フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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第99話 あの女神()の旦那が言うことにゃ……

 

 

 ──ギルガメッシュとアーチャー961との別れから数時間後。

 『砂塵の迷宮』端。荒野の高台にて。

 

 

 天翔ける船を自らの蔵内へ仕舞った黄金の王は、椅子に座ると、日を遮る天幕の下、自動的に風を送ってくる大羽を稼働させ、くつろいでいた。

 手には粘土版で作られた書籍があり、文字列を眺めている。

 ともすればこのまま午睡でも行いそうな和やかな空気だが、その空気を変える『存在』がやってきて、王に声をかけた。

 

「ギルガメッシュ王、ご機嫌麗しく……」

 男性、らしく聞こえるよう整えられた声。

 

「400年と少しぶりでございます」

 その『存在』は、目の前の王へ敬意を示すためか、前方に当たる部分を礼するかの如く下げた。

 

「先にリリスが我を見つけると思っていたがな。

 貴様が来たか」

 ギルガメッシュは粘土版を閉じ、傍らにあったテーブルへ一旦置く。

 どこか気だるげな王へ、その『存在』は勝手知ったる態度で話しかけた。

 

「まさかこの『砂塵の迷宮』にいらっしゃるとは思わず、時間を使ってしまいましたが……。

 ともかく、リリスより先にお会いできてよかった」

「貴様、我をつけていたのか?」

「そんなこと……していません。

 都市運営システムとワームたちのカメラシステムを、バックドアから少し……ごにょごにょして、探したのです。純然たる努力の産物と言えます」

 挨拶と経緯を話しながら、細い四本足でバランスを取って歩き、ひょこひょこと近づくその『存在』。

 

「リリスは……貴方様が封印から逃れたことに気づき、探している。

 見つけ出した(あかつき)には──貴方様を殺害するでしょう。

 だからこそ、死ぬ前にお会いできてよかった」

「殺されるつもりなど毛頭無いが」

「その言葉通りになれば……良いなと思っていますが、リリスの成長の幅は未知数です。

 何より、彼女は令呪もサーヴァントも『ヴリトラ』も抱えています」

「どうであれ結果は見えている。リリスの先には破滅しか待っていない」

「だとしても……心配になります、私は」

 話すその存在へ、ギルガメッシュは小動物でも見るかのような、どこか眠たげな眼差しを向けた。

 

「あの男に語るべき事は言って聞かせたぞ。我の言葉だ、少しはしゃんとしよう。

 ふはは……知れば、リリスはさぞや歯噛みするであろうなあ?」

「ああ……それは残酷なことをなされましたね」

 哀れみが込められた声で、その『存在』は話す。

 

「あの検体は……こう評したくはないのですが、失敗作。

 レジスタンスが求めた、リリス殺しの救世主にはなり得ない。

 遠からず自壊するという点においても、リリスの子らと変わりないでしょう。

 残酷な真実や過去を伝え聞かせたとして、何になるのか。

 知らぬことは知らぬままで良いのです、それも幸福の形の一つだというのに」

 ギルガメッシュが言葉を返す。

 

「確かにあやつは(いとけな)い。であるからこそ、苦難を与え、育つ様を目に映したくなるのだ。

 そして、どのような答えに至り、終わりを迎えるかまでを……な」

「聖杯の……ありかについても、お話になられたので?

 しかしよろしかったのですか。貴方様は……」

「血生臭い『聖杯』だ。蔵に収めれば他の宝物(ほうもつ)が汚れよう。

 やはりそうだな……あれの結末の方がよほどそそられる……」

「ギルガメッシュ王は……少々残酷に過ぎます」

「はっ! 貴様に何を言われようと響かんわ!」

 王が座る椅子の側に、その『存在』は腰を下ろし……というより、体を四角く畳んだ。

 その動作から発生している音を聞き流しつつ、王は言葉をかける。

 

「石と油、郷愁と物語より作られしもの。女神の伴侶、血潮無き冷たき()()()よ。

 夫として、妻の行いをどう考えている?」

 名を呼ばれた『存在』は、とても奇妙な姿をしていた。

 大きさは、子どもが腕に悠々と抱えられるくらい。

 角の丸い四角い体、その側面には、細い金属フレームへ人工筋肉を纏わせた足を4つ付けている。

 頭に当たるパーツは無いが、胴体前方に埋め込まれている大きなカメラが、一つ目のように輝いていた。

 今現在は、座る犬のように全ての足を折り畳み、実にコンパクトな形となっている。

 いわゆる『ロボット』の体をもったアダムが話だす。

 

「私は……とうの昔に離縁を言い渡された身。

 彼女の求める家族にはなれなかった欠陥品。

 ……感傷を覚える資格など無いのです。

 しかしそうですね……全てが終わりを迎える前に、私が動き、語る時が来たのかと感じています」

 ぼそぼそと呟くと、アダムの胴体、その上面が開き、中からロボットアームと小型ソーラーパネルが伸びてきた。そして、発電、蓄電を始める。

 

「我を前にして食事を摂るか」

「慌てて……飛び出してきたせいで、蓄電池に不調が。なのでこの辺りで充電を。

 ……それに、AIを搭載した自動人形である私を、無礼打ちにするような御方ではないと知っています」

「貴様は壊しても限りなく、徒労が募るばかりだからな」

 王はテーブルに置いていた粘土板を手に取り、再び文字列を読み始める。

 

「しかし……ギルガメッシュ王、どのようにして封印から逃れたのです?」

「リリスが『ヴリトラ」へ命じた攻撃、それに乗じただけの事」

「『あれ』が……放つ光線は、地形を変えるほどですからね。

 (ひつ)が軋み、封印に綻びが発生するのも納得です。

 私の()()があの場所からお出かけ出来ないのも、そのせいですし」

「『あれ』の目が届かぬ場所など限られるからな」

 王は視線を手元の粘土板から空へ投げた。途中で途切れた男の言葉を、アダムが補足する。

 

「北極……南極、『砂塵の迷宮』。それくらいでしょうか……」

「あと2つほどあるが。

 ……哀れよな、奴は己の体すら見えなくなったらしい」

「嫌なこと……嫌いなことから、目を背けたくなるのは心として当然の動きです」

「それは少々(おもむき)が異なるぞ、アダム。

 怪物へ変じた者が、そうなる前の『己』を直視しても、()()事は認識出来ぬ……それと同じ意味だ」

「食べ過ぎてしまった人間が、体重計に乗りたがらないようなもの?」

「違うと言っていよう。

 ふん……400年前より変わらん。洒落のセンスがずれた男め……」

 鼻を鳴らした後、王は目を文字列に落とし、読書を再開する。

 その横で、アダムは充電を続ける。

 ──太陽の下、王と機械の奇妙な時間が流れていった。

 

 

 第99話 あの女神()の旦那が言うことにゃ……

 終わり

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