フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 50人ほどの軽傷者を、ロボット5体、サーヴァント2騎で守りながら避難する。
 目指すのはロボット発進場。敵の気配に警戒しながら進むアスカ達だが、不気味なほどに何もなく、目的の場所へとたどり着くのであった。

 人々を外へ逃がし、残る老人や子どもにも手を貸すアスカ。
 彼女がある少年に声をかけたその瞬間──首元を掴まれる。
 その少年は、人間に擬態したヴォイドメロディ・キルロードだった。
 AIは言う。

「君達が悪いんだ」
「人間が! 人間であるというだけで! 途方もなく憎い!」
「だから僕は道徳的な考えじゃなくて、()()()()()()()()A()I()()()()的に、考えるしかなくなっちゃったんだよねぇ?!」
 発狂したかのように言葉を並べ、天井を指さした。

「来るぞ来るぞリリス様の竜が来るぞ『墓守り』が来るぞ。
 とうの昔に死んだ体を引きずって、リリスの竜がやってくる!」
 メディアが危惧していた黒い卵状の物体が割れ、中から『敵』が落ちてきた。

 その落ちてきた『敵』はあっという間にレッド以外のロボット操縦者を殺害し、メディアに重傷を負わせ、ブラダマンテと肉薄した。

 息絶え絶えながらも、メディアはアスカに敵の正体を伝える。

「かつて、リリスのサーヴァントで、あったもの。
 『サーヴァント墓場』を守る、墓守。
 竜座の、機械化サーヴァント。
 『心無き竜』、その真名……──シグルド」
 アスカはかつて出会ったシグルド型アンドロイドの姿を思い出しながら、敵の姿を目に映す。
 叡智を示す結晶を無くし、壊れた鎧をまとい……肥大化した偽りの心臓を身に宿したその姿を。
 彼女は思う──英雄シグルド、その完璧な成れの果てがここにある、と。


第88話 リリスの竜、心無き者

 

「大英雄シグルド!」

 レッドやわたくし、他の生き残った人々を守るためでしょう、ブラダマンテが傷だらけの体のまま、前へ躍り出ました。

 懸命な響きが込められた言葉が続きます。

 

「私は貴方の伝説しか知りませんが、無抵抗の人をこのように虐殺する騎士ではないと、信じています!

 どのようなマスターを持ち、どのような命を受けたのかは分かりませんが……どうか! 正気と正義を取り戻して……!」

 彼女の決死の願いを無視するかのように、改造され、異形となったシグルドが襲いかかりました。

 その動きに知性は感じられません、地面を跳ぶ獣の如くです。

 

「くっ……なんで……! どうして!」

 光輝く盾に、血と機械油の赤に濡れ、青と混ざりて紫の色となったシグルドの短剣がぶつけられます。

 火花散るほどの強烈な攻撃が、何本も、連続で、

 

「シグルド! 英雄シグルド! 貴方が真に()の竜殺しであるならば、私は……!」

 攻撃と防御の速度こそブラダマンテが勝っていますが、彼がぶつけてくる圧倒的な力によって、彼女はじりじりと押されている。その証拠に、攻撃を盾で受けるのが精一杯の様子ですし、声も苦しげで……。

 

「……っ、……っ」

 わたくしは目を動かして周りの状況を分析します。

 自分の腕の中には、背中を切り裂かれ、瀕死の状態のメディアさん。

 周りには、避難途中で取り残された人々。

 護衛であったはずのロボット達は、レッドが駈る機体を残して全滅。

 一番の戦力であるブラダマンテは、シグルドを抑えるので手一杯。

 

「別の場所から脱出するのも……」

 後方をちらりと見てみれば、逃げてきた要塞は炎に包まれ、これ以上このロボット発進場に留まることすら危険となってきました。

 

「──アスカ」

 わたくしは顔を上げます。声の主は、ロボットに乗ったままのレッド。

 ……そして彼は、最も聞きたくない提案を切り出してきたのでした。

 

「オレが囮になって、あの機械化サーヴァントを引き付ける。

 その間に、みんなを連れて逃げろ。

 ……オレの命ひとつで、みんなの命と、サーヴァント2体っていう大きな戦力が助けられるなら、安いもんだよな?」

 自分の中で、感情が沸き立つのがはっきりと分かりました。

 

「自らの命を投げ出そうと言うのですか! 何を馬鹿なことを!」

 わたくしは彼の発言に怒りを覚えてしまいます。

 

「私も……それは……嫌です!!」

 全力をもってシグルドを押し返してから、レッドの提案を否定してくれたブラダマンテ。

 彼女は次の攻撃に備えて、盾を持ち直し肩で息をしつつも、続けてこう叫びます。

 

「誰かの犠牲で誰かが助かる、救われる……そんな、そんな当たり前の不幸を甘受するために! ブラダマンテは戦っているわけではありません!」

 金の髪の動きとともにこちらへ振り返った青の瞳は、輝かんばかりの覚悟が満ちていました。

 

「じゃあどうすれば!」

 それでも命を捨てようとするレッドを、わたくしは言葉だけで止めます。

 

「何か方法があるはずです、きっと、何か、何かが……!」

 険悪な空気を吹き飛ばすかのように、要塞の方から爆発音。

 そして、大きな塊が飛んできて──。

 

「敵味方、識別不……」

 ブラダマンテに盾でもって押され、体勢を立て直す途中であったシグルドにぶつかりました。

 

『……ドーン、だ!!!!』

 不思議なことに、少女の声が塊から聞こえてきました。

 塊の色は白で、6つの車輪があって、大きくて。

 

「あれって……まさか!」

 でも一番気にかかったのは、いや、気づいたのは、塊の正体──。

 

(あまりにも見覚えのある。

 あのフォルムは……間違いない!)

 言葉が口をついて出ました。

 

「デザートランナー?!」

 嬉しさ半分、驚き半分な気持ちです。

 

『そうさ! 君の大好きなデザートランナーだよ! アスカ!』

 再び車が喋ります。声はやはり女の子のもののように聞こえました。

 

『説明は後! 今は脱出……って、えええ?!』

 全速力を出した車体がぶつかったというのに、シグルドは全くと言っていいほど退(しりぞ)いていません。

 

「敵、味方……」

 シグルドは、殺した人の血が混ざり紫に光る虹彩の視線を、胴体にぶつかってきた車へ向けると、片腕をゆっくりと当て、それだけで車を押し戻し始めました。

 車輪がけたたましい音を辺りに響かせた後、少しだけ宙に浮かんで空回りだします。

 

『うう……計算より硬いぞ、このサーヴァント!』

 突撃を意にも介さず受け止め、あまつさえ車体を片腕で持ち上げ始めたシグルドに対し、少女の声に焦りが混じりました。

 

「……」

 わたくしは、驚きで見開いてしまった目を何回か瞬きさせ、騒ぐ心を落ち着かせます。

 

(言葉を話すようになったデザートランナーへ対する疑問は、一旦横に置いておきましょう)

 妙な確信があったからです。

 あの車の中の少女もまた、突然現れたブラダマンテと同じく、わたくし達の味方だという……。

 

「アスカ!」

 ブラダマンテがわたくしに呼びかけます。表情は緊張感を保ったままの笑顔。

 

「私に指示を……いえ、わがままを言ってください!

 だって、私は貴女のわがままな言葉で目を覚ましたのですから!」

 火災による熱で張り付いた喉を開くため、唾を飲んでから彼女の意思に答えます。

 

「ここにいる全員で脱出するために、シグルドを押し返して! 倒さなくてもいい!」

「分かりました! では、あの車の名前を教えてください!」

「デザートランナー、デザートランナーです!」

「ばっちり覚えました! 

 アスカ、無事な人を一か所に集め、私から十分に距離を取って! 

 後方には絶対に立たないように! お願いします!」

 ブラダマンテは何かするつもりなのか、槍を閉ざされた天井へ掲げました。

 

「デザートランナー様! 全力でバックを!」

『ん……分かった!』

 シグルドの片腕の拘束から逃れようと、全力でアクセルを吹かしていた車が、バネ仕掛けでもあったのか跳ね、後方に下がります。

 その後、タイヤから白煙を上げつつターンしてこちらの方にやってきて、後方のハッチを開きました。

 

『全員、乗って乗ってー!』

 わたくしは、腕に抱えていたメディアさんを引きずるように慌てて運び入れました。

 次に、怪我と恐怖で縮こまっていた子どもや老人達の、乗り込むお手伝いを。

 

「あの機械化サーヴァントから逃げきれるわけがない、オレがやっぱり囮に……」

「人殺しだからって、自分まで殺そうとしないでください!

 全員で生きてここから出るんです! わたくしのわがままに従って!」

 レッドの意見を封殺して、ロボットから降りるように命じ、彼を車内へ誘導。

 最後にわたくしが乗り込むと、ハッチが閉まりました。

 

「はぁ……はぁ……」

 車内廊下に背中を預け、息を荒く吐き出しました。

 そして、目になじんだデザートランナーの内部を見渡します。

 何十年ぶりに帰って来たかのような心地です。実際は、ほんの数週間しか離れていなかったというのに。

 

「アスカ! アスカ・ピオーネ!」

 名を呼ぶ声がして、そちらへ顔を向けます。

 怪我人を部屋に誘導し終わったのか、デザートランナーから聞こえた謎の声の主が、わたくしの前に姿を現しました。

 

「貴女は……いったい……?」

 艶のある布で作られた、青を基調とした服を着た少女がそこにいました。

 背丈はそう変わりません。140cmのわたくしより、彼女の方が数cm大きく感じます。

 印象としては、一度会ったら、忘れようが無いほど美しい顔立ちをしている……といったことを覚えました。

 

「その質問に対する答えも、何もかもは後回し!

 脱出のため、どうしても私以外の運転手がいるんだ。

 アスカ・ピオーネ! 君、運転できるかい?」

「ええ、できますとも!」

 力強く答え、わたくしは謎の少女の後ろを付いて運転室に向かいました。

 

 

 

 

 大きいフロントガラスに、死角となっている側面をカバーするためのカメラ映像が一部映っている。

 見知った景色に懐かしさを覚えながら、いつもはバーサーカー04やモモが座っていたそこに、わたくしは腰を落とし、シートベルトを付けます。

 

「ブラダマンテ! ブラダマンテ聞こえる?」

『はい、マスターアスカ!』

 スピーカーを使って車外の彼女に呼びかければ、明るい声が返ってきました。

 

『私はこれから宝具を使い、シグルドと要塞の壁をぶち抜きます!

 その後、開いた穴からデザートランナーで脱出してください!』

「宝具、を?」

『ええ! 出し惜しみできる状況ではありませんから!』

 わたくしはハンドルとアクセル、ブレーキの調子を手や足で触れて確かめながら、ブラダマンテに問いかけます。

 

「……ちゃんと、帰ってきてくれる?」

 情けないことに、やはり不安が少し。

 戦いの素人であるわたくしから見ても、シグルドは強敵です。

 ロボットの分厚い装甲を切り裂き、あっという間にパイロットを殺害してしまった、その攻撃力、デザートランナーの突進をものともしない、あの防御力。

 ……自らの命を投げ出そうとしたレッドの気持ちも分かります。

 シグルドは、「誰かの命を犠牲にしなければ勝てない」と、こちらの思考を縛るほどに圧倒的な力を見せてきたのですから。

 

『マスター、ブラダマンテは帰ってきますよ。貴女の言った、わがままどおりに。

 ……それに殿(しんがり)は得意なんです! えっへん!』

「……分かった、ブラダマンテを信じる!」

 彼女がこう言ったのだ。

 ならばもう、何かを不安に思うことも恐れることもない。

 

「レッド! 怪我人の方が、部屋の外に出ないよう見張っておいてください!」

 車内アナウンスを使ってお願いをしたら、後は、ブラダマンテの宝具の発動と脱出のタイミングを計るだけ。

 わたくしは、ズボンのポケットにしまい込んでいた髪飾りへ指先を触れさせました。

 

(どうか……うまくいきますように)

 この紫の宝石がはめ込まれた髪飾りは、軌道エレベーター外部の足場から落ち、死の運命を待つばかりだったわたくしの命を、光の膜を発生させることで守ってくれた。

 何より、これは先祖代々受け継いできたもの。

 

(宝石に込められし思いよ。どうかブラダマンテをお守りください)

 祖霊信仰者ではないですが、今はすがりたくなってしまったのです。

 

 

 

 

「──光よ」

 私、ブラダマンテの元に、世界から光が届けられます。

 それは四肢に活力を与え、全身から槍へ、盾へと流れていく。

 

「光よ」

 自らが抱えるものの強大さに倒れぬよう、足で金属製の床を踏みしめながら、ひたすらに槍を天へと掲げ続けます。

 

「光よ!」

 けれど、まだ足りない。祈りを強く、決意を強く。

 私自身を、正義をなすひと振りの武器とするように、心を純化させていきます。

 視界の端で、空間に小さな光の粒が産まれていくのが見えました。

 全身にみなぎるは力、あふれ出すは輝き。

 

(さぁ、呼ぼう。我が宝具、その真名……!)

 眼前には強大な敵。後方には守るべき人。

 ──ならばこの戦い、正義以外の何物でもなく!

 

「螺旋となりて!」

 大好きな人、ロジェロを助けるがため、打ち倒した魔術師より得た魔盾は、私の手の元で、閃光を放ち、人を守るための宝具となった。

 

「く……つぅ……!」

 大英雄シグルドと打ち合って出来た傷が、宝具発動の勢いによって痛み出しますが、そこはぐっと我慢。

 

「やぁー!!!!」

 自分を鼓舞するために雄たけび上げながら、光を抱き込んだ槍を振り下ろせば、何十という光線が曲線を描きつつシグルドを拘束します。

 まさに螺旋拘束。偉大な英雄である彼が、心臓を失い、光に囚われているというのは、ひどく悲しい光景に見えましたが……。

 

(せめて、私の一撃で……!)

 正気を失ってしまった彼を止めるべく、私は必殺の一撃を放つ──。

 

目映きは閃光の魔盾(ブークリエ・デ・アトラント)!!」

 轟音と共に光が全てをかき消し、吹き飛ばしていく。

 シグルドの姿は見えなくなり、分厚い要塞の壁に丸い大きな穴が開きました。

 壁は多重構造となっていたようで、断面からケーブルやらパイプやらがのぞき見えます。

 

「よし! えっと……当世風に言うならば、すたこらさっさ!」

 脱出のため発進したデザートランナーを追うように、私は駆けていきます。

 逃げる最中の横目に、死んでしまった無数の人達が見え、その魂が救われることを何度も祈りました。

 光でとろけ、しゅうしゅうと音立てる穴の縁から外へ大跳躍。

 

(でも、少しだけ疑問が……)

 地面との距離はまだありますし、自由落下の風に髪をなびかせながら、浮かんだ疑問について考え込みます。

 

(マスター無しで宝具を撃った後だというのに、霊基に不調や倦怠感などが現れていない。これはいったい……?)

 魔力を供給し、世界をサーヴァントへ繋ぎ止めるマスターも無しに、宝具を発動、魔力を大量に外側へ放出した後なのに、体は変わりなく、心も変わりなくです。

 

(……うん! 私以外の人に考えてもらおう!)

 分からないことへ思考を割けられるほど、戦場はのんびりしていません。

 

「成功します……ように!」

 デザートランナーより先んじて着地し、車が地面へ叩きつけられないよう、私が両腕を広げて受け止めました。

 重みによる衝撃で、足が地面にヒビ走らせながら深くめり込みます。

 

「……痛い!」

 いくら頑丈が取り柄の私でも、戦闘からの宝具からの巨大落下物の受け止めは霊基に響くようで、ちょっぴり弱音をこぼしてしまいました。アスカや他の守るべき人達に聞かれていないことを祈るばかりです。

 

「よい……しょ……」

 腰を十分に落としてから慎重に地面へ車体を降ろして、辺りを見渡します。

 山も川も海も見えず、草木も無し。ここは荒野なのでしょうか。

 

『ブラダマンテ! 受け止めてくれてありがとう!

 車両を動かして逃げるから、霊体化して車内に入ってきて!』

 仮のマスターであるアスカの声が聞こえたので、私は慌てて霊体となると、デザートランナーの中へ入りました。

 

 

 第88話 リリスの竜、心無き者

 終わり

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