酒呑少女の迷宮冒険譚   作:ktwr999

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第三話

「おかえり」

 

 

 マンションの一室。俺は一人暮らしをしている。玄関を開けて部屋へ入ると、誰も居ないはずの部屋から声をかけられる。聞き慣れたその声に特に驚くということもなく。

 

「ただいま。今日は随分早いんだな」

 

 返事をしながら、手に持ったビニール袋から缶ビールを取り出し、開ける。プシュっという音と共に溢れ出る泡に、俺は慌てて口を付け、中のビールを一口喉に通す。

 

「仕事が思ったよりスムーズに終わったから」

 

 居間に行くと既に缶ビールを開けて寛いでいる友人が目に入る。普段からよく家に遊びに来ては一緒に酒を飲む友人。いつぞやの冬に家の扉の前で凍えながら俺の帰りを待っていたのを見つけてコイツに合鍵を渡したのも結構前で、もう随分長い付き合いになる。

 

「飯は?」

 

「作ってある。用意しとくから着替えて来れば?」

 

 今にして思えば合鍵を渡したのも正解だったな。めちゃくちゃ気が利く。

 出会いはいつだっただろうか。どこかの居酒屋かバーとかだっただろうか。ただなんとなく気が合って、一緒に酒を飲んで、気が付くと家に居着くようになってたってだけ。

 

「「いただきます」」

 

 着替えを済ませ、2人向かい合い酒を飲みながら飯を食べる。

 コイツの作る飯は美味い。一応一人暮らししているからには俺も多少は作れるのだが、料理スキルは友人の方がだいぶ高い。今日のメニューはハンバーグ。仕事終わりの人間が作るには面倒なそれを、友人はさらっと作っていた。そんな料理に舌鼓を打ちつつ、他愛ない会話に花を咲かせる。仕事の愚痴、笑い話、悲しかった事やちょっとした相談事。ありきたりな話を肴に酒を飲んでいった。

 

 

「さて……」

 

 食事を終え片付けも済ませると、俺はパソコンの電源を入れ、もはや日課となっているオンラインゲームを起動する。

 

「まだやってんの、それ?」

 

「やめるにやめられなくてな。言ってもログインボーナスとかデイリーミッションしかやってないからな」

 

 今はやっていないが、友人も一時期このゲームで遊んでいた事があった。その時期、俺も友人もガッツリこのゲームにのめり込んでいたのはいい思い出だ。

 

「相変わらずその女の子のキャラ使ってるんだ、ネカマ」

 

「ネカマとか言うな。男のキャラだって使うぞ? それに、これは()()()()()()()()ゲームだ。」

 

「出たよ、それ。チャットしてると本当に女の子とゲームしてる錯覚に陥るの、懐かしいよ」

 

 どこか遠い目の友人。

 

「やるからには徹底的に、な」

 

 そんな友人に向かってサムズアップをする。

 

「そっか。まあ、程々にな。それじゃ今日はもう帰るわ」

 

「おう。気をつけて帰れよ」

 

 俺は友人を見送り、作業の終わったゲームを終了してパソコンの電源を切る。

 その後は浴室へ行きシャワーで汗を流す。酒を飲みながらテレビのニュースをぼんやり眺める。続く天気予報によると、明日は夜から雨が降るらしい。念の為折りたたみ傘を持っていくか。

 そんなことを考えながらテレビを消し、寝室へと向かう。目を閉じる。明日は午後の会議が面倒だなと考えながら眠気に身を任せていく。

 

 そして、俺の意識は徐々に薄れていき……

 

 


 

 

 目を覚ます。

 

 夢を見ていた。いや、夢にしてはやけに現実的で、それは昨日まで当たり前のように過ごしていた()()だった。

 

 胸に手を当てる。ある。

 股間に手を伸ばす。ない。

 

 起き上がり見渡すと、見覚えのある質素な部屋で、胸の奥がチクリと痛む。

 俺は言い知れぬ不安と寂寥感を抑え込み、部屋を出る。

 

「おはよう。あれ? 1人?」

 

 外からの日差しが明るく差し込む室内の、真ん中の机で酒を飲む父親が目に映り、声を掛ける。

 

「お、起きたか。リアは用事があるらしくて出かけたぞ。とりあえず、まあ座れ」

 

 促され父親の正面に座る。すると父親は口を開き話し出した。

 どうやら俺が寝てたのは2~3時間程度のようだ。

 神酒の事、ステイタスの事、背負って運んできた事。それを聞いて俺も思い出す。神様に会いに行き、差し出された酒を飲み、意識を失った事、そして、その酒がめちゃくちゃ美味かった事。

 口に残るその感覚。

 どうやらあの酒、神酒には魅了効果があり、それによって得られる快楽は、いわば麻薬のように中毒性が高いものらしい。確かに美味かった。もう一度味わいたいと思うが、その快楽に溺れて廃人のようになってしまうのは恐ろしい。ある程度の【ステイタス】があれば魅了効果にも耐えられるらしい。

 

「あの程度の酒精で倒れるとは、お前もまだまだ飲み足りないな。ガッハッハ!」

 なんて笑われた。

 

 

 その【ステイタス】である。紙切れを渡された。普通というものがどんなものなのか詳しくは分からないが、ここ数日の成長具合が異常らしい。一般的に【ステイタス】の事を周りに喧伝することは良くない事だとされているが、今回の事は特に、誰にも漏らさないようにと釘を刺された。こういう異常事態(イレギュラー)は、他の神々や悪党などに目を付けられると、いたずらに弄られたり悪事に利用されたりと面倒になるらしい。

 

 【ステイタス】が書かれているらしい紙切れを父親に返す。

 

「なんて書いてあるのか分からないや」

 

 父親は紙切れを受け取ると、それに火をつけて燃やす。

 

「そうか、そうだったな。まずは共通語(コイネー)を勉強しなきゃな。ならちょうどいい、都市を歩き回りながら本屋で適当な本を買ってくるといい」

 

 そう言って、どこからかお金の入った袋を持ってくるとこっちへ差し出してくる。

 

「1人で?」

 

 受け取り尋ねると父親は頷く。

 

「俺はこれからダンジョンで稼いで来なくちゃならんからな。家族3人養うのも楽じゃないんだよ。ガッハッハ!」

 

 思いっきり酒飲んでたけど大丈夫なのか……?

 

「そっか。それじゃ、行ってきます」

 

 やや呆れつつ俺は立ち上がり、そこら辺に置いてあった背嚢にお金の入った袋と、念の為昨日ギルドで貰った地図を入れる。外套は……着なくていいか。荷物を手に取り部屋を出る。

 物静かなホームの雰囲気とは裏腹に足取りは徐々に軽くなり、外に広がるであろう異世界の光景を想像すると、自然と胸が高鳴っていった。

 

 途中すれ違った人たちと軽く挨拶交わしながらホームを出る。

 外は眩しいほどに明るく、ふと1羽の鳥が視界に映る。カラスのように真っ黒だったが、どちらかと言えば鳩のような姿をしている。近づいても飛び立つ気配はなく、こちらをじっと見つめていた。しゃがみ込んで手を伸ばす。おそるおそる羽を撫でてみると、どこか気持ちよさそうに目を細める。

 

 かわいい……。

 

 俺に鳥を愛でる趣味はなかったが、むしろペットなんて飼ったこともなかったが、なんていうか、ものすごく癒やされる。

 その鳥を手に乗せる。しばらく視線が合わさる。しばらく見つめていると、俺のことを気に入ったのか、鳥は羽ばたいて俺の頭の上に乗る。

 視界には映らないが、その重みと感触が心地よい。異世界でペットを飼うっていうのも悪くない。俺はそのまま街の散策をすることにした。

 

 

 大通りへ出ると、街は、夜とはまた違った賑わいを見せていた。商店を回って買い物をする人たち、レストランやカフェで食事やお茶を楽しむ人たち、汗を流しながらどこかへ荷物を運ぶ人たち。そして、その人たちに溶け込むように自然に振る舞う神たち。どれもこれも、俺にとっては目新しく、思わず見惚れてしまう。

 

「カァ」

「あ、ごめんごめん」

 

 鳥が頭から肩に降りてきた。意識がそちらへ向く。カアって鳴くくせにカラスにしては細い鳴き声だなあ。なんて考えながら、辺りを見渡し、近くの商店でパンを一片買う。父親から貰ったお金は結構な量だったので問題ない、はず。

 パンを小さくちぎって差し出すと、鳥はそれを啄む。

 

「よし、今日からお前の名前はクロだ。いい名前でしょ?」

 

 肩の鳥にパンをやりつつ話しかけると、鳥もそれを理解したのか、カアとひと鳴きしてパンを食べる。黒いカラスでクロ。我ながら安直だなあ、と思わず笑みが溢れる。

 

 それから俺は賑やかな街並みをクロと一緒に散策した。

 まるでお祭りの屋台を練り歩くかのように、買い食いしたり飲み歩いたり、衣装屋でファンタジー色全開な服に目を奪われたり、道具屋では見慣れない道具に興味が湧いたり、装備屋や薬屋では多様なその種類に感心したり、気前のいい店の人に色々サービスされたり、神様にナンパされたりもした。断ったけど。なんていうか、こちらを見る目が怪しかった。

 

 気が付けば陽も傾き始めていた。

 

 そろそろ目的の本を買わないと。

 文字の勉強用だし、辞書のようなものと子ども向けの本を何冊かで大丈夫かな。それなら古本屋とかでいいか。

 そんな事を考えながら1つの路地にチラと視線を送る。偶然にもそれらしき店が目に入る。通りの喧騒とは対照的に物静かな雰囲気だった。歩いていくと肩のクロが肩から羽ばたき、その店の軒に止まる。飽きられちゃったかなと少し寂しさを覚えたけど、じっとこちらを見るクロの目が「さっさと用事を済ませて来い」と訴えているように感じられ、俺は店の中へ入っていった。

 

 店の中は狭く、人ひとりがギリギリ通れるほどの通路が幾つかあり、その奥に店員と思われる人がカウンターに座っているだけだった。

 通路の1つに入り、目当ての本を探し始める。すると、隣の通路から可愛らしい声で「んーっ」と踏ん張るような声が聞こえた。俺の他にも客が居たのだろうか。チラと隣の通路を覗き込む。

 

 神様がいた。

 

 俺と同じくらいの背丈の少女のようで、それでいて大きな果物を彷彿とさせる豊満な胸。あれ、俺のより大きいのではなかろうか。長いツインテールの黒髪を揺らしながら、本棚の上の方に手を伸ばし爪先立ちをしていた。

 どこか庇護欲を掻き立てられ、近くにあった踏み台を持ってその背に声を掛ける。

 

「よければこれ、使ってください」

 

「ん?」

 

 振り返ったその顔は神様らしく整っていたが、どこか幼さがあって愛らしい。

 

「ああ、ありがとう。えっと……?」

 

「あ、私、エリナ・バルフィングっていいます」

 

「ん?」

 

 俺が名乗ると、その神様は不思議そうな顔をする。

 

「どうかしましたか?」

 

「んああ、いや、なんでもないよ。ボクはヘスティア、見ての通り神様さ。そっちこそ、こんな寂れた古本屋に来るなんて随分珍しいじゃないか」

 

 店の人が聞いたら怒り出しそうだが、奥の店員は聞こえていないのか反応がない。

 

「ちょっと買いたい本があるんですけど、新品で買うような本でもないので」

 

「何を探してるんだい、手伝うよ?」

 

 どうやらこの古本屋の常連らしい。せっかくだし手伝ってもらおうか。

 

「ちょっとした辞典と子ども向けの本をいくつか買おうかと」

 

「ふーん。君、子供がいるのかい?」

 

「いえ、私用です。私、記憶喪失――」

 

 そこまで言って思い出す。()()()()()()()()()。というより、この神様には()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――というか、()()()()みたいで、文字の読み書きもできなくなっちゃいまして」

 

「記憶障害……?」

 

 いまいちピンと来ていない様子のヘスティア様。ふと先程見ていた夢を思い出す。

 

「私、夢を見たんです。そこはこことはまったく違う場所で、私自身もまったく違う容姿で、朝起きて、食事をして、仕事に出かけて、日が暮れて家に帰って、のんびり寛いで、趣味に耽って、そして寝る。そんな当たり前のような日常を送る夢です」

 

 なぜだろうか。

 出会って間もない他人(かみさま)相手に言葉が勝手に溢れ出す。

 抑え込んだ不安と寂寥感が堰を切ったように流れ出す。

 

「休日は一日中だらだらと過ごして、友人とはお酒を飲んで他愛ない話に笑い合って、どうでもいいような日常だけど、それはとても充実してて……。でも、夢から覚めたら、私は私で……」

 

 最後の方は呟くような小声になる。

 俺は今までの日常に戻りたいのだろうか。そんな疑問に、胸の奥がチクリと痛む。

 なぜだろうか。頭のどこかに、もう戻れないのだろうという確信めいたものがあった。

 

「そっか」

 

 俺の話が止まると、ヘスティア様が優しく微笑み口を開く。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 そう言ってヘスティア様は店の奥の方へ行き、数冊の本を抱えて戻ってきた。

 

「これ、共通語(コイネー)の学習用の本と子ども用のちょっとした絵本さ」

 

 抱えていた本をこちらに差し出してくる。受け取るが、その意図がわからずに戸惑っていると、

 

「君にも主神がいるんだろう? だからボクから何か言うことはしないけれど」

 

 真剣な表情でこちらを見つめてくる。その瞳に吸い寄せられるように、視線を合わせる。

 

「……そうだね。1つだけアドバイスするなら、初対面の神相手に自身の事を曝け出すのは止した方がいい。基本的に神ってのは娯楽に飢えててね。君みたいに()()()()()を抱えてる子にはちょっかいを出して面白がる事が多いんだ。ボクはそんな事しないけど、気を付けたほうがいい」

 

「……わかりました」

 

 釈然とはしなかったが、ヘスティア様は彼女なりに俺の事を気遣っているのだと分かった。

 その後俺は持っている本の会計を済ませ、店を出る前にヘスティア様に頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

「個人的に面白い絵本を選んだから、読み終わったら感想を教えてくれよ。ボクはこの店にはよく来るからさ。最近は本を読む人が少なくて寂しいんだ」

 

 笑いかけてくるヘスティア様にこちらも笑みを返し、別れを告げて店を出る。

 

 さて、どうしようかな……。ソーマ様にさっきの話をしても、今朝会った感じだと反応無さそうだし……。うーん……。

 そんな事を考えながら路地を歩いていると、肩にクロが戻ってきた。

 

「カア」

「ああ、待たせちゃってごめんね」

 

 クロの頭を撫でてやる。嬉しそうに目を細めるクロ。ああ、癒やされる……。そうだよな。考えたって仕方ない。まずは共通語(コイネー)の勉強からだ。

 

 言い聞かせるように気合を入れ、徐々に暗くなりつつある大通りへと足を踏み出す。

 ダンジョン帰りの冒険者がちらほら見え始め、街の賑わいも変わりつつあった。

 

「その前にちょっとお酒飲んで帰ろう」

「カア」

 

 





あとがき

原作至上主義なんで原作キャラ動かすのにビクビクしてます。
そのうち週1くらいの投稿ペースに落ち着くと思います。

不自然な描写や原作との矛盾があれば指摘してくださると助かります。
下手したら大幅な修正とか掛かりそうで怖いですけど。


※パッと思いついた捕捉

 主人公は元ネトゲ廃人。非ニート。女性関係乙。年齢は想像にお任せ。
 友人は同世代、ご近所さん。タダ飯タダ酒目当てで頻繁に襲来。

 神酒はおそらくめちゃくちゃ美味い。ただし魅了。

 クロは手品とかの白い鳩を真っ黒にしたイメージ。カアと鳴くがその鳴き声はカラスのように野太くはない。
 頭に鳥を乗せるのは現実的ではない。滑るし、痛い。

 ヘスティア様のカリスマ性でペラペラ喋るエリナちゃん。
 喋ってる間にベル君が助けた少女だと気付くヘスティア様。

 胸の戦闘力はヘスティア様の方が微妙に高い。背丈も同様。
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