痛い…痛い…痛い…なんだよその顔…なんでそんな怯えた顔で俺を見るんだよ…
1羽の鳥が青空を舞う。空中艇を体当たりで破壊し、モーター・パトリオットやタレットの放つ弾丸すらものともせず暴れ回る。紅く燃え盛るフィンク・インダストリーの建物は轟々と音を立てながら崩れ去り、下にある浮島にその破片を振りまく。労働者たちは逃げ惑い、警備員たちは脱走しようとする労働者達を追いかける。浮島から落下する労働者までもが現れる中、その中枢部から命からがら脱出したジェレミア・フィンクは自社の惨状を見て唖然としていた。
「私の…私の会社が…」
壊れた自動販売機が同じセリフを繰り返し続ける声、阿鼻叫喚といった様子の労働者と警備員たちの喧騒がフィンクの周囲を満たす。空中では暴れ回る怪鳥に対し、ファウンダーズとハンディマンが空中艇やスカイラインを駆使して応戦し続けている。
「あのクソ鳥め…よくも私の会社を破壊してくれたな!私が立てた功績は貴様の命なぞよりもはるかに高い価値があるのだぞ!」
フィンクは空に向かって罵声を放った。すると怪鳥のギョロリとした赤い目がフィンクの方を向く。背後から追いかけてくる敵を尻目に、怪鳥は急降下。自身に迫り来る巨大なシルエットとそこに浮かぶ赤い光が資本家、ジェレミア・フィンクが最後に目にした光景だった。
「何…?」
少女は轟音と衝撃と共に目を覚ました。本を読んでいて、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。自分の膝下に開かれたまま置いてある本を見てそう思う。
「今の音は下からかな…?」
階段を登って二階に上がり、本棚の隣にある窓から下を覗いた。しかしそこにあるのはどこまでも続く空と、絨毯のようにふかふかとした雲だけ。本人は知らないが今騒動が起こっているのは反対側…つまり窓のついていない方角の浮島での出来事なのであった。たとえ窓があったとしても、この天使像を中心に広がってゆくコロンビアの全貌を見渡すなど到底不可能な事ではあったが。
突如、部屋全体が揺れた。慌てて階下を見ると何か大きなものが壁を突き破って侵入し、物が散乱している。よく観察してみると鳥のようだ。しかし体はバラバラに傷つき、赤く輝く瞳は明滅していた。今にも事切れるといった様子の怪鳥にシャルロットは近く。
「君は…?」
シャルロットの問いかけに怪鳥はキュルル…キュルル…と弱々しく応える。口元から蒸気が漏れ、フシュー、フシューと奇妙な呼吸音が鳴る。するとシャルロットは、体から繋がっていたパイプを口元のジョイントに接続した。それを契機に一気に体の各部から蒸気を吹き出した怪鳥はガシャンガシャンと音を立てながらゆっくりと立ち上がり、シャルロットを凝視した。ギョロリとした眼がシャルロットの顔を映し出し、まるで鏡のようだった。不思議そうにそれを見返すシャルロット。敵意がないことを理解した怪鳥はまたキュルル、キュルルと鳴き頭を垂れた。まるで撫でられるのを待っているかのようだ。シャルロットは恐る恐る嘴に手を触れる。その瞬間、怪鳥は眩い閃光を発した!
「わっ⁉︎」
シャルロットは驚いて目を塞ぎ、後ずさった。そして目を開けたとき目の前にいたのは巨大な鉄の鳥ではなく、顔に大きな手術痕を持つ精悍な印象の青年であった。
「君は…?」
美丈夫なようで、しかしどこか哀愁の漂う雰囲気を纏う青年は目をゆっくりと見開き、静かに言った。
「俺はソングバード…君の…君の守護者だ」