フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

51 / 121
 前回までのあらすじ
 モモの前に現れたのは、400年前に人類を救ったという伝説の女神、リリスだった。
 やけにフレンドリーな態度を見せる女神に困惑しつつも、モモとバーサーカー04(依然として簀巻き状態)は美しい庭園の席へ座る。それを、白の仮面で顔を隠した謎めいたリリスの従者が見つめていた。
 女神は客人に振舞うお茶を手ずから用意すると、世界がなぜこうなってしまったかについて勝手に語り始めた。

 自らが人類を救うために造られた人造女神であるということ、世界が滅びた大戦の理由、液体リソースのおぞましい正体、女神の作った発明の数々……。
 ──モモが女神と同じ技術で造られた人ならざる存在であり、16歳までしか生きられないということを。

 思わぬ真実を聞いて苦しみながらも、モモは女神に問う。
「貴女が人類の庇護者だと言うのなら、なぜそんな悲劇が起こることを許したのですか」と。

 女神は、バーサーカー04が地下実験施設で見つけ出した白い本を取り出した。
 04に解読させたと彼女は言い、それを『S文書』と呼んだ。そして、この本には『世界を救う方法』が記されていると。
 次から次へと明らかになる事実に動揺を隠せないモモへ、女神は誘うように告げた。

「私と終わりの無い旅に出よう」
「駄目になってしまった地球を捨てて、人類と共に外宇宙へ旅立とう」
「理解者になってくれるのなら、君の体も治してあげよう」
 『S文書』に記されている『世界を救う方法』さえ教えようと言う女神に対し、モモは考えに考えた言葉をぶつけた。

「──貴女の賛同者にはなれません。
 人間やサーヴァントの命や心を、物みたいに扱って、苦しめることを良しとしている、貴女の賛同者には」
「……例え死ぬことになったとしても、私は貴女から何も受け取りたくはない」
「その方法があるのだとしたら、自分と仲間達で見つけてみせる。
 貴女からは、絶対に教えて欲しくない」
 この言葉を聞いてもなお完璧な態度を崩さない女神へ、ずっと黙っていたバーサーカー04は口を開く。

「お前、モモが頷いたとしても、世界を救う方法を教えようなんて思っていなかっただろ」
「人類のことも、救おうだなんてこれっぽっちも思っていない」

「……誰に召喚されてもお前は変わらないね、本当に悲しいよ」
 まるで彼を知っているかのようなことを呟くと、女神リリスは従者へ命じて『S文章』を燃やし、白い剣を手に取った。

「君、ここで死にたまえよ」
 ──女神は玉の如き双眸を輝かせると、モモ達の殺害を宣言した。


第51話 「当たり前のように──」

 

 

「やぁ!!」

 慈愛ある神のような見た目からは、想像もつかない勇ましい声と共に、座っている私の胴へ、リリスの白の剣先が突き刺さろうとするが。

 

「──令呪をもって、我がサーヴァントに命ずる。

 私と共に戦って! バーサーカー!」

 魂からの叫びに呼応して、彼の自由を奪っていた縄が千切れ飛んだ。

 

「──良いだろう、俺は君の暴力装置、感情の代弁者……そして、サーヴァントだ!」

 内より輝く彼の瞳の色は、風を受けてそよぐ明るい緑の草原を思わせた。

 バーサーカーは私へ手を伸ばすと、首根っこをぐいっと掴み、椅子から無理やり持ち上げて、リリスの攻撃から避けさせてくれた。

 

「この場所は狭い、移動するぞ」

 彼は私を片腕に抱えて走り、庭園の入り口を抜け出て、人工の滝に囲まれた、天井が高い通路へと移動する。

 遠目に見える美しい庭は、白紙の本から広がる火に包まれて、じりじりと焼け落ちていこうとしていた。

 

「ああ、そう簡単に殺されてはくれないのか……モモ」

 白い手に白い剣を携えた女神が、私達を追って庭園の入り口に立っていた。

 そのかたわらには、白の仮面で顔を隠した従者が。

 

「ここから逃げる。そして、アスカ、アーチャーと合流する」

 私はバーサーカーに地面へそっと降ろされながら、方針を確認する。

 

(リリスのテリトリーで戦うのは無謀、私とバーサーカーだけでは勝てない)

 そう判断したからだ。

 

「……逃げられないさ、この世界の全ては、女神たる私のものなのだから」

 神を自称する彼女の体から、透明な圧のあるオーラが、空間を歪ませんとばかりに湧き始めていた。

 何かの前触れなのか、肌がぞくりとする。

 

「撤退戦だな、了承した。指示と援護を頼んだぞ、我がマスター」

 バーサーカーは黒い持ち手の、波紋と反りが入った日本刀を右手で構え、目の前の敵を見据えていた。

 鏡のごとき刃に、彼の静かな殺気に満ちた緑の瞳が映る。

 

(令呪は、残り1角)

 右の手の甲にある、時計のような形の赤い令呪を見る。

 随分と前、機械化サーヴァントにねじ込まれたバーサーカーを助けるために1角使った。

 そして今使用したので……模様は短針だけになっている。

 

「足手まといのお嬢さんを守りながら、どこまで戦える……かなっ!!」

 声を荒げながら、羽もないのに通路を真っ直ぐ高速で飛んできたリリスを、止めるためにバーサーカーは前へ跳躍した。

 白い滑らかな剣と黒い無骨な刀がぶつかり合い、通路の手すりが衝撃で震える。

 

「ふふっ、弱いなぁ、君のサーヴァントは……!」

 戦闘に巻き込まれないようじりじりと後退している私を、女神は一瞥した。

 

「……お前の敵は俺だぞ、人造女神」

 バーサーカーは刀で彼女の体を押そうとしたが、リリスは剣を斜めにすることでそれから逃れた。

 

「バーサーカー04!」

 女神はその場で姿勢を低くし回ると、サーヴァントの胴体を勢いつけて両断しようとする。

 

「……っ、リリス!」

 身を守るため04は躊躇無く手を捨てた。

 つまり、攻撃の勢いを止めるため、左腕を剣に向かって突き出したのだ。

 

「ははっ……!」 

 笑った声は04のもの。

 手の平を白い素材が貫通し、肉と骨が花弁のように外側へ咲く。

 リリスは眉間に険しいシワを刻みながら剣を引き抜こうとするが、盛り上がる肉に武器は埋もれ、絡め取られていく。

 

「面白いだろう、こういうことも出来るんだぜ?」

 バーサーカーの声には痛みの感情は込められておらず、ひどく淡々としていた。

 自分に近接しているリリスの胴体を、彼は全力で蹴り上げる。

 女神の体が数m浮いた。それ目掛けて、バーサーカーは日本刀を無事な右手でぶん投げる……が。

 

「そんな雑な戦法で……神を傷つけられると思うな!」

 まるで背中に翼でもあるかのように、リリスはごく自然に宙で体制を直した。

 刀は逸れて、陽光を和らげている()りガラスがはめ込まれた明るい天井へ突き刺さった。

 

(……この通路は一本道、後ろに下がり続けていれば、出口へはたどり着ける、けど)

 戦闘の様子は気になるが、その気持ちを諫めて、首だけ動かし一瞬だけ後方を見た。

 300mほど後ろに、自分が乗ってきた車輪付き担架と、他の通路に繋がる暗い出入り口があった。

 

(あそこまで行って、令呪を使ってバーサーカーを呼ぶ。

 そして、壁を壊してもいいから、2人で全力で逃げる。

 アスカ、アーチャーと合流できれば……きっと全部、大丈夫だ)

 勝つ必要はない、焦ることはない。これは撤退戦なのだから。

 

「──そろそろ、神の力の一端を見せてあげようかな?」

 リリスは謡うように告げると、剣を奪われた両手を広げた。

 

「水よ!」

 通路脇を静かに流れていた人工の滝の流れが止まり、水面が真横に盛り上がる。

 物理法則を無視した、異様な動き。

 

「敵を串刺しにしろ!」

 生まれたのは、水で作られた無数の槍。

 それが横から上から地面すれすれから、虫のように飛んでバーサーカーに襲いかかる。

 

「ちっ」

 バーサーカーの舌打ち。

 武器が無い彼は、左腕に埋まっているリリスの白い剣を右手で抜き取ると、血と脂にまみれたそれで水の槍を砕こうとした。

 だが、防ぎきれない分が鎧ごと体を貫通した。傷口から水とともに血が溢れて、黄色レンガの地面が黒く濡れていく。

 敵から奪った剣も砕け、陶器みたいな白の破片が散らばった。

 

「……モモ、傍観者気取りはいけないな。君だって舞台上の役者なのだから」

 当然、私が後ずさっている通路の横にも、人工の滝があり。

 リリスの言葉の後、水で形作られた数本の槍が、私目掛けて飛んできた。

 

「……ぁぁぁぁ!!!」

 恐怖で漏れ出る声を抑えきれず、叫びながら私は逃げ惑う。

 姿勢を低くして、1本避け、そのまま地面に倒れ込んでもう数本避ける。

 次に地面を転がって、残りの攻撃から何とか逃れた。

 

(……手加減、されてる)

 バーサーカーに向けられた槍に比べれば、何て手ぬるい攻撃なのだろう。

 乱れた息を急いで整えながら、起き上がる。

 

(敵に背を向けて一気に走り抜けるか……? でも、それは)

 私はリリスのずっと後方に控えている、白い仮面の従者を見る。

 庭園が燃えていく熱気で出来た、陽炎の中に彼が。

 戦闘には参加せず、ただずっと立っている不気味な存在。

 だからこそ、警戒を向けざるを得ないのだ。

 

(目を背ければ、もっと不利になるかもしれない)

 その可能性が怖くて、リリスや従者から完全に目を離すことが出来ない。

 

「バーサーカー! 傷……」

「……かすり傷だ、この程度で致命傷になるのなら俺も色々困ってはいない」

 鎧は汚れているが、血はすでに止まっており、花のように捻れ咲いていた左腕も元通りだ。

 

「……そのスキル、私は知らないな」

「リリス、お前は勘違いしているようなので言語化して伝えるが」

 バーサーカーは新たに取り出した槍を振り下ろしながら、地に足着けていないふわふわした女神に言った。

 大気を切り裂かれる音が、動作の後に続く。

 

「サーヴァントは全て同じ別人だ。召喚される度に生まれ、消えれば永遠に失われる」

 リリスは何もしない。

 

「……かつて君の側に、『俺』が居たんだろう?」

 リリスは何もしない。

 

「けれどな、『俺』は君のサーヴァントではない。

 君のバーサーカーの代わりには、どの『俺』も成れないんだ」

 諭すような言葉に、女神は浮かんだまま答えを返した。

 

「……じゃあ、もう、()()()()()()()()

 その時、私の背筋がぞくっとしたのは……金と桃色の髪の合間から見えた彼女の顔が、あまりにも幼く見えたから。

 だって、おかしな話じゃないか。400年も以上生きている存在が、あんな。

 

(拗ねて、泣き出しそうな顔をするだなんて)

 リリスは手の平を私とバーサーカーに向けて。

 

「──全部、焼けてしまえ」

 そこから細い熱線を放った。

 

「モモ!」

 バーサーカーは体をひねり、迷わず私の元へ跳躍して突き飛ばす。

 赤い閃光が、彼の顔右半分、仮面に覆われていた場所を消し飛ばすのがはっきり見え──。

 

「かはっ……」

 私は背中から地面に落ち、その衝撃で肺の空気が一気に押し出されてしまった。

 視界がちかちか明滅する。

 

「……バーサーカー!」

 気絶している場合じゃない。砂埃が舞う中起き上がって、自身のサーヴァントを探す。

 

「──()()、なんだ」

 聞こえるリリスの声は、怯えていて。

 

「答えろ! サーヴァント!」

 砕けた地面から、彼が体を起こす。

 

「……なんだって、言われても」

 ゆらりと立ち上がる頃には、粉塵は落ち、視界はクリアになっていた。

 

()()としか、説明しようがないが」

 私の目に、バーサーカーの状態、いや、正体が映る。

 

「そんなっ……!」

 私は思わず悲鳴のような声を出してしまった。

 見れば彼の顔は半分無くなって、その縁は卵の殻のようにひびが入り、パリパリと剥がれ始めていた。

 断面から肉や骨などは覗いていない。ただ、遠い場所から届くような穏やかで明るい光がこぼれだしている。

 

「自分の内側、いや、霊核を他者のものにすり替えていたのか……?!」

 リリスはよほど混乱しているのか、考えがそのまま口に出ていた。

 バーサーカーの顔は、何時までもどこかに続いている明るいくぼみが空いたままで、治る気配はない。

 ……きっと、今までもずっと、仮面の下には穴が空いていたのだろう。

 

「そんなこと出来るはずがない! 

 肉体と魂の齟齬が起き、激痛と共に崩壊していく! 

 数日だって保たない! 焼けた鉄を永劫に飲み続けるような行いだ! な、何のため、に……」

 怯える彼女へ、彼は()()()()()()()()答えを言った。

 

「──世界を救うために」

 どこか誇りすらこもっているその響き。

 

「そう願われたのなら……格好いいところ、見せたくなるよな?」

 崩壊しかけの頭蓋のまま、男は言う。

 

「狂っているのか、お前……」

 女神の声が震えていた。

 

「──ああ、もちろん」

 バーサーカーは軽い調子で言った後……右腕を自分の頭の中に突っ込んだ。

 

()()

 そして、金の飾りと漆塗りの鞘に収められた太刀を、ずるりと取り出す。

 

「お借りしますねー」

 内側から現れ出たのは、両面に血抜きの溝……()が彫られた、実用的であるが故に美しく無骨な剣。

 

「よーし、リリス、二回戦だぞ!!」

 半分しかない顔面で、男は本当に嬉しそうに笑ったのだ。

 刀を握っている右腕が内側から徐々に割れ、それを覆いつなぎ止めている鎧の隙間からまばゆい緑の光が。

 ……目の前の光景を見て、私は心の中で独り合点する。

 

(そうか、バーサーカーの瞳が輝いていたのは、中から光がこぼれていたからなんだ)

 木々の葉が日の光を透かすように、彼の瞳は遠い場所から来る輝きを透かしていたのだ。

 全身を報いも来ない痛みで、軋ませながら。

 

 

 第51話 「当たり前のように──」

 終わり

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。