フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 ガトモスの家に招かれ、会話するモモ。数分も経たないうちに、彼は危険な人物ではないと知ることが出来た。
 思っていることが表情に全て出てしまうタイプの人間であったからだ。
 
 会話の最中、訪ねてきたのは「Dr.シャーン」という中性的な雰囲気を纏った医者。
 レジスタンスリーダー、ミライの命で来たと話し、モモの治療をしたのも自分だと言い、彼女の体で気にかかる点があったと言う。

「君の体は老化というより劣化を始めてる。後学のためにも事情を話してくれないか」
 モモは、16歳までしか自分は生きられないという真実を、2人に明かすことにしたのだった。

 話を聞いたシャーンは、「リーダーの所に連れて行こう」と言うが、ガトモスが反対意見を出す。
「レジスタンスの存亡に関わる事柄だ」となだめにかかるシャーンであったが、彼は声を荒げだす。

「そうやって子どもを祭り上げることで! 子ども達の逃げる言い訳を君達大人は奪ったんじゃないか!」
 彼が叫んだ言葉は、リーダーを14歳の子ども、ミライに任せている現状と、モモという傷ついた子どもまでレジスタンスに組み込もうとする『大人』達へ対する憤りだった。
 ……シャーンは謝罪をすると、気まずそうに帰っていった。

 怒りがまだ収まっていないガトモスは、子どもすら利用する大人になってしまった自らに落ち込みながら、モモの祖母、『カイヤ・トバルカイン』について、ぽつぽつと話し始める。

 ガトモスとカイヤは同郷で、同い年の従姉であったこと。
 彼女は地上世界へ積極的に赴き、レジスタンスと交流を深めていたということ。
 人望を集めるようになった彼女と、レジスタンスの当時のリーダーの間に溝ができ、袂を分かつ結果になってしまったということ。
 その時から、もう30年も会っていないということ。

 思い出話に花を咲かせる中で、苦しみを分かち合ったガトモスとモモは、自然と笑顔になっていた。
 
 体調のためにも眠ることを勧められ、モモはベッドの上に横たわる。
 脳裏でアスカとアーチャーのことを思いながらも、生きていくために眠りについたのであった。
 ……それが、消えたサーヴァントの願いであったと信じながら。


第60話 君はきっと生きねばならぬ

 

 

 次の日。

 ポテト味のレーションと温かいお湯で朝ご飯を済ませ、私とガトモスはお出かけする事にした。

 

「カイヤと関係があることも、右腕が無いことも隠しておいた方がいい。まだ30年前の遺恨が残っているから。

 あと……地下都市育ちってことも、みだりに言わない方がいいな、うん」

 外出前にそう言われて、私は深くフードを被る。

 ガトモスはふわふわしている自分の髪に簡単に櫛を通し、こげ茶色の作業着を身に纏うと、サイドポーチに携帯食料をパンパンになるまで詰め込んでいた。

 お互いに身支度を整えると、家の外に出て、最後に出てきた彼が電子キーではなく物質の鍵で家を施錠した。

 

「戸締りもしたし、出かけようか」

「はい」

 人気のない裏通りを並んで歩く。

 上からはパネル天井越しの鈍い太陽光が注ぎ、空間全体を重たい黄土色に染めていた。

 

「『闇市』は楽しいぞー!」

「えっと、『闇市』って、何なのですか?」

 字面から意味は想像つくけれど、その認識が間違っていないか確認のため聞いてみる。

 

「うーんとね、レジスタンスは基本、配給制度ってとこから説明するよ。

 人間が生きられる最低限の物資がきちんと分配されているけれど、もっと欲しくなるのも人の(さが)だ。

 配給された食料を、かつて旧世界にあったお金の代わりにして、物を取り引きしている。

 それが『闇市』。流通しちゃだめな発掘品とかも売っているよ」

「取り締まりとか、しないんですか?」

「リーダー含め、上は目をつぶってるね、キリがないから。でも危ない品物は回収しにくるね」

「へぇー……」

 かつて住んでいた地下都市とは、全く違った社会秩序が形成されているらしい。

 続けてガトモスに質問する。

 

「『地下生まれ』って……ミライにも言われたのですけど……」

「説明してあげるけど……好きな言葉じゃないんだよなぁ……」

 彼は灰色の柔らかいひげを撫でながらつぶやいた。

 

「地下都市で生まれたり育った人間を、レジスタンスの人達は『地下生まれ』とひとまとめに呼んでいる。

 レジスタンスの人は地上で生まれたからね、そしてそれは彼らの誇りに繋がっているから」

「誇り……」

「うん。彼らは言うさ。『我らレジスタンスは邪神リリスとAIの思想に染まらず、真に人間らしく生きているのだ』……とね」

 歩きながら話をしている間に、細い道が終わり、昨日ミライやノインと一緒に見下ろした、闇市への大通りに合流する。

 

「掘り出し物の回路! 何かに使えるぞ!」

「ポテト味じゃないレーション売ってまーす!」

「粉末スープ! 安くしてるよー!」

 活気は昨日と変わりなく。ごわついた布製の服を着た人達が、声を上げ、手を動かし、生活を営んでいた。

 

「家具屋はこっちだ。人だかりすごいから、はぐれないようにね」

「はい」

 人の波をすり抜けるようにして、沢山の音と声を浴びながら目的の場所へ向かった。

 

 

「おぅ、引きこもり主任、元気そうじゃねぇか!」

「久しぶり。あともう主任じゃないから」

「どーせまた呼び戻されるぜ、レジスタンスは万年人材不足だからな」

 箱型の住居の、通りに面している前面の壁を全て外して改造してある建物が、ガトモスの言う家具屋だった。

 人影はまばらで、さっきまでいた表通りに比べるとうんと静か。

 

「主任が俺の店で買い物なんて珍しいな」

 タンクトップを着たムキムキの男性がここの店員らしい。

 テーブルや椅子、タンスなど、見たことのある形の物が並べられている。

 

「家族が昨日やってきてね、2人暮らしになるから、椅子を買い足そうと思って」

「おー……後ろに立ってるフード被ってる奴のことか」

「シャイな子だから、じろじろ見ないであげてね」

「おう、了解だ」

 男性はこっくりとうなずいてから、椅子数種類を店先に持ってきた。

 

「持ってきた分の携帯食料で買えそうなやつは……と」

 それらをガトモスがつぶさに観察する。

 

「おねえちゃん、おきゃくさん?」

 ぼーっと立っていたら、5歳位の子どもに声をかけられた。

 顔は、店員と似ているように見える。くりくりの大きな目をした可愛い男の子だ。

 

「うん、お客さんだよ、こんにちは」

「ここ、おれとおれの父ちゃんのお店!」

「そうなんだ、いっぱい家具が置いてあるね」

「うん! 父ちゃんがお外からもってきた! でもつくったやつもあるよ!」

「すごいね」

「すっごい!」

 買い物が終わるまでの間、男の子となんてことのないお話をする。

 

「……おねえちゃんにこれあげる、おれのつくったやつ、サービスだぜ!」

 彼がごそごそと服の内側から取り出したのは、樹脂を固めて作られたマグカップだった。

 持ち手は少しへにょっとしていて、カップもややへこんでいる。

 

「ありがとう、貰うね」

 彼の行為を素直に受け取るべく、私は腰を屈めて……ついうっかり、右手を出そうとしてしまった。

 

「あっ」

 ローブの内側を見てしまった男の子が、声を上げる。

 

「ご、ごめんなさい」

 私は自らの軽率さを自戒した。

 ……中途半端に失われた右腕を見つめる男の子の瞳は、どこまでも澄んでいて、まん丸。

 

「おねえちゃん、おれとおんなじだ」

 男の子が袖に隠れていた右腕を伸ばした。

 ……手首から先が、無い。失われた場所の面は丸くなっていて、脂肪組織が集まっているのかふるふると揺れていた。

 

「むかしさ、てんじょうのパネルが、どーんっておっこちてきて、おれの手、なくなっちゃった」

 あっけらかんと言う彼の言葉に、私の心は強くかき乱される。

 

「でも……おれ、手がなくてもがんばれる! 

 うんとがんばっていつか……父ちゃんみたいなりっぱな人になる!」

 男の子が、哀れみも偏見も含まれていない瞳で、私を真っ直ぐに見た。

 

「おねえちゃんは、なにになりたい? やりたいこと、ある?」

 言葉が出ない。

 

「私の、なりたいもの、したいこと……」

 答えられず、しゃがんだままで居たら、父親である店主がやってきて、男の子をひょいと肩車してしまった。

 

「お前ー、あのコップ一番上手くできたやつだろうに……あげちゃったのか?」

「うん! だってもっとじょうずになるから! お店にならべられるくらい!」

 親子はごく自然に会話している。

 

「おねえちゃんまたきてね! つぎはびっくりさせるくらい、すごいのつくってさ! まってるから!」

 私は立ち上がり、胸にしっかりとマグカップを抱える。

 

「……大切にするね」

 何があっても強く、夢を持って生きている彼らの顔を見ることが、今の私にはどうしても出来なかった。

 

「軽くて使いやすい椅子にしたよ。目的も達成出来たから、一度帰ろうか」

 曲がっている背に荷物を担いでいるガトモスに言われ、私は家具屋の親子に一礼してから、家路についた。

 

 

「僕ら出かけている間にシャーンが来ていたみたい。何か置いていったな」

 ガトモスの家の前に、中くらいの箱が置かれていた。

 

「君は先に家の中で休んでいて。箱は僕が持っていく」

 家に入り、買い物を片づけた後に、ガトモスがテーブルの上に1つずつ広げてくれた。

 

「中身は鎮痛剤と解熱剤と……君の、荷物だな」

 私が着ていた、乾いた血がべったりとこびりついた灰色の作業服。

 キルケーから貰った、(まじな)いの力が込められたエメラルドの飾り。

 そして。

 

「……バーサーカーの、腕章と手紙」

 白いつるつるしたプラスチック製のそれにも血の汚れがついていて、『0004』の刻印がかろうじて読めた。

 最後にテーブルに置かれたのは、彼からの手紙、だったけど。

 

「ひどい状態だな。血がつきすぎて、手紙だなんて分からなかったよ」

 私の血でもあるだろう、黒と赤の混ざった液体が染み付き、宛名でさえ読めなくなってしまっている。

 封ごとガチガチに固まっていて、開けられる筈もない。

 

「落ち込まないで、モモ。

 昔、汚れた書籍の洗浄作業をやったことがある。時間はうんとかかるけど……綺麗に出来る」

「頼んでも……いいですか?」

「もちろんだとも」

 優しく言ってくれたガトモスに、バーサーカー04からの手紙を預けた。

 

「食事の後、鎮痛剤と解熱剤を飲んで、今日はもう休むといい」

 彼が私に錠剤の入った瓶を手渡そうとしたその時、彼の懐から何かが転がり落ちる。

 

「……これ」

 私も見たことのある物だった。

 

「液体リソース!」

 思わず声に出てしまった。

 発電機の燃料にもなり、病や傷の治療にも使え、サーヴァントの欠かせない、万能エネルギー。

 そして……人間の遺体やサーヴァントの粉砕物を混ぜ合わせて作られる液体。

 

「なんで! ガトモスさんがこれを!」

「……シャーンが置いていった箱に、薬と一緒に入っていた。多分リーダーの差し金だ。

 処分しようと思って、隠した」

 彼が腰をゆっくりと曲げ、落ち着いた動きで液体リソースの小さなボトルを拾い上げる。

 まるで……知っている物を扱うみたいに。 

 

「これの正体を……貴方は!」

「──知っているよ。

 僕だけじゃない、レジスタンスに所属している大人なら、この要塞に住んでいる大人なら、みんな知っている」

 ボトルが机の上に置かれる。自ら発光するそれは、テーブルに淡い青の色を反射させた。

 

「知っているし……使うときもある。手段をね……選べないから」

 長く伸びた眉の下にある黒の瞳は、深い憂いを湛えていた。

 

「薬が効かなくなったとき、このボトルを飲めば体調は楽になると思う。

 ……見つかった以上、隠してはおけない。君の判断にゆだねることにする」

 ガトモスが私の左手の上に、輝くそれを優しく置いた。

 

「……ごめんよ。僕も、僕自身が軽蔑する大人の1人だ。

 カイヤに見られたら、幻滅されて、きっとお尻すら蹴飛ばしてくれない」

 退室する彼の背を見送ってから、手の上のボトルを見る。

 あんなにおぞましい由来の物体なのに、光は青く澄んでいて、物語に出てくるサンゴ礁の海みたいだった。

 

 

「……私」

 薬を飲んだ後、ベッドへ横になりながら考える。

 

(手紙、アスカ、アーチャー、自分の体のこと、レジスタンスのこと……)

 ここ数日で知った情報が多すぎて、とても混乱している。

 深呼吸をしてから、液体リソースのボトルを手に取った。

 灯りの落とされた部屋で輝く、唯一の光源。

 

(『何も知らないまま死ぬは、ごめんだ』)

 ガトモスから聞いた、カイヤおばあちゃんの言葉。

 

(『おねえちゃんは、なにになりたい? やりたいこと、ある?』)

 マグカップをくれた男の子から言われた言葉。

 

(『どうか、好きなように生きて』)

 バーサーカーが私に伝えてくれた言葉。

 

「私……」

 原点を、思い出せ。

 旅に出た理由を。何がしたいかを。

 あと数ヶ月の命で出来ることを、考えろ。

 

「……『知りたい』、もっと、世界のこと。

 そして、アスカとアーチャーを助けたい。もう一度、友達に会いたい」

 私は思い知った。

 自分の手の届く範囲なんて、小さいもの。

 

(世界を救いたいなんて大口叩くのなら……もっと、力がいる)

 情報を集めないと。仲間を集めないと。

 それをしなければ、私は周りに蹴とばされて流されるだけの小石だ。

 

「決めた」

 私は夜の闇の中で体を起こす。

 

「ミライに会って、話を聞く」

 優先順位をつけて、1つずつ行っていこう。

 決意を新たに、私は私自身を肯定する意味を込めて、力強くうなずいた。

 

 

 次の日の朝。

 

「僕もついていくよ」

 ガトモスは前から家にある方の椅子に座ってレーションをかじりつつ、そう言った。

 

「……自分のわがままですから、1人で行かせてください」

 彼は無言で首を横に振った、否定の意味だ。白髪が動きにあわせて揺れる。

 

「絶対に奴らはあの手この手で君を丸め込んでくるぞ。

 そうしたら……貴重なサンプルとして、研究対象に(おとし)められるだけだ」

「……取引します」

 私は昨日買ってきた椅子に座り、ミルク味のレーションを食べる。

 

「リリスと私は直接話をしました。そのおかげで、彼女の計画や真意を知ることが出来た。

 この情報を使って、世界のことや、私の友達の安否とか行方とか、どうして私がここにいるとか、分からないこと全部聞き出します。

 ……レジスタンスの目的って、確か」

「邪神リリスを倒し、人類を解放すること。

 うーん、レジスタンスは君の話を聞きたがるだろう……けど……」

 ガトモスはお湯をすすった。

 

「君の話を妄言だと切り捨てられたらどうする?」

「うーん……」

 確かに、私の話には証明がないのだ、弱った……。

 

「体が良くなるまで、この家で暮らしたっていいじゃないか。

 僕が教えてあげられる範囲の事は伝えるし、焦ることは……」

「でも……私には時間がないんです」

 昨日、男の子から貰ったマグカップに左手で触れる。ほんのりあったかい。

 

「……何かをやりたいなら、早くしなくちゃ」

「モモ」

 ガトモスはテーブルに空になったレーションの包装を置いた。

 

「……じゃあ、僕は君の味方としてついていこう」

「いいんですか?」

「いいよ、上層部にちょっとガツンと言ってやりたいこともあるし」

 彼は手についた粉をもみ手して落とす。

 

「そうと決まれば、身だしなみ整えて出発……」

 立ち上がろうとした瞬間、家の外から耳を刺すような金属音が聞こえ、その後、焦りでうわずった男性の声が。

 

『──緊急放送! 緊急放送! これは訓練ではない!』

 ガトモスは私に手のひらを見せ、動こうとした私を無言で制した。

 要塞内部のあちこちに設置されたスピーカーから、声は続いて発せられる。

 

『要塞内部に敵が侵入! ……戦闘用ロボット、ドローン……AI、多数!』

 ──全身の血の気が引き、背筋が凍った。

 

『非戦闘民はシェルターへ! 繰り返す! これは訓練ではない! 

 武器を持っている市民は周りの人間を守れ! 敵は……ぐはぁっ! がぽっ』

 男性の呼びかけは、水っぽい断末魔で終わった。

 

『はぁい、物理ハッキング完了♡ あっ、全員殺したってことね。

 何はともあれ……放送室いただきました♡』

 次に聞こえてきたのは、全く違う、甘い甘い響きをもった少女の声。

 

『やだ、血が顔に飛んじゃった……。

 あーあー……5万人のレジスタンスのみなさーん! 聞こえてますかー? 

 君達の襲撃に……すっごくムカついたから、復讐しに来ちゃいましたー♡』

 後ろにハートマークでもついていそうなほど、とろけるような愛らしさをもった声だ。

 

『大きな声で自己紹介♡ ぁたし、人類を応援する都市運営システムの1体♡

 反逆者殺戮専用! かわいいかわいい、メルティハウリン・キルロードちゃんだよ♡』

 私の思考が加速する。この名乗りは間違いなく、都市を管理するAI特有のものだ。

 

『今から殺戮用ドローン飛ばしま~す♡ ロボットも使っちゃうね♡

 みんな1人残らず殺しちゃうからぁ、せいぜい足掻いて、数秒間伸びた人生を楽しんでね♡

 ……でも君達が悪いんだからね! だって、ぁたし達の大事な物をぐちゃぐちゃにしたんだもん♡』

 呼吸を忘れ、その言葉の意味について必死に考える。

 

『以上、人類とリリス様を応援する都市運営システムからでした♡ バイバーイ♡』

 放送がぶつりと切れて、終わった。

 家の外から、発狂したかのような悲鳴が聞こえてくる。

 

「嘘だぁぁぁ!」

「殺人ロボットが来る! くるぞぉぉぉ!!」

「い、いやっ、いやぁぁぁ!!」

 何百という、現実を受け止めきれない人の声が空間内に響いていく。

 

「……ガトモスさん」

「モモ、今すぐ避難するのは危険だ、パニックに巻き込まれる」

 彼は立ち上がり、曲がっていた背をしゃんと伸ばすと、紙束だらけの箱を漁る。

 

「銃、弾は……ある」

 彼は拳銃のマガジンを確認してから、服の表につけられたホルダーに引っ掛けた。

 

「ガトモスさん、私にも武器をください」

「……片手で扱える物はここにはないよ。君は逃げることだけ考えるんだ」

 彼は私にそう告げると、別室に行き、リュックサックを背負ってきた。

 

「そのリュックは」

「当面の食料と……敵に奪われたくない大事な『武器』が入ってる」

 会話の間にも、何人かが家の前を通り過ぎていく足音がした。

 

「表の通りの声、静かになったね。シェルターへ移動しよう」

「……分かりました」

 私はフード付きローブをかぶり、家を出る前に、テーブル上の、バーサーカーの腕章と手紙を内ポケットに入れた。

 

(一緒に行こう)

 こればかりは、置いていきたくなかった。

 

「僕が安全を確認するまで、家の中で」

「はい」

 ぼそぼそと小さい声で会話をする。

 

「うん、行こう」

 銃を片手に持った彼について歩いていく。

 裏通りには誰かが慌てて逃げた痕跡が散らばっていて、携帯食料の袋や飲料水のボトル……子どもの落とし物なのか、青色のボールが転がっていた。

 

 

 第60話 君はきっと生きねばならぬ

 終わり




 単語説明


 配給制度と闇市
 多くのレジスタンス組織は、物資を管理するため配給制度をとっている。が、それだけでは補えない需要があるのも事実。
 なので、発掘品や余った配給食を売り買いする闇市が開かれるようになった。
 貨幣制度すら崩壊しているこの世界では、携帯食料が価値の指標である。

 地下生まれ
 地上で生まれ育った人間が、地下都市の人間と自分達を区別するために言い始めた呼び名。
 ガトモスの語ったとおり、差別的な意味が含まれているが、レジスタンスの若い世代はそこまで深く考えずに使っているようだ。

 邪神リリス
 地下都市では信仰されている『女神リリス』だが、一転して地上では『邪神リリス』と言われ、憎まれている。
「人類を家畜化した」、「レジスタンスを弾圧しているAIの生みの親」、「資源の独占をしている」……など、理由は様々。
 多くのレジスタンス組織は、この女神の討伐を最終目標としている。 
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