フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 アーチャー961が目覚めてから4日経ったが、砂塵の迷宮の探索は遅々として進まない。
 本日の探索を、砂嵐を理由に諦めたドレイク達。時間ばかりが有り余る。
 『迷宮の中は大気中の魔力が濃いのでサーヴァントは簡単には消滅しない』と仲間達から聞かされていた961であったが、先の見えなさに焦燥が募っていた。
 そんな閉塞感に満ちた空気を変えるため、ドレイクは全ての物資を豪快に使い切る酒盛りを思いつく。
 961も巻き込まれ、久方ぶりに和気あいあいとした空気を楽しんだのであった。

 夜、場酔いをして眠っていた961が目を覚ますと、ドレイクの姿が見当たらない。
 深い考えも無くアジトの外へ出てみると、ドレイク……ではなく、彼女の姿をしたダユーが立っていた。ダユーは961を巨岩の上へ誘い、彼はその提案にのる。

 石で出来た舞台、テーブルを挟んでダユーと961は会話をする。
「あなた、まだ自分がサーヴァントだと思っているのね」の言葉に、心を乱される961。
 ダユーは自らの特異性について語り始める。
 曰く
「この世界で目覚めた瞬間から、フランシスとぐちゃぐちゃに混ざった存在となっていた」
「フランシスがわたしの影響を受けたように、わたしも彼女から影響を受けた」と。
 961は、目の前にいる彼女が、自分と同じ『混ざりもの』のサーヴァントであることを知る。
 
 混ざりもののサーヴァントや、この世界に起こっている奇妙な現象の数々について、考えを語るダユー。それは女神リリスの影響以外にも、『聖杯』によるものではないかという仮説であった。
 言葉を受け、「もし聖杯があり、それに願いを託すことが出来たなら……」と、961は想い馳せてしまう。
 そして、「こんなに分からないことだらけで、俺は彼との約束を果たせるのか?」との不安も。
 堂々巡りに陥りかけた961の思考を止めたのはダユーの声。
 彼女は「あの男なら、知っているかも」と話し始める。

 「世界で一番古い英雄。彼なら」

 その言葉に呼ばれたかのように、夜空に輝く船が現れる。
 石舞台へ降り立ったのは、金の鎧を身に纏った『王』。
 ……英雄王ギルガメッシュ、その人だった。
 彼はこの場へ、何のためにやってきたのか……。


第95話 教えて英雄王 ~キリエライトとカルデア、北極平和祈念碑~

 

 

「ああ残念。

 恐ろしい暴君ギルガメッシュが来たのだから、わたしとあなたのお話はここまでね」

 夜空に浮かぶ金の船を見上げながら、ダユーはつまらなさそうに言い放った。

 

「本当に残酷な人。まるで嵐に人の心がくっついているみたい。

 唐突で、暴力的で、根こそぎ取ってしまったら……去った後に花の種を蒔く。

 それって、奪うだけより残酷なのよ? お分かりかしら、自分の国すら壊した王様?」

 船と同等の輝きを放つ鎧をまとったギルガメッシュ。その赤の瞳が横へ動き、彼女を見た。

 

「──長々と喋り、賢しさをひけらかすな、雑種」 

 緋色の瞳に熱はない。ただ込められているのは「目ざわり」だとでも言わんばかりの冷徹さ。

 

「貴様がこの場に留まることを(オレ)は認めん。疾く失せよ」

 続いて投げられた声も冷ややかで、殺気だけは感じられないのが不思議なほどだった。

 

「男同士、秘密のお話ってやつね? いいわ……聞きたい……とても……。

 それにね、それにね?」

 しかしダユーはそんなことを気にも留めず、靴で砂を踏みながら彼に近づく。

 

「ギルガメッシュ王、あなたが伝説に謳われた通りの男なのか……見て、触れて、感じて、味わいたいの。

 こんな機会、なんど生まれ変わったって無いでしょう。だから、わたし、あなたから……」

 彼女の熱い吐息と柔らかな体が、ギルガメッシュの鎧に接触するかしないかといった、その時。

 

「っ! ダユー!!」

 俺は渾身の力を込めて彼女の体を蹴り飛ばした。

 

「きゃん」

 甘い鳴き声と共に地面へ転がる彼女。

 ……そんな彼女が先ほどまで立っていた場所には、鋭い剣が突き刺さっていた。

 

(間違いない、ギルガメッシュがダユーを攻撃したんだ……)

 数秒前のことを思い起こす。

 彼女があの男に最も接近した瞬間、男の背後の空間が歪み、そこから剣が射出されたのを、この目ではっきりと見た。

 だからこそ、ダユーに攻撃が届く前に行動を起こし、守ることが出来たのだ。

 ……かなり荒っぽい方法ではあったが。

 

「……」

 腕を組んだギルガメッシュは、無言で俺達を見つめていたかと思えば。

 

「娼婦の真似事、それを見るのも一興かと思ったが……あまりに稚拙」

 慈悲など感じられない声を、ダユーへ投げる。

 

「──同じ事を、我に二度も言わせるなよ、女」

 ギルガメッシュのかたわらの空間は夜の色を失い、輝く金の波紋が広がっており、その中から次に飛ばされるであろう剣が、その先を覗かせていた。

 

「……存外遊びがない人なのね、金色(こんじき)の王様」

 俺はダユーと彼の間に立ち、いまだ地面から起き上がれない様子の彼女の盾となる。

 

「これだから赤い目をした男は嫌いだ……!」

 苦々しく吐き捨てる俺を見て、ギルガメッシュは片眉を上げ、何が楽しいのか微笑んだ。

 

「助けてくれたのね。方法はちっともスマートじゃなかったけど……」

 俺にそんなこと言う彼女は、依然として起き上がろうとしない。

 むしろ両肘を立て、それに自らの頭を乗せて子どものようにくつろぎだした。

 

「ダユー、君が死んだら船探索の人手が足りなくなる」

 彼女を急かすため、俺は「逃げてくれ」の気持ちを込めて懸命に声をかける。

 

「あら、そんな理由? もっと可愛い理由ではなくて?」 

「ダユー! 話なら後で出来るだろう! 今は下がってくれ!」

「……アーキマンがそう言うのなら」

 俺が声を荒げたのを見て、しぶしぶ体を起こした彼女は、場に名残惜しそうな目線を投げかけた後、巨石の上から跳躍して降り、姿を消した。

 

「……はぁ」

 一触即発の空気も彼女と共に去り、石舞台の上には静寂が戻る……はずだったが。

 

「くっ、ふふっ、はっ」

 俺は目線をギルガメッシュへ戻した。

 見れば、彼は肩を震わせ、何かを堪えようとしていたが──。

 

「ははははは!! ふはははははは!!!!」

 耐えきれなかったのか、赤い口内を見せびらかすかのように大口を開けて爆笑し始めた。

 

「貴様……貴様、あの女から『なに』と呼ばれていた?」

 声はまるで別人かのように明るい。

 

「あ、アーキ……」

「よい、言うな。数秒前のことくらい覚えている」

 ダユーへ見せた態度との違いに、俺は呆気に取られてしまった。

 理由は不明だが、上機嫌な様子のギルガメッシュ。何もかも唐突な男の声は続く。

 

「それにしてもなあ……『アーキマン』、アーキマンだと? 

 なんと胡乱な……その名を選ぶとは、実に愉快なネーミングセンス。

 数百年ぶりの地上にて、これほど面白き事と出会えるとは……ああ、()()()()を引きずり起きた甲斐があったというものよ!」

 男は金の波紋の中から椅子を取り出すと、それに深々と腰をかけた。

 その後から勝手に飛び出して来た金細工のテーブルの上に、酒とグラスが自動的に設置される。

 笑って喉でも乾いたのか、男は自らグラスに酒を注いでは、ごくりと飲み干した。

 

「……それで幼子よ。いまは本当は何と名乗っているのだ?

 今度は笑いはせぬ。言ってみよ」

 男に対し、意を決する思いで、自らの口から名を告げる。

 

「……アーキマンだ。

 俺と約束した男の名、それを今は借り受けている」

「ふむ……」

 先に言っていた通り、男は笑わなかった。

 その代わり、顎に手を当て考え込むようなポーズを取る。

 

「急いて名を付ける行為など、褒められたものではないが……。

 あれか、産まれる前の赤子を呼ぶために、親が胎名を付けるようなものかと思えば……」

 ぶつぶつと独り言をいうギルガメッシュ。

 

(……この男、突如現れ、その目的も見えず、何を言いたいのかも掴めない)

 俺は警戒の意を込め。睨むような眼差しを向けた。

 

「そうだな……まずは場を整えるか」

 視線で機嫌を損ねるような素振りは無く、男は金の篭手を付けた腕を上げ、空間を横へと撫でた。

 その一動作だけで、月明かりに照らされていた巨岩の上が生暖かい闇に包まれていく。

 闇は、戦の時に建てられる陣幕のようなシルエットをとった。

 

「怯えずともよい。姿隠しと遮音の宝具だ。

 ……大方、あの海賊公女が岩影で聞き耳をたてているであろうからな。

 それに、リリスの伴侶に盗聴を許す我でもない」

「リリスの……伴侶?」

 引っかかった単語が思わず口に出ても、男は笑みを深めるばかり。

 

「あの幼き女神には、それに似合いの幼き男神が与えられていたのだ。

 まあ、この話を今日はするつもりはない。然るべき時に然るべき者が語る……」

 男は俺に上を見るよう指示をした。

 

「空だけは開けておいたぞ。

 星を見上げながら語る事こそ、夜話の醍醐味。そうでなければ、わざわざ外で話す意味もない」

 満点の星空から俺は目を逸らして、黄金の王を正面に捉える。

 王は客を歓待するかのように両腕を広げた。

 

「幼子よ。我に訊きたくてたまらぬ事が、十や二十では済まぬ数あるのだろう?

 では──()()()()()()()()。歓喜せよ、我は見ての通り上機嫌だ」

 どこがだ、と言いたい気持ちは飲み込んだ。

 

「問われし疑問、その全てに答えを与えようではないか!

 しかし無制限というのも緊張感に欠ける……そうだな、夜明けまで、としよう。

 そらそら、黙り込んでいる暇などないぞ」

 こちらの意見も聞かず、勝手に条件を決めた彼。

 俺は文句を言うよりも、空を見て現在の時刻を確認することを優先した。

 星と月の位置から考えるに、まだ朝は遠いと思われる。

 けれど、ただ質問をする前に、ギルガメッシュに対する感情を心の中でまとめてみた。

 

(ひとり悩んでいたら、『答えを知っている』と語る者が突然に現れた。

 しかも、夜が明けるほどの時間を、俺に与えるとまで言っている……)

 瞳に強い渇きを覚え、瞬きする。

 

(……状況が出来すぎていやしないか?

 それに、誘うような態度を見せたダユーへ、攻撃を仕掛けるほどプライドが高いというのに、俺相手には妙に上機嫌なのも薄気味悪い。

 しかし、これは得難い機会であることも事実だ……)

 好奇と疑念に心が挟まれる。

 情報も満足に集めることも出来ない自らの力不足に歯噛みしながら、男へ質問をした。

 

「……なぜ問うことを俺に許す?」

「それが第一の質問か」

 王はこりをほぐすかのように首を回した。

 

「予測通りで些か拍子抜けだが、答えてやろう。

 そうだな……幼子があれこれと無駄事を考え、知恵熱を出し、倒れられたりでもしたら適わん。

 今は、こう答えておくとしよう」

 考えておいた次の質問を飛ばす。

 

「……お前が語ることは全て真実か、偽りはないのか」

「第二の質問は地固めか、なかなか堅実よな」

 男は椅子に深く座りなおした。

 

「案ずるな、幼子に虚言を吹き込むほど腐ってはおらぬわ」

 次は、今俺が最も心を砕いていることについて訊く。

 

(……といってもだ)

 今から言うこの質問は、『地固め』というより、ギルガメッシュと全く関係性が無いように思えることについても、相手が答えてくれるのか確認するためという、意地の悪い問いかけなのだが。

 

「……俺は、ロマニ・アーキマンという男と約束をした。

 ある少女を探し、彼から預かった職員証を届けると。

 その約束の相手である『トワ・キリエライト』の所在について、お前は知っているか」

「──知っている」

 万物を探求した賢者の如く、落ち着いた声色で放たれた言葉に、俺は狼狽えずにはいられなかった。

 そんな俺を置き去りに、男は答えの続きを話す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、朽ちた星見(やぐら)にて墓を守り、帰らぬ者を待っているのだ。

 待ち人たるその相手が、お前が言う所のアーキマン……」

 声はよどみなく、俺の言葉を受けてその場で嘘を作っているようにも思えなかった。

 ……認めたくはないが、直観的に分かってしまった。

 ──この男は本当に、俺からの問い全てに答えるつもりであり、事実、それを行えるに足る真実を握っているのだと。

 

「……馬鹿な! そんな筈があるものか!」

 衝撃がまだ胸を走っているが、俺は動揺しながらも切り込んでいく。

 

「だってアーキマンは、彼女とは700年近く前に別れたと……」

 俺はトワなる少女について、「せめて痕跡くらい見つかれば」と考えていたが、まさかその本人が生きているとは思っていなかった。

 

「『あれ』は永遠を与えられている。簡単には死なん、壊れん」

「……トワ・キリエライト、彼女は何者なんだ」

「多くの人間が探し、求めた『不老不死』。その体現でありながら偶然の産物。

 ただの()だ。盾を振るう力すら持たぬ少女よ」

 ギルガメッシュはそこまで一息で言うと、酒をあおった。

 

「……次の問いはなんだ?」

 やや呆れたような声色。

 男は液で濡れた唇で、次から次へと言葉を求めてくる。

 俺の方が彼に質問されているかのような気持ちになってきたが、それは飲み込んで、問いかけを再開した。

 

「その場所の名を、はっきりと言え」

「……『カルデア』だ。かつて人類が打ち立て、ついぞ滅びた夢の跡地」

「跡地……ということは地名か。その『カルデア』はどこにある、どうやって行けばいい」

「カルデアは南極にある。だが、たどり着くためには『最後の海』を越えねばならん。

 貴様たちが這いつくばって探しているあの船では無理だ」

「なっ……」

 であれば、ドレイク達の今までの努力の意味は……と、虚無感に襲われそうになってしまう。

 

「捨てられた犬のような顔をするな。

 あの船も、『砂塵の迷宮』から抜け出るためには必要だ」

 頭を振って、俺は気持ちを切り替えた。

 

「……船のことは一旦置いておく。

 では、どうすればその『最後の海』を越えられるんだ」

「急がば回れ、との(ことわざ)もあろう。

 まずは北極に向かえ。そこに平和祈念碑がある。

 皮肉なことに、2017年の聖杯戦争終結のおり、『二度とこんな争いが起きぬように』と建てられた物、プロトタイプの軌道エレベーターでもあったが……今の貴様にはこの情報は余分か。

 忘れよ」

 ギルガメッシュは指の先でグラスを(もてあそ)ぶ。

 酒が波打つ音がして、その水面に映る月が目に浮かぶようだった。

 

「人々はそこに、カルデアから奪った戦利品を納めた。

 巨人の穴蔵から譲渡された、平面上の月……『ペーパームーン』なる機構。

 そして『シャドウ・ボーダー』という船を。

 どちらも虚数の海へと潜り、越えられぬものを越えるために作られた道具だ」

「きょ……すう?」

「『最後の海』は通常の船では渡れぬ、とだけ覚えておけばよい」

 男はグラスを置き、わざとらしい笑みを顔の上に作った。

 そして、白昼の太陽のように白々しい声で語りだす。

 

「おお! これで貴様の望みは全て叶うではないか!

 まずは北極に向かい、シャドウ・ボーダーを回収。

 然る(のち)、虚数潜航を用いて南極へ向かえば、アーキマンなる男が交わした約束の相手にも会える!」

 男は表情そのままに、俺をなぶるような目線で見た。

 

「しかし……条件を並べれば並べるほど哀れよな。

 約束を果たす道のりは、どうやら困難を極めている」

「それでも、それが今の俺にとっての『やりたいこと』なんだ」

 ロマニ・アーキマンとの約束。

 

(その約束こそが、今の俺が死んでいない理由であり、生きる(よすが)なのだから)

 思うだけで、心に温かな安堵が広がっていくが──。

 

「『やるべきこと』、ではなくか?」

 赤い瞳の男の言葉が、冷たく俺に浴びせられた。

 

「……やりたいことだ」

 強い語句で言い返せば、男は俺を鼻で笑い、酒とグラスを金色に輝く空間へ仕舞った。

 

「他者がための事ばかり問うな。貴様自身の疑問を寄越せ」

 その目に、「退屈」と言わんばかりの感情の色が積もっていく。

 

「……なぜ俺に情報を渡した?

 懇切丁寧に分かりやすく導線を引いてくれたが……何を企んでいる?」

 この答えによっては、俺は(きびす)を返し、巨石の上から降りて帰ろうと思っていた。

 

「幼子の手を引くのも王の役目……と言いたいところだが、見抜かれてしまっては仕方なし」

 男は後ろも見ず、宙にある金の波紋へ手を伸ばすと、小さな物を数個取り出す。

 

「我がこうして貴様に世話を焼いているのも……少々の老婆心に足し、我の蔵に収められていない『ある宝』を得るためであってな?」

 酒とグラスが先ほどまで置かれていたテーブルに、男は取り出した()を乗せた。

 

「……それは!」

 ──目に映し、物が何かを理解した瞬間、全身に怖気が走った。

 これは、こんな形で此処にあっていい()ではないと、魂が、心が、肉体が叫んでいる。

 

「やはり分かるか。肉のみとは言え、血の繋がりというのは因果なものよ……」

 こんな物を見せられては、帰ることなど出来やしない。

 男は複雑に沸き立つ俺の胸中を見抜き、それに愉悦でも得たのか、今にも笑いだしそうなほど口端をつり上げた。

 

「──人と太陽神の間に産まれし、ある男がいた。

 その男の母が、『神の子であるとの証明が欲しい』と父へすがり、望まれるがまま与えられた黄金の鎧。

 ……その半分だ」

 砕け、ばらばらとなり、本来の形と輝きを失った鎧が、テーブルの上にあった。

 

「半分……だと?」

 この鎧は、砂糖菓子のように易々と分割できるものではない。

 そも半分という言い方自体がおかしいのだと、腕があったならギルガメッシュに掴みかかりたいほど、俺の胸には動揺と混乱が広がっていた。

 

「鎧がなぜこうなっているのか、お前に仔細(しさい)伝えるためには……リリスの話を少しばかり吟遊する必要が出てくる」

「……ずいぶんと、リリスのことを親しげに呼ぶんだな」

 俺は顎を引き、あの男の鎧の表面を撫で続けるギルガメッシュを睨みつけた。

 

「何を隠そう、我を呼んだのはあの女だ。

 中身については辟易(へきえき)しているが、存在については……愚かすぎて、今更ただ切り捨てるのも(はばか)られる。

 サーヴァントである我からの……わずかばかりの憐れみ、と言ったところか」

 夜明けまでの時間が気にかかり、目だけを上に動かせば、星の位置が動いているのが見えた。

 男が降り立ったあの瞬間から少しばかり時間が経った、ということを俺は知る。

 

「では始めるとしよう。

 あの女神について物語られる機会など、これより先、未来永劫と無いだろうからな。

 人はいずれ、忘却をもって女神と決別をするだろう。

 ……話は長くなるぞ、座れ」

 しぶしぶ従うことにした。

 豪華な椅子に座る男とは違い、俺は武骨な作りの石の椅子へ腰を落とす。

 夜風が両者の髪を撫でたのを合図に、男は物語り始めた。

 

「──リリスは閉ざされたこの世界より、その桁違いな力を持って我を召喚せしめた。

 そして我と自らの肉体を触媒とし、7のサーヴァントを呼び寄せた」

 男は10の指をぱたりと折って、数えだす。

 

「セイバー、シグルド。

 ランサー、カルナ。

 ライダー、エウロペ。

 キャスター、エジソン。

 アサシン、セミラミス。

 バーサーカー、ヘラクレス。

 そして……道化たるアルターエゴ」

「アルターエゴ? エクストラクラスのことか?」

 流石にそれくらいの知識は俺も持っている。

 

「……そうだ。

 7体目の8体目、本来現れる筈も無かった『あの男』だけが、真にリリスのサーヴァントと呼ぶべき者であったが……これも無駄事か」

 一度息を吐くギルガメッシュ。

 

「閉ざされた世界? 真なるリリスのサーヴァント?」

「そう話の腰を折るな、幼子。終わりまで語らせよ」

 彼は指先を開き、話の続きを口に出していった。

 

 

 第95話 教えて英雄王 

 ~キリエライトとカルデア、北極平和祈念碑について~

 終わり




 単語説明


 トワ・キリエライト
 2010年代から2700年代にかけ、生き続けている少女。
 カルデアで産まれ、カルデアで育ち、今もカルデアにて死者を弔っている
 『偶然』にも不老不死となった彼女の存在の発覚で、世界は、当時の人口2/3が失われる世界大戦へと突き進み始めた。


 カルデア
 人理継続保障機関フィニス・カルデア。世界の果て、南極に建てられた施設。
 偶然にも大聖杯を手に入れてしまった組織であり、700年前の世界大戦の原因。
 度重なる攻撃により地上施設は半壊してしまっている。
 ここより奪われた技術の一部が、世界を円卓へと作り変える儀式の場となった『軌道エレベーター』の建設に用いられた。
 しかし、表には出されず、北極平和祈念碑へ隠された技術・物もあった。
 それが『シャドウ・ボーダー』や『ペーパームーン』である。


 最後の海
 カルデアが建つ南極、その周りを覆う、現存している世界最後の海。
 普通の船などで渡ることは到底不可能。


 北極平和祈念碑
 世界の果てにある、冷たい北の記念碑。
 ギルガメッシュが語った通り、2017年、聖杯戦争の一時休戦締結が叶った際、『二度とこんな争いが起きませんように』との祈りを込め、建てられた。
 プロトタイプの軌道エレベーターでもあったが、聖杯戦争の再開と、魔術儀式的な都合により、建造は中途で終わってしまった。
 祈りの夢、それが裏切られたことを嘆くかのように、未完の碑は天を指している。
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