ブラダマンテが「正義と正気を取り戻して欲しい」と叫んでも、機械化サーヴァントと化したシグルドには届かない。
メディアは瀕死、人々の避難も出来ていない、ブラダマンテはシグルドを抑えるのに手一杯。
レッドは自らを囮にする作戦を提案するが、アスカが必死になってそれを突っぱねた。
助けも見込めず、逃げる場所もない絶望的な状況。
それを打破するように、白の車が現れ、シグルドに体当たりをかました。
車の名はデザートランナー。アスカ達の旅を助けてくれていたもの──。
デザートランナーの中から聞こえる少女の声に導かれ、アスカは気力を取り戻し、ブラダマンテは逆転の一手を思いつく。
人、サーヴァント、そしてレッドを車内に避難させると、ブラダマンテは敵を一時押しとどめるべく宝具を発動した。
アスカは彼女の無事と帰還を信じつつ、宝具の攻撃によって出来た穴より、要塞を脱出する。
デザートランナーが地面にぶつけられる前に、ブラダマンテがそれを受け止める。
……当面の危機は去った。
白い車は要塞を離れ、先んじて避難した他の人間と合流するため、荒野を走っていく。
灰色の四角い箱シェルターが変形した車が、このデザートランナーと並行して荒野を走っていく様子が、フロントガラスに表示された外部カメラの映像より、運転席に座るわたくしからも見えました。
数十kmほどわたくし達は車を移動させ、やがて誰が合図するわけでもなく止まりました。
「ブラダマンテ、デザートランナーや他の車両の警護をお願いしますね」
「はい!」
脱出の手助けから帰ってきて、運転室で霊体化を解いていた彼女にそう言い残し、わたくしは廊下へ足を運び、後部ハッチから外へ出てみました。
「……」
時刻は夜。乾いた風が耳をくすぐります。
ハッチから降り、そして眺めた方向には、黒煙と火柱に飲まれつつある巨大な建造物が見えました。
「俺達の要塞が……『ハデス』が落ちる……」
「そんな馬鹿なこと、あるはずないって思いたかったのに……」
聞こえてきたのは、他のシェルター車から降りてきた人々の声です。
「レジスタンスのお偉いさんが言ってたのに……。
『移動要塞ハデスは透明になれるから、どんな敵にも、リリスの蛇にも見つからない』って。
なのに、こんなことになっちまって……俺達、これからどうすれば……」
声には様々な種類がありました。
安全だと思っていた生活の場を奪われ、途方に暮れるもの。
「お父さん……お母さん……」
「娘、娘がどこにもいないの……どうして、私……」
大切な人を失い、悲しみに沈むもの。
「許せねぇ!」
「邪神リリス! 絶対にぶっ殺してやる!」
怒りをぶつける相手を探しているもの……などでした。
「……」
わたくしはデザートランナーの中に入って、運転室に戻ります。
すると、あの上質な仕立ての青い服を着た女の子がいました。
「アスカ、ここは要塞に近いから危険だ。
私がナビゲートするから、他の人も連れて、もっと遠くへ逃げてしまおう」
「えっ……ええ。そうですわね」
まだ名前も知らない少女にてきぱきと指示を出され、それに従う。
外部スピーカーを使って、様々な感情に揺れている人々へ呼びかけてから、わたくし達は幾つもの車両で荒野を更に走っていくのでした。
少女のナビの元、たどり着いたのは、大岩がまるで
岩の下にデザートランナーや他の車を隠して、避難で疲れ切った人々は車内で待機してもらいます。
わたくしは怯える人々に「周りの様子を見てくる」とスピーカー越しに伝えてから、ブラダマンテと共に素早く偵察に向かいました。
空気は冷たく、満点の星すら、空に散らばる凍えた氷の粒に見えてしまう。
「マスター! 見てください、こんなに清らかな清水が……!
これほど大きく、澄んだ泉が見つけられるだなんて、本当に幸運なことです!
突然の野営でこれほど恵まれるだなんて……!」
車を隠した場所からほど近い、同じく岩の軒下に、並々と水が湧き出していることを発見できました。
ブラダマンテが駆け寄り、手で触れ、それから水を掬っては顔をすすぎます。
「冷たい! それに、魔術による罠の危険もなさそうです!」
「どうして魔術的罠がかかってないと分かるのです?」
わたくしは水にまだ触れず、揺れる水面を眺めています。
「えっと、私はカタイのアンジェリカ様より……預かった? 授けられた?
……邪悪な魔術をはじいたり、解呪できる指輪の宝具を持っているのです。
それにより、私に低度の魔術は通用しませんし、敵にかけられた魔術なども解除することができます。
泉に指輪を浸してもみましたが、反応は見せていませんね。だから安全かと」
「それは……頼もしいですわね……」
彼女の宝具の力に感嘆しつつも、指先を水に沈めてみれば、火事の熱であぶられた皮膚が冷えて、心地が良い。
(でも、とても不思議な感じです。
この砂と岩ばかりの世界に、これほどの水があるだなんて……)
大量の水を見たことが無いわけではありませんが、それはAIソラリネ・ヘルゼルマガツの管理する地下工場や、地下都市の噴水など、全て人や機械の力によってもたらされたもの。
自然に湧き出している泉など、見れば見るほど不思議な感覚を覚えずにはいられませんでした。
「マスターアスカ! この泉は祝福されています!
恐らくは、水辺に故が深い聖人の手によるものでしょう。
私が心配するまでも無く、邪悪な存在はこの周辺には寄り付けないものかと!」
ブラダマンテがまた嬉しい報告をしてくれます。
「じゃあ、皆さんを車の外に出しても安全かしら?」
「移動と避難で疲れている人も多いでしょう、マスターの提案にブラダマンテは大賛成です!」
そうと決まったら小走りで車に戻り、皆にお知らせを。
事態を上手く飲み込めていない人も多かったですが、ともかく、夜が明けるまでつかの間の休息が始まりました。
レッドが先導をとり、懐中電灯などが持ち出されて簡易のキャンプが出来上がりました。
薄い布の上に人々は寝転がり、泉より汲み出した水を飲んだり、それで火傷を冷やしたりしています。
誰かが何を言わずとも、人々は食料を分け合い、ブロック状の栄養食品を沈んだ顔でかじっていました。
それをわたくしは遠巻きに眺めている。
(あんなに沢山の人がいたのに……)
『移動要塞ハデス』に住んでいた人の数を、正確に知ってはいませんが、レッドと共に歩いたマーケットを思い出すだけでも、数千人、いや数万人以上は暮らしていたことはうかがえます。
けれど、今わたくしの目に映っている人の数は200ほど。
(リリスの勢力が攻めてくるだけで、多くの人の命があっという間に失われてしまった……)
その事実だけで、体が崩れ落ちそうです。
(でも、いまここにいる人は助けられたし、助かったんだ。
それだけでも嬉しく思わないと……)
頭をふって、『絶望』という誘惑から逃れます。そしてわたくしは、デザートランナーに戻り、最も気になっていることを確認しに行くのでした。
「あの、メディアさんはどこに?」
「こっちさ。アスカ・ピオーネ」
廊下で待ち構えていた、まだ自己紹介もされていない少女に案内され、向かった先は。
「ここ、立ち入り禁止……」
バーサーカー04より入ることを禁じられていた、機関室でした。
あの注意を言われたのはずいぶん前のことです。彼は「複雑な仕組みで動いている機械がたくさんで、素人が入ると危ないから」と理由を話してくれましたが。
「よいしょ……よいしょ……ふー、この扉の重さは私の霊基には堪える。
ともかく中に入ってくれたまえ。アスカ」
少女は一切の躊躇なく入ってしまいました。
機関室の中は、04の言っていた通り複雑な機械だらけ。
チューブや、その中を通る青く発光する液体は、わたくしに『液体リソース』の存在を思い出させます。
「そんなに怪訝な顔をしなくていいよ。
この液体は、キミ達の使っている液状燃料とは似て非なるものだ」
少女にそう言われ、知らず知らずのうちに肩に入っていた力が抜けました。
「キャスターメディアはここさ」
機械とチューブの茂みを抜けた先には、涙型をした、青い……
その内側に、メディアさんは横たわっていました。
表情は安らかで眠りについているかのよう、とても怪我人だとは思えません。
「サーヴァント治療用の装置に寝かせておいた。
これに入れておけば、致命傷からゆっくり回復していく……とは思うんだけど……どうしても、心配してしまうね」
メディアさんの無事も分かり、安心したわたくしは少女に話しかけます。
「貴女はいったい誰なのです?
どうしてデザートランナーに乗っていたのですか? 操縦できたのですか?
それから……」
「おおっと! ずいぶん質問が多いね!
キミも混乱しているようだし、自己紹介を含めて少しずつ話していこうかな」
少女はあどけない顔に柔らかな笑顔を浮かべています。
「この椅子に座って」
勝手知ったる様子で、機関室の奥から椅子を運んでくる少女。
わたくしと彼女は向かい合わせになるよう座りました。
「えへんえほんえへん……。
私はあるサーヴァントによって作られた存在。
真名は『グラン・カヴァッロ』と言うのだけど、製作者へ敬意を込めて、あえてこう名乗ろう」
少女が懐から眼鏡を取り出して装着しました。
「──レオナルド・ダ・ヴィンチ、と。
そしてあだ名はダ・ヴィンチちゃん! キミもそう呼んでくれると嬉しいな!」
彼女の口から出たその名前を、知らないはずがありません。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、ルネサンス期のイタリアを生きた才人。
多くの芸術を残し、発明を残し、2713年である現代でも、彼の創作物のレプリカは珍重され、人気を誇っています。
「私はこの船の動かすためのパーツとして、レオナルド・ダ・ヴィンチに作られた人工的なサーヴァントなんだ」
「ダ・ヴィンチは、生前に貴女を作っていたのですか?」
「いや、サーヴァントとして召喚されてからの話だ、この船と同じくね。
まぁ、どうしてこの船が作られたかについては、もっと状況が落ち着いてから話そう」
少女は椅子に座ったまま、足をぱたぱたと動かしています。
「アスカ・ピオーネ、私はね、キミ達の旅路をずーっと見ていたのさ。
この機関室より、ひっそりこっそりナビゲーションをしながらね」
「そ、そうだったのですか!?」
デザートランナーに秘密の搭乗員がいたなんて、ちっとも気が付かなかった。
(ああでも……モモが、操縦をAIがサポートしてくれてると言っていたような。
それに、アステリオスと共に、巨大な機械化サーヴァントと戦った時も、車が危機を予測し、わたくし達を助けてくれていましたし……)
目の前で得意げに胸をはっている彼女を見ます。
「知らないだけで、ずっと助けてくれていたのですね」
礼の気持ちを込めて言葉を贈れば、少女は嬉しそうにはにかみました。
機関室の中での会話は続きます。
「私は船の中に長らく保管されていたが、キミ達が見つけ、起動させたことによって目覚めた。
本当はキミ達の前に姿を見せたかったけど、私の体は丈夫に出来ていなかったし、ナビを万全にするためには、ここの機関室から離れられないし……。
だから、私を見つけたバーサーカー04と取引をしたんだ」
わたくしは突然知った名前が出てびっくりし、目を見開いてしまいました。
「『私はキミの正体と目的について黙っているし、キミ達のこの旅に協力する。
だからキミも、私の所属と、存在は隠しておくこと』とね」
「そのような取引があっただなんて……」
「それ以外にも細々と取り決めはあった。
でも彼は文句を言わなかったし、必要最低限には優しかったさ。
私の体をスキルで回復させ、
「……?」
彼女の言葉に違和感を覚えましたが、今は頭の片隅にとどめておくことにします。
「あっ、そうです。アーチャー961は貴女について……」
「気が付きそうだったけど、バーサーカー04が上手くごまかしてくれたみたい」
「……ほんと、あのサーヴァントは」
「気にしない方がいいよ。あの男の口先に転がされない存在の方が稀だから」
あの黒髪で緑色の瞳をしたサーヴァントが、わたくしの脳内の中でにたりと笑いました。
旅路を振り返ってみれば、彼の魔力消費が激しかったのは、バーサーカークラスであること以外にも、この秘密の取引に能力を使用していたからかもしれません。
「04は秘密が多いサーヴァントですわ……」
「そうぼやくなら、このダ・ヴィンチちゃんだって秘密だらけじゃないのかい?」
「貴女はその……可愛いから、良いんです!」
「おやおや」
少女がにたりと笑いました。
「……さて、簡単な自己紹介も済ませたし、私の目的を言おうかな」
「目的?」
「何の見返りも期待せず、キミ達の旅に協力していたという訳ではないんだ。
私はね──」
彼女の吐息で、機関室の天井を伝うチューブが微細に振動しました。
「この、デザートランナーと今は呼ばれている船の、その片割れ……行方不明の『シャドウ・ボーダーA面』を探さなくてはいけないんだ」
「シャドウ、ボーダー、A面?」
全く聞いたことのない単語でしたので、思わず繰り返してしまいます。
「A面、B面は、レコード……音声を記録する円盤に対して使われていた言葉。
一般的には楽曲を保管することに使われていて、表と裏はそれぞれ違うものを記録することができ、『A面』『B面』と呼び分けられていたんだ」
「なるほど?」
新しい情報に困惑しながらも、なんとかうなづきます。
「この船は脱出艇であり、本来一つのものとして作られるはずだった。
けれど、一つでは想定している人数を避難させられないことが分かってね、急遽二つに分けられたんだ。
故に車輪は6輪、全高は約3m、全長は約8mと、設計より小さくなってしまった。
……詳しく事情を話すと長くなるからこの辺りで」
「なる、ほど」
ずっと頼りにしていたデザートランナーにも、知られざるドラマがあったようです。
困惑もありますが、感慨深い気持ちにもなり、首を回して機関室をぐるんと見渡しました。
「私は私の目的を果たすためにも、アスカ達に協力をしよう。
つまりこう言いたいわけだ……私はキミ達の味方だよ、と」
「それは……言葉にしなくとも、伝わってきますわ」
「ふふ、当たり前のことだと思って言葉を惜しんでいると、全然伝わってなかったりするものだよ?」
少女はいたずらっぽい表情のまま、言葉を続けます。
「さて、アスカはこれからどうしたいのかな?」
「……決まっています!」
それはメディアさんにも話したことです。
「モモ、バーサーカー04、そしてアーチャー961を探しに行きます!
もう二度と離れ離れにならないために!
そして、世界とそこに住まう人々を救う手立てを探しに……」
「何の情報も持たずに行く気かい? それに、キミを頼りにしている避難民や、食料、水、デザートランナーや他の車の燃料問題もある。
……ブラダマンテに与える魔力をどうするかの問題もね」
「うっ……」
夢を語っても現実が追いかけてくるものです。言葉に詰まってしまいました。
「……っと、ごめん。別に意地悪を言いたいわけじゃないんだ。
私はね、キミの意見を尊重するけど、問題は1つずつ片づけた方が良いんじゃないかなと思って」
「1つずつ?」
「うん。
だからそのために、情報が欲しいな」
「情報……」
はっと息をのんでから、わたくしはズボンのポケットをまさぐりました。
「これ、これです! ツヴァイ・エーテルウェルから託されたブラックボックス!」
メディアさんと共に音声を聞いたその箱は、わたくしの手の平に乗るサイズ。
それをダ・ヴィンチちゃんへ差し出しました。
「なるほどなるほど。
この中の情報に、水や食料を得られる地形のデータや、私達を保護してくれそうな場所、団体について記してあるかもしれないね。
解凍して分析するよ、良いかい?」
「もとよりそのつもりでした。よろしくお願いします」
「了解! 任された!」
状況は依然として苦しく、友達の安否も定かではありませんが、どうするべきかの道行が見えてきました。
そんな時。
「──キャー!」
デザートランナー内の、機関室まで聞こえてくるほどの悲鳴です。
「……みなさん!」
わたくしは外にいるブラダマンテと合流するべく、駆け足で部屋を後にしました。
「どうしましたマスター! お顔が真っ青ですよ!」
慌てて現場に向かってみれば、そこには拍子抜けするような光景が。
「シェルター車の中に、娯楽映像を見れるテレビ……? なるものがありまして、ディスク? も、内部電池も残っていたので、食事を終えた皆さんと見ていたのです!」
落ち着いた様子で答えてくれるブラダマンテ。
岩で出来た軒の下に、車のフロントガラスよりも小さく、薄い液晶パネルがおかれています。
大人も子どもも集まって、食い入るように映像を見ていました。
わたくしが助けた女の子リーシェやその家族、わたくしを助けてくれたレッドの姿もあります。
「呑気な……と思われるかもしれませんが、こんな悲しい時だからこそ、日常を思わせる娯楽が人の心に必要なのです。
マスターもずっと気を張っているご様子。息抜きのためにも、他の方と一緒にテレビを見ませんか?」
わたくしは画面に眼差しを向けます。
流れている映像は、何度か目にしたことのある『トミーのワンダフルキッチン』でした。
『先週の放送の後に怒られちゃってね!
いやー! トミーったらプロ意識が足りないかも。
カメラの前で涙を流していいのは、マラソン種目でメダルを取った時の嬉し涙だけって、思い出したよ!』
歯並びのいい口元をさらしながら笑っている男性。
『ん? 誰に怒られたかって?
そんなの決まってる、トミーの友達からだよ!
あいつ、先週の放送が終わった後電話かけてきてさ。
「あんな話をして、お前が泣いて、あんな雑な話のまとめかたしたら、まるで自分が死んだみたいじゃないか!」って、すごく怒ってて!
いやー、たくさんの視聴者に勘違いをさせてしまい、申し訳ない。
本当に……ごめんなさい!』
彼が頭を下げると同時に、画面からスタッフの笑い声が聞こえてきました。
『トミーの友達はね、病気だった』
料理の準備を整えながら、彼は物語っていきます。
『生死の堺にまで行ってしまって、トミーや友達の家族が一晩中祈っていた日もあったよ。
あいつも生きようと頑張っていたけど、お医者さんはいつも難しい顔してた。
……でもね!』
彼ははじけるような笑顔を見せてくれます。
『友達は助かった、助かったんだよ!
沢山の技術と、幸運と、何よりあいつの生きようとする力の合わせ技でね、病気をノックアウトさ! ははは!』
その明るい笑い声につられ、画面の前の子ども達が声を上げます。
『今日、視聴者の皆様にお伝えしたいことは……人間、最後まで諦めなければ何とかなる! ってこと。
今から作るティラミスみたいにね!
このお菓子は前も作ったけど、今回は応用編、オレンジ風味のティラミスを作っちゃう!
ああそうだ、ティラミスの語源を知っているかな?
イタリア語でね──』
彼の声を聞きながら、わたくしは空を見上げます。
夜空は深い青で、瞬く星は美しく。
「ああ……」
様々な感情からなる声をもらします。
地下都市をデザートランナーで飛び出したあの日から、ずいぶん時間が経ってしまった。
世界の美しさも知ったし、悲しさも、醜さも知った。
だからこそ、わたくしはもう一度、彼ら彼女らと出会いたい。
(友達に……モモとバーサーカー04に会いたいなぁ……)
あの、どこか似たもの同士の2人に。
会えない時間で感じていたわたしの不安とか話したら、あの2人は優しく笑い飛ばしてくれそうだもの。
そして。
(家族に……アーチャー961に会いたいなぁ……)
幼いわたくしに生きる理由を与えてくれた、彼。
わたくしを最後まで守ろうとしてくれた、どこまでも善良な彼に。
(リリスは、モモと04を殺したと言い、わたくしの目の前でアーチャーに致命傷を与えた……。
でも、みんなまだ生きているかも知れない、そう信じたい)
都合のいい願望だって『希望』。そんな夢を描いては、夜空を見つめます。
(もう一度、みんなに会えたらわたし……二度と離れないように、ぎゅっと抱きしめたい)
にじみ出た涙を、ブラダマンテや他の方に気取られないよう指の腹で拭ってから、わたしはわたくしの体を抱きしめたのでした。
第89話 だからあなたと巡り会い
終わり
第18章 世界はゆっくりと牙をむいたから
終わり
登場キャラクター紹介
終末世界のランサー
クラス:ランサー(番号不明)
真名:ブラダマンテ
マスター:仮のマスターは、アスカ・ピオーネ
「力を貸して欲しい」とわがままを言ったアスカの元へ、突如現れたサーヴァント。
伝説に名高いシャルルマーニュ十二騎士のひとりであり、多くの冒険をして、たったひとりの最愛の人、ロジェロとの恋に落ちた少女。
この世界についてよく分かっておらず、腕にいつの間にか巻かれていたリボンについても、身に覚えがない。
しかしそれを気にして落ち込む彼女ではなく、自らを求めたアスカを信じ、これからも戦っていくことだろう。
彼女は光、闇を切り裂く希望の化身なのだから。
カルデアのライダー
クラス:ライダー
真名:グラン・カヴァッロ
マスター:なし
万能の天才であるレオナルド・ダ・ヴィンチが、カルデアに召喚された後、作成した人工のサーヴァント。
長い間、シャドウ・ボーダーB面の中で凍結されていたが、アスカ達の旅立ちに際して目覚め、こっそりそれをサポートしていた。
『あちらの世界』とは違い、シャドウ・ボーダーのナビ、制御、管理に振り切った体のチューンナップをされているため、長期の生存や戦う能力は持っていない。
自分に対し、ダ・ヴィンチの後継というよりは、他者を補佐するシステムだと割り切っているので、人なつっこく、自分自身に対して成果を求めすぎることもない、気負わない性格となっている。
……そんな彼女が、シャドウ・ボーダーA面を探している目的とは?
単語説明
超巨大移動要塞『ハデス』
2713年である今から、約200年前に建造された移動要塞。
衛星軌道上展開兵器ヴリトラの目から逃れるため、周囲の景色にとけ込む特殊迷彩機能がある。
その能力が、冥界の神であり姿隠しの兜を所持していた『ハデス』と似通っていたため、こう名付けられた。
見つかるはずなどなかった要塞は暴かれ、炎の中に沈んだ。
大勢の人間をその内に抱き込んだまま。
『竜座』の機械化サーヴァント
リリスのサーヴァントであった英雄シグルドを改造して作られた、確認されている限り最も古い機械化サーヴァント。
2300~2400年の間に作られたとされ、本来はサーヴァント墓場から離れることはない。
だが今回は、AIヴォイドメロディ・キルロードに捕獲され、このような場所まで連れてこられたようだ。
デザートランナー改めてシャドウ・ボーダーB面
全高約3m、全長約8mの真っ白な6輪の大型特殊車両。
アスカの産まれた一族であるピオーネ家が所有し、世界から秘匿していた不思議な雰囲気の車。
中は見た目よりずっと広く、食堂やシャワー室、医務室、倉庫まで完備している。
世界大戦のきっかけとなった、カルデアなる組織が建造していた特殊車両。
カルデア職員を全員脱出させるためにパーツが2つに分けられ、そこからシャドウ・ボーダーA面とシャドウ・ボーダーB面が作られた。
B面はこのようにピオーネ家が所有していたが、虚数潜行機能が備えられていたA面は長らく行方不明のままである。
──平面上の月はどこに。きっと、冷たい北の記念碑にあるのでしょう。