個性『Plus Ultra』   作:々々

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汝の意志することを行え、それが法の全てとなろう



個性『Plus Ultra』

──────□

 

 右型(うがた)(みなみ)の朝は早い。今日から通う雄英高校までの通学時間は約一時間半。7時前には家を出なければ間に合わない。

 実家を離れて下宿または一人暮らしを、という話もあったが南の母親──右型(よる)が猛反対。家を離れることに通学時間が短くなる事以外の利点を感じなかった南は実家から通うことにした。

 

 母親の作った朝食を食べ、歯を磨く。顔を洗って、寝癖のついた青味ががった黒髪を整えワックスで仕上げる。

 鏡に映った制服姿は自分では分からないが恐らく様になっている筈である。

 

「それじゃあ、母さん行ってきます」

「みーくん気をつけていくのよ」

「分かってるよ」

 

 175cmの腰にぎゅっと抱きつく小さな少女、夜はぐりぐりと頭を南に押し付ける。

 社会科見学や修学旅行に行くときはいつもこうだ。遠くに行くとなるといつも玄関で抱き着いてくる。南より色の濃い、夜の青い空のような髪を撫でる。

 

「学校行ってくるだけだから大丈夫だよ」

「それでも心配なの。これはおまじない」

「制服にシワをつける?」

「ううん。みーくんが頑張れるおまじない」

 

 顔を上げにこっとする表情は30代半ばには見えない。身長も相まってとても快活な雰囲気だ。

 

「はい! これで大丈夫! 行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 学校へ向かう南を見送る。皺のない制服に着られている感じもなく、着こなしている姿を見て夜はまた一層笑みを深める。

 

「今日はそーくんの為に美味しいご飯を用意しなくちゃね! がんばるぞー!」

 

 おー! と夜一人しか居ない家に響いた。

 

 

 

──────○

 

「やっぱ校舎でかすぎでしょ」

 

 慣れない乗り換えを数回行ってようやく辿り着いた。入試の時は母さんが心配して着いてきたし、数日前の通学路の確認も母さんが一緒だったから一人で雄英に来るのは今日が初めてだった。

 

「けど早く来すぎたな」

 

 右手に着けた時計を見るとまだ始業の時間まで1時間近くある。家付近の学校も今日が入学式のため、電車が混む前に行こうと焦ってしまった結果だ。

 これだったら明日からは家でもう少しゆっくりしてから来ても大丈夫そうだ。母さんも寂しそうだったし。

 

 周りをきょろきょろしながら歩いていると、見覚えがある後ろ姿を見つける。黒髪をポニーテールに結って、後ろ髪が扇のように広がっている。

 そんな姿一度見たら忘れられない。

 確かに彼女なら性格上こんな早い時間から居てもおかしくはない。

 

「おはよっ八百万さん!」

「右型さん! おはようございます」

「早速知り合いが居て良かったよ。周りは先輩方ばっかで同級生は居ないから」

 

 八百万さんとは推薦入試の際にある程度話をした仲だ。

 

「確か推薦入試の時もこんな感じでしたわね」

「そうだったね。そだ、八百万さんはA組? それともB組?」

「私もA組ですわ」

「八百万さんが居るのは嬉しいな。八百万さんから学びたい事沢山あるし」

「それなら私の方もです! 推薦入試の時のこと、個性のこと沢山聞きたいですわ!」

「そっか、よかった。なんの話からしようか……

 

 

 

──────◆

 

「ねぇ八百万さん。相澤先生の言った除籍ってホントかな?」

「発破を掛けたのだと思います」

「だよね。楽しそうって気持ちでやるより、今みたいに崖っぷち──背水の陣の方が記録も伸びるし」

 

 個性把握テストも残り2種目になり、その2つをどのように対応するか考えていると右型さんが話しかけてきました。右型さんは相澤先生の発言に疑問を覚え、私と話し合ったあともウンウンと悩んでいます。

 

「けど多分そうじゃ無いはず。あんな風に言われても身振りが変わらなかったら多分除籍すると思う」

「一理ありますわ。けどそれが本当かどうかは」

「そうなんだけどね。だけどそう考えてみると、うん道理が通る」

「どういうことですか?」

「うまく説明はできないかな。個性の二次作用的なもので、僕の感覚的なものだから。ごめんね」

 

 右型さんの個性。推薦入試の実技、3kmマラソンで他の追随を許さず独走でゴールしを成し遂げた能力。

 発動型の増強系であることは分かるが、わかるのはそれだけでした。しかし相澤の発言の意図をも推測できるとなれば……。

 

「ところで右型さん。今の成績はなんですか?」

 

 右型さんの今の順位はちょうど真ん中、21人中11位。推薦入試で見せたあのスピードをもう一度見ることはありませんでした。

 

「この前の様に個性を使えば1位は余裕ではありませんか?」

「あの時は個性の調子が良くてね。今日は全然力が出なくてさ」

 

 手のひらを開閉して、やっぱり駄目だとにへらと笑う。その言葉は嘘が無いように思える。

 

「だからって手を抜くことはないよ。僕が今できる事を精一杯やるだけだから」

 

 

───

 

 

「実用性を意識した感じの戦闘服(コスチューム)なんだね。八百万さんっぽくていいね」

「ありがとうございます。右型さんのは……なんて言うかその……」

「これね。僕の場合特別なコスチュームは必要なくて、取り敢えず耐久性が良くて動きやすいものって注文だからさ」

 

 先日あった個性把握テストと全く変わらない服装の右型さんとの会話を思い出す。右型のコスチュームは体操服をより実用的にして、腰のポケットに応急処置ようの道具や小物を詰めているようでした。

 ヒーロー基礎学最初の授業は二人組対二人組、ヒーロー対ヴィラン。ヒーローとして私は峰田さんと共に、ヴィラン──右型さんと芦戸さんペアと訓練を行うこととなった。

 

「峰田さんの個性は分かりましたわ、拘束力の強さを主軸として進めて行きましょう。ヴィランの能力は分かりませんが、とりあえずはそれで大丈夫でしょう」

「よく右型といるけど個性について聞いてないのかよ」

「うまく個性についてはぐらかされました。多分こういう授業があると思っていたからだとは思います」

 

『八百万少女、峰田少年時間だビルの中に入っていいぞ』

 

 ヴィラン側がビルに入って5分経ったため放送が流れる。右型さんがどのような手を打ってくるかは分からない。

 それならばどんなことをされても対処出来るようにすればいいだけのこと。

 

「行きますわ!」

「おう!」

 

 ビルに入ると大きな南間が広がっている、おそらくエントランスの役割を果たすのだろう。入り口以外の三方へ繋がる扉の内どこから探索するかが問題になる。

 

「どちらから行きましょう。やはり上階へ繋がる真ん中でしょうか」

「オイラもそれがいいと思う」

 

 では行きましょうか──と言葉は続かなかきませんでした。

 

「やぁヒーローのお二方。君らの目的のヴィランはここだよ?」

 

 何故なら右型さんが真ん中の扉からごく自然に出てきたからです。

 

 

──────♡

 

「いくら授業でもヴィラン役はやる気でないよー。どうせならヒーロー役が良かったのに」

「せっかく雄英に来たんだからヒーローとしては授業受けたいよね」

「そうそう!」

「じゃあ今回の授業の見方を少しだけ変えようか」

「変える?」

 

 右型は急にそんなことを言い出した。

 

「僕らはヒーローでヴィランから核爆弾を奪い取って他のヒーローの援助を待っている。そして取られたヴィランが取り返しに来てる。ほらこれで僕達がヒーローだよ」

「た、たしかに!」

 

 ヒーローとして核兵器をヴィランから守る! それだったら確かにヒーローっぽい!

 

「じゃあヒーローらしくヴィランを翻弄していこうか、まずは僕の個性なんだけど………って感じ。だからこそ今回の形式とは相性が悪いかな」

「アタシの個性だと危険すぎて個人にはあんまり使えないから、どうしよっか」

 

 アタシの酸だと搦手にするにしても十分ではない。肉体戦に持ち込もうとしても、右型から聞いたヤオモモの個性に対抗できない。

 

「うーん」

「そうだこういうのはどうかな?」

 

 

───────□

 

「アイツいきなり現れたぞ!」

「これまでには無い展開だ」

 

 残る組は一組だけとなると、自分の番も終わり改善点が示され、どうすれば良いか研究の為にモニターに釘付けで既に意見を言い合っている。

 

「それでは最後のグループの個性を軽く伝えようか。まずは峰田少年だが――」

 

 峰田が頭から球体を一つもいで投げつける。

 

「個性は『もぎもぎ』、投げたのは粘着力のある球体だね」

「確かに当たれば相手を拘束できるし強いな」

「まぁ当たればだけどね」

 

 投げられた球はいとも簡単にかわされる。

 

「八百万少女の個性は『想像』──生物以外の物を作る個性。峰田少年のフォローに入ったね」

 

 手のひらから拳銃を創造し発砲する。放たれたのはゴム弾で当たっても痛い程度だ。だが痛みは体を少し停止させる。

 それならば峰田でももぎもぎを当てられる考えた。一発で終わるとは考えず、続けて新たに想像した拳銃で計三発撃ち込む。

 

「そして右型少年の個性。君達がついこの前聞いたばかりものだよ」

 

 右型は三発のゴム弾を右手で掴みとる。

 

「『Plus Ultra』一言で言うと自分の限界を乗り越える個性さ」

 

 常人には目の追いつかない弾丸を掴みとる、という限界を乗り越えた。

 

 

 

 

──────○

 

「第一フェイズ完了。今からそっち向かうよ」

『了解! アタシの準備はバッチリだよ!』

 

 八百万さんと峰田くんは僕の跡を追うように走ってきている。先程の会話を恐らく八百万さんに聞かれてると思うし、結構プラン通りに行っている。

 誤算だったのは八百万さんが結構攻撃的だったことだ。そのおかげで個性が使えたから良いが、あんなことされなかったらそもそも個性を使わなくても避けられたのでなんとも言えない。

 

「右型待てよ!」

「言われて待つヴィランなんて居ないよね!」

 

 望んでいる距離感を保てている。たまに牽制射撃されるが、個性が発動して今のところ特に怪我もない。

 速度を維持したまま角を曲がる。曲がった先には折り返し階段がある。階段中程で反転しまた階段を駆け上がる。

 

「次は任せた」

「うん! まっかせて!」

 

 芦戸さんにバトンタッチして二階の壁に背を預ける。汗がどっと吹き出て息が荒くなる。

 

「右型大丈夫⁉」

「平気……とは言い難いけど、あの二人が来たらまた元気になるから大丈夫」

「そっか!」

 

 二人分の足跡が近づく。わざわざ諦めずに追ってこれる距離かつ、直接攻撃を仕掛けられないような距離を保った意味があった。

 僕みたいな個性じゃない限り普段から個性なんて使わない、そんなモノをここ一番でやれ何てとてもじゃないが難しすぎる。

 だからこうして、にっこにこの笑顔でピースしている彼女にできて良かった。再び個性が発動する。二人が来るまでの秒数が考えなくても分かる。

 

「来るよ! 3 2 1 !」

「じゃーん! アタシ登場! ヴィラン達覚悟してね!」

「ヴィランはあなた方では?」

「そういう設定なの! 喰らえ!」

 

 芦戸さんの掛け声と共に手から酸が飛び出す。飛距離としては階段の上から階段の下の二人には届かない。

 だがそれで良い。酸は階段を溶かす。

 

「これで時間稼ぎくらいは出来るかな⁉ 他の階段も溶かしてるからもうコッチには来れないかもね」

 

 そう言い残して踵を返し、こちらへ来る。

 

「これで完璧?」

「完璧! あとは最上階で待ち構えるだけ」

「おっけー! けど右型歩ける?」

「……肩を貸してもらえると嬉しいかな」

 

 

 

───────□

 

 最終戦は折角だからとマイクが拾った音を映像と共に流していた。

 モニターにはフック付きロープを使って、2階へと上がる様子が映し出されている。それからの行動を見るに、芦戸が言ったとおりすべての階段が溶かされているか確認を行っているようだ。

 

「丹念に調べるな。二人が上に行ったことは道具使って聞いたみたいだから、わかってるのに」

「捜査に余念がないというのは大事だが、制限時間が減っていくのは確かだ。階段が使えないことによるヒーロー側のデメリットとメリット、ヴィラン側のデメリットとメリットを考えると即断で上に行くのが正解だろう」

「そこは右型少年による意識操作だろうね。5分近くビルの1階で鬼ごっこ、それも絶妙に捕まえられない距離で走らせ続けられた。すると頭は核兵器を忘れて、ヴィランの捕獲を最優先とする。右型少年のセリフ回しもそれを助長させた」

 

 勿論頭の片隅にはそれが残っているし、ヴィランが向かう先にあると分かってはいるだろうけどね。と言葉を足す。

 時計を見ると残り時間は半分を切っている。

 

「だけどそれは叶わないんだよな」

「そうね。芦戸ちゃんも右型ちゃんもいやらしい所に核兵器を置いたもの」

 

 一同は核兵器を映すモニターを見る。そのモニターは入り口の隣の部屋を映すものだった。

 

 

 その後残り4分となって最上階に辿り着いたが、その後も芦戸の死角からの酸攻撃と右型の個性を用いた逃走によって捕獲テープを付けることは叶わず。

 芦戸右型ペアが勝った。

 

 

──────◆

 

「全くマスコミの皆さんには困りますわ」

「だねー。アタシも聞かれたし、右型も聞かれてた。それもきちんと受け答えしてたから相澤先生に連れて行かれてた」

「右型といえばさっきの学級委員長選挙で名前なかったよね。やっぱりヤオモモに投票したのかな?」

「どうでしょう?」

 

 複数票入っていたのは私と緑谷さんの二人のみ。ということはそのどちらか、ということにはなりますが。

 

「空いてる席座っていい?」

「いいよー!」

 

 そんな話題の中心になっていた右型さんは珍しく食堂にやって来ました。たしか普段はお弁当だったはず。

 そんな私の考えが顔に出ていたのか、右型さんが口を開く。

 

「昨日の夜母さんが熱出しちゃって、弁当作るにも中々母さんが話してくれなくて」

「熱出ると不安になるもんね」

「お母様は大丈夫ですの?」

「うん。今日になってたら熱は微熱くらいになってし。お粥食べさせて、薬飲ませて眠るまでは確認したから帰る頃にはいつも通りになってると思う」

 

 食堂のご飯もうまー、と食べ進める右型さん。お弁当の中身と同じようにバランスのいいものを選んでいた。

 

ビィィィ‼

 

 食堂全体に大きなアラームが鳴り響く。

 

「なになに⁉」

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難してください』

 

 警告の後、食堂がワッと騒音に包まれる。全員が食堂の出口ただ一つを求めて駆け出す。

 

「私たちも早く行きますわよ!」

 

 ()()()()()としてクラスメイトを守るのは義務。しかしこの場を収めるためにはどうしたら……。

 

「ねぇ右型行くよ」

「こういう時ってあんまり勝手に行動しないほうがいいと思うけど」

「たしかに一理あるけど」

「だからここは一つヒーローの指示に従おう」

 

 手のひらを開閉─それは個性把握テストのときにもしていた─をして、うんと独りごちる。

 その態度はいかにも自然体で余裕に溢れる。

 

「それじゃ一旦耳を塞いで」

 

 そう言って両手のひらを勢い良く合わせる。

 

パチンッ

 

 澄んだ音が響く。

 喧騒が止まる。

 

『皆さん落ち着いてください‼ この場にはランチラッシュや仮免持ちの人が居ます‼ 彼らに従って避難しましょう‼』

 

 右型さんが作った思考を隙間を縫うようにランチラッシュさんや先輩方の誘導が始まりました。

 その結果をもたらした右型さんはと言うと。

 

「ねー右型大丈夫?」

「むり」

「この前よりは大丈夫そうだけど」

「また肩貸してください」

 

 

 

 





18時に2話投稿します。
その際に1,2話の解説を活動報告に投稿するので気になる方は是非。
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