フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 アインは円柱状の空間にアーチャー961を誘い出すと、何十という機関銃を用いて殺害しようとした。
 ──だが、彼は一騎当千の英雄。その程度の武器で殺せるはずも無く。機関銃を次々と奪取され、破壊、壊れた壁の隙間から逃げられてしまう。
 アーチャー961を仕留めるため、アインは都市外部の砂の下に隠していた巨大機械化サーヴァント、『天秤座』を司るそれを起動させた。
 光学兵器で攻撃しようとしたその瞬間、アインは何者かからの攻撃を受ける。
 正体は、地上で活動しているレジスタンス組織が駈るロボット軍団だった。
 
 本来であれば気づくことの出来た奇襲に、混乱するアイン。
 誰かの妨害や手引きの気配を感じ取った彼女は、思考を張り巡らせ、ある可能性に思い当ってしまった。
 それは、AIの創造主であり、都市運営に関わる全ての上位権限を持っている『女神リリス』が、秘密裏にレジスタンスへ情報や技術を流したという、最悪の可能性。
 ……至ってはいけなかった答えに到達し、壊れ始めたアインに、容赦なくロボットが襲い掛かる。


第72話 女神のお望みは?

『機械化サーヴァントに一斉攻撃だ! いくぞ、暴れん坊ども!』

『その命令待ってました! レッドリーダー!』

『中にクソムカつくAIの野郎、入ってんのかな?!』

『はは! 殺人機械をぶち殺すチャンスだぜぇ!!』

 思考も動きも止めてしまったアインに、レジスタンスの駆るロボット達が襲いかかります。

 ロケット弾が、胴体を支える足に連続で着弾し、強靱な外装を破壊。

 バランスを崩してしまった天秤座の機械化サーヴァントは、砂に半身を横たえました。

 

『リーダー! あのどでかい機械……ああしていると色っぽくないですか?』

『面白いこと言うじゃねぇか、じゃあ……』

 次々に飛んでくるロボット用マシンガンの攻撃で、砂に埋もれていない方の片腕が半壊、液体リソースが吹き出し、荒野が青く濡れます。

 

『腕が千切れた方が、もっと色っぽいと俺は思うぜぇ!』

 アインの内側で、警報が鳴り響き続けています。

 機械化サーヴァントの破損個所について。都市内部への侵入者について。

 

(もし、リリス様がこの事態の全ての元凶なのだとしたら……)

 平時であれば、そのどれにも完璧に対応出来るのに、たどり着いてしまった恐ろしい答えが、思考のパフォーマンスを著しく下げている。

 

(──アイン達AIも人類も、彼女に見捨てられたのか?)

 片腕が完全に破壊され、血飛沫みたいにリソースが勢いよく流出。

 数十個ある外部カメラも機能停止が増え、視界が暗くなっていく。

 

(じゃあ、アインが、今こうして一所懸命に戦っている意味って……)

 産まれてから数百年、ずっと、リリス様のためだけに、生きてきたのに。

 

(おかしい、おかしい、どうしてアインが負けそうになっている? 

 AIはリリス様から全てを与えられた、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)なのに。

 世界を統べ、管理することを女神より許された彼女の手足なのに。

 リリス様が望むから、興味をもてない人間を守ってきたのに)

 銃撃がコクピット内を揺らします。暗くて狭い、ここはまるで棺の中。

 

『このデカブツをさっさと壊して、あのアバズレ邪神もぶち殺そうぜ!』

 アインを激しく壊しているロボット部隊もいれば。

 

『レッドリーダー! ここは俺達に任せて軌道エレベーターの方へ!』

『おう! 死ぬんじゃねーぞ!』

 見向きもせず建造物に向かい、それに重火器を撃ち込んでいる部隊もいます。

 それを目にして、アインは。

 

『──ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!』

 まだ動く背部光学兵器で何百体のロボットどもを同時にロックオン、発射、コクピットを正確に焼き抜いていきます。

 操縦者を失い、武器を取り落としては、膝から崩れ落ちていく機体達。

 素早く攻撃に気がついた数体は光線から逃れましたが、戦意を失い、コクピットから降りて逃げる者もいました。

 

『違う違う違う! リリス様が己の子であるAIを見捨てるはずがない! 絶滅寸前の人類を捨てるはずがない! 

 間違ってる……全て間違ってる……その結論に至ってしまったアインはきっと、壊れてしまったんだ……』

 ああ、自分で自分が何を言っているのか分かりません。

 

『女神の恩寵を受けられずに、神無き荒野を這いずり回る愚かなレジスタンスども! 

 上級都市ピオーネの守護をリリス様から直接命じられた、アイン・ピースフル・エーテルウェルが相手だ!』

 でも、もう何も分からないのです。

 どうしてアインは再び立とうとしているのでしょう。

 一度退却し、体勢を立て直そうともせず、なぜ戦おうとしているのでしょう。

 

『女神を侮辱したその罪を! 自らの赤い血潮によって(あがな)うがいい! 

 は、はは、ははは、あははははははは!!!!』

 リリス様に見捨てられたことが真実だろうが、壊れた思考によってたどり着いた答えだろうが、どうでもいいのです。

 どちらにせよ、アインの頑張ってきた意味、無くなってしまいましたから。

 

 

『やりやがったな! AI!』

 一瞬にして熱死させられた仲間の仇討ちに、マシンガンを撃ちながらこちらに突っ込んでくるロボット。

 

『……あはっ』

 アインは失笑しながら、砂に埋もれてしまった片腕を動かし、100mの体を起こします。

 そして、うろちょろしているロボットに手を振り下ろし、叩き潰しました。

 人間以上の優れた感覚で、はっきりと、水分の多い肉体が内側で死んでいくのを感じ取ります。

 

『ふっ、ふふふふふ……』

 なぜでしょう。壊れてしまった事が(真実にたどり着いてしまった事が)、悲しくてたまらないのに。

 

『ははは、ははは……』

 人間を容易く殺す事が、楽しくて仕方がないのです。

 分かりました、人間は楽しい、()()()()()()()()()()

 

(リリス様、感謝いたします。アイン達AIに……人間を生き甲斐として与えてくれて)

 思い返せば、フォトニック純結晶内部で発生したあの時からそうなのです。

 頭脳労働にかけられた人間を存分に(もてあそ)び、彼らの感情を啜って成長し、そして完成したAIとして女神に仕える。

 それが新しい世界の生態系なのだ、正しい形なのだ。

 AIは人を糧として喰らい、生きていく。

 だから。

 

『離しやがれ! クソAIがぁぁ!!』

 大きな手でわざと掴まえて、熟れたベリーを潰すように、ロボットを操縦者ごと指先で……ぷちゅんと。

 どろどろの液体が少量、荒野に垂れ落ちました。

 

『──レジスタンス達、罪深いあなた達をアインが手ずから殺してあげましょう。

 だって、余りにも可愛そうで……可愛いんですもの!!!!!』

 後ろから迫る数体を光線で牽制しながら、アインへ果敢にも突撃してくる機体を破壊していきます。

 1体1体、丁寧に。

 

(だって、これがアインの最後のお仕事になるでしょうから)

 壊れたものに価値はなく、それを維持し続ける余剰などこの世界にはない。

 アインは処分されるのだ。今目の前で、アインが女神に従わない壊れた人間を処分しているように。

 

『あれ? もうこんなにも残り少ない……』

 終わりを予感しながら、アインは呟きます。

 

『AI野郎! 近づいてみやがれ! 斬り殺してやる!』

 形勢はすっかり逆転、辺りにはロボットの骸の山です。

 アインと同じように片足を壊された機体が、短い高周波ブレードを振り回してじたばたしています。 

 

『──さようなら、アインとあなた』

 ロマンチックな一言を口に出しながら、その機体に手を伸ばす。

 

『いや、この世に別れを告げるのは貴様の方だ、AI』

 どこか聞き覚えのある男の声がして、伸ばしていた腕が一瞬にして切り落とされました。

 大きな振動と砂煙が起こり、殺そうとしていた機体が衝撃によって転がって、遠ざかっていきます。

 

『あ……』

 視界の端に映っているのは、何の変哲もない戦闘用ロボット。

 ただ、武装が違う。銃などの遠距離用の武器ではなく。

 

『燃え立つ……剣……!』

 アインが破壊してきたロボットの部品が、電磁力によってふわふわと破片同士繋がり、巨大な剣のシルエットとして浮かび上がっている。

 表面を覆っているのは、見たことのある青い炎。

 それが、気温80度超えの大気の中に、ゆらりとした陽炎を生み出している。

 ──握っている存在なんて、決まっている。

 

『アーチャー961! 捨てられた機体を奪取したのですね!』

 操縦席に居るであろう彼へ声をかけますが、答えはなく。

 彼は剣を支えるようにぐっとロボットの腰を落とし、人と同じ形をした機械の両指で持ち手を握ると、剣先を天へ向けるように構えました。

 ぎらりと、金属部品が太陽の光を反射します。

 

『……そうです、そうです、あなたも殺さないと。

 だってあなたは処分が決定づけられたサーヴァント、世界に要らない壊れた存在』

 彼とアイン、向き合います。

 残存液体リソースを全て光学兵器に回し、必殺の一撃の準備を。

 

『サーヴァント、AI、人間……神が最後に恩寵を与えてくれるのは、どの存在になるのでしょうね?』

 図らずも最後の敵となった彼へ語りかけます。

 

『少なくとも、貴様ではない』

 殺意込められた返答にアインは感じ入りつつ、背後に備えている天使の如き光輪から、何百と枝分かれした光の線を放ちました。

 降り注ぐ光は、アーチャー961の操縦する機体に追いすがろうとしますが、人知を超えた操縦技術で動かされるそれは、砂の上で踊るように攻撃を避けるのです。

 幾つも地面に黒こげの穴が空きます。けれど彼は臆することなく、光の雨の間を駆けていきます。

 コクピットのある胸部を光が掠め、パイロットであるアーチャー961が露出しましたが、それでも彼は止まらない。

 瞳を雷光で輝かせながら操縦し続け、そして。

 

「殺すのに──」

 アインを終わらせる者の声を、はっきりと感じます。

 

「授けられた弓を使うまでもない。神きどりの矮小な機械が」

 憎悪と殺意と、少しの苛立ちが混ぜられた声の後、青い炎の剣が、アインの胸に突き立てられました。

 

『あああああ!!!!!!』

 痛覚は無いけど、叫んでしまう。だって、この時間が終わってしまうから。

 剣の熱が胴体を融解させ、とうとうブラックボックスまで届きました。

 膨張し、軋んで、砕けていくアインの意志、魂。

 

『リリス様! 作ってくださり! ありがとうございます!』

 もう二度と出会えない女神に、深い感謝を。

 

『だって! だって! ……ねぇ!』

 アーチャー961の機体背部から、炎の噴出を確認。

 アインの体は凄まじい勢いで押され、向かう先は軌道エレベーター。

 荒野によって勢いよく体が削られていきます、がりごりと。

 

『こんなに喜びを感じながら死ねるのだもの! でも死んでしまうのです!! 

 殺されてしまう! ああなんで! 死にたくたい! どうかアインを殺さないで! 

 まだ生きて、リリス様の役にたちたいのにぃぃぃ!!!!!』

 剣が抜かれ、ロボットの手が壊れかけのアインのブラックボックスを掴み。

 

「ただの障害として死ね、AI」

 エレベーター外壁にアインの背中を叩きつけながら、完全に粉砕しました。

 

 

 

 

 AIとの戦いは終わった。

 

(酷く、疲れた)

 ついさっきまで操縦していた、レジスタンスが乗り捨てたロボットから降りて、腰を下ろし、横穴の空いた巨大な建造物……恐らく軌道エレベーターと呼ばれるものを見上げる。

 

「魔力が、足りない……」

 飢えと乾きを感じ、唇を舐めた。

 

「うっ、ぐっ、うぅぅぅ……」

 その次の瞬間、激痛に苛まれ、呻きながら全身をさする。

 

「枷たる外装も無いというのに、力を、使いすぎた……」

 俺にねじ込まれた神性は、『炎神アグニ』と、父たる『雷光の神インドラ』の、2柱。

 だが、子の中に親がいるという、世の摂理に反している状態が、容赦なく俺の霊基を傷つける。

 強化外装、もとい拘束具で押さえつけられていた神の力が、全身を駆け回る。

 皮膚の下で血が沸き立ち、筋繊維が焼けていく。矢継ぎ早に襲いかかるその痛みを、爪が食い込むほどに拳を握る事で耐える。

 

「だが、これでアスカを探せる……アスカ、アスカ……」

 痛みの頂を耐え、俺は立ち上がる。

 途中から降りたった、軌道エレベーターの外壁にへばりつくように備え付けられたその通路を、体を引きずるように足を進めていく。

 千切れかけの外套が翼のように広がり、風が吹く度にひらひらと体に触る。鬱陶しい。

 

「……アルジュナ、アスカ、トバルカイン。どこだ、皆どこへ行った……」

 通路の手すりを掴んで、無理矢理体を前へ進める。そうでもしないと、心が折れてしまいそうだった。

 

(俺には何もない、全部無くしてしまった。でも今なら、まだ取り返せる、気がして)

 前のマスター、フィリアを俺は見殺しにしてしまった。

 目の前で彼女が、赤黒いただの染みになった光景は、今でもはっきりと思い出せる。

 だから、今度こそは……マスターを守りきってみせる。

 決意を新たにしながら、ふと、螺旋の下へ目線を向けた瞬間。

 ──安堵を覚える、あの黒い瞳と目があった。

 

「アーチャー!」

「……マスター!?」

 間違いなく、アスカの声だった。素早くその姿を見る。

 服は汚れていて、右手に赤く染まった布を巻いているが、今すぐに命に関わる怪我は無さそうだ。姿勢もふらついていない。

 トレードマークである髪飾りも、艶のある黒髪の上できらりと光っている。

 

「良かった……もう一度会えて……こほん、今そちらへ向かいます! 待っていてください!」

 そう声がけして、安心しきった足取りで向かおうとした。

 しかし、その動きは唐突に止められる。

 唐突に腕が軽くなり、何も感じなくなった。

 少しだけバランスを崩してしまい、手すりに前のめりにもたれ掛かる。

 

「はっ……あっ……なっ……アス……カ……」

 右腕が切り落とされたという事を理解するのに、1秒かかって。

 次に、勢いよく胴体を冷たい物が貫通する。

 目線をゆっくりと下ろす。

 陶器を思わせる質感の白の刃が体から突き出していて、血と脂により、てらてらと光を反射していた。

 

「──可哀想に。

 君を見たせいで緊張の糸が切れ、こうして私に刺されてしまった」

 耳の直ぐ側で、女の声がする。

 ともすると感傷的に聞こえる言葉だが、そこには冷たいものが込められているだけだった。

 

「お前が、女神リリス……」

 唇を動かしながら、胴体を貫かれた俺を、黒々とした絶望の瞳で見つめるアスカ。

 俺は横目で、その存在を目に映す。

 白い肌、女神のように整った顔、金と桃の混ざった色の、束ねられていない長髪。

 かつて、学び舎で得た知識を教えてくれた、アスカの言葉を思い出す。

 

『豊かな肢体と美しい長髪をもつお方が、地下都市とAIをお造りになられた、女神リリス様なんですって!』

 思い出している間にも時間が進み、リリスが剣を振るうと、アスカの立っている通路の接続部を切り落とした。

 守りたい存在が、落ちていく。

 

「──……アスカ!!!!」

 血を吐きながら、左腕を伸ばした。

 

「──……アーチャー!!!!」

 マスターも、赤く染まった布を巻き付けた右腕を伸ばしてくれたけれど、届かない、余りにも遠い。

 彼女の体は俺の右腕と共に落ちていき、崩落していく瓦礫に混ざって、見えなくなった。

 

(アスカ、死んだのか、また、俺はマスターを目の前で)

 放心状態の間に、俺は首根っこを掴まれ、軌道エレベーター内部へ連れ込まれた。

 

 

 第72話 女神のお望みは? 

 終わり




 登場キャラクター紹介


 天秤座の機械化サーヴァント


 クラス:? 
 真名:詳細不明(十数体のサーヴァントが混合されたもの)
 マスター:? 


 サーヴァントを粉砕して、機械の体に詰めたもの。その体は天秤座の力を宿す。
 アインが語っていた通り、神霊アストライアを使って作られたのではなく、近似のエピソードや能力を持つサーヴァントを用いて作成された。
 本来はレジスタンス側の戦力であり、神を探して殺す者だったが、捕獲・改造され、都市防衛の手足として使われていた。

 能力は既に失われている。
 全長数百m強。背部に天輪のような形の光学兵器を装備しており、それをもって敵を撃ち滅ぼしていく。巨体であるため、腕や足を振り回す、質量で押しつぶすという単純な行動すら危険極まりない。

 女神リリスの支配する世界に、天秤と正義の女神アストライアが降り立つことは無かった。
 ──善悪の基準は失われ、命は生きるために悪を繰り返す。
 ──空見上げる自由は邪竜によって奪われ、黄道の十二星座は意味を失った。
 
「けれどもいつか、正義はなされるでしょう。
 希望の糸はか細い。でも、(わたくし)は人を信じています。
 ……空が奪われたとしても、人が胸の内に星を思い浮かべ、希望を夢見る心までは奪えないものでしょう?」
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