103th Fighter squadron『Folgore』 作:COTOKITI JP
エタらないといいなぁ……(遠い目)
《1988年 7月 9日 『名も知らぬビーチ』 10:24AM》
いい眺めだ、と飾り気の無いビーチベッドに背を預けながらストローでソーダを一口飲んだ。
自分は、空が好きだ。
空が好きだから今のようにして空の上で働いている。
仕事が増えて地上にいる日も大分減ってしまったがそれでも空は嫌いになれない。
とか言いつつも、実は海も好きだったりする。
こうしてリラックスしながら波音に耳を傾け、不定形で膨大な水溜まりを延々と眺めつつ昨日、若しくはそれよりも前の日を振り返る。
こうやって時間を過ごすのも悪くはない。
海か空か。
どちらが好きかと聞かれたらきっと自分は両方以外選べないだろう。
そんな自分を心の中で強欲な奴だなと罵りながら隣にいる友人へと視線を移した。
「……どうだここは。 俺のお気に入りなんだが」
パラソルの影でよく見えないが、隣にいる彼は半身を起こしてこちらを向き、微笑を浮かべつつ周りを見渡し、漸く口を開いた。
「うん、景色は良いし潮風も気持ち良くてサイコー!」
やけにオーバーなリアクションを取る黒髪短髪の男を横目に見ながら自分もまた微笑み、少しの間目を閉じる事にした。
彼も自分の瞑想を邪魔する訳にはいかないと、喋るのをやめた。
後に残ったのは、名も知らぬ鳥の鳴き声と波音、そして波打ち際から聞こえてくるビーチにやってきた観光客達の楽しげな声だった。
一時間か、二時間経ったのか分からないが取り敢えず起きたので隣の彼に現在時刻を聞こうとしたら、既に彼はいなくなっていた。
本来ならば慌てる所だが、これと同じ展開を何度も経験してきた自分は取り敢えず人の多いビーチの方を見た。
彼は直ぐに見つかった。
あんなに彼の周りに人だかりが出来ているのだから見逃しようが無い。
「もう昼飯にするか」
ビーチベッドに寝ていた事で乱れた黒のジャケットを直し、石の階段を降りて下のビーチへと向かう。
まだ7月に入ったばかりだと言うのにこんなにも人が多いとは思わなかった自分はまるで対空砲火のように飛び交ってくる人、人、人を躱しながら人だかりの奥へと進む。
人だかりの先にいたのは、予想通りあの赤色のスーツという目立つ格好をした悪趣味なセールスマンのような男であった。
しかも手品ショーの真っ最中だったらしく、彼は自分が出したのであろう何羽もの鳩に襲われており、観客は爆笑している。
もしこれも彼の計画通りだと言うのであれば、カリスマ性に優れた人物として賞賛に値しただろうが、多分、それは無いだろう。
彼の手品なんて精々ああやって偶に観客を集めるか、又はパーティーの賑やかし程度にしか使われない。
ちょうどよく彼の手品が終わったみたいなので、彼の元へ歩み寄り、昼食を取りに行く事を伝えた。
「昼食かぁ〜ここのオススメは何かな?」
「一番人気なのはハーベンのサンドイッチだな。 アレを食わずしてこの街は語れない」
「よしじゃあ行こう!今すぐ行こう!」
「おいおいそんなに急がなくたって店は逃げねえよ」
これは、嘗て俺達が望んでいた在りし日の平穏である。