フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 右腕を失ったモモと、霊核である心臓を奪われたバーサーカー04。
 死にゆく2人は、星も見えない闇の中で話をした。
 
 04は自らの真名を明らかにする。
 『本多正信』、かつて徳川家康に仕えた男、それが彼の正体だった。
 『薬師如来』と化した彼の力を借り、04は今までずっと戦い続けていたのだ。
 霊核を他者のものとすり替え、『徳川』を憎んだ人からの呪いも背負い、溶けていく体の激痛も何もないように振舞って……世界を救う、そんなことのために。

 モモは本心を語る。
 バーサーカー04を父のように思っていたこと、同じ時を過ごせて幸せだったことを。

「どうすれば君が助かるだろうって、そんな事ばかり考えている」
 悔しさをにじませながらそう言う彼へ、モモは死ぬことの恐ろしさについて問いかけた。
 04は語る、「……置いて行かれる方が、怖かった」と。

「大切な人が死んじゃっても人生は続くんだから。自暴自棄になっちゃだめだよ」
 モモはそんな言葉を返したのだった。

「命も物も、いつか全部無くなってしまうけど……1つくらい、永遠のものがあってもいいよね」
 死が近づいてくる実感を覚えながら、モモは願いを口にした。
 マスターである彼女へ、04は覚悟を問うような口ぶりで聞く。

「今でも……『世界を救いたい』と、思うか?」
 咄嗟には答えられないモモ。04は待たずに続ける。

「世界も人間も、救わなくていいんだ。
 誰かが書いた運命なんてないし、そんな苦しいだけのものは、君の人生に要らないだろう。
 どうか、好きなように生きて」
 04は優しい声で言うと、番号が記された腕章を置き、モモを救うためにその場を離れていった。

「行くよ、君を助けなくちゃ」
 ──最後の言葉は、裏表なんてない、彼らしかぬものだった。


 そして場面は変わり、モモとバーサーカー04がアインによって連行された直後まで時間は戻る。
 アスカとアーチャーは、どのような運命と対面していたのか。


第54話 物語でもない旅の果てなんてこんなもの

 

 

 アイン・ピースフル・エーテルウェルと名乗るAIに、モモとバーサーカーが連行された後、わたくしはエトおばさまに強い口調で問いかけました。

 

「エトおばさま! 

 どうして、どうして! モモとバーサーカーを通報するなんてことを!」

 ついさっきまで、女性型アンドロイドに銃を突きつけられていたおばさまは、床に黄土色の服を広げて座り込んで、冷や汗をしきりにかいていました。

 

「貴女のお母様と、同じ末路になると思ったから」

「……えっ?」

 なぜ母のことが出てきたのか分からなくて、わたくしは服の布地をぎゅっと手で握ってしまいました。

 エトおばさまは血の気の引いた顔で話を続けます。お団子にした茶色の髪が、やけに目に付きました。

 

「お母様……フィリア・ピオーネも……そうだったの。

 カイヤ・トバルカインとかいう、得体のしれないレジスタンス崩れとつるんで、危険な事ばかりして、あげく、死んで……」

 おばさまの顔から、汗混じりの涙がフローリングへぽたぽたと垂れ落ちていきます。

 

「アスカ、貴女は私が守るわ……だからもう、どこにも行かないで」

 涙をこぼしながら床をずるずると這ってきたおばさまが、わたくしの胴体に抱き着きます。

 そのおばさまの瞳は……はるか遠くを見ているような、定かではないものでした。

 

「フィリアとそっくり……だから、ちょっとおてんばなのね。

 でも大丈夫、ずっとここにいれば、何も恐ろしいことは起こらないのよ」

「おば……さま……?」

 彼女の体が離れると──わたくしの太ももに、注射器が突き刺さっていました。

 

「大丈夫、心配することはないわ。今注射したものはね、素直になるお薬よ。

 貴女のために、都市運営システムからいただいたの。

 ちょっと眠れば、全部忘れて、新しい自分に生まれ変われるわ!」

 手で外す暇もなく、青い液体が体内にするすると注入されていきます。

 

「──貴様!」

 アーチャーの怒っている声が聞こえます、部屋が震えたような気がしました。

 

「黙りなさい! お前がフィリアを殺したくせに!!」

 おばさまは目を血走らせながら、アーチャーに対して声を荒げます。

 

(アーチャーが、お母様の死の原因?)

 ありえないと思いたいのに、思考は瞬く間に鈍化していくのです。

 

「お前が……! お前とカイヤさえ居なければ! フィリアは幸せなままだったのに!」

 動き出していたアーチャーの足音が聞こえなくなりました。

 ひどい頭痛と眩暈で立っていられなくなり、倒れこむように床へ転がります。

 

(アーチャーが、お母様の死の原因? 嘘……そんなはず……)

 否定したくて懸命にもがいていたら、口が勝手に動き出しました。

 まるで糸で吊られた操り人形みたいに。

 

(なんで、体、言うこと、聞かない……)

 ぱくぱくと唇が動き、言葉が勝手に紡がれて。

 

「令、呪を、もって、アーチャー0961に、命じる」

 自分のものとは思えないほどの平坦な声。

 自らの意志ではない言葉を放った瞬間、アーチャーの姿を見てしまいました。

 

「……アスカ」

 獣みたいな黒いギアで隠されたその顔に、浮かんでいる表情が見えたような気がしました。

 

(あ……いや! 傷つけたくない、アーチャーを、守り、たい……のに!)

 舌を噛んで命令を止めようとしましたが……出来なかった。

 

「──リソースセンターへ送られるまでの間、一切の、行動、禁じる」

「……?!」

 アーチャーはまるで大きな槌で殴られたみたいに、床へ勢いよく倒れこみました。

 彼が纏っている機械部品が、ごつんとフローリング材にぶち当たります。

 

「最後の、令呪を、もって、アーチャー0961に、命じる」

 体の自由が利かない。それ以上に、脳を直接こすられているような激痛がひっきりなしにわたくしを襲います。

 

(なんで、まるで、操られてる、みたい……)

 おばさまが打った薬が原因か、それとも。

 

「アイン・ピースフル・エーテルウェルです。

 不要となったサーヴァントの回収に来ました」

 先ほど退出したばかりのアンドロイドと同じ形の機体が、室内に入ってきたのが見えました。恐らくAIが並行して動かしているのでしょう。

 

「アインは家主であるエトに確認します。

 回収対象は、アーチャー0961で間違いないでしょうか」

「ええ、さっさとお願い」

 おばさまは立ち上がりわたくしから離れると、後ろめたさからか顔を背けました。

 

「続けて確認します。

 そしてアスカ・ピオーネの記憶処理と改名……で、よろしかったでしょうか」

「はい、よろしくお願いします」

 淡々と答える彼女がどんな顔をしているのか、もうわたくしには見えません。 

 

「アインは善良なる市民に対し、福祉サービスを開始します」

 AIとおばさまの、2人の会話。

 

「令呪をもって、命じる。アーチャー0961」

 そして、最後の令呪がわたくしの意に反して使われる。

 唇が動いて……全ての終わりとなる言葉を放った。

 

「アスカ・ピオーネとの契約を、これをもって破棄する」

 ……ぶつんと、繋がっていた見えない糸が絶ち切られる感覚があり。

 

「アインは解説します。

 サーヴァントが暴れると都市が破壊される恐れがありますから、内蔵デバイスの働きを強める薬剤を用いて、貴女の肉体を操作し、令呪を使用していただく事になりました」

 涙が一滴(ひとしずく)頬を伝って、淡い色の床材にこぼれ落ちました。

 

「サーヴァントに対する、身体自由の奪取と契約破棄の2つの命令、ご協力感謝します、市民」

 AIの説明を聞いても、何一つ納得できるものはなく。

 

「大丈夫よ、アスカ」

 アーチャーが、とっても強いアーチャーが、ずるずると運ばれて、流線型の箱、いや棺へ乱暴に詰められていきます。

 

「もう、安心よ」

 お母様が亡くなったばかりのわたくしにも、優しくしてくれたアーチャーが。

 

「これからは、私とずっと一緒」

 家族と言ってもおかしくない存在が、遠くへ運ばれていく。

 

「だから今は眠ってちょうだい。

 ……次に目を開けたとき、きっと素晴らしい日々が待っているのだから」

 わたくしが唯一出来た抵抗は、依然、涙を流し続けることだけで。

 

「これからは貴女のことを一番に愛してあげるわ! だから」

 足首をアンドロイドが掴む、脇の下に機械の腕を通される。

 

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 わたくしは担架に乗せられ、記憶処理をするため、家の外へ運ばれていきました。

 

 

 

 

 ……わたくしの名前はフィリア・ピオーネ。

 世界の生存権の2割を握る、ピオーネ財団のお嬢様。

 家族であるエトおばさまと一緒に、上級都市で暮らしています。

 

 

「ベッド、こんなにも広かったでしたっけ」

 目覚めは良いのに、なぜか寂寥(せきりょう)感が胸にありました。

 鏡の前に立ち、身だしなみを整え、引き出しを開けます。

 そこに保管してあった、家宝である紫の石がはめ込まれた髪飾りを指で取り、いつものように身に着けました。

 黒い髪の上に輝くアメジスト。

 身支度は終わったというのに、なぜだか引き出しの中が気になりました。

 

「……エメラルドの飾りなんて、持っていましたっけ」

 見覚えのない翠玉に首を傾げましたが。

 

「フィリア! 

 朝食、貴女の好きな物ばかり注文しちゃった! 早く食べに来てー!」

 エトおばさまの声で、そんな疑問なんてどうでもよくなってしまいました。

 

「はーい」

 元気よく返事して、後ろへ首を向けます。

 

「では行き……?」

 わたくしはまた、謎の感覚に首を傾げました。

 

(……今、誰に声をかけようとしたのでしょうか?)

 この家には、わたくしとエトおばさましか、家族はいないのに。

 

 

 第54話 物語でもない旅の果てなんてこんなもの

 終わり




 登場キャラクター紹介


 モモタ・トバルカイン
 右腕切断、大量出血、生死不明。

 アスカ・ピオーネ
 記憶処理。エト・ピオーネの申請により、名を『フィリア・ピオーネ』へ変更済み。

 バーサーカー0004
 消滅。

 アーチャー0961
 廃棄処分が決定。リソースセンターへ。


 第12章 終末世界のボーイ・ミーツ・ガール
 終わり
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