バイオショック:インフィニット・ストラトス   作:布団叩き

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コロンビアへ

「嘘、だろ…」

 

一夏は窓の外に広がる光景に目を疑った。空に浮かぶ多くの建物。その間を行き交う大小様々な飛行船。今の状況も忘れてそれらに見惚れていた。それほどまでに幻想的だったのだ。中でも、一際目立つのは巨大な天使像。どの建物よりも大きく、存在感に満ち溢れている。

 

そうこうしているうちに、ロケットの高度がゆっくりと下がり始めた。だが、無造作に落下しているという印象は無く、どこかに向かって誘導されるようにふわりふわりと浮かんでいる感覚だ。そしてしばらくすると、尖塔のような建物の頂上であろう場所にロケットは降り立った。

 

「これから一体どうなるんだよ…」

 

いまだに拘束も外れない状態で一夏はぼやく。ロケットは尖塔に入り込み、どんどんとその中を下っていく。尖塔の内部では様々な機械が忙しなく動き続けており、中には巨大な歯車や振り子が動いている場所もあった。そして、最下層。ロケットの下降が完全に停止したのと同時に前面の板が開き、手足の拘束も外れた。一夏はロケットの外へと足を踏み出した。どこからか優しい音色の歌が聞こえてくる。床は水浸しになっていたが、ステージのように高くなっている部分があった。そこにはベンチがあり、その周りには無造作に蝋燭が並べられている。そして一夏は、その上に設置されていたステンドグラスに魅入られた。立派な髭を蓄えた黒服の老人と金髪の少女、そしてそれを取り囲む人々。陽光に透かされた極彩色の光が一夏に降り注ぎ、荘厳さをさらに引き立てている。

 

「下から人が来るとは」

 

「珍しい事もあるものね」

 

「誰だッ⁉︎」

 

ステンドグラスに見惚れていた一夏の背後から突然声がかけられた。驚いた一夏が慌てて振り向くと、ゆったりとした黄色いスーツを着た1組の男女が開いたままの板の左右に佇んでいた。出てくる時には居なかったはずの人間。どことなく不思議な雰囲気が漂う2人に、一夏は思わず後ずさる。

 

「ようこそ、『コロンビア』へ」

 

「コロンビア…?ここの名前か?」

 

「そう、ここは空中都市コロンビア。預言者の治世によって人々が平和に暮らす理想郷よ」

 

「そんな…ありえない…こんなもの地上からは見えた事ないのに…」

 

「僕が開発した技術によってこの都市はその存在を隠蔽されている」

 

「理論を提唱したのは私よ」

 

「だが実用化したのは僕だ」

 

「ああ、分かったわ。私たちが開発したって言えばいいのよ」

 

奇妙なこの2人は困惑する一夏を尻目に、互いが互いを補完し合うように言葉を重ね続ける。一夏の言った通り、地上にこの都市の影ができたことなどないし、まして衛星写真にもこんな都市が写ったことなどない。一体何をしたらこれだけ巨大な建造物の集合体の姿を消す事が可能だというのか。

 

「下から来た者は洗礼を受けねばならないわ」

 

「洗礼…?」

 

「そう、洗礼だ。その先にコロンビアへの入り口がある。気をつけて行きたまえ」

 

そう言って男の方は一夏の右手にある階段を指差す。一夏が振り向いてそれを確認し、再度前を向いた時、2人の姿はもうなかった。

 

「あれ…?」

 

都市から人までなんでも消せるというのだろうか。一夏は自分の常識が通用しない世界に来てしまったのだと改めて認識した。ステンドグラスを再度眺めてみれば、やはり精巧な作り込みが見て取れる。

 

「預言者っていう人はそんなに偉いのか…治めてるって言ってたし、そりゃそうか。情報を得るには街に行かないと…とにかくここを出よう」

 

それにしては雰囲気が宗教じみているような…一夏は一握りの違和感と共に水が流れ落ちる階段を降り始めた。道中には預言者のものであろう像や大量の蝋燭、道の脇には小さな礼拝堂のような空間まであった。しばらく行くと、開けた空間に出た。(すね)まで浸かるほどの水で満たされた通路。その脇には大量の蝋燭が並べられている。そして通路の先では、牧師らしき壮年の男性が信者たちに説法を説いていた。その声は空間によく響き渡ってこちらまで聞こえてくる。

 

「…そして毎年この日、我々はこの身をこの街に、そして預言者であるファーザー・カムストックに捧げる。我らは犠牲と、感謝と、洗礼の水に身を浸すことによってそれを行うのである…そう、もし預言者が我らの敵を『ウンデッド・ニー』で打ち倒したのなら眼下のソドムを許したとしても、それで十分なのだ」

 

一夏は歩みを進め、牧師を取り囲む白服の信者の輪に分け入る。それに気づいた牧師は説法を中断し、一夏の方を見て言った。

 

「ほう、新入りというわけか…下のソドムから来たのか?初めて来た者はその身を清めねばならぬ。我らの預言者、ファウンダーズ、そして主の前でな」

 

「街に入る方法を探してるだけなんだけど…」

 

「ハッハッハ、街へ入る?兄弟よ、洗礼の水で生まれ変わらない限り、コロンビアに行くことはできんのだ。さあ、その身を清めたまえ」

 

そう言って牧師は手を差し伸べてくる。周囲の信者たちも手を取れ、ハレルヤ、ハレルヤ、と急かしてくる。ロケットまで引き返すか、それともここで洗礼とやらを済ませてしまうか。どちらが早いかは明白だった。

 

「さあ、来るのだ!ハレルヤ!」

 

一夏は意を決して牧師の手を取った。

 

「預言者の名において、ファウンダーズの名において、主の名において、汝を洗礼する!彼をコロンビアの胸の中で、生まれ変わらせたまえ!」

 

そう言って、牧師は一夏を足元の水に沈めた。胸を押さえつけられた一夏は起き上がることができずその場でもがく。10数秒ほど経っただろうか、牧師は一夏を引き揚げ、顔をまじまじと覗き込む。

 

「ゲホッ、ゲホッ…何を…!」

 

「どうだろう、兄弟たちよ。まだ清められていないようだ…」

 

牧師は一夏を再度水に沈める。次は顔を押さえつけられた。そして今度こそ一夏の視界はゆっくりと暗転していった。

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