地下都市に住んでいた少女モモは、AIに全てを管理される、2700年代ではごく普通な生活を送っていた。
だが突如、聖杯戦争と呼ばれる謎の殺し合いに巻き込まれてしまう。
一時は、幼なじみであるアスカと、お互いのサーヴァントを用いての戦いにまで事態は悪化したが、戦闘、話し合いの後、停戦同盟を組むことで、『相手を殺害する』という最悪の未来は避けることが出来た。
聖杯戦争と、階級制度に不満が高まっていた市民達の破壊行為により、焼けていく地下都市。
他の都市へ救援信号を発信した後、争いを呼び寄せる原因が、マスターとサーヴァントであることを知ったモモ達。
彼女らは人々の安全のためにも、ずっと暮らしてきた都市を去る決心をする。
過酷な外の環境にも耐えられる乗り物を求め、隠し部屋にたどり着いたモモ達。
そんな彼女らの前に現れたのは、聖杯戦争を宣言したAI、『都市運営システム』だった。
AIは意味不明な事ばかり話してから、自らのボディを戦闘形態へ移行させる。
バーサーカー04とアーチャー961は、協力してこれを撃破した。
モモは、サーヴァントにより破壊され、停止寸前のAIへ、聖杯戦争の意味と理由、真の開催者について問いつめるが、情報は得られなかった。
6輪の白い特殊車両、『グラン・カヴァッロ』に乗り、地下都市を後にする一行。
モモは生まれて初めて地上を目にし、その美しさに感動する。
熱傷と戦闘の余波で気絶していたアスカも無事に目覚めた。
モモはアスカに乞われ、車両を『デザートランナー』とあだ名づけする。
こうして、モモ、バーサーカー04、アスカ、アーチャー961の、荒野をさすらう旅が始まったのであった。
第5話 ハプニング前提オープニングトーク
車窓から見える景色は、砂の大地と青い空、高い太陽。
「そんな……アーチャー殿と俺は『聖杯別にいらないです同盟』だったのではないのですか?!」
「コンマ数秒前に解消されました。なので、今から起こす攻撃行動は同盟違反にはならない」
「言葉の隙をついたなんて暴利な立ち振る舞い……! 国際法もこれには激怒……!」
「……貴様と話すのは言葉を尽くす必要性が発生し、疲れるのだが?」
「では静かにしますね。ご迷惑おかけしています」
「仮眠室で休憩を取ってきます、何かあれば呼びかけを」
「はい。良き休息を、アーチャー殿」
運転室に足を踏み入れた瞬間、2体のサーヴァントの物騒な会話を耳にしてしまった。
全身に機械パーツを装着したアスカのアーチャーが、バーサーカーに背を向けて、私の横を通る。
「おはようございます、マスタートバルカイン。これより休憩してきます」
通りすがりに挨拶されて。
「う、うん。ゆっくり休んでね」
ぎこちなく返す。
通路につながる自動扉が開いて、彼は退室していった。
「……貴方とアーチャーの距離感が分かんない」
上機嫌でハンドルを握っている自らのバーサーカーに話しかける。
「近いようで遠い距離感を保ち、時々『あいつ殺したいな……』と思わせる。
これが人付き合いに飽きを発生させないコツですよ、我がマスター?」
「絶対まねしたくない、ヤダ」
私は目覚めたばかりの爽快感も忘れて、ちょっとげっそりとした気持ちになり、肩を落とした。
「お洋服、替えたいですわね……」
「そうだねー、2人ともパジャマだし」
倉庫横の空き部屋に私とアスカは居た。朝ご飯を食べるためだ。
もそもそとした食感の栄養ブロックと、透明なアクリルコップに入った水が今日のメニュー。
食事の後、向かい側に座っているアスカとこれからの話をする。
「これからどうすればいいかなぁ」
「水も食料も、あらゆるものは有限です。悩んでいる間にも消費されていきます」
「そうだけど……」
金属のトレイに残った栄養ブロックの欠片に目を落とす。
「2人で考えても煮詰まるだけだし、バーサーカーとアーチャーも交えて相談しよう?」
「そうですわね。なんと言ったって……」
アスカはプラスチック製の椅子から勢いよく立ち上がり、腰に両手を当て、白い布の下の薄い胸を張りながら言う。
「わたくしのアーチャーは……全てにおいて完璧完全な……英雄なのですから!」
「マスターアスカ、私はあと2日で消滅します」
「へぇへっ?!」
アスカの細い喉からへんてこな声が出た。
運転室にやってきた私達を出迎えたのは、アーチャーのそんな残酷な言葉。
「ど、どうしてです?!」
「休憩中に自己検診をしました。魔力が残りわずかとなっています」
アーチャーは事態の深刻さとは裏腹に、落ち着いた動きで、腰に付けている箱から何かを取り出す。
滑らかな指に握られていたのは、淡く発光するとろりとした青の液体が入ったボトル。
「魔力源である液体リソースは残り1本。
補給がなければ、そこで私というサーヴァントは終わりです」
「何か代わりのもので代用は出来な……ませんの?!」
「……地下都市以外でこれを入手するのは難しいでしょう」
2人の会話を聞き、私は運転をしているバーサーカーに目を向ける。
「貴方は?」
「アーチャー殿は燃費がよいのですね。俺は残り1本で……後1日といった感じです」
冷静な報告に、私は唇を噛む。
「これからどうするにしても、一度は、他の都市に向かう必要があるって事だよね」
「このまま俺というサーヴァントを放棄する、といった選択肢もあるぞ?」
「嫌だよ。貴方は私の……身を守るための、道具、だもの」
つっかえながらも、私はバーサーカーへ言葉を発する。
「では、どうしましょうか?」
バーサーカーが白の車、グラン・カヴァッロもといデザートランナーをゆっくりと停止させた。
「うーん……」
アーチャーの前に立っていたアスカが声を発する。
「わたくしの生体情報があれば、他の都市に入ることが出来ますわ」
「そうなの?」
「ええ。特別な身分である……上流階級ですもの」
彼女は、自己の証明にもなるデバイスが埋め込まれた右手首を、くるっと回し、内側を天井へ向けた。
「ピオーネ家の一員であるわたくしには、優先保護権があります。
でも、わたくしとアーチャーはよくても、トバルカインは……」
黒い眉を気まずそうにひそめるアスカ。
私は思考を巡らせる。確かに、ただの市民である私は保護されないかもしれない。
もしそうなった場合、アスカは私を見捨てるような行動を取るのは嫌だろう。
(それに、あんな事があったばかりだし)
破壊し尽くされた上流階級の居住区を思い出す。
遺体さえ焼き尽くされた凄惨な光景を、アスカは見てしまったのだ。
「どうしましょう……」
そんな、心を痛めている彼女の顔を見つめながら考える。
泡がぽこんと浮かぶように、突然良い案が思いついた。
「そっか! 私がアスカちゃんと結婚してモモタ・ピオーネになればいいんだ!」
「……え?」
両手をぎゅむっと握りながら案を発表する。
彼女の黒い大きな瞳が更に大きく見開かれ、その表情のまま静止した。
「バーサーカー。貴方のマスターが唐突に私のマスターへ求愛したのですが」
アーチャーが運転席の彼を見る。
「発想が武将なんだよなぁ……」
首を曲げてこちらを見ていた彼が、肩を回しながらぼんやりとつぶやいた。
「……結婚する?」
アスカに聞いてみた。
「しません!」
大きな声で否定された。
「我がマスター、モモ。突飛な案もいいけれど、現実的な案を出してくれ」
「マスタートバルカイン、婚姻する以外の案を」
「そんなー」
サーヴァント2体に立て続けに否定された。
結構いい考えだと思ったが、駄目らしい。
アスカはすっかりご機嫌斜めになり、空いている席へ乱暴に座った。
「トバルカイン! 真面目に考えて下さらないと……」
「ごめんね、この通り……」
謝罪の意を込めて彼女へ頭を下げる。すると、車体が静かに振動し始めた。
先ほど確かに停止したはずなのに。
「バーサーカー、エンジン動かしたの?」
「……いいや、違う」
彼が計器を素早く確認する。
「まずい……下から何か来るぞ!」
バーサーカーのうわずった声を聞き、アーチャーが白く輝く弓を、その手に出現させる。
『──キュオオオオオォォォォン!!!!』
何もなかったはずの荒野に、影が満ちる、砂塵が舞う。
青空へ伸びていく、手足のない巨大すぎる胴体は、六角形の柱を長々と連結させたようなごつごつとした形。
「モンゴリアンデスワームだー!」
いつかの映画で見た姿に、私は思わず叫んだ。
「違う! あれは資源採掘用のワームロボットです!」
アーチャーが早口で私の発言を訂正した。
『資源……発見、回収』
鎌首をもたげたワームの、丸い口が大きく広がる。
内側には、丸ノコギリのようなものが円に沿うようびっしりと設置され、きゅるきゅる鳴きながら空気を吸い込んでいた。
「車上へ出て迎撃します!」
「待てアーチャー殿! 今の状態で戦闘しても貴方の魔力が保たない!
せ、接続、デバイスの接続を開始! ワームロボットと会話を試みる!」
バーサーカーは慌てふためきながらもアーチャーを止め、右手に内蔵したデバイスを用いて通信を行う。
「こちらバーサーカー04! 返答されたし!」
口内の刃は動きを停止し、そして、ワームは大きな首をゆっくりと犬のように傾けた。
大量の砂が、巨大な胴体からざらざらと落ちていく。
『はじめましてバーサーカー04。こちらは人類を応援する資源採掘用ワームロボット1111です』
情報がバーサーカーのデバイスから伝達され、車内スピーカーに機械音声が響いた。
「ご丁寧にどうも。貴方はここで何をしているのかな?」
『地上、地下資源の回収をしています』
「どういった方法で?」
『吸引、粉砕、分別です』
「……そうかー」
『はい』
椅子に座った状態で固まっているアスカに、アーチャーはシートベルトをつけた。
そして、私の手を掴んで椅子に誘導し、座らせ、同じくベルトで固定してくれた。
何が起こってもいいように、だろうか。
「この車内に市民を保護している。粉砕回収は止めてくれ」
『生体情報の提出を要求します』
「送信する」
そう言ったバーサーカーに、私達を固定し終えたアーチャーが声をかける。
「どうします」
「うまくやるからご安心を」
ワームはこちらに口を開けたまま動きを止めている。
『……優先保護対象を確認。所属都市へ保護します』
平らな声で放たれた返答に、私は安堵の息をついた。
それから、一連の会話を受け持っていたバーサーカーに質問をした。
「何をしたの?」
ハンドルの前でバーサーカーは両手を上げて背を伸ばした。
「ん……上流階級であるアスカの情報だけ送信した。
このロボットは生命体スキャン機能まで付けていないようだったから」
「……そっか、私が乗っているかまでは分からないんだ」
「これで安全に都市まで移動できる。さて、エンジン再始動……」
のんびりした空気の流れ始めた車内に、ワームの口が迫る。
『安全に移送するため、内部に格納します』
ワームの口が拡張し、大きな傘のようになると、かぽりと車を包み込んだ。
「トバルカインのバーサーカー! これ本当に大丈夫なんですの?!」
「バーサーカー04! やはり車外に出て戦闘した方が良かったんじゃないか?!」
同じような発言をした2人の声に、彼の声が重なる。
「総員! シートベルトをつけて衝撃に備えろ!」
窓が塞がれ一瞬の暗闇の後、車内灯がつくが、それも激しい振動で点滅を始める。
ぐわんぐわんと揺れながら車が浮かび、ワームへ飲み込まれていった。
『到着しました。排出します』
激しい明と暗の連続と、不規則な揺れで生まれる吐き気に長々と耐えていたら、そんな音声が聞こえた。
車内に小さな振動が加わり、車体が地面につく感覚が椅子越しに伝わってきた。
『ようこそ、人類に残された僅かな生存領域、都市28へ。あなたを歓迎します』
ワームロボットとは別の、女性のような人工音声がデザートランナーの外から聞こえてくる。
「バーサーカー、着いた……の?」
「そうだぞモモ。……うー、サーヴァントでも堪える揺れだった」
「トバルカイン、すごく、気分が悪いのですけれど……」
「これが吐き気なんだね、アスカちゃん……」
すっかりグローリーになっている私達のシートベルトを、アーチャーがてきぱきと外してくれた。
「マスターアスカ、立てますか?」
「無理です。アーチャー、お願い……」
「では」
アーチャーはごく自然な態度でアスカを両手で抱きかかえる。
(わー……ロマンチックだぁ……やっぱり格好いい人がやると様になるなぁ……)
あれが映画で見たお姫様抱っこというものか。
「バーサーカー……」
「うん、降りるか」
エンジンやその他計器の電源を落とし、バーサーカーは運転席を離れると、私を抱きかかえる。
「よいしょ」
そして、背負った。
「……違う、これ違う、ロマンチックじゃない」
「降りまーす」
小さな不満の声を無視して、バーサーカーは車外へ向かった。
四角い大きな空間が広がっていて、オレンジ色の強い照明で照らされていた。
バーサーカーの背中の上から後方を見ると、私達をやや乱暴な方法で運んでくれたワームロボットがいた。
「……アスカ・ピオーネ様、ようこそ、都市28へ」
前を見ると、短い金髪の、白いスーツ姿の男性が頭を下げていた。
次に顔が上げられる。30代程の、鼻が高く掘りの深い、欧州風の顔つきの人だった。
「私は、この都市の市長であるツヴァイ・エーテルウェルと申します」
彼の挨拶に対し、アーチャーの腕の中からアスカが返答をする。
「まずは感謝を。ピオーネ財団はこの都市へ資源提供を惜しむことはないでしょう」
「いえ、それを目的に助けたわけではなく。人道的な判断をしたまでです」
次に彼は、私とバーサーカーにも目を向けた。
「ワームロボットの報告にはありませんでしたが、そちらの方は?」
アスカがすぐに答える。
「わたくしを助けてくれた学友のモモタ・トバルカインと、彼女のサーヴァントです」
私を背負ったまま、バーサーカーはツヴァイに腰を折った。私も小さい動作で頭を下げる。
「バーサーカー04です。保護して下さり、ありがとうございます」
彼の丁寧な態度に、ツヴァイは青い目を丸くする。
「バーサーカーとは思えないほど落ち着いている、驚いた……」
「……サーヴァントに詳しいのですね?」
「ええ。私も所有していますから」
彼がスーツの裾をはためかせながら後ろを向く。
「キャスター、サーヴァントのお2人をご案内して」
「は~い!」
明るい女性の声が空間に響いた。
「了解です
私の目に映ったのは、女性らしさの暴力とも思えるほどの肉感的な体。
その褐色の肌をわずかながら隠しているのは、深い紫色のたっぷりとした長髪と、最低限の部分しか存在していない衣服。
歩く度に金のアクセサリーがちゃりちゃりと揺れて、腕や背に纏わせている水色の布がふわふわと宙を舞う。
だが一番の驚きは、彼女の頭頂部に、毛髪と同じ色の狐のような大きく長い耳がついていることだった。
「はじめまして! 都市28のキャスター0171です!
キャスター171って呼んで下さいね?」
美しい彼女は耳をぴくぴく動かしながら、私達にぺこりと会釈をした。
──夢を見ていた。
磨き上げられた木の廊下、白塗りの滑らかな壁。
そこに開けられた窓から外を覗くと、瓦の乗せられた見事な建物が見えた。
日本の、中世時代の城だ。映画で存在を知っている。
「手を離せ!」
「危のうございます! 南蛮の大砲の玉が天守にも届いたのですよ!」
声の聞こえてきた方へ足を向けると、2人の女性がもみ合っていた。
「それがなんじゃ! 殿下の建てた天守は落ちぬ! 城下も焼かせぬ!」
染められた着物に身を包んだ美しい女性は、裾を掴んでいた女を引き剥がすと、布地を木の床に滑らせながら走っていく。
「お待ち下さい! 大砲で侍女が幾人も死んだのです! もう、もう……この戦は……」
泣き出した女性も気にかかったが、私は彼女を追うことにした。
「忌々しい、忌々しい! 人の顔をした……獣どもめがわらわらと……!」
彼女はふすまを力任せに開けると、座り込み、ぶつぶつと怒りを発し始める。
「民草の家を破壊して、その瓦礫をもって堀を埋め立てようと……豊臣は潰えぬ、倒れぬ!
殿下の城じゃ……殿下の町じゃ……殿下の国じゃ!」
その顔には、強すぎる憎悪がにじみ出ていた。
「呪うてやる……呪うてやる……呪うてやる……!」
畳に指がめり込んでいく。そして、唐突に彼女は私の方へ振り向いた。
「──誰ぞそこに居るのか?」
……瞳の色は、朱だ。
「見ておるのか? 妾をあざ笑うておるのか? のう」
その目は、誰かに火をつけられたかのように赤々と燃えている。
「どうか……どうかお気を確かに!」
年若い男と女性が廊下を走ってきて、彼女の体を前面から抱きかかえた。
「眠れましたか? トバルカイン」
起きたばかりの私にアスカはそんな事を聞いてきた。心配をかけたくなくて、見ていた夢の事は内緒にする。
「あんまりかな……バーサーカーと離れて眠ったし……」
「わたくしも……」
午前6時、2人とも同じくらいの時間にベッドから起きた。
市長であるツヴァイに「個室がまだ用意できていない」と言われ、昨日は同室で眠ったのだ。
完全に体を休められた訳では無かったけれど、ぼろぼろのパジャマを着替えられたのはありがたかった。
「この部屋は……下流階級と言われてる人用のもの、でしょうか。
中流、上流階級は家族でもない限り1人部屋ですから」
「詳しいんだね、アスカちゃん」
「……学ぶべきだと、思っていましたから」
合成樹脂製のテーブルにつくと、壁から食事の乗ったトレイがせり出してきた。
アスカちゃんの分も手に持って、卓上に置く。
今日の朝ご飯は、真っ白なパンが2つ、茶色のペースト、黄色い丸の弾力あるペースト、赤いどろどろとしたスープだ。冷やされた小皿に、クリーム色のキューブが乗っている。
「デザート! これすっごく生存権支払う必要があるのに! 贅沢だなぁ!」
喜ぶ私の姿を、アスカは半目でじとりと見た。
「わたくし、あのツヴァイという男の事、怪しんでいます」
茶色のペーストを口に運ぶ。少し辛いので、パンを千切って口に入れた。
次にスープを飲む。甘味とわずかな酸味があって美味しい。
「何か企んでいますわ! それに、自分のサーヴァントにあんな破廉恥な格好をさせて……」
黄色い丸をスプーンで半分に切って食べる。
淡白な味と、もさもさした食感。茶色ペーストをつけて食べると、辛味が和らいでもっと美味しくなった。
パンがどんどん進む。
「トバルカイン! 聞いていますの!」
「聞いてるよー。女性のサーヴァント初めて見たから、私もびっくりした」
「ううう……もう!」
アスカちゃんは何だかんだ言いつつも、朝食をぱくぱく食べる。良かった、食欲はあるみたいだ。
「サーヴァントには男性も女性も中性も無性もいますの!
クラスだっていっぱいありますの! 知っていて?!」
「うん、知ってる。おばあちゃんから習ったもん。それにしても……ご飯美味しいね」
デザートキューブをスプーンでつついてみる。ぷるんぷるんと揺れた。
角を切ってみると、断面がねっとりと金属製の匙にくっついた。
期待に胸を膨らませながら口へ運ぶ。
……すごく、甘い。香りは重い甘さで、味わいはすーっとした軽い甘さだ。
「……貴女の妙にマイペースな所、わたくし苦手ですわ」
「治した方がいいよね、結婚するんだし……」
「それ! 持ちネタにしないように!」
彼女の白い頬が桃色に染まる様子を眺めながら、デザートの最後の一辺を口に運んだ。
食事の後シャワーを浴びて、清潔な衣服に着替えた。
用意された服は、元の都市で着ていた白と緑の学生服と同じデザイン。
「やっぱりこの服着ると落ち着くなー」
「わたくしは別に……」
アスカは紫の宝石がついた髪留めの位置を調整し、小さく息を吐いた。
「おはようございまーす」
食べた物を片付けたリビングでのんびりしていたら、元気な女性の声と共に、玄関が勝手に開いた。
「キャスターのお姉さんで~す。工場見学に行きましょーう!」
昨日出会ったサーヴァントの女性が、黄色の小さな旗をぱたぱたと振りながら満面の笑顔で立っていた。
第5話 ハプニング前提オープニングトーク
終わり
単語説明
ワームロボット
トンネルなどを掘るシールドマシンを雛形に開発された機械。
様々な地下都市に所属しており、巨大な口と体で吸引・粉砕・分別し、所属都市に不足している資源を収集している。
地下都市の運営を行っているAIのように、こういった作業用ロボット達にもAIは内蔵されている。それらは『作業従事型AI』と呼ばれる。
作業従事型は仕事熱心で、素朴な性格をしているものが多い。
食糧事情
多くの動植物は絶滅しており、地上では農業や畜産を行うことが出来ない。(地球環境の激変のため)
なので、専用の地下工場で、遺伝子組み替え植物・大豆、培養細胞などが育てられ、食品に加工されている。多くは色付きのブロック状にされる。
それぞれの都市に配送された後、配給食として調理・組み立てられる。
デザートや酒などの嗜好品は、多くの生存権を支払うことで入手可能。
地下都市の緊急事態に備え、缶詰やレーションなども製造されている。