アーチャー961は仲間と再会するために。
アイン・ピースフル・エーテルウェルは、崇拝する女神リリスの安全と、地下都市を管理し、守るために。
相容れない考えと目的を抱いた両者は戦闘を繰り広げる。
アインは特別な武器を用いて961に傷を与え、追い詰めていくが、瞳を金という尋常ならざる色に輝かせる彼を止めることは出来ず、何体もボディが破壊されていく。
961は、少女の形をしたものを荒々しく破壊していてはいたが、アインに人質として捕まった男性を助けるなど、あくまでも英雄らしくあろうと自らを抑えていた。
戦いの場は、狭く暗い工場から別の場所に移る。
……アンドロイドと死者の王の戦いは、まだ終わりそうにない。
「アインはまたお会いしましたね、と、あなたへ挨拶します」
円柱状の広く高い空間の壁には、下流階級の人間が居住区へ戻るための階段が、らせん状となって備え付けられています。
暗いリソースセンターとは違い、均一に白の光で照らされた空間。
私はらせんの上に立って、アーチャー961を見下ろしていました。
「あなたが助けた人間は……ああ、工場内のシェルターに置いてきたのですね」
彼が誰も抱えていませんでしたから、内蔵デバイスの位置を検索して場所を探り当てました。
「アインはあなたの行動に理解を示します。
──だって、脆い人間を側へ置いていたら、戦闘の邪魔にしかなりませんものね?」
人間は簡単に死ぬ。
適切な温度、湿度でないと体に支障を来す。ほんの少し栄養バランスを偏らせただけで疾病に襲われる。
臓器を喪失すれば寿命が減る。眠らせなければすぐ死ぬ。同族同士で傷つけ合い、その果てに殺してしまうこともある。
銃撃や、サーヴァントからの攻撃を受ければひとたまりもない。
人間は脆すぎるのだ。女神たるリリス様が哀れみを向けて、AIを保護者として授けてしまうくらいに。
「アインはあなたとのアイスブレイクを計り、私情を語ります。
……けれどね、人間のことは好きですよ。簡単に死ぬ存在は愛らしいですから」
彼が反応を見せないので、アインは一方的に話を続けます。
「AIであるアイン達に、命を完全に握られている哀れで可愛い存在。
適切に管理しなければ、直ぐにお互い殺し合ってしまう愚かな生き物。
……これを愛らしいと言わずに、何と言いましょうか?」
それを口にしながら、兵器の配置を別思考領域で確認します。
「かつて地上に存在していた神々も、こんな気持ちで人間と関わっていたのかもしれませんね?」
「──違う」
ずっと口を閉ざしていたサーヴァントが、否定の意志が込められた一言を、上にいるアインへぶつけてきました。
「神々は決して、そのような矮小な考えで人を見てはいなかった」
彼の金の瞳からは、今にも雷が迸りそうです。
「……アインはあなたに礼を言います。ありがとう、意味のない会話につき合ってくれて」
無線信号にて指示を出すと、円柱状の空間、その壁内部のあらゆる所から、格納されていた数十台もの重兵器が突き出してきます。
それを操作し、銃口を彼に向けているのはアインのボディ達です。単純作業用なので、見た目は真っ白なのっぺらぼう、簡素な物ですが。
「旧世界風な物言いで例えますと……蜂の巣になってくださいね」
本来は反乱者鎮圧用なのですが、装備を変えればサーヴァント殺害にも転用できます。
その兵器の名前は『機関銃』。自動的に弾を装填しながら連続発射する、かつて地上の聖杯戦争にも使われたものです。
「──発射」
最下層にいるアーチャーに向けて、毎秒80発を超える弾が撃ち込まれます。
それも1台ではなく、攻撃が途切れないように数十台が絶え間なく撃つのです。
「……」
攻撃の様子を無言で眺めることとしました。
一々計算して表示するのも鬱陶しくなるほどの弾が、空間をずたずたに裂いていく。
彼の立っていた場所のコンクリート床は砕け、砂へ変貌、更に細かい粉塵となり煙となります。
下へ、重機関銃の何千という輝く薬莢と、それを留めていた、灰色のプラスチック製の丸いベルトリングが、瀑布の如く流れ落ちていきました。
通路や床にぶつかり、本当に滝のような音を立てていきます。
(これで殺害できるとは、考えていませんが)
機関銃の機能限界に近しい連続掃射に、数台の砲身がオーバーヒートを起こしていますが、攻撃を止める気はありません。
どうせ、ここでありったけ使い切るつもりですので。
「……?!」
今入っているボディの頭が砕け、視界が一瞬だけ暗黒に包まれました。
慌てず意識を警備システムへと転送し、監視カメラで攻撃をしてきた対象を探します。
『やはり、簡単には殺せないですね』
機関銃が連続して爆発しきます、それを操縦していた質素なボディ達も。
原因は明確。
『アーチャー961、機関銃を乗っ取り、それで他の砲台を壊しているのですね』
システム内で呟きながら、数分前からの映像を再生し彼の行動を追います。
彼は機関銃の発砲に追われるように壁へ向かい、そのまま垂直に、脚力だけをもって駆け上がっていく。
『サーヴァントらしい力押しの策です』
次に、銃座にいるアンドロイドを蹴り飛ばし、機関銃を奪取。
他の機関銃の攻撃が襲い来る数秒前の時間を利用し、数発撃つ。
わずかな時間だけしか彼に与えられていないというのに、弾丸は正確な狙いで飛んでいき、機関銃を爆発させていく。
砲が一気に膨らみ、そこからオレンジの炎を迸らせて、黒く爆発。
それを確認もせず、アーチャー961は次の銃座へ壁を蹴っては駆け上がる。
『なるほど……操縦しているボディを破壊しているのではなく、熱で融解しかけの砲身に弾を撃って、構造そのものを破壊……』
彼の狙いはまるでAIのように正確で、無駄がない。
幾らでも補充できるボディを倒すより、数が多いけれど限りある機関銃を壊していった方が、逃げられる可能性は高まるだろうと判断したのだろうか。
『そして……』
奪った機関銃にて、アインの一時的なボディを破壊した後、狙いを壁に変える。
そして、連続発射。コンクリートと金属の構造が何千という弾の暴力で砕け、剥がれていき、その下に見えるのは。
『なるほど、そこから外へ』
黄色い砂と、青い空が覗く地上。乱暴に開けた穴を通り、彼は逃げていく。
『でも、これで作戦通りです。
今このタイミングで、あなたを外に誘い出したかったのですから』
アインは外部に浮かばせていたドローンへ、意識を飛び石を渡るように連続転送し、目的の兵器にたどり着きます。
『──起動』
まだ眠っている兵器のコクピットブロックから、アインはそれに語りかけます。
『同期、開始』
現在意識を宿らせている、兵器内のブラックボックスに、感覚神経が接続されていきます。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚……流石に味覚はありませんが。
アインの体の感覚が、平時使っている少女型、身長160cmのものから、全長数百mに拡張されていく──。
『同期完了。浮上開始』
保護と秘匿のためのシートと、その上に被さった何万トンという砂から身を起こす。
『──機械化サーヴァント、司るは天秤。これより戦闘行動に移ります』
アインが操縦する機械化サーヴァントは『天秤座』。
本体に意識は無く、外部入力で操縦出来るように改造された個体です。
『サーヴァントには、やはりサーヴァントで挑まなくてはね?』
実際に神霊アストライアを召喚し、練り込んだのではなく、近似の能力を持ったサーヴァント数体を用い、限りなく近しい状態を再現したもの。
かつては女神リリス様を探し、殺すために作り出された存在……機械化サーヴァントの1体が、こうしてリリス様の世界を守るために使われているというのは、少し不思議な感覚になります。
『アーチャー961は……いました、あそこですね』
労働都市、軌道エレベーターと、上級都市ピオーネを結ぶ、リニアモーターカーのチューブ型線路に彼の姿が。
その長い屋根の上を、外套を吹きすさぶ風にはためかせながら懸命に駆けていました。
腕を振りながら走る度に、彼を戒めている機械部品が剥がれては落ちていきます。砂かすむ、遙か下へと。
『仲間をさがすためでしょう、上級都市に向かっていますね。
……内部に入られたら、処分が面倒なことになりましょう』
アインは背部にある、巨大なリング状の光学兵器を展開。
悩まず線路をレーザーで焼き切りました。
輪切りにされ、落ちていくチューブ。
その光景を視界に納めながら、アインは冷静に考えます。
『ここまでを振り返ると、アーチャー961は戦闘に魔力的な力や宝具を極力使用していません。
アインのボディを破壊するのに使ったのも、拳や機関銃。
例外は、人間を救助する時に魔力放出のようなものを発動させただけ』
光学兵器に追加燃料を回しながら、まだ考察を深めます。
『……彼はマスターであるアスカと切り離され、本人自身も液体リソースを所持していない。
彼は魔力の枯渇状態にあると考えられますが……しかし、961は現界能力に長けたアーチャークラスです、簡単に判断はできませんね』
かつて知識として与えられたある情報を思い出しました。
『……リリス様が従えていた7体のサーヴァントも、真っ先にアーチャーが離反したと資料にありました。
星座の力を宿した機械化サーヴァントを始め、サーヴァントとは信頼も油断も出来ない存在です。
もっと警戒を強めなくては……』
粉塵が立ちこめ、通常の視覚では落ちていくアーチャー961を捉えられないので、煙に対して透過性のある赤外線カメラに切り替えます。
『見えた』
瓦礫を蹴り、滑り、少しでも上に戻ろうとしている961の姿。
アインはそれに標準を合わせて、レーザー兵器とロケット等実弾兵器による混合攻撃を行います。
『これでとどめです、お疲れさまでした』
そのはず、だったのに。
『なっ?!』
片足から伝わってくる振動と、続く炸裂音。
誘爆を避けるために兵器を一時停止。
『アーチャー961からの攻撃ではない、では、誰が……』
混乱しつつもドローンなどを用い、周辺情報を集めます。
荒野に直線の砂埃が幾つも走っている。だが、それを起こしている正体が見えない。
『迷彩機能ですか……! けれど、それだけでは接近に気がつかなかった理由にはならない……!』
歯があれば、いらだちに強く軋ませていた所です。
アインはこの上級都市の守護者。
この都市を守るために必要な行動は全てアインが司り、誰であろうと邪魔できない。
レジスタンス程度にハッキングされたのなら、直ぐに分かる。ちゃちな迷彩で隠れようと、直ぐに暴ける。
筈だというのに。
『なぜ!? なぜアインは気がつけなかった? なぜ……!』
襲撃者達が、眼下に次から次へと現れていく。
1000を超える武装トラック。
3000台以上の、体高3mほどの四角い頭をした戦闘用ロボット達。
『……ヤ……ミ』
自分が置かれている状況を理解するため、彼らの無線を傍受する。
暗号化されていたが、稚拙な技術で編まれたものなので、解読は容易だった。
『こちら「トコヤミ」! そちらの首尾はどうだ?』
『こちら「アカツキ」。地下進入口を発見、破壊に成功した。これより都市内部に進入する』
『随伴している「マヒル」です。これよりチームを分け、都市運営システムに対しハッキング攻撃を開始します』
アインは情報を整理します。
『トコヤミ』、『マヒル』、『アカツキ』。
これらは現在地上で活動しているレジスタンス組織の名前です。
(しかし、彼らにアインの目をかいくぐって都市に接近する技術力など、あるはずがない)
聖杯戦争に使用された兵器や戦前の道具を発掘し、しがみつくように生きている彼らに、そんな力など無いのだ。
(まさか……)
アインは皮膚など無いのに、冷や汗が溢れ出すような感覚を覚えました。
(誰かに、謀られた?)
考えられるのは、身内の裏切り。
(アイン以上に技術を持っているか、または、情報統制の権限を持っている存在なんて、なんて)
反逆者として設計され、能力も高いツヴァイがいる……が、こんな荒っぽい手を使うAIではない。
『あのお方』は一部データをロックしてはいるが、好戦的な性格でもなく、ただアイン達を観測しているだけだ。
──では、残る可能性は1つ。
(……リリス様しか、いらっしゃられない)
その答えを導き出してしまった瞬間、
第71話 アンドロイドよ死者の王と踊れ 後編
終わり