フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 バーサーカー04は壊れゆく体の内側から光の形をした魔力を放出させ、宙へ浮かんだ、絶対の神たるリリスへ食らいつく。平静を失ったリリスは徐々に押され始め、混乱した思考がそのまま口を衝いた。

「お前は、人間でも、英霊でも、いや、生命の基本原理に即した命ですらない! 
 怪物め! 化け物……!」
 その言葉を意にも介さず、04は女神を宙から打ち落とした。
 だが彼女もただではやられない。モモと同じように、女神リリスも自らのサーヴァントへ令呪を持って命じたのだ。
 ──沈黙を貫いていた仮面の従者が、とうとう動く。

 逃げるなら今しかないと考えたモモは、加虐体質スキルにより高揚しているバーサーカー04を落ち着かせると、出口に繋がる通路へ向かって走った。
 あと少しで……という所で、モモの足は唐突に止まる。
 胸から突き出していたのは、血と脂に濡れた刃。リリスのサーヴァント、アサシンが彼女を貫いたのだ。
 傷は直ぐに04のスキルによってふさがれたが、痛みの記憶が残り、モモは満足に動けない。
 バーサーカーもなぜかアサシン相手には攻めあぐね、逃げることもままならない。
 地面を這いながら出口へたどり着いたモモは、最後の令呪を使い、バーサーカー04と共に逃げようとしたが……天女の如く舞い降りたリリスによって、その右腕は切断された。
 奪った腕の令呪を使い、女神は04へ命令する。

「霊核を明け渡せ」
 彼の魂ではなく、別の存在が入っているという霊核……すなわち心臓が、04自身の腕によって引きずり出された。
 それを回収するのはリリスのアサシン。謎に満ちたそのサーヴァントの仮面が落ち、素顔が明らかとなった。
 ……04と恐ろしく似通った顔立ち。彼は言う。

「貴方が、私達を一番に、家族として当たり前のように、()()()()()()()()
「こんなことには……ならなかったのに」

 腕のあった場所から血を吹き出し続けるモモを女神はその腕に抱くと、優しくささやく。
「もうおしまいだね」と。続けて、アスカとアーチャーにも何かしたことを仄めかした。
 絶望しそうになるモモを助けたのは、心臓を失ったはずのバーサーカー04。
 液状に体を崩壊させながらも、アサシンを退け、リリスが床に落としたモモを腕に抱える。

「もう倒したものと思って相手を侮る悪癖、次会うまでに治しておけ。
 お父さんからのアドバイスだぞ、正純(まさずみ)ー」
 それだけを女神のアサシンへ伝えると、人工滝の下に、逃亡のために落下した。
 どこまでもどこまでも、彼女たちは落ちて行って……。
 ──希望に満ちたボーイ・ミーツ・ガールが、終わりを告げようとしていた。


第53話 真実の星が見えぬ夜は、貴方と秘密の話がしたい

 

 

「ぁ……」

 私はうめき声をもらしながら目を開ける。

 暗い、けど、その闇の中に、青の輝きが星みたいに見えた。

 

(何の光かな。本物の星空? それとも幻?)

 体は横倒しになっていて、背中側が激しく痛んだ。これはきっと、落ちた衝撃によるものだろう。

 

「バーサーカー、そこにいるの?」

 いつだって側にいてくれた、彼を呼ぶ。

 

「ああ、いるぞ」

 声が聞こえ、私は安堵を覚えてちょっとだけ笑った。

 

「紐を見つけてきた。これで君の切断された腕を縛る、血は止められるはずだ」

 私の、中途半端な長さになった右腕をバーサーカーは持ち上げたようで、二の腕の辺りにきつく紐が絡んだ。

 

「バーサーカー」

「ごめんな、マスター」

 視界がやけに暗い、痛む全身の震えが止まらない。

 

「これ、渡しておく。手紙だ、君宛の」

 冷たくなりつつある私の左指が開かれ、くしゃくしゃの紙が置かれた。

 

「……この前、言っていたやつ、だね」

「ああ。今回はちゃんと名前を書いたぞ」

 私は話すバーサーカーを探して、首を傾けるが……見えない。

 本物か幻か分からない、青の星がまたたくばかりで。

 星が見えているのに、どうしてこんなに暗いのだろう……もっと明かりを!

 

「名前、なんて書いてあるの?」

「んー……」

 近くに気配を感じる。

 側にいるらしいバーサーカーは、私の問いに数秒間もごもごと何か呟いていたが、観念したようにその言葉を口にした。

 

「『本多正信』」

 私はゆっくりまばたきをする。

 

「それが、俺の……私の本当の名だ」

 寝転がったまま、彼に感想を言った。

 

「へぇ……かっこいいね」

 水が流れる音の合間に、彼が息をのむ音が耳に聞こえた気がした。

 

「少し話をしようか、モモ」

「そうだね……最後、だもんね」

 側にいるという以外、どこに彼が居るのかはっきりと分からないままだけど、2人で話をすることにした。

 私も彼も……きっと、まもなく死ぬだろうから。

 

 

「嘘は言いたくないから事実を言う。

 俺の傷を治してくれていた根本、『あの人』……ああ、上様、つまり『薬師如来』の力とその接続が奪われた、もう傷も体も治らない」

「そっか」

 闇の中で会話をする。

 

「上様のお力添えがあったからこそ、俺は人型を保て、自らよりも数段格上な相手とも渡り合えていた」

「そうだったんだね」

「それが無ければ、アーチャー殿と戦闘になった一番最初のあの時に……五体が吹き飛んでいただろう。きっとばらばらにー……」

「弱い……」

「戦場に立つタイプじゃないからなー……」

 腕を縛る以外の治療を受けていないというのに、痛みが薄れていく。そして、何だか胸がぽかぽかしてきた。

 

「上様……の、力がないと、どうなるの?」

「そもそも人の形を保てない、俺の体は溶けてるから」

「なんで?」

「上様、つまり『徳川』を憎んでいる人はいっぱい居てな、その人達全部の感情と呪いを私は受け取っていたから」

「呪われると溶けちゃうんだ」

「熱いからな、溶けるのさ。なので、溶ける端から治してもらっていたんだ」

 大きな塊が、水に落ちる……そんな音が聞こえた。

 

「……痛く、ないの?」

「痛いけれど……騒ぐほどの事でもなかったから」

「……えっと……薬師如来ってすごい人なの?」

「すごい存在だぞ。苦しんで生きている人をお救いになってくださる、如来なのだから」

「何だか難しそう、また勉強しておくね」

「うん、しておくこと」

 四肢の感覚は薄くなっていくのに、体の中心部は鼓動を増すばかり。

 

「私ね、バーサーカーのこと、好きだったよ」

「そうか」

「お父さんみたいだなって、思ってたり」

「……そうか」

「バーサーカーと映画を見たり、本読んだり、勉強手伝ってもらったり、何て事のないお話ししたり……旅もね、楽しかった、ありがとう」

「……悔しいな」

「どうして?」

 バーサーカーは珍しいことに、まるで本心がにじみ出るような声で話している。

 いつも、飄々としている人なのに。

 

「どうすれば君が助かるだろうって、そんな事ばかり考えている。

 私、もう頭も崩れてきているのに」

 彼の声は震えているように聞こえた。

 

「君が人間でないこと、寿命が短いこと、初めて会った時から気がついていた。

 でも、私、どう伝えればいいのか、分からなくて……いや、怖かったんだ」

「私もね、リリスに言われてびっくりしちゃった。

 知っているなら……教えてくれても、良かったのにな」

「……ごめん」

「いいよ、ちょっとしか気にしてないから」

 私は浅い呼吸を繰り返す、でも、肺は十分に膨らまない。

 

(死ぬの……嫌だな、怖いな……)

 もう少しだけでもいいから、彼と話をしていたいのに。

 

「バーサーカーは、死ぬの怖くない?」

「サーヴァントだしな……それをさっ引いても、私は死ぬのが怖くない。

 ……置いて行かれる方が、怖かった」

「そっか」

「うん。大切な人に置いていかれたその時から、心がずっと壊れていて、どうにも治らない。

 俺はあの人の心の一部だったから。

 ……全く同じ時に死ぬことができたなら、一番良かったのだけど」

 私は笑みを……浮かべられているのだろうか、とにかく彼へ言葉を返す。

 

「大切な人が死んじゃっても人生は続くんだから。自暴自棄になっちゃだめだよ」

「駄目か、そうか……中々ひどい、いや、すごい……違うな。

 ……とても良いこと言うな、モモは」

「旅で成長出来たのかも」

「それは……そうかもしれないな」

「うん。やっぱり、旅に出て良かった。色んなこと、知れたから」

 そう言った後、私は咳き込んだ。

 数分間、背中を地面にごつごつとぶつけながら、血を少し吐く。

 収まったから、また話し出す。

 

「地上にあったもの、ほとんど全部、無くなっちゃっていたけど」

「……ああ、そうだったな、マスター」

「無くなってないものも、あったなって」

「それはなんだ?」

「……愛とか」

「愛か……もうちょっと別のものもあっただろ?」

「夢とか!」

「希望とか?」

「……そうだね、希望もあったや」

 旅の中で出会った人、サーヴァント、思い出す。

 

(沢山の人に、会ったなぁ……)

 みんな、誰かを愛していた。深く、温かい形で。

 みんな、希望を抱いていた。「もしかしたら」って。

 その願い、意思ばかりは……命の誇りから奪えなかったのだろう。

 

「命も物も、いつか全部無くなってしまうけど……1つくらい、永遠のものがあってもいいよね」

「そうだな」

「私、もうすぐ死んじゃうけど、今までのこと、忘れないよ。

 バーサーカーも、死んでも忘れないこと、あったでしょう?」

「うん、あった」

 自分のお腹の上に、手紙を握ったままの左手を置いてみる。

 

「モモ、今でも……『世界を救いたい』と、思うか?」

「それは……」

 バーサーカーの質問に、なんて答えようか。

 

「モモ、沢山の人と過去が、君に大きな物を背負わせようとしている。

 その事実を、俺はあの『S文書』を読んで知ってしまった。

 ……だからこそ言うぞ」

 私はじっと彼の言葉を聞く。

 

「世界も人間も、救わなくていいんだ。

 誰かが書いた運命なんてないし、そんな苦しいだけのものは、君の人生に要らないだろう。

 どうか、好きなように生きて」

「……」

 彼に伝えたいことがまだまだあるのに、舌が乾いて重くて動かない。

 

「手紙に全部書いたけれど……これも読まなくたっていい、俺の自己満足だから。

 ……そう言えば、具体的な世界を救う方法について、アーチャー殿に話してしまったな。

 口が堅い人だから心配はしていないが……まぁ、いっか! 信用してるもの!」

 もっと、お話したいこと、いっぱいあるのに。

 ──あるのに!

 

(アスカも、世界も、どうなっちゃうの……私が死んだら、諦めたら……)

 彼が頭を撫でてくれたような気がした。まるで子どもの頭に手を伸ばした親みたいに。

 でも、その指先もボロボロと崩れ去っていく。

 

「モモ、ありがとう。灰のような俺に、色のある人生を教えてくれた、素敵な女の子。

 俺の『夢』を叶えてくれて、嬉しかった」

「……どこかへ、行くの?」

 彼が何をしようとしているのか分かってしまい、私は上擦った声を出した。

 

「助けを呼んでくる、ここで待っていて」

「待って、行かないで」

 どうして? 今までずっと、家族みたいに一緒に居てくれたのに。

 死ぬときは、側に居てくれないの?

 

(寒い、怖い、何にも見えない、ひとりにしないで……)

 弱音まで明かしてしまいたいのに、血で乾いた口は満足に動かなかった。

 

「俺の番号書かれたバンド、置いていくよ。

 忘れないで。五桁以上は省略、だから『0004』だ」

「待って……!」

 次の言葉を言う間に、彼が遮った。 

 

「……いや、行くよ、君を助けなくちゃ」

 それっきり、何も聞こえなくなって。

 青い星がちらついていた視界に、金の星屑が映って、上の方へと登っていった。

 

「バーサーカー?」

 乾いた唇を開き、呼んでみた。

 

「バーサーカー?」

 今にも口の奥に落ちてきそうな舌を動かした。

 

「バーサーカー、まだそこにいるの? ねぇ……」

 ただ、闇だけが空間に満ちていて。

 

「そっか……私、置いて行かれちゃったんだね」

 涙を一粒だけこぼして、私は目を閉じる。

 

(思い出、死んじゃっても忘れないといいな……)

 ……ただ、闇だけがそこに残った。

 

 

 第53話 真実の星が見えぬ夜は、貴方と秘密の話がしたい

 終わり




 単語説明


 世界反逆罪
 地下都市の安全や秩序を乱そうとした者を指す。
 現代社会における、国家を乱すなどの内乱罪と意味合いは似ている。
 どんな階級の人間であろうと下流階級へ落とされ、労働地区にて重労働が課せられる。
 罰金は膨大な生存権であり(大体3000年分)、働いての返済など不可能。
 ……が、モモは女神の計らいによって恩赦を得た。

 都市運営を司るAI達にとって『世界』とは、女神たるリリスが作り出した地下都市だけなのだ。
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