己の秘密に踏み込まれたと判断したアーチャー961は、それを知ったバーサーカー04の殺害を試みる。
人間を超越した力で、骨を砕き頸動脈を潰し、潰し潰し潰し……殺そうとするが、バーサーカー04は息絶える間際、ある表情を浮かべた。
それは……微笑み。その表情を目に入れてしまった瞬間、アーチャー961は、いや、
──空の下、戦う術を全て失った男が、殺される前に浮かべた、永遠に理由の分からぬ微笑みを。
絶叫の後、961は04の首から手を離した。何もかもどうでもよくなってしまったからだ。
投げやりな口調で、961は04に心情を吐露し始める。
「俺は、俺が単体で存在しているという現実に耐えられない」
「貴様には、規格外の回復スキルがあったな」、「例えば、壊れた精神を治療すること、とかは……」
その言葉を聞いた瞬間、04は怒りを露わにした──そして口にする。
「私は貴方を救いたくない。
それは貴方の今までの努力を上から一方的に踏みつける行為だからだ」
聞いた961は叫ぶ。「ならば俺はどうすればいい!」と。
……互いの感情がぶつかり合った時、両者は殺し合いのための武器を取った。
04は問いかけ続ける。
「目先の簡単な方法に心奪われて、考えることを、足掻くことをどうか止めないでくれ」
刃を先に捨てたのは04だった。その姿を見て、961は自らの振る舞いが
04は話題を変えるため、懐からあの白の本を取り出した。
それを読めたと、『S文書』と言うものであると話す彼。
「俺が、世界をこんな風にしてしまった」と言い、その責を負いたいと語る。
混乱し、疲れ切った961は「先に休みたい」と04に言い、彼は気遣いの言葉をかけた。
……かくして、真夜中の危機は両者サーヴァントのマスターがあずかり知らぬところで始まり、無事終わったのであった。
「トバルカイン、おはようございます。
もう朝の7時ですのよ、6時には起きる約束でしたのに……」
毛布にくるまって寝ていたら、先に起きていたアスカの不満げな声と両手の揺さぶりで起こされた。
「目覚めよ可愛いお客人、世界を救うために……」
タマモキャットの明るい声がする方に寝ぼけ
「数百年前の今頃に流行ったPFCバランスばっちりの朝ご飯。
PFC……
出典、紅閻魔お料理辞典P122より」
「……そうなんだね!」
彼女の言葉は難しい。しかしお料理は素晴らしい。
私は期待でうきうきしながら席に座る。
(おお……)
お米状にした炭水化物パウダーがお茶碗に盛られ、お椀にはタンパク質を加工して作られたお味噌汁風のスープ。
小鉢には、緑の野菜ブロックを薄切りにし、調味料で和えたお浸しが。平皿には焼き魚を再現したオレンジ色の長方形のブロックがのせられている。
多分、日本式朝ご飯だ。
「いただきます!」
横目で見れば、アスカは樹脂製の箸を使って元気よく食べ始めている。
私もそれに続き、食事を口に運んだ。
(美味しい!
……昔はこんな素晴らしい料理が誰でも食べられたんだよね、現実味ないや)
咀嚼しながら過去を思い、ごくんと飲み込んでからタマモキャットに訪ねる。
「ソラリネとバーサーカー、アーチャーはどこにいるの?」
「おお! あの純白お舟の整備中だ、リソースも満タン、インスタントワンタン麺もオマケに積み込んだぞ」
「そっか……」
尾や頭を毛繕いしている彼女を眺めながら、味噌スープをすする。
(もう出発か……仕方がないよね、1つの所にとどまれるほど、時間も物資も、余裕のある旅じゃないし)
サーヴァントを人質に取られたり、突然クッキングバトルを命じられたりと、振り返れば色々あったが、出発が近づくとなると名残惜しかった。
その後、旅立つ前の準備に行っていたサーヴァント2体と合流し、広場に集まり全員で朝ご飯を食べ、タマモキャットをお手伝いしつつ片付けをした。
「ソラリネがデザートランナーを整備したです、しばらくはバッチリな筈です」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますわ」
アスカと揃ってお礼を言うと、ソラリネは黄色の髪の上にあるベーコン型のヘアピンを指で触った。
「……本当に『上級都市』に行くですか?」
答えを出す前に、隣に立つアスカの意見を聞こうと思い、目線を飛ばす。
「わたくし、聖杯戦争が何故行われているのか……知りたいのです」
口振りに迷いがあったけれど、アスカは自分の意志を告げた。
彼女に続き、自分の思いを言葉に出す。
「私も、理由が知りたい。
それに、その命令を各都市のAIに誰が出しているのか、真実を知りたい。
……元凶がいるのなら、止めたいの」
聖杯戦争で苦しんでいる人がいるのなら、助けたい、戦争を止めたいと、私は一番始めに思ったのだ。
「ソラリネはただの食品製造管理のAIです。いわゆる下っ端です。
なので……もっと上の考えは分からないのですけれど、考え出すとなんだかゾワゾワするのです……」
白いワンピース姿の少女は、ふるふると小さく身震いした。それにつられて髪上の食品サンプルベーコン付きのヘアピンも揺れる。
「タマモキャット、呪術スキル使って予言っぽいことするです」
「オーケイ、アイハブネコ噛むコントロール」
主から命じられた彼女は、懐から色とりどりの石を取り出すと、それを床に並べてカチカチとぶつけ合わせる。
少女である私とアスカ、バーサーカー04とアーチャー961という大の男がそれを眺めるという、しばらくシュールな光景が繰り広げられた。
石の動きが止まる。
「なんと……これは……!」
「何がどうなるのです?!」
「……
散らばった石に規則性はなく、星座のように線で結ぼうとしてもうまくいかない。
でも何やら分かってしまった様子のタマモキャットの解説は続く。
「そして脳裏にぱっと見えた二重螺旋、別れゆく道、巡り会う2人、最後には命のどんとこい底力。
あとすごい爆発、ぐわっと開いた後にがーっと聞こえた、しかして舞台は天元を超えてギャラクシー……」
目を細め、真剣に石の並びを読み解いているようだが、そう言われても何がなんだかさっぱりやっぱり分からない。
「……とのことです、くれぐれも気をつけるです」
「……はい」
ソラリネとタマモキャットなりの激励をもらい、私はみんなの代表として返事をした。
「では出発するです、お腹空いたらワンタン麺食べるです」
「ありがとう、そしてさようなら、ソラリネ・ヘルゼルマガツ」
「元気にしていることを願うです、人類を応援する作業従事型AIですので」
小さな彼女に感謝と別れの言葉を告げた。
「おっと、キャットを忘れず」
駆け寄ってきた彼女は、私達全員へ丁寧に握手をしてくれた。肉球がぷにっとして心地いい。
……アーチャーと握手するのにはとても苦戦していたけれど、最終的には手と手をつなぎあっていた
「何があろうと焦らず、辛いときは、胸に大切な存在を思い浮かべて挑むべし」
「キャット師匠……!」
なんだか胸が急激に熱くなってきて涙がこぼれそうになった、どうした私。
「……ではキャットは通常営業に戻る、人類のお料理再現が際限なく待っているのでな、ナハハ!」
彼女はぴょんと駆け出し、マスターであるソラリネの元へ帰って行った。
別れの挨拶もすませ、水で満ちた水槽横の暗い廊下を歩き、整備をしてもらったデザートランナーに乗り込む。
「いよいよ、『上級都市ピオーネ』に行くんだね」
「わたくしの親類……叔父様がいらっしゃるはずです。
何事もなければ今もそこに。事情をお話すれば、きっと良くしてくださるはず」
馴染みの席につき、ベルトを着けながら、この先のことについてアスカと相談しあう。
「全員の乗車を確認した。エンジン点火、出発するぞ」
ハンドルを握るバーサーカー、その隣に座っているアーチャー。
「あと3日ほど走らせれば、廃墟となっていた『上級都市レグルス』で入手した座標に到着する。
……あのバーサーカーに言われた予言っぽいこともあるし、気を引き締めていこうぜ」
彼の言葉に頷いて、私は唇をきゅっと結んだ。
(何が待っているのだろう、聖杯戦争や世界について分かるかな……)
胸にある期待、不安。
砂の上を駆ける白い車は、蛍光灯で不気味に照らされた通路から、照りつける太陽の下に飛び出していった。
「なんか私達、予言をもらうことが多いね、バーサーカー」
「予言は予言だし、そこまで重く受け止めることないと思うけどな、我がマスター」
第44話 クッキングバトル大勝利! 明るい未来へレッツラゴー!
終わり
単語説明
紅閻魔お料理辞典
料理技能本の決定版。これを読めば、料理に必要な技術や知識がばっちり備わる。全文暗記が出来たのなら、これから先の人生、調理で困ることはなくなるだろう。
……しかし、そのページ数は1072以上。
印刷されている文字も情報を余さず伝えようとしすぎていて小さく、読みづらい。あと紙質も悪く捲りにくい、ネコの手では苦労すること必然。
「どうしてこうなってしまったでち……出版を頼んだ会社が良くなかったのでちか……?」とは、筆者の嘆きの声。
登場キャラクター紹介
ソラリネ・ヘルゼルマガツ
身長/体重:120cm・? kg
出身:地下都市 年齢:10歳前後をイメージ
属性:秩序/善 性別:女性モデル
好きなもの:お仕事、人類、人類の食文化、自分のサーヴァント
嫌いなもの:真面目ではないAI、暴力的な人間
都市運営システムの内の一体。自己進化するAI。
人間の住んでいる地下都市を直接管理しているのではなく、物資の確保や加工、運搬を行う、作業従事型と呼ばれているもの。
『ヘルゼルマガツ』は地下都市成立後、2300年代に開発されたソフトウェアなので、他のAIよりは歴史が浅い。
地域ごとに何体もの『ヘルゼルマガツ』が食料生産を行っており、それらはソラリネから見たら兄弟や親戚のようなものである。
趣味は食文化の研究と、それに関する資料の収集、発掘。
自身に与えられ職務を完璧にこなすためタマモキャットを召喚したが、彼女の料理を通じて次第に食文化へ惹かれるようになった。
いつか出会うかもしれない人間のために濃いキャラクターを日々模索していたが、お手本がタマモキャットなので、こってこて、濃すぎている。
上記したように、凄く真面目な性格で仕事熱心、全てを完璧にこなしたい。
なので、マイペースで不真面目なAIが嫌いである。具体例をあげるとスローネ・エーテルウェル。
タマモキャット
クラス:バーサーカー
真名:バーサーカー0011
マスター:ソラリネ・ヘルゼルマガツ
そう、この世界にも現れた9尾の1本。わりと純真な獣タマモキャットとは彼女のこと。
食料生産と配給食の製造を管理しているAI、ソラリネが自身の機能拡張のために召喚した。
実にワンダフルな語り口だが、人工知能をもってしても分析・理解が出来なかったため、ソラリネの有する令呪により話し方に制限がかかっている。
とても勤勉で真面目なネコ、かわいい!
愉快に登場しただけなので、世界滅亡とかには別に関わっていない。他の尾も同じく……たぶん。