──胸躍らせるボーイ・ミーツ・ガールは終わりを告げた。
モモは右腕と自らのサーヴァントを失い。
アスカはサーヴァントと今までの記憶を失ってしまった。
故郷焼ける炎から始まった物語は、多くの人、サーヴァント、AIといった……例えようもない素晴らしい命と愛に出会い……暗い水辺で終着した。
だから幕は下りて、次に上がる時はいつになるのか分からない。
私がこうして君の魂に語り掛けるのも、もう終わりかな。
では、さようなら亡霊君。語り手は花の魔術師ことマーリンお兄さんでした。
……ばいばい。
第55話 だからこそ、ハッピーエンドをいま一度
「──え? バッドエンドかな?」
映画館にて。
席へ座ったまま、上映後のまぶしい灯りに照らされた男はつぶやいた。
第55話 だからこそ、ハッピーエンドをいま一度
「いやいやいやいや……だめだろ、この終わりは。何より観客に失礼だぜ?
時間返せって言われるって、ポップコーンとオレンジジュース投げつけられるって、脚本家出てこいって話になるって」
男は慌てた様子で立ち上がると、椅子の間を縫って歩き、前へ移動する。
「ここから大逆転……が始まるなら次作も見るけどさ……メガホン握った監督どこの誰?
バッドエンドって詰まるところマイナスにしているだけじゃん、今から持ち直してもプラスになることないぜ?」
映画館で喋っているのはその男だけ。
「どうしてこうなっちゃったのか……やはり、脚本家が途中で死んだからか? まぁ、俺の事なのだけども」
男は足下に落ちていた『0004』という番号が書かれた腕章を手に取り、埃をはたくと、空いている席へ置いた。
腰をかがめた男の腕には『00001』と刻印されたバンドが巻かれている。
「しかし、何が起ころうと終わりは決まっている。
──ハッピーエンドだ。
マイナスの世界を0まで引っ張り上げる、観客にっこりの大円団さ」
真っ赤な天幕が降ろされた壇上に登ると、男は舞台役者気取りの大声で話し出す。
「……さて、モモという1人の女の子はどうなってしまったのか。
アスカは? アーチャー0961の運命は? 女神によって支配された終末世界の結末は?」
次の言葉は囁くように話した。
「死者と観客にできるのは、囁くことと見守ることのみ。
再び幕は上がるだろう。だって、『俺』が死んだ程度で物語は終わらないのだから」
灯りは落ちて、映画館は闇に包まれた。
──しかし、声はまだ終わらない。
「……貴方だって、結末が見たいでしょう?」
漆黒の空間で、誰かに語りかけるその男。
「はい。そして……私は許されるのならば、幸せな結末を見たいのです」
青年のような声だけれど、何十年も悩み、思い打ち明けられず、孤独で過ごしてきたかのような達観の響きがそこにあった。
「けれど、観客はこのクリフハンガーに心奪われてくれるだろうか?」
男は問いを投げる。
「そういう貴方の姿勢は、悲劇を楽しむシャーデンフロイデなのでは」
帰ってきたその響きは、声だけでもその存在の清廉な面持ちを思わせた。
「返す貴殿はまるでデウスエクスマキナ!
真紅の皇帝も、てばなしでほめそやしましょうや!」
闇だけがある映画館、謎の男同士の会話は続く。
「……もう止めにしましょう。
舞台から降りた貴方と、役すら与えられていない私では、見える世界は違うのですから」
「ではこうして話せているのはなぜなのか?
お互いの独り言が、偶然にも会話のように聞こえているだけなのか?」
誰かが足を組みなおしたような、衣擦れの音。
「舞台裏で交わす世間話などに、さしたる意味は無い。
そこまで見るべきだと、そうでなければ物語を読み解けぬと言うのなら、書いた脚本家の腕が悪いのでしょう」
「悲しいな。俺、こんなにも意味深長にと喋っているのに」
「貴方の言葉は遠回り過ぎる」
「言葉で己が身を
誰かが腕で空を薙いだような、風切りの音が。
「それは生前の話でしょう」
「そうだった、俺は死したるサーヴァント。
しかもそれの亡霊と来た、なおさらに
「サーヴァントですらないのであれば、私は……」
「いかがした? いと気高き名無しのお方」
「やってみたい、ことがある」
名無しと言われた男が立ち上がりでもしたのか、館内の空気が動いた。
「──彼に、その終わりをあげられなかったから、私、今度こそ」
男は中途で口をつぐむと、しっかりとした足取りで、靴音を響かせながら館の出口へ向かった。
「ああ、なんということだ、とかく終末世界は亡霊ばかり。これでは誰も浮かばれないわけで!」
漆黒の闇の中に響く声、けれど灯りは消えたまま。
「次なる劇の主役は誰か? 女神か人か、はたまたサーヴァントか!
少なくとも『俺』ではないことは確かだ、あはははは!」
……幕は、まだ上がらない。
第55話 だからこそ、ハッピーエンドをいま一度
終わり
登場キャラクター紹介
??????
クラス:アルターエゴ00001
真名:??????
マスター:??????
かつて誰かに仕えていたサーヴァント。7番目の8番目。
亡霊のようなもの。
??????
クラス:なし(サーヴァントではないため)
真名:■■■■■
マスター:なし(サーヴァントではないため)
ある英霊の心残り。無数の■■■■■が召喚されたこの終末世界に現れた。
亡霊のようなもの。