フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 旅の始まりからずっと目指していた場所、『上級都市ピオーネ』に到着するその前夜。
 眠っていたモモを起こしたのは、バーサーカー04だった。
「流星群が来ているんだ」と彼らしくもなく無邪気に言われ、モモは冷たい荒野に歩み出た。
 流れ星を探しながら、他愛もない話に花を咲かせ、誰にも知られない秘密の時間を分かち合うサーヴァントとマスター。

 そんな時間を過ごした後、04は懐から手紙を出す。彼の全部が書かれたというそれを受け取るモモであったが、差出人が記されていないことを指摘する。
 04は慌てながらそれを返してもらい、「名前を書いてからもう一度渡す」とモモに約束する。それはつまり、マスターに隠し続けていた真名を明かす、ということだった。

 胸の内を明かしあい、モモは自室で眠りにつくが、幼い時のことをふと思い出してしまった。
 バーサーカーに初めて会ったあの時、彼は「殺して欲しい」と懇願したのだ。
 その理由を知らないことに、大きな見落としをしているような感覚に襲われながら、モモは眠りについたのであった。

 次の日、とうとう上級都市ピオーネの座標に到着したモモ達。
 そこには何も無く見えたが……サーヴァント2体は成層圏まで届くような巨大建造物があると口にした。だが、モモとアスカには全く見えない。
 ひとまずその謎については置いておき、コンタクトしてきた都市AIへ保護を要請し、とうとう一行は上級都市へ足を踏み入れる。

 出迎えたのはアスカの叔父……ではなく、その妻、『エト・ピオーネ』であった。
 アスカ以外にそっけない態度をとる彼女へ、モモは何か引っ掛かる気持ちになったが、エトの後ろに付き、都市内部に向かうのであった。


第47話 上級都市ピオーネ

「わぁ……」

 私は首をきょろきょろと動かしながら、かつて暮らしていた故郷の地下都市を思い出す。

 中流階級である自分の住んでいた世界は、オレンジ色の樹脂で多くの物が作られた、飾り気もない画一的な空間だったが。

 

「綺麗な場所……」

 しかし、上級都市*1は何もかもが違う。

 

「綺麗? やっぱり別の都市から来た人は不思議なことをいうのね」

 アスカの親類であるエトが、私の方へ軽く振り返りながら首を傾げた。

 こちらを見た彼女に言葉を返す。

 

「はい、カラフルで、色んな物があって……」

 今歩いている廊下と広場の中央は吹き抜けになっており、そこから他の階層を覗くこともできた。白い壁には、様々なパステルカラーで丸模様が無数に描かれている。

 目を向ければあちこちにショーウィンドウがあって、人々が品物を外から眺めていた。

 白色の道は、行き交う大小の掃除用ロボットにより磨かれ、天井の光を反射するほどピカピカ。

 

「上級都市の内部はこんな風でしたのね。

 わたくし、幼かったから本当に何も覚えていなくて……」

 私と同じように、アスカも周りの風景を物珍しそうに見ていた。

 そんな彼女の後ろを、アーチャーは従者らしく静かについて来ている。

 

「へぇ、こんなに違うもんなんだなぁ」

 バーサーカーは切れ長の暗い緑の瞳に、人々の営みを映していた。

 私も行き交う人々を観察してみる。

 身なりも整えられていて、衣服も清潔、顔色もいい。幸せそうで、満ち足りているような印象を受けた。

 

 

 数分歩き、エレベーターに乗って階層を上がり、居住区へたどり着いた。

 廊下の壁は透明で厚いガラス張り。そこから見えた下には公園のような設備が。

 ちらりと覗くと、子ども達はカラフルな遊具に登ったり、深さに種類があるプールで泳いだり、犬や猫に似たペットロボットと、人口芝生の上を競い合うように駆け回ったりしていた。

 

(なんだか楽しそう……)

 ガラス壁で隔たれているので声こそ聞こえないが、子どもも、それを見守る親も笑顔で、この幸せを当たり前のように享受していた。

 

「さぁ、いらっしゃい」

 エトさんはある扉の前で立ち止まると、デバイスが埋め込んである手首をかざし、彼女の自室の施錠を解いた。

 

「少し狭いかもしれないけれど」

 彼女の言葉とは裏腹に、玄関から一つなぎになっているリビングは広く、奥の方には書斎のような部屋が見えた。

 柔らかい白の光で照らされた空間、木の年輪がプリントされた明るい色のフローリング。

 

「テーブルについて。昼食にしましょう。

 サーヴァントは……ソファーにでも座っていて」

 リビングから見えるように設置されたキッチンにエトさんは立ち、タブレットを操作しているのか指先を細かく動かしている。

 バーサーカーは指示に従い、一人掛けのふわふわのソファーに難しい顔をしながら腰を掛けたが、アーチャーはその姿を霊体化させて消えてしまった。

 

「では、お言葉に甘えて……」

 言われたとおりに、木目調が施されたテーブル前の椅子に座った。アスカも同じように。

 

「料理、子ども、大人、兼用、検索……注文」

 エトさんが言った単語の後に電子音声がピピッと鳴り、数分もすれば良い香りが漂ってきた。

 

「オムライス! きっと美味しいはずよ!」

 エトさんがテーブルに置いてくれた白のトレイの上には、黄色い半月型の物に、赤いとろっとしたソースをかけられた食べ物が。

 これが『オムライス』……映画で見たことはあっても、味は知らない。とても綺麗な食べ物だ。

 

「みんなで食べましょう?」

「はい、いただきます」

 バーサーカー達には悪いと思いつつも、一緒についてきたスプーンで一匙すくい、口の中へ。

 赤いソースは甘酸っぱい、黄色は卵でとろりとした食感。そのすぐ下にソースと同じようなもので味付けられた炭水化物の粒があり、アツアツで香ばしい。

 

「アスカはこれからどうするの? ここに住む?」

「あの、考え中で……」

「そうよね、他の地下都市に保護されるなんて、ただ事ではないもの。

 きっと、とてもひどい目に会ってきたのね……」

 エトさんは私達の苦労でも想像したのか、茶色の瞳を潤ませた。

 

「……モモタさんはどうするおつもりかしら? 修学か就労か」

「えっと」

 アスカにかけた労りの言葉とは違う、トゲを感じる彼女からの質問に、私は答えを迷う。

 まさか本音そのまま、「聖杯戦争を止めたくてこの場所に来ました、知っていることがあれば教えてください」と言うわけにもいかない。

 

「考え中、です」

「そう、すぐに答えを出す必要はないわ」

 私はもやもやした気持ちを抱いたまま、色鮮やかな食用フィルムで出来たサラダをフォークで刺して口に運ぶ。

 しゃきっとして美味しい。海の広がるスローネの地下都市で食べた、本物の野菜のことを思い出してしまった。

 

「……何があったのか、私に教えてくれないかしら」

 エトさんの言葉を聞いて、アスカが私を横目でちらっと見る。

 

「全部話すと長いから、かいつまんで話したらどうかな」

 言外に、「本当の目的は話さない方がいいよ」と伝えたつもりだが、彼女は読みとってくれるだろうか。

 

「そうですわね、全部ではなく、かいつまんで……」

 アスカはこくんとうなずいて、私にアイコンタクトを返した。良かった、気持ちが伝わったようだ。

 

「その、わたくしの住んでいた地下都市で、爆発事件があって……」

 食事をしつつ、アスカはこれまでのことを、一部隠したり、脚色しながらエトさんへお話した。

 

 

 

 

「デザートまで出してくれるだなんて、良い人だね」

「お腹苦しいです……」

 食事の後に寝室に案内された。白いシーツがぴんと張られた、巨大なダブルサイズベッドが1つ。

 食べ過ぎてしまったので、ごろごろしている。もちろんローファーは脱いで床に揃えてある。

 そんな私達を、サーヴァントの2体は半分呆れ顔で見ていた。

 サイドには引き出し付きのチェスト、それ以外も部屋には鏡などの身だしなみを調える道具もある。

 さながら、映画に出てくる高級ホテルのようだ。

 

「ちょっとお昼寝しない?」

「それも良いかもしれませんわね」

 手で髪を()きながらアスカは答え、一度体を起こし、頭の髪留めをそっと外した。

 

「髪留め、大切にしてるよね」

「ええ、とっても大事な物ですから」

 手の平に輝くそれを乗せて、私より白い人差し指で紫の石の表面を撫でた。

 

「お母様の形見なのです。我が家に代々伝わる家宝、なのだとか」

 初めて聞いた真実に、私は言葉を詰まらせてしまう。

 

「これより大切なのは……わたくしのアーチャー、でしょうか」

 そんな私の感情が伝わってしまったのか、聡明な彼女はわざとらしくおどけてみせた。

 

「アスカちゃん! 私、私は?!」

「……10番目?」

「思ったより低かった!」

「誰かの愛情の一番になりたいだなんて、おこがましいですわよ」

 彼女は頬をピンクに染めながら、くすくすと楽しそうに笑う。

 

「……モモタさーん! ちょっと来てー!」

「はーい」

 ベッドから起き上がり、よれていたスカートのプリーツを整えた。ローファーを履き直して、ちゃんと立つ。

 

「ちょっと行ってくるね」

「はい、待ってます」

 小さく手を振るアスカへ同じ動作を返して、寝室から出た。

 

「バーサーカーも来るんだよ!」

「……ああ」

 ふざけた声で彼に話しかけるが、反応は(かんば)しくない。

 

「なんでしょう、エトさん」

 はきはきと私は喋りながら、リビングに足を進めた。

 

「──あなたがモモタ・トバルカインですね」

 立っていたのは、紺色が主体の可愛らしい制服に身を包んだ、金の髪を後頭部で大きな緩めの三つ編みにした女性。

 背丈は約165cm、私が166cmだから目線の高さは同じくらいか。

 

「自己紹介します。

 私の個体名はアイン・ピースフル・エーテルウェル。人類を応援し、都市の安全を管理するAIの一種です」

 20代前半くらいの年頃に見える、金髪碧眼の顔立ち整った彼女は、その瞳に私を無感情に映しながら告げた。

 

「アインは来訪理由を述べます。

 家主の通報を受け、あなたを『世界反逆罪』で逮捕しに来ました。大人しく同行してください」

 ……指先が冷える、実感があった。

 

 

 

「……」

 バーサーカーは刀を抜いてから一瞬で距離を詰め、アインと名乗ったAIの首筋に真っ向から刃を当てた。

 窓にかけられた白の薄いカーテンが揺れる。

 AIは虚ろな瞳で前を見たまま、自らの後ろに立っていたエトさんに黒い銃を正確に向けた。

 淡々としたAIの声が、部屋の中に冷たく響く。

 

「アインはサーヴァントの行動について、無意味さを説きます。

 アインの本体はここにはありません。このボディを壊しても構いませんが、その瞬間にアインはエト・ピオーネへ発砲し、確実に殺害します。

 世界秩序に寄与した善良な一般市民を、逃亡を含む自己保身のために殺してもいいのでしたら、破壊行動を実行してください、サーヴァント」

 抑揚のない、文章をただ読み上げているかのような彼女の口調。

 

「……バーサーカー」

 私は彼の名を呼び、刃を下ろさせた。

 アインも腕を下ろし、銃口の先を床に変更する。

 

「モモタ・トバルカイン、同行してくださいますね?」

 私は苦々しさを感じて唇を噛む。

 

(サーヴァントを使えば逃げられるかもしれない、けど……)

 今のAIの行動を思い起こす。アインは私の確保のために、エトさんに武器を向けた……何の躊躇も見せずに。

 

(逃げようとした場合、もっとひどい手段を使ってくる可能性だってある)

 例えば、アスカを人質に、いや、何の関係もない市民を連れてきて、巻き込むかもしれない。

 

「同行してもいい。けど、逮捕の後、私をどうするつもりですか」

「アインは質問に答えます。

 あなたには罪に対応した労働が科せられます。なお、内容、年数については本人にしか開示されません」

 寝室の扉が開く音が後ろから聞こえた。

 

「……罰金を、わたくしが払います。いくら積めば刑罰が取り消せますか」

「アスカ・ピオーネ」

 重たげな声で会話に割って入ってきた少女の名前を、AIは無機質に呼ぶ。

 

「わたくしの持っている生存権、300年分を支払います」

 前のめりに姿勢を崩し、顔を青ざめさせ、手の内で紫の髪留めを握りしめているアスカ。

 

「アインは答えます。

 『世界反逆罪』について、本人以外からの生存権での支払いは原則認められていません」

「……400年」

「原則認められていません」

「……530年、持ち合わせ全部出します!」

「アインは警告します。どれだけ貴重な物を積まれようと、あなたと取引を行うつもりはありません」

 取り付く島もなく、彼女は無慈悲な言葉を続ける。

 

「アインはアスカ・ピオーネに嫌みを言います。

 持ち合わせ全部と言うことは、そちらのサーヴァント、アーチャーも提出してくださると? 

 しかし先ほどの発言と照らし合わせると、生存権の計算が合いません。

 ……あなたまさか、モモタ・トバルカインもアーチャー961も損なわずにこの場を乗り切ろうと、甘い展望を抱いていたのですか?」

「それは……!」

 うろたえるアスカ。私は見ていられなくて声を張り上げた。

 

「ひどいことをアスカに言わないで!」

「……アインは自らの設定を開示します。アインは真面目で口が悪いのです」

 彼女は相変わらず無表情のまま、虚ろな瞳で正面だけを見ている。

 

「同行命令を提示してから300秒以上が経過しました。

 モモタ・トバルカイン、大人しく同行してくださいますね」

 冷徹で不気味なAI相手には、時間稼ぎも出来ないらしい。

 

「……同行します」

「モモ! 駄目です! 何をされるか分からないのに!」

 アスカは悲痛な声でそう言ってから、アインなるAIが来てからずっと黙っているエトさんへ目線を移す。

 

「エトおばさま、どうして、こんな、通報なんて……」

 責める響きを持った言葉を聞いた彼女は、下を向いたまま、ぶるぶると肩を震わせながら声を絞り出した。

 

「……貴女のお母様が悪いのよ、アスカ」

 そう言ってから上げられた顔。頬には、涙が伝っていた。

 

「貴女のお母様が、私を一番に愛してくれたなら、こんなことにならなかったのに」

 真っ赤に充血した瞳を見開きながら声を振り絞ると、彼女は沈黙した。

 

「マスターアスカ、落ち着いて」

 バーサーカーが彼女をなだめる。

 

「別に取って食われる訳じゃないんだ、俺もマスターも」

「でも、突然すぎます、なんでこんなことに、何をされるのかも……」

 アスカは無理をしていたのか、腰が抜けて、フローリングにぺたりと座り込んでしまった。

 そんな彼女へ、彼に続いて私も声をかける。

 

「大丈夫だって。すぐ帰ってこれるよ、心配しないで」

 安心させるため、なんてことないように、今にも泣き出しそうな友達へ微笑みかけた。

 

「待っていて。必ず戻ってくるから」

 強がりを見せながら気持ちを伝え……私はアインについて行くことにした。

 

「アーチャー殿、またいつか、バーチャル碁を打ちましょうね」

 バーサーカーも軽い調子で彼に声をかけ、手を振って一時の別れを告げた。

 

 

 第47話 上級都市ピオーネ

 終わり

*1
選ばれた優秀な人間が住んでいる。

 兵器の開発、製造、所有が唯一許されている。




 
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