モモタ・トバルカインは、サーヴァント、バーサーカー04と共に暮らしていた、どこにでもいる女の子だった。
アスカ・ピオーネは、サーヴァント、アーチャー961と共に暮らしていた、どこにでもいる女の子だった。
故郷である地下都市を、聖杯戦争という争いによって傷つけられた2人は、手を取り合い、戦いの原因と、世界の真実を知るための旅へ出た。白い車、デザートランナーに乗って。
謎の機械が襲い掛かれど、出会ったサーヴァント達と協力して切り抜け。
恐ろしい罠にかかったとしても、希望を決して捨てなかった。
……まるで、映画のように。
──しかし人生は物語に非ず。
モモタ、アスカ、両者ともに何もかも失い、今は絶望の底。
モモタは右腕とバーサーカー04を、アスカはアーチャー961と今までの記憶を。
けれど時間は無常に過ぎて、命ある限り、間もなく再び幕が上がる。
果たしてこの旅路は、どんな終わりを見せてくれるのだろうか。
ここまでのあらすじは、ふて寝したのか反応が無いマーリンお兄さんに代わって、■■■■がお伝えしました。
皆様、どうか携帯の電源はお切りに、前の席は蹴とばさず、上映中のもぞもぞはお控えくださいませ。
それでは──ハッピーエンドをもぎ取りに行く物語の第二幕、始めましょうか。
第58話 瞼という名の幕は上がり
……映画が始まる前みたいな音が聞こえる。
どうしてそれを私が知っているかというと、映画を上映する映画を小さい頃見たことがあって。
じりじり、じりじり……。
あれは、おばあちゃんと見たのだろうか、それとも。
(バーサーカーと、見たんだっけ)
……じーっと、響く音。
私は、目を開けた。
Fateシリーズ二次創作
フェイト/デザートランナー 第二部
第58話 瞼という名の幕は上がり
「……?」
目をうろうろと動かす。
狭い部屋だ。
縁が欠けている黒のパネルで出来た壁、日の光を和らげている半透明な天井で回るのは、大きなファン。
空気を撹拌しているのか、ごうんごうんと鳴いている。
危害を加えてきそうな存在は近くには居ないようで、それだけはほっとする要素だった。
「私は……」
安全を確かめてから、自分が何者かを確認する。
「モモ……」
地下都市で育った女の子で、バーサーカー04のマスターで、アスカ、アーチャー961っていう仲間が居て、デザートランナーという白い車で旅をしていて。
……寿命が16歳までの、造られた存在。
(記憶に欠落は……ない感じかな)
私は身じろぎした。
「ぅ……」
今も寝ている固いベッドは、何個かの箱に毛布を掛けて繋いだもののようで、背中でわずかな隙間を感じた。
目線を右に向ける。
「夢じゃ、ないか」
──私の右腕は、肘から下が、ぽっかり無くなっていた。
理由は覚えている、リリスに切り落とされたから。
「あれ……?」
しかし不思議なことに、断面は淡いクリーム色の包帯で覆われていて、左腕には針とチューブが血管に差し込まれ、点滴の処置が行われていたのだ。
(治療されてる……)
人かサーヴァントか、それともAIか。
誰の手によるものか分からないけど、止血もされているし、栄養も血液から補充されている。
「……起き、あがっちゃ、だめ」
情報を得るため、今まさに体を起こそうとした時、声をかけられた。
「あなた、5日も、寝てた。体、ふらふら……の、はずです」
私の顔をのぞき込みながら、胴体を小さな両手で押したのは、8歳くらいの少女。
白い肌で、顔は西洋人形のように精巧で愛らしかった。
しかし、着ている服が少女には大きすぎる、だぼだぼの焦げ茶色の作業着だ。
「解熱剤で、体動かせている、だけです」
私は彼女の言葉に従い、もう一度姿勢を横にした。
「食欲、あり、ますか」
少女の問いかけに頷く。
「あげ、ます、ごはん」
銀色のパックが手渡され、左手で受け取った。
上にあるキャップを片手で捻って空け、寝転がったまま口で吸う。
(……味、薄い)
ごくわずかに甘いような……しょっぱいような。しかも保存場所が悪かったのか、ぬるーいゼリーだ。
しかし文句なんて言えるはずもなく、ちゅるちゅるごくごく食べる。
食べ終わったあとのパックを、空気を入れ膨らまして遊んでいたら。
「食べ物で遊ばないでください、子どもですか、あなた」
見かねた少女が回収してくれた。
「ごちそうさまでした、えっと」
「ノインです。あなた、お名前……」
名乗ろうとしたその時。
「あっ、怪我してた『地下生まれ』、起きたんだね」
ノインより年上らしい女の子の声。
「元気? 名前言える?
デバイスから読もうとしたんだけどさ、君、デバイスが埋め込んである右腕ないじゃん?」
ぱっと私を覗き込んだ謎の女の子は、早口で次々喋る。
「ごめん! あたしばっかり話しちゃった!
混乱してるよね、ずっと寝ていたんだし……」
日焼けした肌、短い茶色の髪の彼女は、14歳位だろうか。はきはきとした語り口は、快活さを感じられる。
ノインと同じような濃い茶色の作業着を着ているが、サイズはぴったりで、細身のアスリートのようなしなやかな体の線にフィットしていた。
「あたしはレジスタンス『アカツキ』のリーダー、ミライ! 今年で14になるの」
「私は、モモタ・トバルカイン……」
「名前長いんだねー」
彼女は眉毛をあげて興味深そうに私を見下ろしている。
「……ってあれ? 『トバルカイン』ってことはガトモス爺さんの親戚?
ヤバっ、それってカイヤさんの親戚ってことじゃん!」
ミライと名乗った彼女は、私にゼリーをくれたあの少女に声をかける。
「ノイン! この子連れて行っていいー? 薬は効いてるんでしょ?」
「ミライ、だめ、です」
「それこそダメだよ! トバルカインの家ってレジスタンスの生命線だよ!?
会わせてみたら、ガトモス爺さんもちょっとはしゃきっと……」
ノインと呼ばれた少女は首を横に振った。
「ガトモス、もう、ダメダメです。研究への、意欲、失っています」
「あーもう! ノインの分からずや! いいもん! 連れて行くもん!」
彼女は、私の左腕から点滴の針と管を手慣れた手付きで外すと、針が刺さっていた個所に医療用の茶色なテープを貼ってくれた。
「それに……もう空きベッド無いから、寝ていられると困っちゃうし……」
そして私の体の下へ腕を入れて、起きる手伝いまで。
「ミライ、怪我人を勝手に動かせばDr.シャーンに、叱られます」
少女はその行動を非難するが。
「みんなあたしを子ども扱いして……リーダーに選んだのは大人達だってのにさ!」
彼女は唇を尖らせながら元気よく言い返すと、立った私の顔を見上げた。
「貴女とおんなじ名字の……ガトモスって人がいるのね。
その人の家まで連れてってあげる、面識あるかもしれないし」
「あ、うん、ありがとう……」
後ろから少女の声が聞こえる。
「ノインが、ついて行きます、心配なので」
「よーし、じゃあ3人で出発出発!」
私の左手を引いて行こうとするミライに、私はずっと気になっていたことを質問した。
「あの、ここ、どこですか?」
「んー?」
彼女はちょっとだけ考え込んだあと、口角を思いっきりあげて自信満々な笑顔で言った。
「アカツキの本拠地! 『超巨大移動要塞カルナ』だよ!
上にある大きなソーラーパネルで電気を作って動いてるの!
カルナっていうのは、昔いたすっごい強いサーヴァントのことだって! あやかっているんだって!」
どうやら私は、情報ばかり出会ってそのものにはついぞ巡り会えていなかった、レジスタンス組織の、大きな建物の中にいるらしい。
「はい、洋服の上からローブ被って。きっとじろじろ見られるだろうから」
てきぱき動くミライから、ごわごわした布を受け取り、顔と体を隠すように被る。
そうしてから、元気が有り余っている様子の彼女に導かれ、私は歩き出した。
私が寝ていた部屋から出て、長い廊下を通り抜けると、扉の向こう側には……先端が尖った、涙型の広大な空間が広がっていた。
「わぁ……」
見えた景色に、思わず感嘆してしまった。
積み上げられた黄土色のコンクリート建物、その側面にへばりつくように設置された沢山の折り返し階段。
その間に、橋みたいに渡されているたわんだ大きな長布が見えた。
建物は、外周部に近づくほどマンションのように大きな物になっていて、真ん中に近づくほどに背が低い箱型が密集。
「裏口から出て階段降りた方が、闇市側のガトモスの家に近いもんね」
「ノインは、人が多すぎるので、闇市にがてです」
眼下に見えた、幅100m以上あるだろう通路には、年齢も人種も様々な人がひしめき合っていて、大声を出し合っている。
耳をすませば聞こえる声。
「小型テレビの映像ソフトつき! 正真正銘の発掘品だぞ! 携帯食料100個から!」
「水いりませんかー! 物々交換でお願いしまーす!」
「携帯食料売ってるよー! お年寄りにも嬉しいゼリータイプも揃ってるよー!」
「宝飾品! 上級都市からの流れ物だ! ぴかぴかのカラージルコニア!」
その景色は、遙か昔に存在していたという中東のバザールを思わせた。
しかし見上げた空に青色はない。
半透明の分厚いパネルを繋いで作られた、緩い湾曲がある、濁った黄色をした巨大な天井が存在していた。
鈍くされた太陽光が降り注ぎ、どんよりと下を照らしている。
「今年で全人口5万人越えたんだっけ? 教えてノイン」
「そのとおりです。今から3年前は、4万人でした。
他のレジスタンスからの、難民受け入れもあり、驚異的な増加率です」
ミライとノインは世間話をしながら、人1人分通るのがやっとな狭い折り返し階段を、怯えもせず降りていく。
「モモタ・トバルカイン、あなた右腕無いから、気をつけて」
「気遣ってくれてありがとう、ノイン……ちゃん」
「はい、ノインちゃん、です」
可愛らしい彼女の表情は乏しい。
「名前長いから、モモって呼んで良いよ」
「はい、モモ」
「ミライちゃんもそう読んでいいー?」
一番先に降りている彼女が大声で聞いてくる。
「いいよー!」
私は左手で手すりを掴みながら、バランスの悪い体で一段ずつ慎重に足を進めていった。
……右腕がないのには、まだ馴れない。
「あっ、リーダー!」
「リーダーどこいくの?」
「げっ! リーダーだ! やばい品物隠せ!」
階段を降り、建物の間の細い通路を抜けて、先ほど見下ろしたバザールにたどり着く。
ミライはレジスタンスの指導者だけあって顔が知られているのか、すれ違う人が声をあげて反応した。
「はいはい! どいてどいてー! ミライちゃんが通りますよー」
彼女は私とノインが通れるように人並みをかき分けてくれた。
私はちらりと周りの様子を見る。
(少し痩せてるけど、みんな元気に働いてる……)
ポケットが多めについている焦げ茶色の作業服、大人も子どももそれに身を包み、手を動かしていた。
部品を組み立てている人、水を等量になるようタンクに詰めている人、赤ちゃんをあやしている人。
今まで見たこと無いほど、この場所には人間の営みがあふれていた。
みな笑顔を見せながら、一所懸命に生活を過ごしている。
……キルケーとスローネに出会った、あの海のある地下都市を思い出した。
「ミライ、そこ曲がる、です」
「はいはーい」
私が浮ついた気持ちで歩いている間にも、目的地は近づいてくる。
人間だらけの大通りから裏道に入ると、声や音は少なくなり、一気に静かな雰囲気になった。
コンクリート製の大きな箱にドアを付けて出来た、そんな殺風景でミニマムな住宅が並べられた裏通りが目に写る。
「ガトモス、あたしだよーミライだよー、開けてー」
ある家の前で止まり、周りの家とは変わって、明らかに別の場所から持ってきたのであろう場違いな素材の扉をミライは叩く。
がんがんがんと、拳が金属にぶつかる音が辺りに響いた。
「……いません、ガトモスは留守にしております」
覇気のない年配の男性の声が聞こえてきた。
「ガトモス開けて!」
ミライは
「いやだ! 僕はもう引退したんだ! 隠居したんだ! そして仙人になるんだ!
仙人になってお山に登って……天の国に行くんだ!」
「前兵器開発主任がそう簡単に引退出来るわけないでしょ! いいから開ける!」
「やだー! 甘い物を積まれたっていやだー!」
双方大人気ない会話のやり取りが続く。
「ミライ」
「なに、ノイン」
少女は背伸びして、苦戦している彼女にそっと耳打ちした。
「……ノインも悪いこと考えるようになったねぇ」
「ニヤニヤしないで、さっさと、やってください」
そんなやり取りを2人がしてから、ミライは扉に向かって話しかけた。
「……ガトモス、カイヤさんが帰ってきたのに会いたくないんだ」
ばっと内開きに開く金属の扉。
「──カイヤが?」
中から現れたのは、60代くらいの男性。
頭髪はもじゃもじゃした灰色で、口周りには伸ばしっぱなしの柔らかい髭が生えている。
彼は黒色の瞳をさまよわせ、名前に出た人物を探していた。
「……居ないじゃないか! 僕を騙したな!」
じたんだを踏む彼に、ミライは告げる。
「うん騙した。でも、まんざら嘘でもないんだ」
彼女が手のひらで私を指す。
「この人、モモタ・トバルカインって言うんだって。ガトモスの親戚じゃない?」
老人が近づいてきて、私の顔を下からじっと見た。表情には強い戸惑いが浮かんでいる。
「……君、カイヤの娘だったり?」
「あの、孫……みたいなものです」
伝えたいことはあったが、ミライやノインの前では言うのがはばかられた。
「……そっか、じゃあ僕の親戚だな、間違いなく」
彼は深くゆっくりと頷く。
「ガトモス、この子の保護者になってくれる? このままじゃレジスタンスに居場所無いから」
「うん、いいよ」
返事を聞いたミライは、私と老人の顔を交互に見ると、日焼けした顔に笑顔を浮かべた。
「これで一安心だね! じゃあねモモちゃん! 後でDr.シャーン呼んでおくから!」
彼女は茶色の服の裾を翻すと、裏道を歩いていってしまう。
「ミライ、とても忙しい、です。ノインも、補佐に、向かいます」
ノインは金の髪を揺らしながら私達に一礼して、彼女の後を小さな歩幅で追いかけていった。
「……お入り」
「はい」
ガトモスに促され、私は靴のまま彼の家に入った。
第58話 瞼という名の幕は上がり
終わり
単語説明
超巨大移動要塞カルナ
レジスタンス『アカツキ』が本拠地としている移動要塞。
内部には、戦闘員や、他のレジスタンスから逃げた難民などが約5万人ほど暮らしている。
ソーラーパネルによる発電や水の生成施設などが、内部に住む人々の命を支えている。
この要塞の名は、かつて存在したサーヴァント『カルナ』の名をあやかっているそうだ。