フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 ギルガメッシュが語るのは、リリスが呼んだ8騎のサーヴァントと、彼が行った『裁定』、そしてカルナの鎧が欠片となった経緯について。

 他の7騎がリリスに忠誠を誓ったのに対し、ギルガメッシュ王は彼女を文字通り切り捨てようとした。
「『人の管理者』としては、あまりに稚拙に作られた女」と感じ、だからこそ「死した星の上で永久(とわ)に一人となる前に、殺してやろうと刃を向けた」のだと。
 しかし、王の刃は他のサーヴァントの手により防がれて、彼はリリスの意向もあり、封印される運びとなってしまう。
 その封印のため、作られたのが『黄金の櫃』。その材料としてカルナが差し出したのが、自身の黄金の鎧、その半分だったのだと。
 
 そこまで話したギルガメッシュであったが、唐突に話題を変えようとした。
 彼の態度に不信感を覚えたアーチャー961は、世界と女神の謎へ深く切り込むためにも、自らが何を知りたがっているのかを考えだす。
 出た答えは……「リリスの事をもっと知りたい」「知らなくてはいけないと思う」といった、義務感にも似た強い思いだった。
 961が抱いた気持ち、それをそのままぶつけてみれば、ギルガメッシュは覚悟を問いて来た。

「知れば、今までの貴様には戻れなくなるぞ。
 ここで問いを終えれば、貴様の旅の終わりは『アーキマンとの約束の成就』になるだろう。
 だが、これ以上続けるというのであれば、その終わりは変容する。
 貴様の存在の『消滅』こそが、貴様の旅の終点だ」
 強い言葉にひるみそうになる961であったが、「知りたい」という気持ちが彼の背中を押し、王に再度問いかけた。

「──俺は知りたい。リリスの事も、400年前、何が起きたのかも」
「覚悟を持たぬまま欲を振るった事、精々後悔するがいい」
 ……ひりついた空気の中、話が再開する。それは、核心へ至る王の語り。


第97話 教えて英雄王  ~この世界に対する女神リリスの功罪~

 

 

 命の気配が一切無い砂漠に、冷たい大気が満ちていく。

 ……ここに在るのは、サーヴァントという過去の亡霊だけ。

 その亡霊の一人、ギルガメッシュが俺に物語る。

 400年前、まだ少女であった『女神リリス』が、何者で、何を行い、どうして現在にまで至ったのかを。

 

 

「黄金に輝く封印の櫃の中。いかに炎熱地獄とはいえ、焦げる事に慣れれば思考は組み立てられる。

 くだらなき事、くだる事、様々考えていた。

 ……リリスの目を盗み、我へまめまめしく外の情報を教える者もいたしな?」

 俺が尋ねる前に、男は先を言ってしまう。

 

「リリスのアルターエゴ、奴の事よ。無聊の慰めとして、道化の声に耳を傾けてやる事とした。

 よって、これより話す事は一部奴の言葉を借りたものとなる。

 それを念頭に置いておけ。良いな?」

 肯定の意味を込め、俺は無言で頷いた。

 

「奴は様々な事を話した。

 リリスの産まれた理由、なぜ家族を求めるのか、サーヴァントたちに何を行わせているのか。

 世界がどうしてこのような形となったのか、今を生きる人間たちは何をしているのか」

 風も止まり、今俺達の間には星の煌めきだけがある。

 

「まずはリリスの産まれた……いや、作られた理由を。

 アルターエゴが言うに、リリスは『世界の管理者』として作られ、しかして考えの足りない、軽い神輿だったそうだ。

 我ならばこう言い表すがな。

 ……人間どもが、『リリスのせいである』、『自分たちは命じられてやっただけ』と、責任を転嫁するために(あつら)えた()()()()()だと」

 子馬鹿にする響きが込められたその発言。

 

「それではまるで……」

 声を出そうとして、はたと気づく。

 

(まるで……なんだ、俺は何と言いたい?)

 ざわつく脳裏に浮かんだのは、二人の男の姿。

 ──戦場のただなか、動けぬ戦車の上で、敵を倒す技を呪いによって思い出せず、泥と血にまみれ、誰かを見上げる白髪の男と。

 ──それに矢を向け、殺そうとしている黒髪の男。

 ……そのイメージが流れ出すのを止めることが出来ない。

 一度まぶたを閉じる。

 

(……とうの昔に終わった物語だ)

 この戦いと犠牲をもって、世界の善悪は正しい流れを取り戻した。

 それが、必要なことだったから。流れた命だって、必要なことだった。

 

(そうだ、俺はこれを言いたい。リリスはまるで……『これ』のようだと……)

 だが、相応しい単語は見つからず。

 

「リリスはまるで……犠牲となることを期待された、人柱じゃないか……」

 逡巡し、近いと感じた言葉をいってはみたが、自分の気持ちを正しく表現できたとは思えなかった。

 そんな俺に見定めるような視線を向けながら、ギルガメッシュは片方の眉を吊り上げる。

 

()()()()?」

 何を当たり前のことを……と、断言せんばかりの口調だった。

 

「貴様が言った通り。リリスは、世界を救うがために作られた人柱だ」

 男は俺を笑いながら、詳細な説明を始める。

 

「400年と少し前。

 人は、救済の女神の存在を求めながらも、その力を管理し、最後には簡便に殺せないものかと考えていた。

 なぜ管理が必要か? なぜ殺す必要があるか分かるか? アーチャー961」

 俺は黙り込む。

 

「それはな、女神は生命(いのち)を生み出す力を持つが故に、時に怪物を創り出すからだ。

 ……神の思うがままにさせれば、世界の荒廃を癒せても、人類が霊長の座から追い出されかねんからな」

 神という存在に対する人間達の勝手さを思いながら、声に耳を傾ける。

 

「よって、管理し、殺しやすいよう、幾つかの伝説を混ぜ合わせた人工の神が作られた。

 名を……『有機人造女神リリス』」

 どのような方法を使ったのか想像もできないが、人間の技術というのはとうとう、人類にとって都合の良い神を作るところまで行き着いてしまったらしい。

 

(……アルジュナが生きていた時代では、考えすら浮かばなかったことだ)

 俺の胸中などよそに、ギルガメッシュは作りものの神の話を続けた。

 

「『リリス』という名は、様々な伝説を背負っていたが、その中に『悪霊や悪魔の母である』というものもある。

 魔術師、科学者はその伝説に期待して女神を作り、世界を救う力を持つ怪物を産ませようとした。

 ところが、女神は『産む』という行為に耐えられなかった。

 アルターエゴが調べた情報によれば、何百と作られては死に、廃棄されたとか」

 同じ顔の死体が幾重にも積まれ、山となっている情景がありありと思い浮かべられるのは、その光景を俺が知っているからだろうか。

 

「失敗の理由など、我にはおおよそ見当ついているがな。

 ()()()()()()()()()()()()()

 当たり前と言えば、当たり前の理論だろう。

 ……女神はきっと、子を産むには何もかも未熟すぎた。

 体も、心も、魂も。

 

「リリスに怪物を産ませる案は保留となった。

 次なる新しい計画を元に作り出されたのが、貴様が知っているリリスだ」

 男の言葉で、金の髪の中に桃色の毛を混ぜている、あの美しい女の姿を思い出した。

 

「救済に必要な知と力だけを与えられ、それ以外は何も与えられず。

 罪を背負い善行を積み、役割を終えれば速やかに処理される、少女の形をした肉……」

 俺が出会ったリリスは、何体もの犠牲の果てに出来た産物なのかと、切なさにも似たものを抱いてしまう。

 ……上から目線な感傷だと、自分でも思うが。

 

「次に、なぜリリスが家族を求めたのか、8騎のサーヴァントを召喚したかについて。

 結論から言えば、リリスの成長にそれらが必要だと製造者どもが考えたからだ」

 彼女の背景を知れば知るほど、心の中にしこりが育っていく。

 思わず下を向きそうになる顔を上げ、半ばやけくそのような気持ちでギルガメッシュを見ていた。

 

「幼き頃のリリスは、産まれてきた理由を、世界含む人類の救済のためだと信じ切っていた。

 そのために『自らの成長』が求められているとも」

 ……男は笑みを浮かべるでも哀れみを見せるでもなく、至極真面目な顔で言葉を紡いでいた。

 

「そしてリリスは、製造者たちから願われた通り、『自分を育てるため必要な、家族と成りうる存在』を呼び寄せた」

 ……サーヴァントの召喚すら、彼女自身の意志ではなく。まるで糸で吊られた人形のようで。

 

「リリスと製造者の目的は違う。先ほどのはいわば建前よ。

 製造者どもは、喚んだサーヴァント全てをゆくゆくはリリスに喰わせ、怪物を産める状態まで、強制的に肉体を成長させる事を目論んでいた……」

 道から外れたサーヴァントが行う『魂喰い』、それに近いことをさせようとしていたのか。

 

「まあ、人間たちはサーヴァントの存在に、餌としての役割以外にも感謝していたことだろうよ」

 男は当時の者のことでも思ったのか、せせら笑いをした。

 

「400年前の人類は、人工子宮で数を増やし、薬剤と学習装置でもって成長していた。

 リリスに必要とされた子育ての方法など、親のやり方など……誰も覚えてはいなかったからな」

 俺としては……強い感情の向け方となってしまうが、リリスの製造者に対し『無責任』や『身勝手』といったものを抱かずにはいられなかった。

 

「リリスはサーヴァントに囲まれ、愛され、自らをゆっくりと成長させながら、製造者から望まれたように、世界と人類の救済を始めた。

 2017年から細々と続いていた戦争により、資源は一部の人間に独占され、それの奪い合いで世界は荒れ果てていたからな。

 ……といっても、誰も彼も救うという優しいものではなく、粛清と弾圧によってだが」

 男がこれから語るものに嫌な予感を覚え、俺は唾を飲んだ。

 

「リリスが『人類』だと教えられていたのは、地下都市や空中庭園に住む上流階級たちのみ。もちろんここに女神の製造者たちも入る。

 地上に放逐されていた人類など、命とすら思っていなかった」

 ギルガメッシュは右手で上を指し、左手で下を指す。

 

「よって、ここにシンプルな敵対関係が産まれた。

 すなわち、『地上』と『地下』」

 話は続く。

 

「……対立は元からあった。

 2300年当時、地下都市は軌道エレベーターの数とほぼ同じ13しかなく、そこに住んでいるのは、聖杯戦争で益を得た国の要人、その子孫や、魔術師、貴族や資産家、知識人といった分類の者共で。

 荒廃した地上にいたのは、聖杯戦争で国ごと敗者となり、全て奪われた者共だったのだから」

 やや滑らかになった口で俺は問う。

 

「その上流階級は、現在いわれている上流階級と……」

「別物だ」

 思わぬ答えが返ってきたので、俺はそのまま問いを続けた。

 

「じゃあ、今の上流階級達は何者なんだ?」

 俺の前に突然現れてから、揚々と喋っていたギルガメッシュだったが、口の動きが止まった。

 奇妙な沈黙、数秒後に。

 

「……知らん」

 とだけ呟いた。

 

「なっ……貴方は俺に、『問えば答える』と言っていただろ……!」

 からかわれているのかと憤慨しそうになってしまったが、どこか空虚さを感じる男の顔を見るに、どうもそうではないらしい。

 

「知らん、分からん。何をもってリリスが階級を分けているかなど、理解したくもない。

 いつか奴に出会う事があれば直接聞いてみるがいい」

「っ……! そんな機会など欲しくない。リリスに会えば俺は殺されるだろう……!」

 彼女にはどうか、俺は死んだものだと思っていてもらいたい。

 道半ばで殺されて、北極にたどりつけなくなるのは嫌だった。

 

「話を戻すぞ。

 ……さて、粛清と弾圧に使われたのが、リリスに喚ばれたサーヴァントたちだ。

 それに対抗するため、地上の人間たちも組織立った。

 これが今に言うところのレジスタンスよ」

 カイヤ・トバルカインもそれについて話していたなと、10年近く前のことを思い出す。

 彼女は「400年くらい前に出来た」と、確かに俺へ語ってくれていた。

 

「レジスタンスはリリスのサーヴァントに呼び名を付けることで、己を奮い立たせていた。

 『特別な存在と戦っている自分たちは、選ばれた存在なのだ』と思いたかったのだろうよ」

 指折り数え始める。ギルガメッシュという男の指は忙しい。

 

「シグルドを『(ひるがえ)る魔剣の使徒』。

 カルナを『日の如き槍の使徒』。

 エウロペを『愛満つる白牛の使徒』。

 セミラミスを『天地()さす激毒の使徒』。

 バーサーカーは『狂える蝕みの使徒』。

 もちろん我にもあった。『封されし弓の使徒』……」

「エジソンは、『終わり無き製造の使徒』と呼ばれていた。

 ……違いないか?」

「然り」

 情報の裏がとれた……と、喜んで良いものだろうか。

 ドレイク達が会ったのは間違いなくリリスのサーヴァントであり、エジソンなる人物。

 でもなぜ、こんな場所にいて、ドレイク達を助けたのかの理由が分からない。

 

「それをなぜ貴様が知っているかについては不問とする。時間がないからな。

 そろそろ、リリスの狂気の理由へ触れるか……」

 ちらりと見た空。

 星々の位置は変わり、男との遭遇から長い時間が経ったことを俺に教えてくれていた。

 

 

 第97話 教えて英雄王  ~この世界に対する女神リリスの功罪~~

 終わり




 単語説明


 有機人造女神リリス
 世界を救い、その過程に発生した罪全て擦り付ける目的で作られ、最後には簡便に殺せることが利点……であったはずの女神様。
 2300年代、魔術使いであったトバルカイン家と技術者の協力の元、誕生。
 『リリス』という名が持つ複数の伝説を雛形としている。
 
 『救済の力を持つ怪物を産ませる』ことが第一の目標であったが、母体の幼さ故に失敗し、数百もの廃棄個体が発生したので、第二目標『リリスを成長させ、第一目標を達成させる』ことに計画が切り替えられた。
 今のリリスは、この第二目標を目指して作られた個体。
 彼女が呼び出したサーヴァントたちは、本来であれば彼女の餌となる定めだった。

 ……しかし現在、リリスは計画に沿うことなく、思うがままに振舞っている。
 
 
 上流階級
 2300年当時、軌道エレベーターとほぼ同じ数の13しかなかった『地下都市』、そこに住むことを許されていた人類。
 内訳としては、2017年から勃発的に発生した聖杯戦争で、益を得た国の民、要人の子孫、魔術師、貴族や資産家、知識人たちが占めていた。
 もちろん、現在の地下都市で言われている『上流階級』とは全く違った存在。


 レジスタンス
 聖杯戦争によって国ごと敗者となり、全てを奪われ、荒廃した地上を彷徨っていた人類が、女神リリス打倒のために組織立ったもの。
 人間とサーヴァントが手を取り合い、リリスや彼女のサーヴァントを倒そうとしていたが、空中庭園攻略戦の際、その多くが命を落とし、組織は離散した。
 そのため、2700年である現在、『アカツキ』、『トコヤミ』、『マヒル』といった大小さまざまな団体に別れてしまっている。
 

 リリスの7の滅びの使徒
 女神リリスが、ギルガメッシュと自身を触媒に、この閉ざされた世界に召喚したサーヴァント。本来の目的は、女神を成長させるための餌だった。
 リリスの手足が如く動き、レジスタンスやサーヴァント達を殺戮した。
 この呼び名も二つ名も、畏怖と共にレジスタンスが付けたものである。

 クラス順に

 セイバー   シグルド    『(ひるがえ)る魔剣の使徒』
 アーチャー  ギルガメッシュ 『封されし弓の使徒』
 ランサー   カルナ     『日の如き槍の使徒』
 ライダー   エウロペ    『愛満つる白牛の使徒』
 キャスター  エジソン    『終わり無き製造の使徒』
 アサシン   セミラミス   『天地()さす激毒の使徒』
 バーサーカー ヘラクレス   『狂える蝕みの使徒』
 アルターエゴ ???     『???』

 となっている。
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