封印され、保管されていた武器の欠片に触れたモモ。その意識は遥か遠くへ飛んだ。
──目の前に広がったのはセピア色の世界。遠い昔の景色。
男の背中が見え、モモに振り向いた。
ほんの少し前に人を殺したかのように、血に塗れた武器と体をもったその男こそ、人類最初の殺人者にして嘘をついた者……『カイン』だった。
モモとカインは話をする。
自分のことについて、運命の存在について、『力』について。
カインはモモを「私の末裔」だと言うと、彼女に『力』のみを貸すことに決めた。
「鉄を打ち、そして──殺したいと願ったものを、殺せる力を」
モモは目を開ける。
姿は別人のように変貌していた……灰色に近い白の髪、瞳、新しく得た黒い右腕……。
そう、彼女はサーヴァントの力を持つ存在となったのだ。
新しい力を用いて、AIメルティハウリン・キルロードを倒し、そのブラックボックスを奪取することに成功。
だが、突如現れた彼女に対し、レジスタンスは銃を向けたのであった。
一触即発の空気の中、リーダーであるミライがやってくる。
彼女は銃を向けていたレジスタンス達を
「リーダーミライ、彼女はモモタ・トバルカインで間違いない……髪と目の色と背の高さこそ変わっているけれど」
「そこまでいくと別人じゃん、ガトモス前主任」
私が案内されたのは、レジスタンスの司令部、その中の狭い暗い一室。
大きな涙型の要塞の尖った先っぽ。そこから真っ直ぐ上に伸びた塔の上の巨大な箱が、見張り台であり、会議などを行う司令部なんだとか。
「彼女の体にサーヴァントの力が宿ったんだ」
戦いの後、足を引きずりながらやってきたガトモスが、私のことを庇ってくれ、体に起きた変化まで説明してくれたのだ。
そのおかげで、私に向けられていた沢山の銃口は下げられ、こうして落ち着いた場所で話が出来ている。
「どういうこと? 普通のサーヴァントとは何か違うの?」
「うーん、そうだな……」
私がキルロードを止めたおかげで、死者が出る前に戦いは終わったらしい。
(それだけは……よかったなって思う)
本当だろうかと、疑う気持ちもあったが、今はそれは横に置いておく。
ミライとガトモスの難しい話を、立ったまま小耳に挟みつつ、私はテーブルの上に表示されている『要塞外観部の立体映像』を眺めていた。
(へー……何だか大きなカブト虫みたいな姿しているんだね、『超巨大移動要塞カルナ』って)
走行中は体の横に広げられているソーラーパネルは、まるで甲虫の薄い羽のようだし、先端から上に伸びているエレベーターと司令室は、あの特徴的な角のよう。
(夜になると、ソーラーパネルを上に畳んで……更に上へ蓋が被さるんだ! 本当にカブト虫みたい……)
巨大な要塞は車輪やキャタピラなどではなく、稼動性に富む多脚で移動しているようで、その動き方はちょっとムカデっぽいかな。
「『アーキマンレポート』に記されていた『デミサーヴァント』という存在が、今の彼女ではないかと思う」
「……アーキマン、700年前の聖杯戦争の優勝者か」
ミライはタブレット内の資料に目を通しながら、テーブルに肘を置く。
「つまり、意識はモモタのままで、力だけサーヴァントってことだね」
「うん。レポートの通りであれば……だけど」
ガトモスが黒い瞳でじっと私を見た。私もなんとなく目線を返す。
「彼女をどうします、リーダーミライ?」
声を出したのは、部屋の隅で銃を抱えたまま待機していた、2m近いレジスタンスの男性。
鍛えているせいか顔を含めて全身が厳つく、歳は……30前後だろうか?
「……心配しないで」
ミライは彼に冷静な声をかけた。
「モモタ・トバルカイン、貴女に頼みたい事があるの」
「……なに?」
私は立たされたまま、彼女と会話をする。
「私達のレジスタンスに入って、一緒に戦ってほしい」
その言葉に、すぐに答えを返す。
「今は答えられません」
「……なぜ?」
私は指先で、テーブル上の、キルロードから取り出したブラックボックスをつついた。
「聞きたいこと、知りたいことがあるの。それを教えてもらうまで、私は答えを出すことは出来ない」
「……そう」
ミライはよく焼けた肌の上に、怪訝な表情を浮かべた。
「じゃあ、まず何を聞きたいの?」
彼女は椅子に座ったまま足を組んだ。
「『上級都市ピオーネ』にいた私が、どうして今ここにいるのか、その理由」
理由も聞きたいが、自分の現在地も知りたかった。
(アスカやアーチャーのことも心配、早く合流したい)
私の質問に対して物憂げな顔のミライを、お付きの男性が何かを止めたそうな眼差しで見た。
「……ごまかすべき、ではないです。ミライ」
光源はテーブル上の立体映像とモニターしかなく、空気まで暗い部屋に入ってきたのは、西洋人形のような容貌の少女、ノインだった。
体をすっぽり覆い隠す作業着をふわふわ揺らしながら、彼女は進言する。
「彼女には、知る、権利があるです。
そしてあなたには、責任者として、話す義務があります。
……レジスタンスリーダーとして。命を助けた、者として」
「……分かったよ、ノイン」
ミライは大きく息を吐くと、私を空いている椅子へ座るよう促した。
私は素直に腰を下ろして、被っているローブの裾をはたいてしわを伸ばす。
「……貴女を助けたのは、私達レジスタンス『アカツキ』の隊員。
そしてその理由は……ついで、だったから」
「ついで?」
「うん」
ミライは私から目をそらさず、語り始める。
「今から約7日前、レジスタンス3団体による合同作戦が行われた。
ここ『アカツキ』と、『マヒル』、『トコヤミ』の3つでね。
作戦名は……『上級都市ピオーネ攻略戦』、目的は資源獲得とリリス討伐の為の情報収集。
……後半は、ほとんど建前なのだけど」
私は言葉の意味がすぐには理解できず、ただ瞬きをした。
「貴女を資源ついでに回収した上級都市ピオーネは……もうないの。戦闘の余波で消滅した」
ガトモスは座ったまま腕をさすった。
「これから、どうやって都市を攻略したのか、話す」
要塞を映し出している立体映像が一瞬だけぶれた。
「私達がどうやって、別の価値観を持つ人達を蹂躙したのか……どうか最後まで、聞いてほしい」
彼女の動き始めた唇を、私は心あらずの状態で見つめるしかなかった。
第63話 モモタは生きていけるでしょうか
終わり
登場キャラクター紹介
モモタ・トバルカイン
身長/体重:166cm→171cm・53kg
出身:地下都市 年齢:17歳
属性:秩序/善? 性別:女性
好きなもの:日常、非日常、自分のバーサーカー、食事
嫌いなもの:悲劇
地下都市で生まれた、ピンクのショートヘアーにピンクの丸い瞳を持った女の子。
体は薄いが、彼女の魅力はそこではない。
バーサーカー04と契約しており、10年間共に暮らしてきた。
そのせいで、お互いに無意識に影響を与えあっていた。
モモタのタは田んぼの田。豊かな富の証。
人生に不足がないよう、祖母が名付けてくれた。
トバルカインは始まりの殺人者であるカインの流れを汲む一族。
彼の一族に傷を付けた者は呪われると信じられていた。また、錬鉄や製鉄の祖としても知られている。
リリスに腕を切り落とされたが、『カイン』の聖遺物と融合、更にデミサーヴァントとなることで新しい腕を得た。
その副作用として、髪と瞳は灰色となり、身長も無理矢理に伸ばされた。
身体能力は大きく向上し、人間を超えている。
素材を元に武器を作成する力も獲得したが、まだまだサーヴァントとしては未熟。
ガトモス・テルミット・トバルカイン
身長/体重:175cm・67kg
出身:地下都市 年齢:60歳
属性:秩序/善 性別:男性
好きなもの:甘いもの、研究、実験、発掘、カイヤ、モモタ
嫌いなもの:自分、大人
地下都市出身でありながら、レジスタンスに参加している、腰を曲げた白髪とひげの老人。
レジスタンス『アカツキ』の兵器開発の責任者であったが、子どもまで兵士にしようとする上層部に愛想をつかし、辞任した。
トバルカイン家の一族であり、カイヤ・トバルカインとは同い年の従兄弟。彼女につられるようにして地下都市の外へ飛び出し、レジスタンス活動に参加を始めた。
知識欲が強く、歴戦の戦士でもあるため、武器の扱いにも長けている。
感情が抑えきれないロマンチスト。その姿はひどく子どもっぽく見えることも。
Dr.シャーン
身長/体重:178cm・? kg
出身:レジスタンス(地上) 年齢:30代
属性:秩序/善 性別:? (自分自身でも決めていない)
好きなもの:レジスタンス、リーダーミライ、医学薬学研究
嫌いなもの:女神リリス
地上で産まれ、生き延びるためにレジスタンスへ入った人間。
黒い髪は短いショート、纏う雰囲気は独特なもの。
話し方は親近感を患者に持たせるために軽い口振りだが、性格は真面目そのものである。
レジスタンスとそのリーダーを強く信頼しており、いつの日かリリスを倒し、人間の世界を取り戻すため、傷ついた人々の治療にあたっている。
メルティハウリン・キルロード
身長/体重:160cm・? kg
出身:地下都市 年齢:17歳前後をイメージ
属性:秩序/善 性別:女性モデル
好きなもの:リリス様、アイン様♡、刃物♡、自分♡
嫌いなもの:リリス様を裏切った頭の悪くて弱くて愚かな人類
都市運営システムの内の一体。自己進化するAI。
「キルロード」は、300年前、地下都市成立後に、反抗的な人間を管理するために開発されたソフトウェア。
そこから進化した一門なので、名字にその名残がある。
かわいいピンクツインテールの、かわいい女の子。
着ている制服は、アイン・ピースフル・エーテルウェルへの憧れを込めたペアルックである。
人類を下に見て、弾圧する無慈悲なAI。そうあるように作られた。
今まで格下しか相手していないので、圧倒的経験不足と油断が目立つ。