フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

77 / 121
前回までのあらすじ
 モモが『アカツキ』の元で目を覚ましてから2週間が経過していた。
 彼女はその間に、レジスタンスのリーダーであるミライから、
『上級都市ピオーネをレジスタンス3団体が攻めたこと』
『その最中にモモを保護したこと』
『「リリスの蛇」という衛星軌道上にある兵器によって、都市は蒸発したこと』
『中にいた人間の殆どが死んだこと』
 との話を聞かされていた。

 仲間の安否も分からず、多くの物を失ったモモであったが、現状にめげることはない。
 「自分に出来ることを……」と考え、AIの被害残る要塞内の後片付けに奔走するのであった。

 働き続け、夜を迎えたモモは、ある人物を訪ねるため要塞の先端に向かった。
 そんな彼女の前に、少女ノインが現れる。
 要塞内の人をモモが助けていることを知っていたノインは「あなたを、信頼しています」言い、道を譲る。
 モモは少女に礼を言った後、その先にある梯子を登り始めるのであった。


第77話 アルカディアは何処(いずこ)

 長い、とにかく長い梯子を慎重に登っていく。

 

(下を見るのはやめておこう……)

 サーヴァントの力を得たこの体でも、高所はやっぱり怖いのだ。

 

「んしょ……」

 無心で登った先にある入り口の扉を手で押し上げ、体を出す。

 冷たく乾いた風がフードをはためかせるので、私はそれを外した。

 灰色に染まった髪が視界の端で揺れる。

 

「ふー……」

 確かな足場にたどり着いた安堵で、息を吐く。

 要塞はその動きを止めており、目の前に広がるのは頑強そうで長大な上蓋である。

 

(えーっと確か、昼間は横へ甲虫の羽のように展開しているソーラーパネルを、夜は要塞へ被さるように畳んで、更に上へ蓋が乗るから……)

 蓋の形はやや湾曲している、らしいけど。

 見えた形は司令室で見た立体映像どおりで、ちょっぴり感動した。

 

「……下にいたノインはどうしたの?」

「貴女に会いたい気持ちを言ったら、退いてくれたよ」

 梯子を登った先の通路に膝を立てて座り込んでいたのは、この移動要塞都市の責任者であるミライちゃん。

 彼女は座ったまま、茶色の瞳で私をじっと見ている。

 

「……ここ、あたしとノインだけの秘密の場所だったのにな」

「ごめんね。

 ガトモスから『ミライちゃんはよくここに来る』って前聞いていて、お話ししたくて来ちゃったの」

「そう……」

 自分の倍以上の年齢の大人を従え、どっしりと構えていた少女と同一人物とは思えないくらい、月の光に照らされた彼女の姿は儚げだった。

 私達の頭上には、遮るもののない星空が広がっていた。

 

「話ってなに?」

「いきなり本題から入っても大丈夫?」

「いいよ。時間を無駄にしたくない」

 14歳である彼女の口調は大人びていた。

 なので、17歳である私も、大人っぽく言いたいことを口に出す。

 

「ミライちゃん、私に嘘ついたでしょ」

「……どんな嘘だっけ」

「私がメルティハウリン・キルロードを倒したおかげで、死者が出る前に戦いは終わったって言葉。

 あれ、嘘だよね」

 彼女は膝の間に顔をうずめた。

 

「うん。嘘」

 そして認めた。

 

「……理由、聞かないの」

「聞いても良いの?」

 私は少女に問う。

『誰も死ななかった』なんて嘘を、どうして彼女が言ったのかについては、理由が分からないから聞きたい気持ちがあるけど……。

 

「じゃあ先に言う。

 ……そう言った方が、あなたが喜んで、そしてレジスタンスに協力してくれるんじゃないかって思ったから。

 説明終わり」

 わざとらしいほど冷たい口調だった。

 

「……そんなに、私の力が欲しいの?」

 恐る恐る伺えば、顔を隠しているミライの息をのむ音が聞こえた。

 

「──欲しいよ! リリスを倒す可能性のある力なら、何だって欲しい!」

 彼女は顔を誰にも見られぬようにしながら、感情を吐き出していく。

 

「生まれてからずっと、こんな苦しい世界で暮らしていて、空の上にも地上にも地下にも、自由なんて無い! 希望なんて無いんだって言われ続けて……! 

 こんな世界、嫌だった、あたしをリーダーに据えた大人達も大嫌いだった! 

 だから……だから世界を救おうって思ったの。そのためにリリスを倒そうって……。

 ……大嫌いな世界でも、救ったら少しは好きになれると思ったから」

 ミライの嘆きは続く。

 

「そのためには何でも利用した。

 他のレジスタンス組織だって、ノインのことだってそう! 

 ……でも足りない、力が足りない。

 あたしの力だけじゃ、世界を変えられないよ……」

「だから、サーヴァントの力を持ってる私に、協力してもらいたかったの?」

「うん。

 ……だってサーヴァントは強いし、みんなの希望になるもの」

 彼女の丸めた背中は、夜風による冷えとは別の理由で震えていた。

 

「あたし達『アカツキ』にはね、おとぎ話が伝わってるの。

 遠い昔、とても強いサーヴァントが、ご先祖様が生きる希望を失わないようにと、話してくれた物語……」

「サーヴァントが……」

 私は肩の番号札に触れながら、彼女をじっと見下ろす。

 

「世界の果てに最後の海がある。その嵐の先に、楽園へ至る塔がある。

 竜を眠らせ、月を手にし、砕かれしものを持つべき者へ帰した時、世界は救われるでしょう。

 ……そんなお話。大人は『アルカディア伝説』って言ってた」

「アルカディアか。古代ギリシャ語で楽園って意味だね」

「……やっぱり、地下で育った人は知識が豊富だね」

 ミライは顔を上げた。

 

「モモ、ハンカチ持ってない?」

「どうぞ、お嬢様」

 ずっと立ちっぱなしで疲れてしまったので、腰を下ろすついでに彼女へハンカチを貸す。

 

「今日は泣く予定なかったから、ハンカチ持ってなくてさ……」

 涙を拭い、それを胸ポケットにしまうミライ。

 

「洗って返すね」

「うん」

 そんな会話の後、しばらく私達の間に沈黙が満ちた。

 要塞の上に吹く風は強く、私と彼女の灰色と茶色の髪をばさばさと揺らしていく。

 

「……モモはさ、『リリスの蛇』を見たことある? 

 地上から数万km上に、地球をぐるりと覆うように展開してるっていうあの兵器を」

「無いかも……」

「見方を教えてあげる。

 地下都市の人の視界を操作してた、『生体内蔵デバイス』をモモは無くしてるから、ちゃんと見えるはずだよ」

 お尻をスライドさせながらミライが近づいてきて、私の左手をとった。

 

「月、あるでしょ。

 そこのほぼ真横辺りから、半透明なレールみたいなのがうっすら見えない?」

「うーん……」

 ミライによって伸ばされた左手を頼りに、サーヴァントパワー視力で目を凝らすが、あるような無いようなといった感じだ。

 

「どこかに攻撃するときにね、『蛇』の胴体がはっきり見えるよ。この間もそうだった」

 彼女からレジスタンスの常識について教えてもらうのは、ありがたいことだ。

 

「レールの下を何個も丸い兵器が滑っていって、滅ぼす場所へ標準を合わせるんだ……。

 見つかったら最後、とにかく地上を惨めったらしく逃げるしかない。

 だから今を生きる人達は空が嫌いだし、『蛇』を使うリリスのことを『女蛇使い』って呼んでる」

 私は隣にいる彼女を見る。

 

「でもミライちゃんは、要塞の天辺で空を見るのが好きなんだね」

 私の言葉に、少女は表情を歪ませた。

 

「だって、あたしはリリスを殺し、いつか空を取り戻す人間だもの。

 空が怖いとか言ってられないよ。それにこの要塞『カルナ』は……」

 何かを言おうとした瞬間、彼女は慌てて唇をつぐんだ。

 

「……もう帰るね。お休み、モモ」

「お休みなさい。帰り、気をつけてね」

 手を軽く振り合って別れた。

 

「……ミライちゃん、背負いすぎてるよなぁ」

「はい、ノインも、そう思います」

 彼女の姿が梯子のはるか下に行ってから呟いた独り言に、返してくる奴がいた。

 

「……どこに隠れてたの」

「逃げも隠れもしていません。ノインは、初めからここにいました」

 知り合い同士の会話にしては物々しい単語を選びつつ、少女は私の真横に立っていた。

 

「ミライは」

 そして私を薄い青の瞳で見下ろしながら、はっきりとした口調で話し出す。

 

「どんな手を、使ってでも、世界を救いたいのです。

 他者を殺し、同種族の肉をすすらなければ生きていけない、この世界に怒っているのです。

 だから、あなたに興味がある、利用したい」

 私は瞬きをしてから、ノインに言葉を返す。

 

「利用されてもいいよ

 その分、私がんばるだけだし」

 今度はノインが驚きで瞬きする番だった。

 

「あなた、怒らないのですか、道具扱いされても」

「私はそう感じてないからOK!」

「……よく、分からない、人ですね」

 少女は深々とため息をつく。

 

「ノインは、ミライのこと、大事です。

 見ていると、愛しさが、湧いてきます」

「そっか」

「でも、ノイン、力不足です。

 彼女の心に、寄り添えきれていない。だから……」

 冷たい風に吹かれながら、小さな唇が動く。

 

「今日は、ありがとうです。モモタ・トバルカイン。

 その……ミライの心に、触れて、癒してくれて」

「私、何にもしてないよ」

「はー……、これが旧世界風に言うと、天然たらしってやつですか。

 無、自、覚」

「たらしてないよ?!」

 少女は楽しそうに言い終えると、完璧なバランスで出来た顔に、くしゃくしゃの笑みを浮かべる。

 

「ノインも、帰るです、お休みなさい」

「気をつけて帰ってね。お休みなさい」

 彼女とも別れの挨拶をし、梯子を降りていくのを見送ると、私は要塞の天辺に一人きりになった。

 息を吐きながら立ち上がって、地平線を見る。

 冷え切った荒野は、月の光に照らされて身震いするほど美しい。

 

「みんな、生きていると良いな、怪我してないと良いな……」

 ミライとノイン、互いに思いやる2人の姿を見て、どうしても友達のことを思い出してしまった。

 

「もう一度会えるのなら、早く会いたい」

 離れ離れの2週間。

 会えない時間が長引くほど、不安に押しつぶされそうになるけれど、そんな私を思い出達が支えてくれる。

 

「そして……みんなと一緒に、温かいご飯食べたいな」

 旅の中、本当に色んな人と食事をしたけど、振り帰ってみればどれも楽しかった。

 

「一人でもがんばれるけど、みんなとだったら、もっとがんばれるし……」

『0004』と刻印された腕章に指で触れながら、青く照らされた冷たい荒野と、空で瞬く星々を眺めていた。

 ──同じ星空を見上げていたサーヴァントは、もう世界のどこにもいない。

 

 

 第77話 アルカディアは何処(いずこ)

 終わり

 

 

 第17章 再会するを星に見て

 終わり




 登場キャラクター紹介

 
 ミライ・アカツキ


 身長/体重:155cm・(秘密)kg
 出身: 移動要塞『カルナ』年齢:14歳
 属性:秩序/中庸 性別:女
 好きなもの:ノイン、星を見ること、知らないものに出会うこと
 嫌いなもの:自分、女神リリス

 14歳でありながら、レジスタンス組織『アカツキ』のリーダー。
 短く切った茶色の髪、茶色の瞳。よく焼けた肌と引き締まった体をもつ、健康的な印象を受ける少女。

 大人達のいわれるがままにリーダーとなったが、彼女をそうした者達は、事故や作戦で早くに亡くなったので、お飾りという訳ではない。
 リリスを倒すべく、未知のテクノロジーや相手とも組み、革新的な考えの元にレジスタンスを率いている。
 ……が、まだまだ子どもなので、自分の感情に振り回されることもあるようだ。

 要塞の上に登り、星を見るのが数少ない趣味。


 単語説明


 女蛇使い
 詳細不明。
 ↓
 地上に住む人々が、女神リリスを言い表すときに使う呼び名の1つ。
 『邪神リリス』と呼ぶことも。

 リリスは衛星軌道上に兵器を浮かべ、空も地下も監視下に置き、サーヴァントという死者を操り人々を蹂躙した。
 その様子を見た400年前のある人物が、彼女を『女蛇使い』と呼ぶようになり、由来は忘れられたが現在までこの言葉は使われている。

 黄道に浮かぶ『蛇使い座』は、『アスクレピオス』が天に召し上げられた姿だと言い伝えられていた。
 彼のように、女神リリスもいつか神の雷霆に撃たれるのだろうか。


 アルカディア伝説
 レジスタンス組織『アカツキ』が今日(こんにち)まで伝えているおとぎ話。
 『アカツキ』所属の人間が話したのか、他のレジスタンス組織にも、細部は違えどこの物語は伝わっている。

 内容は
『世界の果てに最後の海がある。その嵐の先に、楽園へ至る塔がある。
 竜を眠らせ、月を手にし、砕かれしものを持つべき者へ帰した時、世界は救われるでしょう』
 というもの。
 文中の単語が何を示すのかについては、諸説わかれている。

 『世界の果て』とはどこか。
 『最後の海』とは。
 『楽園へ至る塔』で行ける楽園とは。
 眠らせるべき『竜』とは。
 『月』、『砕かれしもの』、『持つべきもの』、救われる『世界』とは?

 人々は答えなど分からないまま、議論と日々を重ねている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。