フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 AIはアスカに自らの目的を告げる。
「奪われたものを取り返しに来た」、「正当な復讐を遂げにきた」
「君達レジスタンスは仲間を殺し、リリス様が世界を救うために作った軌道エレベーターを破壊、大勢の人を殺した。
 それは、道徳的に考えれば考えるほど、許されることじゃない」

 アスカは困惑せずにはいられなかった。なぜなら、レジスタンスとAI側の意見が食い違っていたからだ。
 レジスタンス側は『地下都市も起動エレベーターもリリスの兵器が破壊した』と言い、AIの方は『レジスタンスがそうしたのだ』と言っている。
 誰も事態を正確に把握していないのかと、彼女は驚愕する。

 人々を乗せ、外に逃げられる仕組みとなっているはずのシェルターは、うんともすんとも動かない。
 焦るアスカを更に追いつめるように、AIは兵器を起動させた。
 『蠍座の機械化サーヴァント』、それを尊びながらAIは言う。
「人間を道徳的に殺したいんだ」と。
 瓦礫から取り出され、アスカの前に並べられたのは、安らかな笑顔を浮かべ……死んでいる人々。
 機械化サーヴァントの毒が、痛みも苦しみもなく……まさに道徳的に殺したのだ。

 AIは自らの理屈を続けざまに言う。
「せめて最後は安らかに送ってあげないと」
「今僕に殺される以上に、良い未来ってあるのかな?」
 アスカは機械サソリからの攻撃を回避するが、その攻撃が(コフィン)に突き刺さる様を見てしまう。
 サーヴァントという逆転の手札が入っているかもしれない物体を、AIの支持を受けた機械サソリが壊していく。

「レジスタンスの奴らは無駄に生きている」
「地下都市の人々は良い。死ぬべき時に死んでくれるもの」
 そんな身勝手な意見に、それが今の世界の現状だとのたまう姿に、とうとうアスカは怒った。

「これが人間のリアルだって? これが世界の本質だって? 
 だったら──それも含めて救ってやる!」
 吠えるアスカを気が触れたのだと判断したAIは、機械サソリに攻撃を命じる。
 けれど彼女は正面から敵を見据え、そして、少女らしいわがままを言ったのさ。

「わめくしかないわたしに! だれか力を貸して!」
 ──少女の声に、英雄が答えた。
 どこからともなく現れ、攻撃をいなし、アスカを守った英雄の名は『ブラダマンテ』。
 輝く槍と盾を手にした姿を目に焼き付けながら、アスカは再び立ち上がった。
 ──仮初めだとしても、サーヴァントを従えるマスターとして。


第86話 彼女は名は光、またの名を希望

「ブラダマンテ、あの機械サソリの尻尾に気をつけて!

 先端から毒が出ていて……サーヴァントにも通用するかもしれない!」

「情報感謝です、マスター!」

 わたくしに声をかけられたブラダマンテは、その深い青の双眸で敵を見定めてから。

 

「てえい!」

 一息に跳んでいきます。

 煤と黒色の煙に満ちた要塞の中に、彼女の動きを追って、武器より生まれた光の曲線が幾つも走っていく。

 

「迎撃を……」

 ヴォイドメロディが機械サソリへ指示を出す声が聞こえましたが、それらはすべて無駄と終わりました。

 

「──えい、やー!!」

 毒液を滴らせながら振り上げた尾も、強靱そうな外装も含め、ブラダマンテのキックからのかかと落としで砕かれたから。

 攻撃によって敵胴体に尾がめり込み、その勢いは殺されぬまま殺人兵器全体にヒビを入れます。

 

「光よ!」

 猛撃は止まりません。

 続いて、ブラダマンテがヒビへ槍の穂先をねじ込むと、そこよりサソリの胴体に光が流し込まれて。

 活動に必要な足も、ハサミも、あふれ出す光で内側から破壊され……一瞬にして、周りに散らばるガラクタや死体と同じ、物言わぬ残骸となり果てました。

 

「はいっ、撃破です! 迅速に倒すことが出来ました!」

 要塞内部の火事からくる熱い風に吹かれ、金のツインテールを揺らす彼女。

 頬に煤こそ付いていますが、戦闘を行った後とは思えぬ爽やかさです。

 

「……これが、サーヴァントか」

 吐き捨てるようなヴォイドメロディの声。

 わたくしも、AIと同じような感想を抱いていました。

 これがサーヴァントなのです、人知を越えた存在……。

 

「あなたが、この機械化サソリを操っていた主ですね……って、えええ!?」

 ブラダマンテが後方にいたヴォイドに近寄った瞬間、そのアンドロイドの体が力なく倒れました。

 もの言わぬ人形となった相手。

 

(けれど油断は出来ない……)

 かつて出会ったツヴァイ・エーテルウェルのように、体が破壊されたとしても再び現れる可能性を、AI達は持っているのですから。

 

「あれ? 急にこの人ふにゃっとして……じゃなくて、そもそも人ではなかったのですね……」

 困惑している様子のブラダマンテに対し、わたくしは周りの安全を十分に確かめてから、瓦礫をよじ登って近づきました。

 

「強いのですね……ブラダマンテは……」

 声をかけられた彼女は、不安そうな表情をしていました。

 

「……というより、相手が柔らかかったというか、妙な足応えでした。

 まるでわざと私にやられたような……相手の考えが読めなくて不気味です」

 槍を手にしながら、眉間にシワを寄せていた彼女ですが、一転して明るい笑顔を浮かべ、わたくしへ親愛の眼差しを向けてくれました。

 

「マスター! マスター!

 私、貴女の名前をまだ知りません!  このブラダマンテに教えてください!」

「えっと……アスカ・ピオーネです」

「アスカさんとお呼びした方が? それともアスカ様? 殿?」

「呼び捨てで良いです。友達からも、そう呼ばれていましたし……」

「分かりました! ではアスカと!」

 彼女はわたくしの髪へ手を伸ばすと、灰と、それから頬をかさつかせていた煤を払ってくれました。

 

 

 

「アスカ! ここにいるのか?! アスカー!」

 拡声器越しの男性の声。誰かがわたくしを探しています。

 

「アスカ……良かった、無事みたいだな」

 瓦礫と廃棄物の上を黒いロボットで慎重に歩いてきたのは、レッドでした。

 ロボットが腰を下げると、コクピットの前面が鳥のくちばしのように開き、操縦席の彼が姿をのぞかせます。

 

「レッド、ごめんなさい、言いつけを破って……」

 心配と迷惑をかけた彼に誤ります。

 

「いや、大人しく待ってろなんて言ったオレがバカだったよ。

 アスカは誰かが苦しんでいたら助けに行ってしまう、『綺麗』な女の子だもんな。

 そうだ、アスカが助けに来た女達って」

「シェルターに全員を避難させましたが、下部へ降りていく機能が上手く動いてくれなくて」

「そうか。ちょっと修理してやる必要が……」

 会話の最中、レッドはわたくしの後ろに立っているブラダマンテに気が付いたようでした。

 

「そいつは?」

「……サーヴァントです。わたくし達の味方で、あそこで残骸になっている機械サソリも、彼女が倒してくれたもので……」

「サーヴァントか」

 レッドがロボットに乗ったまま、ずしずしと歩き始めたので、慌てて横に移動しました。

 彼は開いたままのコクピットから、ブラダマンテを見下ろしました。

 彼女は5mほどのロボットに気圧されることも無く、真っすぐに声を出します。

 

「状況が逼迫しているようなので、短くご挨拶させていただきます!

 私はランサー。真名をブラダマンテ、シャルルマーニュ十二勇士の一人で──」

「お前、サーヴァントなのに番号を言わないのか?」

「え? 番号? クラスなどではなく、番号……ですか?」

 彼女は口を小さく開けて、きょとんとした表情を浮かべていました。

 レッドは言葉を続けます。

 

「サーヴァントには普通、番号があるだろ。配給される腕章にだって表示されてあるはずだ。

 それとも、質問の意味すら分かんない?」

「腕章……?」

 レッドのその疑問は、サーヴァントを所持する機会のあった、元上流階級ならではのものだったでしょう。

 

「ええっと……ごめんなさい! 腕章も番号のことも初めて知りました!

 当世の常識が、聖杯より上手く得られてないのでしょうか。

 腕章は身に着けていませんが、まるで代りのように……」

 ブラダマンテは、サーコートの内側で隠れていた二の腕をこちらに見せてきました。

 

「このような布が巻いてありました」

 彼女が指差し、風で揺れるそれを、わたくしもレッドも観察します。

 薄暗い要塞内でも分かるほどの、明るい紫色をした、花弁のような雰囲気をまとったリボン。

 

「綺麗な布だな。こんなに上手く染めてあるやつなんて、中々手に入るもんじゃない」

 レッドはそんな感想をこぼした後、コクピットから降りてきました。

 ブラダマンテとわたくしの間を突っ切り、瓦礫の山を下って、女性達が避難しているシェルターに向かいます。

 灰色の箱の上下を眺め、手で触り、隙間に挟まった何かを取り除いたり、ボタンを操作したりすると。

 

「これで良し、だ」

 シェルターは鈍い起動音を立て、ゆっくりと下層へ降りていく。

 

(避難の件に関しては、一安心ですわね……)

 そんなことを思いながら、胸をなでおろしました。

 

「オレが直せる程度の故障で助かったよ。

 さて、アスカ、サーヴァントさん、オレを手伝ってくれないか」

「はい! 喜んでお手伝いさせていただきます!」

 わたくしの分まで返事をしてくれたブラダマンテに、レッドが言います。

 

「レジスタンスのお偉いさんの決定で、この要塞『ハデス』を放棄することになった。

 んで、中にいる人間は全員逃げなきゃいけないことにもなった。

 でも、怪我人と紫姫様の避難がまだ済んでいない。

 オレは今から簡易病院になってる場所へ向かい、避難の手助けに行ってくる。

 ……どうか手伝ってくれ」

 わたくしとブラダマンテは目を合わせてうなずき合い、再びロボットに乗ったレッドの後に付いていきました。

 

 

 

 

 生身では越えられないだろう瓦礫の海も、燃える町も、ブラダマンテに抱きかかえられていたらひとっ飛びです。

 

「ブラダマンテ、さん」

「敬称なく、呼び捨てで構いませんよ!」

「……ブラダマンテ、わたくし、重くないかしら」

「いいえ! 小鳥のように軽いです! マスターアスカ!」

 そんな会話をしながら、わたくしは上空より要塞内部を眺めます。

 破壊された家々、その間に転がっている人の死体、砕けた殺人機械達。

 ……いつか、どこかで見た光景にも思えます。

 

(せめて、生き残っている人だけでも助けないと)

 凄惨な光景を目に焼き付けてから、決意を胸に秘めていたら。

 

「もっと早く目覚めていればと、己を責めそうにもなりますが……せめて、今生きている人だけでも守り抜きたいと私は思ってしまうのです」

 ブラダマンテの悲し気な声が聞こえてきました。

 

「……わたくしも、生きている人だけでも助けたいと思っています」 

 気持ちを同じくしながら、わたくし達はレッドの後を追って向かいました。

 

 

 

 

 昨日訪れたレジスタンスの建物は、野戦病院のような雰囲気に変貌を遂げていました。

 部屋にも廊下にも、薄い布の上に怪我人が転がり、大人も子どももうめき声をあげています。

 水薬や包帯をもって走り回っていたメディアさんが、やって来たわたくしとブラダマンテに気が付いたようで、こちらに走り寄って来てくれました。

 

「メディアさん、お怪我はありませんか?」

「アスカさんもご無事でなによりです」

 目の前に立つ彼女は、落ち着きが無いように辺りを見渡しています。

 その様子には気にかかるものがありましたが、ひとまずは、頼もしい味方の紹介をすませてしまうことにしました。

 

「後ろに立っている彼女は、サーヴァントのブラダマンテです」

「サーヴァント? そんなまさか。

 レジスタンス『トコヤミ』が回収した中で、戦える状態のサーヴァントなんて、私くらいだったはず……」

「でも、ブラダマンテは突然現れ、わたくしを助け、機械のサソリまで倒してくれたのです」

 メディアさんの瞳に、一瞬だけブラダマンテを疑う色が見えましたが、彼女はそんな自身の考えを払うように頭を振りました。

 

「……サーヴァント、ブラダマンテ。クラスは? 番号は?」

「そのう……番号は、分からないのですけど、ランサーのクラスです!」

「であるならば、キャスタークラスである私以上に前線で戦えますね。

 ブラダマンテ、レッドと共に、外部の敵の迎撃をお願いします。

 あの機械サソリは何体もいるらしく、次から次へとここにやって来るのです」

「了解です!」

 ブラダマンテはわたくしに軽い礼をしてから、外へ走っていきました。

 

「アスカさんは、怪我人をシェルターに運ぶ、その手伝いをお願いします」

「はい」

 メディアさんの指示の元、わたくしは動きます。

 軽症者には自ら歩いてもらい、重症の人は担架に乗せ、他の人と協力して運ぶ。

 そんな作業が続く中、火事によって要塞内の熱は上がり続け、汗が滴るほどになりました。

 外から聞こえる戦闘音はけたたましく、立ち昇る火は天井に届かんばかりで、「早く脱出しなくては」の気持ちを強くさせます。

 

 

 1時間ほど経ち、力尽きてしまった人以外のほとんどをシェルターに入れ、軽症者は歩いて逃げるという段階まで進みました。

 

「アスカさん、一緒に外の様子を見てはくれませんか?」

「はい」

 わたくしは血の付いた手をズボンの裾で拭ってから、メディアさんと共に行くため立ち上がります。

 彼女は取り残された人がいないか、廊下と幾つもの部屋を覗き込みながら、なぜか二階へ上がっていくのです。

 

「あの、どこへ……」

「屋上へ。それに、アスカさんに見ていただきたい『もの』もあります」

「わたくしが見るべきもの……?」

 二階から屋上へ向かい、そこから辺りを見渡せば、異臭まとった熱気で、薄暗い世界は陽炎のように揺らめいていました。

 

「『あれ』を、ご覧になってください」

 彼女が指さした先にあったのは、要塞の天井に入ったヒビと、外から差し込む光で鈍く照らされた空間と……ぶら下がる、黒く巨大な『卵状の物体』でした。

 

「数時間前、AIヴォイドメロディの侵略が始まった後より、あの場所に出現しました。

 私や他のレジスタンスの方々が見るに、天井に張り付いた機械サソリのが背負っている物のようですが、それ以上の詳細は不明なのです。

 故に……不気味で、ずっと頭の片隅で気にしてしまい」

「そうだったのですか……」

 わたくしがあの物体を見上げた時、真っ先に覚えた感覚は……怖気(おぞけ)でした。

 

(見てはいけないものがある、この世にあってはならないものが存在している……)

 強い拒否感が頭の中に満ちていく。それほどまでに、理由なんて分からないけど、ただ恐ろしい物が上にありました。

 

「アスカさんは、あれをどう見ますか?」

「敵の新兵器だとか? それか、大きな爆弾ですとか……」

 思いついた単語を並べていきますが、メディアさんはそのどれにもしっくりと来ていないようで、目を伏せながら考え込んでいました。

 わたくしも言えることが無くなり、気まずい沈黙が数分間続いた後、彼女が口を開きます。

 

「あれが作動したら、何もかも終わってしまうような気がして、不安で……」

 その弱気な言葉に何も返せず、わたくしは手を無理やり引いて、天井の卵を気にする彼女を下へと連れ戻しました。

 

 

 第86話 彼女は名は光、またの名を希望

 終わり




 単語説明


 薄紫色のリボン
 ブラダマンテの二の腕に巻かれているリボン。花弁のような雰囲気をまとっている。
 この世界のサーヴァントは、番号が記された腕章を持っているのが普通だが、ブラダマンテはそうではなく、代わりにこのリボンを身につけていた。
 彼女自身、このリボンに覚えはなく、不思議がっている。

 ……誰かが彼女へ贈ったのだ。何のために?
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