「アーチャー961、ヴリトラは貴方とは別種のアルジュナに、400年前に半壊させられてから、ずっとこんな感じだ」
そんなリリスのアサシンの言葉は、961に届かず。彼はただ絶望からくる涙を流す。
女神リリスは、ようやく目の前のサーヴァントが絶望してくれたことに安心をすると、「『死にたい』と願った」キリエライト達の願いを叶えるべく、少女が落ちないようにと通路へ手をかけていた961の腕を切り落とした。
記憶すら溶かしてしまうという危険な『原液』に、頭から落下したアーチャー961。
全て終わった……かと思われた。
──目を覚ましたのは、診療所のような清潔で安全に満ちた空間。
少女、ガレス・キリエライトと男性が「生と死」の話をしていた。
「死は、扉をくぐるようなものだとわたしは思います。
命は何度だって生まれ、次の新しい場所へ冒険に向かうのですから」
別れの言葉だけを残して、少女は空間の外へと去っていく。
男性は己の無力さと運命の残酷さを嘆くように、嗚咽をこぼした。
その姿に、アーチャー961は古く遠くに別れた、『英雄アルジュナ』の姿を思い出してしまうのであった。
男性の名は『ロマニ・アーキマン』。以下ロマニでいいよね? は、簡単な自己紹介の後に、治療を開始する。
手当てを懸命に施してくれたが、限界があり、961からの申告もあって、治療は簡単なものにとどめられた。
不思議な空間にいる2人は会話をする。
ここが星の地核に存在する、ロマニの精神世界の表れであるということ。
そして、ロマニが2016年以降の歴史を知らないということ。
961から、現在が西暦2713年だということを知り、ひどく取り乱すロマニ。
彼に請われるまま、961は現代までの歴史の流れを簡潔に説明したのであった。
「2000年代から2300年代まで世界大戦が行われ、それを治めたのが女神リリス。
地上は山も谷も無いほど削られ、海は干上がり、殆どの動植物が絶滅……。
人類の多くは地下の都市で生きて、AIに人生を『生存権』なる数値で管理され、存在する階級制度は厳しい。それのせいで争いも起こっている……。
星の地下深くから原液なるものが汲み出され、サーヴァントや人間のミンチを混ぜて液体燃料にし、発電などに使われている……。
サーヴァントは物扱いで……それで……」
アーキマンは俺の話した内容を口頭でまとめながら喋っていたが、途中で自らの髪を両手でぐしゃぐしゃとかき回した。
「うわー!!!! 想像の100倍は悪くなってる!!!!
なんだこの悪趣味な人間が書いたディストピア小説のような、夢も希望もない世界は!!」
「だが、これが俺達にとっての現実だ」
「なおさら始末が悪いよ! ああくそっ……」
「……ショックを受けているのか」
「受けてるよ! すっごく落ち込んでいるよ!」
彼は机の前の椅子に、立ったり座ったりを繰り返す。
「ぁぁぁぁ……もう駄目だ、聖杯の力を押さえつければ何とかなると思ったのに……誰かが何とかしてくれると信じていたのに……」
「……お前は何者なんだ、ロマニ・アーキマン」
そう言えばまだ聞いていなかったなと、ぼんやり訪ねてみた。
「カルデアという施設で医者をしていた、ただの人間で……。
地核と融合してしまった聖杯を抑えるため、身を投げたんだけど……。
あっ、ハワイにあるキラウエア火山って所からだね」
「聖杯があったのか?」
俺は少しだけ驚く。
名前ばかり出て、影も形も見えなかった聖杯が本当に存在していたとは。
「あった、確かにあったんだけど……うわぁ!」
彼がもう一度立ち上がろうとした瞬間、空間が激しく震え始めた。
「地脈が振動してる……何か巨大なエネルギー攻撃が注がれているのか?!」
攻撃の正体に俺は心当たりがある。
恐らく、衛星軌道兵器ヴリトラの一瞥だろう。
あの女神に命じられでもしたのか。
巨大な軌道エレベーターを、その下にある都市を、人ごと焼いているのだ。
「キリエライトに呼び覚まされたボクの意識が、また途絶えてしまう……。
でもこのうねりを利用すれば、キミを地上に戻すことが出来るかもだ。
よーし……」
男は首から下げているカードを両手で外すと、俺の首へとかけた。
「キミにボクのカルデア職員証を貸すよ。そして、南極を目指すんだ。
施設が残存していれば、システムを修復して、この星を救う方法を導き出せるかもしれない。
どうか無くさないで、これはカルデアの扉をもう一度開くための鍵なんだ」
「……救う」
俺は貸し与えられた職員証を見つめる。
笑顔で写っている、現在より髪の短いロマニ・アーキマンの姿。
「お前は俺に、世界を救えと言うのか」
目線をアーキマンへと真っ直ぐに向けた。
「……キミがどうしてそんなに満身創痍な姿なのか、まだ聞いていなかったね」
胸にぽっかりと穴が空いた心地を抱えながら、答える。
「ずっと戦ってきた。敵とも、己とも。
けれど、上手くできないんだ、完璧に出来ないんだ。
……理由は分かっている。俺が、邪悪な存在だから」
振動は激しくなり、ベッド上の机に置かれた緑茶のグラスがかたかた揺れた。
「ボクはそうは思わないな。
ガレス・キリエライトの事だって、最後まで守ろうとしていたじゃないか。
……彼女から聞いたよ。
見知らぬ女の子をとっさに守ってあげられる人のこと、邪悪だとは感じないな。
人間らしい……と思う」
アーキマンは椅子に深く座ると、自分の分のグラスを両手で包み込んだ。
振動が待していく中、俺の声も震えていた。
「長い間、苦しくて、辛くて、でも、死ぬことは出来なかった。
……期待していたんだ。俺がこうして足掻いていれば、いつか、大切な人が、帰ってきてくれるんじゃないかと」
俺の目の前でグラスは揺れによって倒れ、その中身が机の上に広がっていく。
丸い菓子がふやけていく。
「──でも、ようやく分かった。
そんな日は来ない、俺は全てを失った。
両腕すら無いこの姿が、その証明だと思う」
振動に揺れる部屋の中で視線をさまよわせ、俺は扉に目を留めた。
少女、キリエライトが旅立っていった白い扉。
「あの扉をくぐれば、俺は死ねるのか」
疲れ果てた声で言う。アーキマンは悲しげな風に眉間へしわを寄せた。
「……キミの言うとおりだ。
あの扉は命を星に返すことのメタファー。扉をくぐれば、キミは死ねるだろう」
俺は頭を垂れる。ベッドのマットレスに、水の雫がこぼれ落ちた。
「……誰も、守れなかった。
フィリアも、アスカも、仲間であったモモも、バーサーカー04も。
みんな死んでいく。俺の……力が足りないせいで」
瞬きをすれば、瞳から涙が数滴落ちた。
「……それに、余りにも強大な敵の存在も知ってしまった。
目と目があった瞬間、悟ってしまった」
顔を上げ、俺に世界を救えと言いたげなアーキマンへ告げる。
「俺は、奴には勝てない」
純然たる事実だった。
あれほど巨大で、恐ろしい力を持つ存在を倒せるはずがない。
「南極になんて向かえない、あの瞳が地上を見つめている限り、俺はどこにも行けない。
世界なんて救えるはずがない、そもそも世界を救う価値が分からない……」
守りたい者が死んでいくばかりの世界。救う意味などあるのだろうか。
指針も解決方法も力も無いのに、世界を救うとか何とか夢を語るなんて。
おかしな事だ、笑えてくる。
「アルジュナだったら、ちゃんと全部出来たんだ。
誰1人欠けることなく守る事が出来て、アルジュナなら、アルジュナなら……アルジュナなら!!!!」
俺は心の膿をありったけ吐き出す。
「アルジュナなら出来たんだ! けれど俺はアルジュナではないんだ!
アルジュナは壊れたままで……もう、二度元には戻らないんだろう……」
……直視したくなかった事を、とうとう口にしてしまった。
「俺はサーヴァントとして意識を取り戻したその時に、死ぬべきだったんだ。
期待なんてせず、誰にも巡り会わず、棺の中で、ずっと……凍り付いているべきだったんだ」
死んだ方が、ましだった。
けれど俺は期待していたんだ。
(……もう一度、誰かに巡り会えるかもしれない)
なんて、愚かな事を。
「……ボクは、キミに答えをあげる事は出来ない。
ともすると、キミの悩んでいる事は、答えなんて無い難問なのかもしれない」
部屋全体が振動により、輪郭を崩していく。
その中で、アーキマンは言葉を俺に投げかけ続けていた。
「でも、だからこそボクはお節介を言おう……ガラじゃないけどね。
アーチャー、キミは生きるべきだ。だってね……」
彼は立ち上がり、俺の右膝の上に何かを乗せた。
「考え続ける事は、生きていないと出来ない事だから」
新しい、小さな饅頭だった。アーキマンはそれを、俺のズボンのポケットにねじ込んだ。
「お饅頭をあげよう。顔写真の載っている職員証を貸そう。
ひょっとしたら、ボクを知っている人がキミを助けてくれるかもしれないから。
キミがそんなに苦しんでいるのなら、自由にどこかへ行ってみるのも良いだろう。
けれど、もし……ある女の子に出会う事があったのなら、この職員証を渡してくれると嬉しい」
心情が自暴自棄の底に沈んでいる俺を、アーキマンは鮮やかな緑の瞳で穏やかに見つめていた。
「トワ・キリエライトという、ボクを勇気づけてくれた小さな女の子に。
もう、700年も待たせてしまっているから」
彼は俺の肩を軽くはたく。
「いってらっしゃい、アーチャー961。
キミが旅路の中でもう一度大切な人に再会できる事を、ボクは祈っているよ」
部屋が崩れて、真っ白な空間から温かい激流に中へ俺は投げ飛ばされた。
暗い、苦しい、狭い。
上下分からない。ただ、ズボンのポケットが饅頭で膨らんでいることは肌で感じている。
「──天の鎖よ」
そんな言葉と共に、俺の足首に細い金属が巻き付いて、引っ張り出された。
「ほう? 荒れ果て、見るべき物など何もないと思っていたが……中々どうして、珍しいものがあるではないか」
どうやら俺は砂の中に埋もれていたようで、今は強引に引っ張り出され、逆さ吊りの状態になってしまっている。
数回瞬きした。
辺りは凍えるような冷たさに包まれた砂漠の夜で、数え切れないほどの星が空にある。
「まるで生まれたての赤子が如く、ふやけ、ぼんやりした顔よな……」
「だ……れ……」
俺を逆さ吊りにしている相手に、声をやっとの思いで投げ掛ける。
「
不敬にもほどがあるが……よい、幼子が知らぬ事が多いのは道理だ」
男は金の髪を逆立て、夜のわずかな光をかき消すような金の鎧に身を包んでいた。
肌の色は白く、目は、まるで──。
「ギルガメッシュ。
この世の全ての宝物を手中に収めた王にして、人の真なる裁定者。
二度は繰り返さぬぞ、一度で覚えよ」
猛毒を持つ蛇の如く。身震いするような危うげな赤の色。
「いやまさか、
男は自らの顔の縁に、金に輝く篭手を付けた手を当てると、赤い虹彩の色を深めながら、牙見せる蛇のように微笑んだ。
第75話 星の中からこんにちは
終わり
……アーチャー961のマテリアルが更新されました。
神性:A++
詳細不明。
↓
神性:A++
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血と言える。
アルジュナの側面であり一種のアルターエゴであるアーチャー961は、確かに雷霆神インドラの息子でもある。
本来であればBランクだが、実験により炎神アグニの神性も注入されたことにより、異常な値となっている。
魔力放出(雷):A
辺り一帯を焼き滅ぼす雷がほとばしる。
強化外装をビットのように飛ばし、多角的な遠隔攻撃も可能。
↓
魔力放出(炎&雷):A
武器以外にも、全身から神の力の現れである青い炎を噴出させる事が出来る。
これにより超加速が可能。
そして、内に宿るインドラ神の力により、辺り一帯を焼き滅ぼす雷を迸らせることが出来る。強化外装をビットのように飛ばし、多角的な遠隔攻撃も可能。
……しかし、強大な2神の力で霊基は軋んでおり、このスキルを使用しすぎるとダメージを受ける。
強化外装:ー
彼の体を覆う無数の機械。
顔を、手を、足を覆い隠し、戦闘時には能力を制御するブースターとして作用する。
↓
強化外装:ー
彼の体を覆う無数の機械。
顔を、手を、足を覆い隠し、戦闘時には能力を制御するブースターとして作用する。
外装の補助を受けることによって、魔力放出で発生するダメージを抑えることが出来る。
登場キャラクター紹介
ガレス・キリエライト
身長/体重:140cm・? kg
出身:? 年齢:肉体年齢は10歳前後、製造経過年数は700年近く
属性:秩序/善 性別:女性
好きなもの:冒険小説
嫌いなもの:あまりにも長い時間
不死となったトワ・キリエライトの細胞から産み出されたクローンであり、魔術儀式の触媒となるように調整されたデザインベイビー。
『ガレス』と名を冠しているが、英霊ガレスはこの身に降りていないので、彼女はデミ・サーヴァントではない、あくまでも限りなく近い模倣品である。
クローンである彼女らは、13本の軌道エレベーターを『円卓の席』とするためだけに作り出された無垢なる生体部品。鋳造後、中心部に詰め込まれた。
700年の時の間、生の自由も喜びもなく、サーヴァントの死や負の感情などを流し込まれ、ただ生かされているだけだった彼女らは、自らの存在に疲れ果て、死を望むようになった。
しかし、世界を作り替える上での最も重要なパーツであったキリエライト達は、国や権力者によって強固に守られ、誰も殺すことは出来なかった。
……リリス・トバルカインが、現れるまでは。
ガレス・キリエライトが死に、クローン達の残存数は3体。
現在地上に残されている軌道エレベーターと同じ数である。
衛星軌道上展開兵器ヴリトラ
クラス:ランサー00001
真名:カルナ
マスター:リリス・トバルカイン
リリスがかつて召喚した7体のサーヴァント、『リリスの7の滅びの使徒』。
その内の1体、『日の如き槍の使徒』と呼ばれていた男。
400年前、アルジュナとの戦いで半身を失い、親しい仲間であったキャスターに改造され、アサシンの術を受け、女神リリスの血を拝領したその時、男は己を悪竜へと変えた。
月と地球の間、静止軌道上(地表から約36000kmの高さ)に展開しており、赤道上空を通っている胴体は、エネルギー供給を受けるために軌道エレベーターと一部繋がっている。
通常時は霊体化しており、肉眼で捉える事が出来ないが、宝具使用時にはその巨大な姿を表し、太陽を覆い隠す。日を失った地表は瞬く間に冷えていく。
膨張した眼が胴体下レールをスライド移動し、標準合わせを行ってから、宝具が地球へ放たれる。目は1064個あるので、それぞれバラバラに動かして他の場所を同時攻撃可能。
このサテライトレーザーに等しい攻撃によって、幾つもの地下都市、レジスタンスの移動要塞が蒸発させられた。
地球にとぐろを巻く蛇、祝祭の獣、悪竜たるカルナ。
──是なる邪眼は、星を灼く。
ロマニ・アーキマン
カルデア所属の医師。髪を長く伸ばした、ゆるっとふわっとした男。
星の中心部にいるらしい。
単語説明
軌道エレベーター
赤道上に13本建てられていた世界樹の如き構造物。
その正体は、カルデアから奪取された記録・記述を基に造られた、地球そのものをブリテンの騎士王の円卓に変えるための魔術的機構。
中心部には、円卓の騎士を模したキリエライトのクローン(デミ・サーヴァントではない)が据えられている。
世界そのものを変貌させる事によって、サーヴァント召喚は容易になり、世界大戦は激化した。
表向きは原液を汲み上げるための施設だと伝えられ、建てたのも女神リリスだという事になっているが、実際は、世界大戦が一時治まった2020年以降に、国々がサーヴァント戦力を得るために建造したものである。
7の滅びの使途
詳細不明。
↓
リリスの7の滅びの使徒
女神リリスが召喚したサーヴァント達。
彼女の手足が如く動き、レジスタンスやサーヴァント達を殺戮した。
世界
星は二度革命された。
一度目は世界大戦を含む聖杯戦争の決着にて。
二度目は13の軌道エレベーターを建てた時に。
星は肉と化し、世界は自己救済の術を失った。