フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 砂の中から見いだされたアーチャー961の行方も気になるところだが、ここで視点を一度モモへ移そう。

 謎のレジスタンス組織、『アカツキ』の元にいる彼女は、新しい力を得た後、仲間のいない日常を過ごしていた……。


第17章 再会するを空に見て
第76話 一方その頃モモタちゃんは


 

 

 

 私がレジスタンス『アカツキ』に保護され、『超巨大移動要塞カルナ』で目を覚ましてから1週間が経った。

 つまりそれは、仲間達と離れ離れになってから、もう2週間近く経過したことを意味している。

 

「うう……朝だぁ……」

 身を寄せている親戚、ガトモスの家の寝室、ベッドの中でもぞもぞする。

 気分は……あまり良くない。

 

「はぁ……」

 1週間前、この要塞は『メルティハウリン・キルロード』なるAIから襲撃を受けた。

 私はある聖遺物と適合、融合し、サーヴァントの力を持つ存在へ生まれ変わって、その敵を倒した。

 そこまでは良かった、良かったんだけど……その後聞いた話が、今でも心に暗い影を落としている。

 

「上級都市『ピオーネ』に住む人々は、レジスタンスの手に掛かり大勢亡くなって、周辺はリリスの持つ兵器によって跡形もなく蒸発、か……」

 ひとり呟いたそれは、レジスタンスや敵側の事情の話でもある。

 毛布を頭から被りながら、14才の茶髪の少女にして、この要塞を預かるレジスタンス『アカツキ』のリーダー、ミライちゃんとのやり取りを思い出していた。

 

 

 

 

「貴女からの質問、『どうして自分が今ここにいるのか、その理由』について答えるためにも、この話はしなくちゃいけない。

 少し長くなるよ、良い?」

「う、うん」

 私は灰色の髪を揺らしながら頷いた。

 

「……あたし達は、都市ピオーネに邪神リリスがいるという情報を掴み、他のレジスタンス組織と協力体制をとって攻略を開始した。

 作戦に参加したのは全部で3つ。ここ『アカツキ』と、『マヒル』、『トコヤミ』だ」

 彼女の言葉に、私は動悸を激しくしながら、狭い司令室のテーブルの上に表示されている立体映像を眺める。

 

「リリス打倒というお題目を掲げて、あたし達は都市を攻めた。

 ……なるべく人を殺さないようにしたかったけど、無理だった。

 あたし達は、地下で生きていた別の価値観を持つ人達を撃った、殺した。

 死体や人間を回収して、資源にしたレジスタンス組織もある……」

 その映像は青く発光し、時折ぶれる。

 

「仲間達もたくさん死んで、リリスの発見も出来なくて、敵の機械化サーヴァントがやってきた。

 そんな絶体絶命の状況の時、あるロボットが敵を倒してくれたんだ。

 機械化サーヴァントは、起動エレベーターの下部に叩きつけられて沈黙。

 その隙をついて、あたしの部隊が内部へ潜入した。

 ……邪神リリスの情報を得るため、そしてリリスを殺すために」

 司令室には重苦しい空気が流れている。

 

「入った場所は、滝壺みたいな雰囲気のある、暗い上水道施設だった。

 突然、『怪我人がいるんだ、助けてくれ』って男性の声が聞こえて、それに導かれるみたいに歩いていたら、貴女に行き着いた。

 右腕の肘より下を切り落とされ、痛みと出血で気絶していた貴女に……」

 彼女らを呼んだ男性の声はきっと、バーサーカー04のものだったのだろう。

 ……彼は私に言っていた。

 

(「助けを呼んでくる、ここで待っていて」)

 と、本当に素直な、めったに聞けない裏表のない声で。

 

「貴女を背負って回収しようとしたその時、振動が響いて、あたし達は外の部隊からの連絡を受けた。

 内容は『リリスの蛇、起動を確認』。

 あたし達は部隊を引き上げ……それから20分後、上級都市は、衛星軌道上の兵器『リリスの蛇』から降り注ぐ1本の光線によって、抉れるように消滅した。

 ……もうあの場所にはクレーターしか残ってない」

 私は唾を飲み込んでから、ミライちゃんに質問する。

 

「地下都市の人は、どうなったの?」

「避難を呼びかけたけど、時間はなかった。そのほとんどが死んだ……と思う」

 脳裏にアスカ、アーチャー961の姿がよぎった。

 そして、私に親切にしてくれた赤髪の女性ナットさんや、私を通報したエトさんのことも。

 

「脱出した人だっているよね……?」

「どうかな……さらわれた人は助かったかもしれないけど……」

 ミライちゃんの幼さ残る顔はとても暗い。

 

「その……」

 私は話してくれた彼女に声をかける。

 

「辛いこと、話させてごめん」

「えっ?」

 少女はなぜかぽかんと口を開けた。私は構わず言葉を続ける。

 

「そして、助けてくれてありがとう」

 ミライちゃんは困惑している様子だが、私、変なことを言ってしまったのだろうか……。

 

「あっ、あたしを責めないの?! 

 地下都市を滅ぼした、人殺しとか、そんな……こと……言わないの……?」

「──言えないよ」

 真剣な言葉を彼女に返す。

 ……ミライちゃんはまだ14歳だ。

 そんな子どもが、組織を指揮し、何を壊し殺すのかを決めて、その責任を背負っている。

 言い訳もせず、泣き言もいわずに。

 それがどれほど覚悟いるものなのか、想像すら出来ない私は愚かだ。

 

「言えない。そんな相手を責めるだけの、無責任な言葉」

 それが私の本心だった。

 

「……そう、なんだ」

 彼女の頬を雫が伝う。それが涙か汗かは分からない。

 

「今日は色んな事があって疲れちゃった。

 バトルに変身に、腕まで新しくなっちゃったし。

 ガトモスもそうだと思う、家に帰って休んでも良いかな?」

 私は黒い右腕をひらひらとさせながら明るく言う。

 

「メルティハウリン・キルロードから回収したブラックボックスは、あなた達にあげるね。

 私だけだと解析のしようがないし……」

 テーブルの上の、手の平に乗る大きさの箱を指でつついた。

 

「ミライちゃんが言ってた……レジスタンスへの協力のお話は、考える時間をもらっても良いかな?」

「分かった。

 ……また何かあれば、連絡する」

 少女はそう言うと、椅子に深く座り直した。

 

 

 

 

 これが1週間前のやり取りである。

 

(……自分の心に正直になれば)

 毛布から抜け出て、上半身を起こす。

 

(とても、混乱している)

 ため息を吐いた。

 

(バーサーカー04は消えてしまった。

 アスカとアーチャー961は生きていると信じたいけど、望みは薄い。

 ナットさんやアスカの親類であるエトさんについてもそう。

 あとデザートランナー……ああ、きっと都市蒸発の巻き添えだ。

 どうしよう……発見した資料の情報とか、食料やアイスもまだ詰んであったのに……)

 状況を整理すれば整理するほど、失ったものが多すぎる。

 知り合い、仲間、移動手段。

 ……家族みたいな、存在。

 

「だめだめ! しゃんとする!」

 灰色になってしまったボブカットの髪を、両手でぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

 

「……大切な人が死んじゃっても人生は続く」

 口に出したこれは、自分の言葉。

 

「どうか、好きなように生きて」

 次に口にしたこれは、バーサーカー04の言葉。

 

「だから私、好きなように生きることにする」

 何もかも台無しになった訳じゃない。

 リリス曰わく、私はあと1年も生きられないらしいけど、まだ元気だ。

 

「朝ご飯食べたら、お片付けのお手伝い行こ……」

 AIの襲撃を受け、壊れた建物や施設が沢山あるから、体の調子がいい日は、あちこちのお手伝いに出かけている。

 私が今やりたいことは、『自分に出来ること』だ。

 

「ガトモース」

 私はベッドから降りて室内靴を履き、よく分からない小さな機械部品が転がって歩きにくい廊下を進んで、裸電球が吊り下げられているリビングへ向かう。

 そこには、私の親戚であるガトモスが……非常に困った形でそこにいた。

 

「……朝っぱらから何やってるの?」

「えっ? もう朝なの?」

 床中に散らばった紙製の設計図、金属、工具、筆記用具。

 1個しかないテーブルの上には、積み上げられた本やタブレット、モニター類。

 

「まだ午前2時を回ったところじゃなくて?」

 その大量の物に埋もれるような形で手を動かし続けている、60代くらいの白髪の男性が、私のおばあちゃんの従兄弟であるガトモスだ。

 因みに、彼の名の前には『前兵器開発主任』という物々しい肩書きがつく。

 

「ガトモス、何時から作業をしていたの?」

「午後10時から?」

「何してたの?」

「君が要らないって言ってたパワーアーム、あれの汎用性を高めて、他の人も使える義手にしようと思ってさ。

 参考資料のためにテレビゲー……映像資料をプレイしていたら、非常にファンタスティックというかファナティックというか、素晴らしい戦闘用義手がたくさん出てきて、うわぁ格好いいぞと思ったら、良いアイデアがぽこぽこ湧いてきて……」

 黒い目をキラキラさせながら話すガトモスの早口を半分聞き流しながら、私は顔に手を当てる。

 

(うーん困った、ちょっと今までの人生で周りにいなかったタイプなんだよな……)

 ガトモスは……なんだろう。

 アイデアを思いつけば、今日のように家中に道具を広げる。

 作業に夢中になってしまえば、寝ないし食べない。

 片付けは出来ないっぽい。

 

(でもどこに何があるのかは把握しているから、困ってないってガトモスは言うんだよな……)

 私は、体が大人になったら心まで大人になるものだと思っていた。

 だが、現実はそうではないらしい。

 

(ああ……アスカ、君を思う──)

 貴女は決まった時間に寝て決まった時間に起きる、規則正しい女の子だったね。

 アーチャー961、貴方は人に言われればちゃんと食べてちゃんと休憩をとる、素晴らしいサーヴァントでしたね。

 バーサーカー04、貴方は自分や他者の持ち物、物資を完璧に管理していた、要領のいい人でしたね。

 

「……そして完成したのがこれだぁ! 

 じゃーん! 見てよモモタ! この義手、変形してドリルになるし、その際発生する余剰エネルギーを電力として貯めることが出来て……」

「もう朝の6時だよ! 朝ご飯食べようね!」

「分かった!」

 ガトモスと協力し、散らばっている道具をひとまず部屋の隅に固め、もそもそ食感の携帯食料を朝ご飯にした。

 

 

「ソファーで寝てるよ……お出かけするなら気をつけてね……」

 食事の後、遅れて疲れがやってきたのか、ガトモスは眠りについてしまった。

 私は出かけるための身支度を整えながら、彼の寝顔を見る。

 どことなく私のおばあちゃんに似ているような、そうでもないような。

 

(ガトモスは困った人……なのかな?)

 でも、彼の明るさやマイペースな所に救われている私がいる。

 それに、なんだかんだいって彼の発明品を見るのは楽しいし、彼と話しているのも楽しい。

 ガトモスのおかげで、必要以上にめそめそせずいられるのだ。

 

「これでよし」

 灰色の瞳で鏡を見ながら、灰色の髪を櫛で整え、砂除けのフードとローブを被る。

 そうしてから、右肩に、サーヴァントの証でもあるプラスチック製の番号札を巻きつけた。

 そこに表示されているのは、掠れた『0004』の数字。

 

「今日もお手伝いがんばるぞ!」

 自らを鼓舞してから、私はガトモスの家を後にした。

 

 

 

 

 

 

「今日は東地区に行こうかな」

 後ろ手で扉を閉め、材質である重たい金属音を聞く。

 ガトモスの家がある裏路地。そこに立ち並ぶ黄土色の四角い箱建物を、横目にしながら通り過ぎて、市のある表通りへ向かう。

 襲撃前、露天が何件もあり、人も多く賑やかだったそこは、真っ先に復旧が進んでいるが、まだ瓦礫は目立った。

 天井を見上げる。濁った黄色のパネル越しに、弱々しい太陽光が要塞内を照らしていた。

 

「……」

 ひとりの女性が、建物の残骸から私の様子をうかがっていることに気が付く。

 

「おはようございます」

 努めて明るい声で挨拶するが、彼女はさっと隠れてしまった。

 

(……しょうがないよね)

 サーヴァントの力を宿した私を、要塞に住む人々は奇異な目で見る。

 それは当然のことだと思う。人間の形をしているのに、人間じゃない存在が近くにいたら、何をされるか分からなくて怖いだろうから。

 

(でも……みんなとは仲良くしたい、怯えさせたくない)

 だから、『敵じゃない』ということを知ってもらうために、私は笑顔を皆に向けるのだ。

 

 

「お手伝いに来ましたー!」

 迷子になること無く東地区に到着。この要塞内の町並みもだいぶ覚えてきた。

 広場に着いた私の声を聞いて、作業服を着た顔なじみの女性がやって来る。

 

「おはようモモタ。今日もお手伝いに来てくれたの?」

「この辺り、退かさないといけない瓦礫が多いのに、道が細いから重機を入れる事が出来ないんですよね? だから、力持ちの私が来ました!」

「本当に貴女の力には助かっているわ。それじゃあ……奥のあの建物と、手前の……」

 現場を仕切っている彼女の指示を聞いてから、私は片付けに取りかかる。

 

「よいしょ……」

 道を塞いでいた建物の破片を取り去る。壊れた家具を広場へ持って行く。

 サーヴァントの力を得たことで、こんな作業も楽々だ。

 2時間ほどすれば、女性から頼まれた箇所の瓦礫はほとんどなくなっていた。

 

「お疲れ様。ずっと作業し通しだったでしょう? 少し休んで」

「はい、ありがとうございます」

 かつては壁だった塊に腰を下ろす。

 お水と携帯食料を手渡され、私はそれを口へ運んだ。

 

「ん……あれ……」

 丸い広場に人が集まり始めた。そして何かを数人がかりで運んでいく。

 それは灰色の箱だった。

 

「また、遺体が見つかってね……」

 女性が私の疑問に答えをくれた。

 

「邪神リリスの眷属であるあのAIのせいで、たくさん人が死んで……片付けていると見つかるの……」

 語る女性の声は暗い。運ばれていく棺の数は10以上だろうか。

 

「……」

 葬列を黙って見送った。

 今から700年以上前は、人は墓地という場所に埋葬されていたそうだが、この世界では違う。

 遺体は全て砕かれ、液体リソースの原料となるのだ。

 ……地下都市と地上のレジスタンスで共通していることの1つに、この死者の扱いがあげられるかもしれない。

 ただ、地下都市の人間は真実を知らず、レジスタンスの人々はそれを知った上で見送っているの違いはあるが。

 

「不思議ね……死んだ人間がどう扱われるかなんて、小さい頃から知っているのに……」

 私は壁の残骸に腰をかけたまま、話す女性の顔を見上げる。

 

「液体リソースになって、みんなのための燃料になることは、良いことなのに……それを考える度、胸が痛むのよ……」

 目元を悲しみで濡らす彼女に、私はポケットからハンカチを差し出した。

 

 

 

 

「ガトモス、まだ寝てるし……」

 東地区で細々としたお手伝いをしてから帰ってみれば、家の主はソファーの上ですやすやと寝息を立てていた。

 

「んー……」

 でもちょうど良いかもしれない。私、やりたいことがあるのだ。

 

「ごめん、またお出かけするね」

 寝ているガトモスに話しかけてから、夜を迎えようとしている要塞内へ再び行くことにした。

 

 

 夕闇に沈み、人の姿がすっかりなくなった通りを歩いて、いくつもの路地を抜け、建物の側面にへばりついているような階段を登り、たどり着きたい場所の入り口までやって来れた。

 ここは涙型をしている要塞の先端付近、上部メンテナンスのための梯子近く。

 高さあるこの場所から後ろを振り返れば、通ってきた道のりの長さも分かる。

 無音と闇の中に、黄土色の四角い建物達が沈んでいるのが見えた。

 

「こんばんはです、モモ。どうしてここへ?」

 聞き覚えのある声に私は振り返った。

 

「ノインちゃん、こんばんは」

 いつか映画で見た遠浅(とおあさ)の海を思わせる青い瞳、肩のあたりまで伸ばされた癖のないさらさらの金の髪を持つ、8歳くらいの少女。

 今から会いに行く()()の側に、今日もやっぱりいるようだ。

 

「上にいる人とちょっとお話したいんだ。

 その梯子、登ってもいい?」

「だめです、今晩は、貸切です。

 彼女の、貴重な、黄昏タイムです」

「そこを何とか……」

 私は頭を下げ、色の違う両手をこすり合わせて彼女に頼み込む。

 

「……モモの評判を、ノインは、聞いてます。

 少しずつ、あなたを信頼する、人が増えてきている」

 いつも通りの独特の間で、少女はぽつぽつとしゃべり始めた。

 

「……ノインも、あなたを、信頼しています。

 だから今夜だけは特別。どうぞ、足元に気をつけて」

 頭を上げると、ノインが金の髪とぶかぶかの作業服を揺らしながら、横へカニ歩きで移動するのが見えた。

 

「わがまま言っちゃってごめんね」

「ノインは、心広いので、許してあげます」

 彼女はつんとすました様子で言う。

 それを横目にしながら、私は梯子に手をかけた。

 

 

 第76話 一方その頃モモタちゃんは

 終わり

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