フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 ドレイクの内側より意識を表に出して来たダユーは、尊大な物言いで自己を紹介する。
 それを受けた961は彼女を癖の強い相手だと認識した。
 しかし臆せず直球に、961は「霊体化しても、腕の傷が治らなかった理由」について問う。
 ダユーはそれを「奪われたから」だと語った。そして、帰って来ることは無い、とも。
 彼女は、傷つけた相手は、彼に羨望を抱いていたのだと口にする。
 何を羨むことがあるのかと、女神リリスの内心について考える961であったが、ある可能性について思い当る。
 『……私と家族になっておくれ!』という言葉。あれは、彼女の本心から来ていたのではないかと。

 ダユーは再び意識をドレイクの内へ戻り、会議は本題に入ろうとしていた。
 ドレイクは、アジトに居るサーヴァント達が何を探し求めているのかを話す。

「砂嵐を抜け、死血湖(しけつこ)を渡り、迷宮の最深部にたどり着く。
 そこにある『伝説の船』を手に入れ! 世界最後の海が残る場所、南極へ向かうのが目的!」
 その中に含まれていた南極という単語に、961は反応してしまう。なぜならそれは、ロマニ・アーキマンとの会話の中で出てきたものだったからだ。
 南極に向かえば、世界を救う方法が分かるかもしれないと男は語り。
 その旅の最中、トワ・キリエライトという女の子に出会うことがあれば、この職員証を渡して欲しいと、願いを託された。

 ドレイクは言う。
「どこかの誰かが『ある』と言ったなら、信じてみるのが海賊の()()ってやつ?」
 浪漫、その言葉を聞いても、ぬぐえぬ不安がある961は、彼女へ訊かずにはいられなかった。
「どうして……何かに挑もうと思えるんだ……?
 何も得られず、失うばかりかもしれないのに!」
 
「──人生は一度しかないからだよ、アーキマン」
 ……なら、感じるままに、『やりたいこと』をやった方が良いじゃないか」
 ドレイクから『やりたいことがあるという顔をしている』と言われ、961は考え……それを見つけ出した。
 それは、ロマニ・アーキマンと交わした言葉、約束だった。
 
 生きる目的を再び見つけ出した961は、ドレイク達と共に『砂塵の迷宮』へと挑む。
 探索のためのホバーバイクと、『伝説の船』の情報をもたらした相手が、リリスのサーヴァント『終わりなき製造の使徒』であるとの、不穏な話を聞きながら……。


第93話 だから笑顔でいたいと

 

 

 ──勢い激しい砂嵐を、サーヴァントである俺達はホバーバイクで突破しようと挑んでいた。

 

「アン! 貴女から見て七時の方向だ!」

 俺が警戒を呼び掛けた彼女は、メアリーが操縦するバイク、その後部座席で中腰の姿勢を保っていた。

 

「任されましたわ……っと!」

 声の後、彼女は長大なマスケット銃をこん棒のように両腕で振るい、せまってきていた『敵』を打ち砕いた。アンが着ている赤い服が、風と衝撃を受けてはためく。

 

「ああもう鬱陶しい! しつこい!」

 神秘が(一応)宿っているその攻撃をもろに受けた『敵』は。

 

『アジュポ──!』

 人型を崩して塵となり、砂嵐と混ざっては消えていく。

 

「アーキマン殿、我らの後方に敵は……?!」

「今のところは見えない。そのまま飛ばし続けてくれ、ガレス!」

 背中を預けている少女の声に俺は答え、再び後方、そして左右へと目を配る。

 走行時速は約200km。

 全てが瞬く間に過ぎていく風景の中、同速度で飛び出しては追いすがって来る敵を視認し、反応出来る存在など、サーヴァントくらいなものだろう。

 

「キャプテン! 死血湖(しけつこ)まであと──」

「っ! 駄目だ、全体止まれ!」

 最も先頭を走っていたドレイクに、ガレスが目的地までの距離を聞くが、返ってきたのは切迫感のある声だった。

 

「何事だ、キャプテン!」

「アーキマンからは見えづらいだろうけど、前方に渓谷が出来てる! 

 距離は不明、渡りきれない!」

 3台のホバーバイクはその場で急停止した後、衝撃を散らすため、ふわふわと上下した。

 後部座席にいる俺は、首をひねり、ドレイク達が見ている方向を視界に映してみる。

 砂嵐で黄土色に霞む風景の中に、巨大で全貌がようと知れない渓谷が、深々と口を開けているのが見えた。

 

「仕方ない……一度撤退だ! アジトに引き返すよ!」

 ドレイクのUターンに合わせ、メアリーもガレスもバイクの方向転換をなめらかに行い、帰路を目掛けて出発する。

 

「……まぁ、こういう日もあります。

 アーキマン殿、気を落とされないでくださいね」

 ガレスの言葉を耳に入れながら、俺は帰り道でも敵からの襲撃を警戒し続けた。

 

 

 

 

「いやぁ助かったよ! アーキマン! 

 アンタは本当に目が良いし、勘も利くねぇ! 

 人手が増えるだけでここまで違うもんとは!」

「アーキマンのおかげで、敵に横から食いつかれずにすみましたわ」

「お疲れさま。あっお酒飲む?」

 アジトに帰り、俺はドレイクやアン、メアリーから口々に礼を言われる。

 

(胴体をロープで結びつけられ、後方を見張っていただけなのだが……)

 海賊達は地図の整理もそこそこに、酒盛りを始めた。

 そんな彼女達を置いて俺はアジト内の通路を歩き、割り当てられた自室へ戻る。

 部屋と言っても、他の場所と同じく巨岩の中の空間であり、寝具として薄い布が敷かれただけの空間なのだが。

 

(……明日も船探し、なのだろうか)

 時刻は夜だ。電池式のランプの灯りを眺めながら横になる。

 頭に浮かんでくるのは数々の疑問達。

 

(女神リリスのサーヴァント、キャスター。真名は不明。

 代わりに名乗ったのは『終わりなき製造の使徒』なる称号……)

 軌道エレベーター内部で、俺は女神リリスと会話し、彼女が従えていた『アサシン』なるサーヴァントの存在も知った。

 そして……邪竜、否、蛇竜『ヴリトラ』へと変わり果てていたあの男のことも知ってしまった。

 

(俺が知る限り、リリスは少なくとも2体のサーヴァントを持っている。

 ……『あの男』が、まだサーヴァントと呼べる存在であるかどうかは、疑問は残るけれど)

 巨大な赤の眼を思い出しそうになり、寝た姿勢のまま首を振った。

 気持ちを切り替えるため、思考を別のことへ移す。

 

(通常、サーヴァントの所有など1人1体が限界であるし、激しい戦闘行為などもってのほか。

 ……現界を保つために必要な液体リソース確保の問題と、それにかかる生存権の消費が大きいからだ)

 この世界の常識と照らし合わせて考え事をしながら、俺は足を動かし寝返りをうつ。

 

(しかしそれは、魔術的な繋がりを持たない単なる『所有者』の話。

 アスカと俺はその繋がり……契約を持っていたし、モモ、バーサーカー04とて同じく)

 ランプの光が少しまぶしく感じ、目を細めた。

 

(だからこそ俺は、定期的な液体リソースの補給だけで何年もアスカと共に生活が出来たし、激しい戦闘を行った後も存在が保てた。

 ……もちろん、やりすぎればマスター付きのサーヴァントとて消滅するが)

 魔術的繋がりがあったからこそ、彼女達2人は令呪すら宿し、単なる所有者ではなく『マスター』として分類されていた訳なのだが、その話は今は横へ置いておく。

 

(女神リリスは、俺の腕を難なく切り落とすまでの力を携えていた。

 あの力は紛れもなく魔術、神秘によるもの。

 であれば、リリスはその強大な力を駆使し、何体ものサーヴァントと契約していても不思議ではないが……)

 我ながら、仮定に仮定を重ねるようなお粗末な考察だが、筋は通っている。

 

(しかしまだ疑問は残る。

 サーヴァントを使わず、どうしてAIを(しもべ)としている? 

 もっと大量のサーヴァントを使えば、人類の支配も維持も容易だというのに、それをしていない理由は? 

 ……異常なまでに、サーヴァントとの家族関係を持つことにこだわる訳は?)

 俺は寝返りを何回も行いながら、考えに考える。

 

(『終わりなき製造の使徒』なるキャスターは何者だ? 

 キャスターはなぜそれをドレイク達に明かした? 情報や物を与えた理由は? 

 ……本当に、リリスのサーヴァントなのか?)

 キャスターのイメージは依然としてもやがかかったまま。

 リリスに関しても、彼女の戦力やサーヴァントについても情報が足りない。

 もう一度寝返りをうとうとしたその時、近くの壁を控えめな力で叩く音がした。

 

「アーキマン殿、ガレスです。お水をお持ちしました。

 それと……泉の場所をご案内しようかと思って。

 お時間いただいてもよろしいでしょうか?」

 少女の声が通路から聞こえた。

 先ほどの音は、扉も無い部屋に向けてのノック代わりにそうしたのだろう。

 

「すまない、少し考え事をしていた」

「アーキマン殿のお邪魔をしてしまったでしょうか……?」

「いいんだ。考えが煮詰まっていたところに来てくれたから、むしろ助かった」

 俺は上半身の力のみで起き上がる。自分の短い黒髪が視界の端で揺れた。

 

「泉の場所、知りたかったんだ。今からそっちに行くよ」

 

 

 

 巨岩の中、暗い通路を、ガレスが手元に下げたランプの明かりを頼りに歩く。

 

「はい、到着です」

 数分後、光源である電球が天井より下げられた小さな広場に出た。

 温もりあるオレンジの光が、空間全体を照らしている。

 その下にあるのは、澄んだ水を湛えている泉。

 背を丸めて覗き込んでみれば、常通りの、黒い瞳をした自分と目が合った。

 

「飲料にも洗濯にも使用しています。

 地下水なので、とっても冷たいんです。飲む時や浴びる時は、びっくりしないよう気を付けてくださいね」

 話しながら、彼女は泉近くまで金属製の箱を移動させた。何に使うつもりなのだろう。

 

「どの時間にお使いしても構いませんが……他の方の水浴びとかち合わぬよう、ガレスが気を配っておきますね」

 彼女はただしゃがみ、金属製のバケツで水をたっぷり汲むと、布を浸しては堅く絞っていく。

 

「アーキマン殿、そこの箱にどうかお座りを。

 砂など付いているでしょうし、お背中だけでも拭いて差し上げたいのです」

「しかし、何でもかんでもやってもらうわけには……」

 俺が目覚めたとき落ち着かせてくれた事といい、昼間の会議のときといい、ガレスには世話になってばかりだ。

 俺から彼女に出来ているのは礼を言うくらいで、そんなこともあってか胸に罪悪感が積もっている。

 

「ガレスがしてあげたいと思い、そうしているだけなのですよ。遠慮なさらず。

 それに……」

「に?」

 ガレスは手の内で絞った布をもじもじとこねた。

 

「……アーキマン殿のお背中に、いえ、正確に言いますと筋肉に興味があって」

「俺の……筋肉に?」

「はい! 今日の昼、探索の際、背中が触れ合いましたでしょう? 

 その時ガレスには分かったのです……これは相当な(つわもの)の背中だと! 

 ここまでの衝撃を感じたのは、円卓の騎士の方々の鎧着せの際、目にした時以来で──!」

「なっ……!」

「どのような鍛錬を積まれたら、あれほどまでの筋肉を練り上げられるのか……その辺りのコツもお伺いしたく!!」

 俺は距離を取ろうとするが、丸い目を好奇心でギラギラに輝かせている彼女は、一歩踏み込んで懐へ潜り込んでくる。

 

「さぁ! お背中を拭いて差し上げましょう!」

「……少し待ってくれ」

「大丈夫です! 武具の手入れも馬の世話も、『丁寧』だと皆からとても評判だったのですから! 

 お体を清めるのだって、同じ感じでいけるはずです! 

 あれ……でもなぜかランスロット卿とケイ卿からは振る舞いをやんわりと注意されて……って、あれ?」

 疑問符を頭の上に浮かべているガレスの隙をつき、俺は一瞬だけ霊体化し、身を清めた。

 

「もう……もう綺麗になったから大丈夫だ!」

 自分でも考えている以上に焦った声が出ている。

 

「そう……ですか……見たかったです……アーキマン殿の背筋……」

 とても残念そうな彼女には悪いが、話に出た『ランスロット卿』や『ケイ卿』達の気持ちも分かる気がした。

 

(裏表がない。真っ直ぐすぎる。無邪気すぎる。

 好意を素直に伝えてくるこの態度……かつては、相当な数の異性をやきもきさせたのでは?)

 腕があれば、こんな迷惑を彼女にかけることもないのにと、悟られないようため息をついた。

 

 

「この泉は元からアジトの中に湧いていた訳ではなく、あるサーヴァントの方の力によるものだそうで」

「そうなのか……」

 俺は泉近くに寄せられた金属製の箱に腰を下ろしていた。水で洗濯を始めたガレスの背中をぼんやりと目に映す。「この世界では布製品は貴重だそうですから、大切に使いませんと……」との言葉を、彼女から先ほど聞いたばかりだった。

 

「そのサーヴァントはドレイク卿達と出会い、この巨岩まで案内した後、『水があれば、それで救われる人もいるでしょう』と、地面に向かって敬虔な祈りを捧げ……拳をずどん!」

 ガレスは聞いた話をなぞるように、軽く拳を地面に当てた。

 

「……すると、冷たく甘い清水がこんこんと湧き出して来たそうで。

 すごいですね、奇蹟とはそういったものなのでしょうか……」

「奇蹟というより、物理攻撃では?」

「奇蹟宿る拳で殴れば、それはもう奇蹟では! 

 ……こほん、話を本筋に戻しましょう。

 そして彼女は、『一所(ひとところ)に留まることはせず、地上で餓えと渇きに苦しんでいる人々を助けたい』と言い残し、大亀のようなドラゴンに乗って飛び、迷宮から抜け出てしまったのだとか」

 ガレスの言う、亀みたいなドラゴンの形はいまいち想像できないが、語る彼女が楽しそうなので、俺はうんうんと頷き返した。

 

「名も知らぬ彼女に感謝です。

 お話してくれたドレイク卿達の記憶力にも驚愕するばかりで。

 ……そんなことを言っている間に、洗濯が終わりそうですね。

 アーキマン殿、帰る際に少しお手伝いをお願いしたいのですが、よろしいですか?」

「俺に出来ることなどあるのだろうか。昼間の探索も後方の見張りくらいしか出来なくて……」

「そう自らを卑下することはありません、いけません。

 王の執事役であったベディヴィエール卿も、隻腕でありながら戦場では万夫不当のご活躍。

 アーキマン殿だって、腕が無くてもきっと……」

 俺以上に俺のことを評価してくれているガレス。

 そんな彼女の腕に、何か巻かれているのが見える。泉の水で濡れないよう、袖をまくったから表に現れたのだろう。

 

「ガレス、そのリボンは?」

「これですか?」

 彼女は顔を腕に向けながら、指先でそれを摘まむ。

 

「私が目覚めた時、既に巻かれてあって……ドレイク卿達も詳しくはご存じない様子でした。

 ダユー公女にも聞いてみましたが、心当たりは無いようで。

 アーキマン殿も……この感じでは、何か知っているという訳ではなさそうですね……」

 少女の指の内でひらりと動くそのリボン。花弁を思わせる薄い紫の色で、はかなげな雰囲気を纏っている。

 

「ガレスも心当たりはないのか?」

「これほど上質な飾り布など、贈り物として頂いたことはありませんし、買うにしても、手が届くものではありませんでした。

 ひょっとしたら、私の死後に誰かが贈ってくれた物なのかもしれませんが……」

 懐かしむような顔でリボンを見つめるガレス。

 

「ああでも、ちょっとだけ見知った感覚があったり……」

「それは?」

「少しだけ……勘違いかもしれませんが、マーリン様の魔力を感じるような……」

「マーリン、魔術師マーリンのことで間違いないか?」

「はい。王に仕え、悩み苦しみにも寄り添ったお方です。

 個人的に、ちょっぴり苦手な方だったのですが……」

 マーリン。多くの伝説、物語が遺されている人物。

 騎士王アーサーの師であり、友であり、人と夢魔の混血にして、比類なき力を持った魔術師だと知られている。

 彼の王が伝説の聖剣『カリバーン』を引き抜く際、立ち会ったとも。

 王の死後は、『アヴァロン』なる妖精の世界に建つ塔へ、永遠に囚われる運命を辿ったそうだ。

 

「マーリン様の気配を感じるからでしょうか……このリボンに触れていると、かつての頃を思い出してしまうのです」

 リボンは、ただ柔らかくそこにある。

 

「悲しいことも、楽しかったことも……」

 見つめる彼女の横顔は、どこか寂し気だった。

 

「いけない、いけない。ガレスは笑顔でいなければ」

 彼女はまくっていた袖を戻し、リボンを隠してしまうと、沈んでいた顔を明るい笑みへ戻した。

 

「……ガレスは、どうして笑顔でいたいんだ?」

 俺の口から、ドレイクに聞いたことと似たような質問が飛び出してしまった。

 

「あっ……すまない、出過ぎた言い方だっただろうか」

 思わずついて出た言葉。手があったなら、咄嗟に自らの口を塞いでいたことだろう。

 しかしガレスは、怒る訳でも戸惑う訳でもなく、その質問に答えてくれた。

 

「私、皆さんには笑顔でいてほしいのです。ですがそれを強要することなどできません。

 ……だから、まずは自分が笑っていようと」

 語る声はどこまでも穏やか。

 

「王に仕えしかつても、海賊の一味として船を探している今も、ガレスはそうしたいと思い、しているだけのことなのですから」

 彼女は血色の良い頬を緩ませている。その一点を見つめながら考えた。

 

(ガレスも……苦しいことがあったとしても、再び笑顔を浮かべることの出来る人間なのか)

 ドレイク、アン、メアリー、ガレス。

 皆が皆、それぞれの人生を歩み、泣き、苦しみ、そして死んで……。

 サーヴァントという存在になった後も、笑うことができる。

 

(なんて……強いのだろうか)

 手が無いので、胸に寂しさを覚えてもそこを温める術がない。 

 

(俺も、いつか笑えるだろうか。

 敵を貶める時の邪悪なものではなく、皆のように……)

 そう、例えば。

 

(──アスカみたいに、親しさや喜びからの笑みを浮かべることが出来たなら)

 可能性を思いながら下を向いていると、ガレスに肩をポンポンと叩かれる。

 

「お話とお洗濯につきあってくださり、ありがとうございます。

 そろそろ休まなければ。明日も一日探索でしょうし」

「……ああ、そうだな」

 ガレスは俺の腰にランプを括り付けると、洗濯物を腕に抱える。

 

「アーキマン殿、先達をお願いします」

 暗い通路に入り、オレンジの照明で照らされていた泉を後にした。

 

 

 

 

 翌日。

 翌々日。

 翌々々日。

 そして……今日。

 

「むー」

「りー」

「だー」

「よー」

 アジト内の机に突っ伏しながら泣き言をうめいているのはアンとメアリーで。

 

「ふぅむ……」

 難しい顔で壁に何やら図形を描き、タブレット端末(電源はどうしているのだろう)を睨むような顔で見ているのはドレイクで。

 

「うーん、どうしましょう。八方塞がりと言いましょうか……」

 部屋の片付けも終えて、ぼんやりと椅子に座っているのがガレス。

 

「……」

 彼女から少し離れた場所にある椅子に座り、だんまりを決め込んでいるのが俺だった。

 

「砂塵の勢いが強すぎる。おかげで地形も変わって今までの地図は役立たずに。

 ちょっとは見れていたお日様も、ここ数日はどこへ行っちまったのやら……」

 ドレイクのぼやきを耳に入れながら、岩の天井を見上げた。

 俺が目を覚まし、このお宝探しの一味に加わってから、はや4日。

 探索は、遅々として進んでいなかった。

 

 

 第93話 だから笑顔でいたいと

 終わり




 単語説明


 薄紫色のリボン
 ブラダマンテ、ガレスの二の腕に巻かれている、花弁のような雰囲気をまとっているリボン。
 この世界のサーヴァントは、番号が記された腕章を持っているのが普通だが、ブラダマンテ、ガレスはそうではなく、代わりにこのリボンを身につけていた。
 両者ともに、このリボンに覚えはなく、不思議がっている。
 しかしガレス曰く、「マーリン様の魔力を感じる」……らしい。
 謎多き代物。
 ……誰かが彼女達へ贈ったのだ。何のために?
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