103th Fighter squadron『Folgore』 作:COTOKITI JP
エンジンの振動で小刻みに揺れるコックピット。
乱れていく息遣い。
急旋回によって失われていく速度。
後ろから曳光弾が前へと通り過ぎて行く度に、恐怖心は増していき、呼吸と共に悲鳴めいた弱々しい声が漏れる。
敵戦闘機、『P-51マスタング』の銃火からその身を縦なり横なりと三次元機動で逃れようとしているのは明らかに性能で劣っている『マッキ MC.202』。
オマケに追加武装の20mmMG151機関砲のせいで空気抵抗は増し、速度性能は更に下がり、運動性能も格段に落ちていた。
本来ならば彼等は爆撃機への攻撃を担当しており、護衛機は別の機関砲持ちではないMC.202が食い止める筈だったが、高性能な護衛機と大火力の爆撃機の防護機銃のせいでとっくの前に壊滅している。
どう見ても敵側が優勢なのは見て分かる。
機体の性能差があまりにも酷すぎたのだ。
相手は最高時速700kmは出るのに対し、こちらは精々500km以下位しか出すことが出来ない。
《ひ、被弾した!!エンジンが煙を噴いてる!!助けてくれぇ!!》
《ふざけんじゃねぇ!!援軍は……援軍はいつ来やがんだよ!?》
《どこを見ても敵機しかいない……! 包囲されてるんだ!!》
次々と墜ちていく仲間達、何時自分の番が来るのかと恐怖しながら生へ執着し、操縦桿を握る力が強くなった。
一方、マスタングに乗る彼等はと言えば、この退屈な狩りに飽き飽きとしていた。
相手は性能で劣っている割にはパイロットの腕が良いのか数回の射撃を行って未だ致命傷を負わせる事が出来ないでいた。
「クソっ、ちょこまかと逃げやがる!」
《二番機、落ち着け。 じきにこんな奴ら全滅するだろうよ》
《よっしゃあ!一機落としたぞ!》
《ハッハァ!くたばれテロリスト共が!》
やたら騒がしい無線のやり取りに溜息を零しつつ、目前の敵機に意識をやる。
ここ最近でパイロットの大規模な補充が行われたので、新米パイロットが多くこちらにも配属されてきた。
厳しい訓練を積んできたので練度にそこまで問題は無いが、どうやら訓練所では道徳心は学ばなかったらしい。
暫く経って漸く敵機の動きが鈍くなってきた事に気が付いた。
あのパイロット、かなりのGに参っているようだ。
あんな機動繰り返せば無理も無い。
寧ろよくここまで頑張れたと褒める位だ。
彼もまた、エースパイロットの素質があったのかも知れない。
もしここで、彼を落とさなかったらどうなるのだろうか。
その素質を遺憾無く発揮し、歴史に名を残すエースパイロットにでもなれただろうか。
今からその未来のエースパイロット候補をこの手で殺してしまうのだからつくづく惜しいと思う。
「良く頑張ったよ、悪いがここで墜ちてくれ」
そう言って引き金を引こうとしたが、真上から聞こえた突然の音に思わず上を見上げる。
彼が最期に見た光景は、こちらに真っ直ぐ向かってくる、銀色の戦闘機だった。
《に、二番機が撃墜された!!》
《他の戦闘機とは違う!MC.202じゃない!》
まるで稲妻にでも撃たれたかのように爆散した二番機の姿を見た者達は、先程の余裕も忘れてただ最強と謳われていたマスタングが撃墜されたという事実に驚愕していた。
それから直ぐに、反転しようとしたマスタング達に、更に上から急降下して来た敵機が襲い掛かる。
《クッソォ!後ろに着かれた!》
《空賊の分際で!!ぶっ殺してやる!!》
《落ち着け、慌てるな! 相手はただの空賊だ!!》
あの敵機と戦って、気付いた部分がある。
性能が先程のMC.202とは桁違いに高いと言う事だ。
そのあまりの速さに、機体の全容が捉えにくかったが、彼らの中に一人、機体に描かれたエンブレムを見た者がいた。
《アイツらのエンブレムを見た……間違いない! アイツらは!》
《助けてくれ!死にたくない!!うわぁっ!ギャアアアアアアアアアア!!》
知らない筈がなかった。
傭兵や自警団、軍隊ですら恐れた空賊の名を。
稲妻を両手に持った神を模したエンブレム。
《アイツらは!『フォルゴーレ隊』だ!!》
それを見た者で生きて帰った者はいなかった。
「散々なやられ方だな」
先程の急降下で一番目にマスタングを撃墜した戦闘機、『G.55 チェンタウロ』のパイロットは味方の損害状況を見ながら呟くように言った、
《あぁ全くだ。 よぉし、お前ら!利子は倍にして返してやろうぜぇ!!》
《了解!》
フォルゴーレ隊第三小隊の一番機がバンクを振りながらマスタングの群れに突っ込んでいく。
それに続いて僚機も次々と突撃体制に入っていく。
自分もそれに加わろうかと考えたが、後ろから聞こえてくる聞きなれたエンジンの音に気付き、操縦桿を右に倒した。
それから一秒足らずで後ろにいるマスタングから銃声が聞こえて来た。
被弾を避ける為にただの横旋回だけでなく、縦方向への機動も入れて捻じるような機動で敵弾を回避する。
彼はここでマスタングとチェンタウロの速度差を利用する事にした。
操縦桿を引き起こし、かなりの急角度で上昇を行う。
予想通りマスタングはこちらに釣られて上昇してきた。
距離は縮んできてはいるものの、マスタングが撃ってくる様子はない。
「必中狙いか……ならば好都合だ」
互いの距離が徐々に縮む。
恐らくあと五秒後には敵機は撃ってくる。
だが、その五秒後にはあのマスタングを彼が撃ち落とす。
五、速度計が300を切った。
四、敵機のプロペラの枚数が数えられるくらいには距離が縮んでいる。
三、もうマスタングのパイロットは撃とうとしているだろう。
二、間も無くこちらの機体が失速する。
一、……今。
瞬間、エンジンの出力を一気に絞り、フラップを全開にした。
失速する寸前まで速度が下がり、マスタングがチェンタウロの真下へ潜り込んだ。
「コレでちょうど三百機目だ」
失速によって機首が勢いよく下がる。
その瞬間にマスタングを照準器に捉え、すれ違いざまに機関砲を浴びせる。
MG151三門から放たれた20mm弾はエンジン、コックピット、機体後部という順で抉り、吹き飛ばした。
原型を留めない程に空中分解したマスタングは、真っ赤に燃え盛りながら地へと墜ちていった。
《敵戦闘機、爆撃機部隊の殲滅を完了。 全機、RTB》
この戦闘は、『開門戦争』開戦より何年も前に行われたものである。
この頃から開門戦争にて反動勢力に加担していた彼はイレギュラーとしての片鱗を見せていた。