野菜と卵、クリーム、お肉が合わさった料理、『キッシュ』が無事完成。

 

「キラキラして見えます! 不思議ですわ……!」

 出来上がった料理のあまりの美しさに、アスカは感動の声をもらしていた。

 

「そうだね、すごく……綺麗で……」

 友達の隣に立って、私は腰を屈め、キッシュを見つめてみる。

 

「とても美味しそう……」

 縁は甘くないタルト生地でカリッと。真ん中は野菜とお肉とチーズとクリームがぎっしりと詰まって、青暗い部屋を照らすが如く黄金色に輝いている。

 

「いけないいけない、見蕩れている場合じゃなかった」

 待っているAIソラリネに料理を提供(サーブ)するため、私は立ち上がってお皿とナイフを用意した。

 

「トミーさんはこうやって切っていたから……よし」

 真ん中からナイフを突き立てて、外へ向かいザクザクと切る。

 それをもう1回繰り返して、三角形になるよう分けた。

 オーブンの熱で溶けたチーズが伸びて、白い絹束のようなものが、ナイフの側面とキッシュの間に柔らかい橋をかける。

 料理の色が生える白い丸皿に乗せて、ソラリネへ出来立てを差し出した。

 

「貴女から食材を貰って、タマモキャットさんからアドバイスもいただいて、私とアスカで心を込めて作りました。

 どうぞ……食べてください」

 彼女は小さな両手の指を広げて、料理をおずおずと受け取った。

 

(これで、うまくいくだろうか)

 出来栄えはかなりのものだと自負していたが、やはり不安はぬぐい切れない。

 唇を固くきゅっと結んでいるアスカの事も気にかけながら、ソラリネの言葉を待った。

 

 

 第41話 焼きたての真心をあなたに

 終わり




 単語説明

 
 フードプリンター
 簡単に説明するのであれば食材版3Dプリンター。
 粉状の原材料を入れて作動させれば、内部で材料を混合し、持ち主の求めている食材を製造してくれる。
 上流階級の娯楽用に開発されたが、人気は低く、あまり使用されなかったようだ。
 3Dプリンターでもあるため、複雑な形を形成することもできるが、今回はその機能は使わず、単純なブロック生成機能を使用したため、素早く食材が出来上がった。


 キッシュ
 フランスが生まれ故郷の料理。ロレーヌ地方のものであるキッシュ・ロレーヌは特に有名。
 脂とクリーム、卵、小麦粉が入っているので相応に高カロリー。しかしその分しっかり美味しい。
 ……摂取カロリーに心惑わされ、材料を減らすなどすれば美味しくないものが出来上がる。成功のためにはレシピに従うことが肝要とネコは書き添えておく。
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