フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

80 / 121
 前回までのあらすじ
 要塞都市内部のマーケットで、アスカは様々な物を知る。
 食事、人々の生活や話題、地下都市とは全く違う社会体制を。
 レッドに案内され、アスカが連れて行かれたのは数件の質屋。男は彼女の持っていた宝石を探していた。
 「なんで、ですか」と言うアスカに対し、「大切な物なら、取り戻したいだろ?」と返すレッド。
 彼の理由が分からない優しさに、彼女は困惑するばかりだった。

 マーケット内部で、アスカはキャスターメディアの姿を目にする。
 『紫姫』と呼ばれ慕われている彼女は、唇を動かしアスカへ何事かを訴えかけてきたが、その意味を十分に考える時間はなく、次の質屋へ連れて行かれた。

 アスカは友を失った悲しみに苛まれながら、翌日を迎える。
 レッドに言われ、集合住宅屋上に登った彼女の前にあったのはビーチチェア。
 寝そべれば、暗闇に沈んだ要塞へ無数の光が注がれる景色が頭上に広がった。
 太陽光を浴びながらしばし昼寝をするアスカは、黒い機械で出来た四つ足の獣の夢が荒野を行く見るが、それは少女の声によって中断させられる。

 白昼に包まれたマーケットで、アスカはとうとう声の主と出会う。
 枯れ噴水に座る少女は、サーヴァントであるキャスターメディア。
 彼女はアスカの持ち物を取り出しては、持ち主へ返していく。
 アスカはメディアへ不思議な感情を抱きつつも、彼女に「わたしの家でお話ししましょう」と誘われれば、付いていくしかないのであった。


第80話 空仰ぐ自由と解析と遠い日の言葉と

 

 

 宝石類や小型ブラックボックスは、胸ポケットやズボンのポケットにしまい、白昼の中、メディア……さんと、わたしは並んで歩いていきます。

 刺すような日差し降り注ぐ大通りには、やはり誰一人いません。

 

「みなさん、どこへ行ったのでしょう。日光浴でもしているのでしょうか」

 思わず口から出た疑問に、メディアさんが答えてくれました。

 

「家に閉じこもっているのですよ」

「えっ?」

 予想外の言葉に、足が止まります。そんなわたしを彼女は振り返って見つめ、同じく立ち止まってくれました。

 

「今の人々にとって、快晴の空は『蛇』の攻撃が落ちてくる可能性をもった、恐ろしいものでしかありません」

「では何のために、天井が開いたのですか?」

「要塞内を日光消毒するためです。

 ……古くは、人々の健康維持のためだったのでしょうが」

 少女の形をしたサーヴァントは、微笑を崩さないまま言葉を続けました。

 

「リリスは人々から、空を仰ぎ、日の光に微笑むという幸福すら奪ったのです」

「……」

 言葉が出ない。

 わたしは外の世界を、「不安もあるけれど、様々な人との出会いに満ちた、優しいもの」だと信じていました。

 でも、多くの人にとっては違う。常に死の恐怖がやって来る、冷たい世界……。

 

「……けれどレッドは、日光浴を」

 1つ疑問が解消すれば、直ぐに次の疑問がわたしの内からやって来ます。

『空を恐れる』ことが常であるこの世界において、なぜ彼だけは日の光に微笑み、喜んでいたのだろう。

 

「レッドは、日の光を浴びることの重要性を知っていますし……それ以上に、とっても変わり者ですから」

 サーヴァントがくすりと笑います。それは、初めて出会った時の虚無を感じさせる笑みではなく、幼い子どもへ見せるような慈愛に満ちたものでした。

 

「お話はここまでにして、歩きだしましょうアスカさん。

 私の家へは、もう少しで着きますから……」

「は、はいっ」

 乾いた地面を踏みながら、先に行ったメディアさんを小走りで追いかけました。

 

 

「メディアさんの家……なのですか? ここが」

 目の前に、土のような質感の素材で作られた、低い四角の建物がありました。

 

「正確に言えば、レジスタンス幹部が集団で住んでいる家なのです。

 サーヴァントである私は、この空間の一角を与えられているにすぎません」

 メディアさんは扉の無いただの四角い穴である玄関から中に入り、わたしを手招きしました。

 彼女に続いて中へ。

 

「おじゃま……します」

 建物の天井は、幾つかの電球が吊り下げられた殺風景なもの。玄関直ぐの部屋には、机や椅子がぐちゃぐちゃと並べられていました。

 

「こっちですよ」

 彼女の声を頼りに、初めて入る建物を進んでいきます。

 扉のない部屋がいくつものあって、それら全てを通り過ぎて、突き当たりの部屋に招かれました。

 

「椅子を持ってきますね。よいしょ……よいしょ……」

 入った部屋はひときわ天井が高く、明かり取りのための天窓からは、柔らかい太陽光が差し込んでいました。

 空中に漂う埃がきらりと輝き、静かな部屋に神秘的な雰囲気を与えています。

 

「アスカさん。どうぞお座りになってくださいな」

「はっ、はい」

 わたしはパイプ椅子に座ります。そして……横にある『それ』を見上げるのでした。

 

「この巨大な機械は……?」

 様々な材質で作られた、長大な箱型の『それ』は、大きなモニターやボタン、キーボードなどがついており、古めかしく、物々しい。

 

「レジスタンス手製の解析機械だそうです。これで、鹵獲したロボットやAIのブラックボックスからデータを吸い出し、解析するのだとか」

 メディアさんはそう言うと、椅子から離れ奥の部屋へ。

 

「お茶をお入れしますね! どんなフレーバーが……」

 彼女の言葉がうまく耳に入ってきません。何故なら、『解析機械』という単語に、わたしが引っかかってしまったから。

 

「でしたらメディアさん! わたしの持っているブラックボックスも、これで解析すれば……!」

 奥の部屋から、小さなヤカンとプラスチック製のカップ2つをトレイに乗せた、彼女が帰ってきます。

 

「……ああ! その発想はありませんでした!」

 明るい声と笑顔でそう応える彼女に、わたしは顔に手を当て、その……好意的にいえば呑気さを、心配するしかありませんでした。

 

 

「ここを開けて、ブラックボックスをセット。……小さいので、空間が余りますね」

 メディアさんはこの機械を「使ったことありません!」と元気良く教えてくれました。

 

「ですが! 心配しないでくださいね。

 レジスタンスの皆様が使っている様子を、後ろからじーっと見ていましたもの。

 こんな感じにセットして、これを……」

 手袋をつけたままの指で、大きな大きなボタンを押します。

 

「……動きませんね、メディアさん」

「……あれ? 機械さん、どうしてですか?」

 メディアは小さな拳でコンコンと機械を叩きまました。すると。

 

「……燃料不足!」

 そこはやはりサーヴァントというべきか、原因をすぐさま解明した彼女は、お茶セットを持ってきた奥の部屋に早足で向かい、何かを持ってきます。

 

「それは……ひょっとして」

 彼女の手の内にある液体入りの小瓶を見て、わたしは青ざめてしまいます。

 

「はい。『液体リソース』ですよ」

 メディアの言葉の後、全身がひゅっと冷える感覚がしました。

 

「アスカさんは、これがどのように作られているのか、既にご存知のようですね」

「ええ……はい……」

 上級都市『ピオーネ』で、知った残酷な真実。

 ……燃料を得るために、人間の遺体やサーヴァントを切り刻んでは、それを加工しているということ。

 

「……私が持っているこれは、討伐した機械化サーヴァントから採取したもの。誰かの死をもって作られた物ではないですよ」

 メディアさんはわたしに優しい言葉をかけてから、背を向けると、機械横の燃料タンクに液体を注いでいきます。

 とくとく、とくとくと音を立てて流れていく、青く発光する美しい燃料。

 

「……けれど、真実を知るアスカさんから見れば、同じことかもしれませんね」

 寂しげな声でそう言う彼女の心情は、わたしには想像も出来ませんでした。

 ビンの中の最後の一滴(ひとしずく)まで余さず注げば、巨大な箱型機械は動き始めます。

 うっすら埃かぶっていたモニターが明るくなり、『データ開封、及び解析完了まで、後30分』との文章が表示されました。

 

「少し……空きの時間が出来てしまいましたね」

 プラスチックのコップ2つに、メディアさんはお茶を入れます。

 爽やかな香り纏う蒸気が、乾いた部屋の空気を湿らせます。

 

「お茶をどうぞ」

 わたしは無言でカップを手に取り、熱い液体を口に含みます。

 その味わいはどこか、懐かしい記憶を思い出させました。

 

(モニカさん……)

 もう何ヶ月前の出会いになるのか。

 都市28で出会った、アーチャー255と共に暮らしていた穏やかな女性。

 彼女とお茶をした時のことを、思い出してしまったのです。

 

(『5人で、またお茶をしましょうね』)

 脳裏で蘇ったその優しい声の約束は、果たせそうに無く。

 目尻からこぼれた涙が、カップの中に落ちていきました。

 

「お菓子はどうですか? レーションを錬成して、クッキー風にしたんです」

 勧められるまま、薄い焼き菓子を口へ運びます。

 それを飲み込めば、涙と一緒に、言葉が自然とあふれ出していました。

 

「わたし……家族も、友達もいたんです」

 少女の形をしたサーヴァントは何を言うこともなく、わたしの膝に手を乗せました。

 

「でも、みんな、みんな死んでしまった! 

 わたしがもっと……がんばっていれば、きっとどうにかなったはずなのに……!」

 悔しさと共に口から出てきたのは、やはり甘い願望で。

 

「旅の中で、わたしは守られてばかりだった……! 

 サーヴァントとモモの後ろに隠れて、怯えて……何も、してこなかったから、誰かの危機にも、何も出来なかったんだ……。

 わたし、わたしは……!」

 顔を下に向け、涙は、重力に従って落ちていくのに任せます。

 情けないのに悲しくて、後戻りは出来ないはずなのに、過去に戻りたくて。

 心の中は……ぐちゃぐちゃで……。

 

「アスカさん」

 メディアさんの手が伸びてきて、わたしの顔の縁に振れると、そっと上向きにさせます。

 

「アスカさん」

 眉を下げ、瞳を潤ませた、悲しげな彼女の顔が見えました。

 彼女は左手をわたしの胸に当てると、そこにある胸ポケットの内側から、エメラルド製の護符を取り出しました。

 それがわたしの膝上に置かれます。

 

「この護符と、あなたを見たとき……私、夢から覚めたような心地になったのです」

「夢から……覚めた?」

「今ここにいる理由が、ずっと分からなかった私。

 そんな私が、やるべきことが見えてきた……と言った方が正しいでしょうか」

 白い布が、わたしの涙をぬぐい取ってくれました。

 

「あなたは、私に希望を思い出させてくれた人なのですよ」

「……希望を?」

 わたしの言葉を聞き、彼女はにこりと微笑みます。

 

「あなたは、あなたであるというだけで、誰かの希望になっている。

 命とはそういうものなのです。力の優劣など無く、全て輝かしい星……」

 天窓を見上げたメディアさんに習い、わたしも上を見てみました。

 埃や、突き出した金属部品。それらが太陽の光を反射して煌めいて……少しだけ、星のように見えたのでした。

 

「……私の話をしてもいいでしょうか、アスカさん」

「どうぞ、キャスターメディア」

 モニターを持つ機械は振動を続けており、『解析完了まで、後10分』と表示を変えました。

 

「今より10年前。私はこの世界で、箱の中から目を覚ましました。

 ……そう、()()()()()()()()()()()()()

「それは……おかしな話では? だってサーヴァントは……」

 水分不足からなる頭痛を覚え始めたわたしは、急いで紅茶を飲みました。

 その後、言葉を続けます。

 

「サーヴァントは何処(いずこ)から召喚される者のはず。わたしが読んだアーカイブでは、そう書かれていました」

「かつてはそうであったかもしれませんね」

「かつて、ですか」

「けれど私は、箱の中より見いだされ、液体リソースを注がれ、永き眠りより覚醒を果たしたのです。

 ……その事について、私は目覚めてよりこんこんと考えていました」

 両者共に、椅子へ深く座り直します。

 

「レジスタンスの方々は、時折サーヴァントを発見しました。

 それは、マスターも持たぬ『野良』であったり、棺のような箱に収められた──」

 機械の振動が一時だけ強くなり、わたしは反射的に体を竦めてしまいました。

 

「『冷凍品』であったり、です」

「れい、とう」

 サーヴァントという力強い存在とはかけ離れたその単語を、思わず繰り返してしまいました。

 

「私はこの10年、幾つもの推測を立て、世界に対する考察を深めてきました。

 世界にとっての傍観者である私から見れば、この世界はおかしなことばかりなのです」

 わたしは紅茶を再び飲みます。

 嵐みたいな悲しい気持ちや、開いた穴のような虚無感は収まって、沸き立つような「なぜ?」という気持ちが、全身を満たしていました。

 

「召喚されるのではなく、箱より見いだされるサーヴァント達。

 彼ら彼女らは、マスターと契約せずとも、存在を長く保ち続けます。

 いかに液体リソースが魔力源として優れていようとも、おかしなことですね?」

「そうなのですか?」

「サーヴァントが世界に留まり続けるには、楔が必要なのです。

 その楔がマスター。人であろうと、物であろうと……」

 初めて知ることの多さに、わたしはまばたきを繰り返します。

 

「──けれど、それ以上考えを深めることが、私には出来ませんでした。

 私の目の前には、傷つき倒れた人が多くいて、世界に対する考察は、命よりは優先できませんでしたから……」

「メディアさん……」

 優しい彼女は、謎の解明よりも、人を救うことを優先した、いや、せざるを得なかったのだ。

 

「限界を感じていたのです。自分の力にも、知識にも。

 ……けれど、アスカさんが現れました!」

 曇っていた彼女の表情が晴れる。

 

「アスカさんは地下都市よりやってきたお方であり、サーヴァントのマスターでもありました。それに」

 指さしたのは、エメラルドの護符。

 

「調べてみて、すぐに分かりました。

 私の姉弟子、キルケーの手による物に違いないと」

「確かに……キルケーさんから贈られた物ですが……」

「もし、彼女から力を借りることが出来たなら……」

 彼女の瞳がきらきらと輝きを増していきます。そして立ち上がると、わたしの両手を手にまとめて取って、ぎゅっと握りしめるのです。

 

「世界の謎を明らかにし、『リリスの蛇』の脆弱性を暴き、『心無き竜』すら打倒して、女神を失楽させることだって出来るかもしれません!」

 明るい声とは裏腹に、飛び出た言葉達は物騒な響きを持っていました。

 『リリスの蛇』……これはリリスが有する兵器のことでしょうが、『心無き竜』とはなんのことでしょう?

 

『データ開封、及び、解析完了』

 機械は振動を小さくすると、男性のものを思わせる人工音声で、作業が終わったことを教えてくれました。

 

 

「画面上にたくさんデータが並んでいますね、アスカさん」

「日付を新しい順に、並べ替えて……このコマンドでしょうか、ああ、うまくいきました」

 ブラックボックスの解析が終われば、次は中身を調べる時間です。

 メディアが持ってきてくれた、分厚い取扱い説明書(恐らく、レジスタンスの方が作った物でしょう)とにらめっこしながら、データの入ったファイルを並べ、種類分けしていきます。

 地下都市で使っていた端末とかけ離れた、とても古い様式なので、簡単な操作にも四苦八苦です。

 

「メディアさん、ひょっとしたら、世界の謎についても、手がかりとなるものが記されているかも」

 わたしは声をかけます。彼女は瞳を動かし、画面を右から左へと眺めていました。

 

「……一番上にあるデータは、映像なのでしょうか」

 わたしは旧式のマウスを操作して、メディアさんが気になったそのデータにカーソルを当てます。

 

「映像だったようですが、破損して、音声のみが復元されている状態ですね。

 作成された日付は……西暦2313年」

 今から400年も前の音声データです。

 これもきっと、ツヴァイ・エーテルウェルが見つけたものなのでしょう。

 

「再生、してみますか?」

「お願いします、アスカさん」

 このデータの何が彼女の心を惹いたのかは分かりませんが、わたしはクリックをして、機械に再生を命じます。

 

『……テスト、マイクテスト』

 まず聞こえたのは、やや高めの男性の声。

 

『ちゃんと撮影できてるか? 

 最後まで話して! 「出来ていませんでした! 画面は真っ暗、暗闇です!」が、一番腹が立つんだぞ』

 動画データが破損していなければ、その声の主がはっきり分かったのでしょうが、それを惜しんでいる時間は与えられませんでした。

 

『──大丈夫ですよ』

 次に聞こえた気高さを感じるその声に、わたしは覚えがあり、心を乱されてしまったから。

 

『機材の点検は、このブリュンヒルデが妹達と共に行いましたから』

 かつて出会ったアンドロイドとよく似た声が、機械のスピーカーから流れます。

 

『そうかー? ……であれば万全か、よし!』

 女性の言葉を聞いて安心したのか、男性は朗々と話し始めます。

 

『西暦2313年、レジスタンス所属のサーヴァントが、これを記録する。

 時刻は深夜。我らは明日、空中要塞との決戦を迎える』

 わたしは様々なデータが並んでいるモニターから、後ろを振り向き、メディアさんの様子をうかがいました。

 

「そんな、まさか……」

 澄んだ目を見開いて、体を細かく震わせています。

 

『士気を高めるため、宴でも開きたかったのだが……連日の作戦で流れる血が多すぎた、そんな気分の者はいないだろう。

 ……賢者ケイローンが、敵に鹵獲されるという事件も起こったしな』

 メディアさんは自分の体をさすりながら、ある人名を呟きます。

 

「イアソン……様……?」

 明らかに、知っている人を呼ぶ響きでした。

 

 

 

 

『さて、決戦を前に、リリスが契約しているサーヴァントを確認しよう。

 レジスタンスの人間達は何て呼んでいたかな……「リリスの7の滅びの使徒」、だっけか? ずいぶん大仰な呼び名を付けたもんだなぁ!』

 メディアさんの様子も心配でしたが、今はそれよりも彼の言葉に集中することにしました。

 

『こちら側に協力してくれているエジソンの情報が正しければ、総数は8体……』

 リリスの7の滅びの使徒なる単語は、前に聞いたことがあります。

 アンドロイドが廃棄されていた地下研究施設で見つけたデータ、その中にあったものです。

 

『アーチャー、ギルガメッシュを皮切りに。

 セイバー、シグルド。

 ランサー、カルナ。

 ライダー、エウロペ

 俺達の味方になってくれた、キャスター、エジソン。

 アサシン、セミラミス。

 バーサーカー……ヘラクレス。

 そして、7つのクラスの外、エクストラクラス、7体目の8体目である……』

 その後に何か名前が呟かれましたが、音声が壊れたのか濁っており、判別は出来ませんでした。

 

『最後のやつは例外として……どいつもこいつもトップクラスのサーヴァントだ! 

 それ即ち魔力食いお化けってことだぞ?! カタログスペックしか見ずに召喚したのかぁ?!』

 わたしですら知っている英雄の名前が、彼の口から語られました。声には驚愕と呆れが混ざっています。

 

『イアソン、どうか冷静に。これ未来へ託す記録なのですから』

 そんな彼を諫める声は、あのブリュンヒルデなる女性のものでした。

 

『……幾つかの救いを言えば、ギルガメッシュが封印されていることと、絶大な防御力を誇るカルナの鎧が、既に半分失われているという所か』

 女性の声で平静を取り戻したのか、彼は落ち着きました。

 

『しかし、マスターであるリリスも強力無比だと、エジソンから聞いた。

 彼女はこの世界の管理者として作られた、母なる人造女神。

「成長すれば、手がつけられない存在になるだろう」と。

 つまり私達は、幼い女神を手に掛けることになる……な……』

 数秒の荒い呼吸の後、言葉が再開します。

 

『……。

 俺が呼ばれた理由は恐らく、ヘラクレスを倒すためだと推測できる。

 ブリュンヒルデは……きっと、シグルドを討つために。

 その他大勢のサーヴァントも、理由があって召喚されたんだろう。

 人を守るためとか、何もかも失われてしまった世界を救うため……とかな』

 ぱんと、乾いた音が合間に響きました。

 語る彼が、自分を鼓舞するためにどこかを叩いたのでしょうか? 

 

『リリスを倒したら、次は聖杯探索だ。

 世界を異常な状態に変えてしまっている聖杯を見つけて、壊すなり正常化するなりしなきゃならん。

 こういう時、あいつが……メディアがいれば……って、何言っているんだ俺! 

 噂すれば影がさすじゃねーか!』

 慌てるような足踏みの音。

 

「──くすっ」

 聞こえた笑い声の主は、メディアさんでした。

 

『レジスタンス側の人間の装備も、サーヴァントである我々の準備は既に整っている。俺達にリリスの弱点を流してくれた、研究者の保護も済んだ。

 誰が消えても作戦が遂行できるように、作戦データは分割で保管した。

 ……映像で記録することは、これで全てか』

 名残推しそうに彼は言葉をこぼしました。

 

『それでは諸君! 作戦成功の暁には、こんな辛気臭いデータなんて笑い飛ばして蹴飛ばして! 酒を酌み交わそうじゃないか! 

 ……おっと、映像切る前に、日付を言っておかないとな。

 西暦2313年、偉大なるアルゴー船の長、最優なるセイバークラスである、イアソンがこれを記す……と』

 音は途絶えました。

 

「……ふぅ」

 わたしはほっと息を吐きます。肩へ力が異様に入ってしまうほど、重要な情報が次から次へと現れたからです。

 

「イアソン様が……400年前のこの世界に、居ただなんて……」

 椅子に座ったまま、そう呟く彼女の表情は複雑なものでした。

 嬉しそうでもあり……寂しそうでもあり……。

 

『うーん、まだ録画容量が残っているのか』

 ──しかし、終わったはずの物語には続きがありました。

 

『どうだブリュンヒルデ、何か言いたいこととか……』

『そのように迫られたら……困ります、私……』

『ちょいちょいちょーい! なんで槍が燃え始めてるんだぁ!』

 スイッチでも切り忘れたのか、遺すつもりの無かった声が入ってしまっていたのです。

 仲間にかけるような、明るくて気負わない声が暗い部屋へ響きました。

 

『誰でもいいから容量埋めに協力しろ! えーっと、ちょうど良いやつ……良いやつ……って!』

 彼が遠くへ声を飛ばすためか、大きく声を張り上げました。

 

『おーい()()()()()! そんなとこにいたのか、体は大丈夫なのかー! 

 まぁいいか、ちょっと降りてこーい!』

 聞こえたその名前に、わたしの心臓は止まりそうになって。

 ……400年前のアルジュナの声が、ノイズ混じりにスピーカーから流れ出しました。

 

 

 第80話 空仰ぐ自由と解析と遠い日の言葉と

 終わり




 単語説明


 リリスの7の滅びの使徒
 女神リリスが召喚したサーヴァント達。
 彼女の手足が如く動き、レジスタンスやサーヴァント達を殺戮した。

 アーチャー ギルガメッシュ
 セイバー シグルド
 ランサー カルナ
 ライダー エウロペ
 キャスター エジソン
 アサシン セミラミス
 バーサーカー ヘラクレス
 エクストラクラス ???
 で構成されている。

 なお、ギルガメッシュに関しては封印され、カルナに至ってはその強みである『鎧』を半分失ってしまったとの情報を、当時のレジスタンス達は掴んでいた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。