そのように追い求めるべき進路を自覚したら、次はそれを遂行するための条件を理解することである。
しかる後に、成功にとって異質もしくは邪魔なあらゆる要素を自分自身から取り除き、前述の条件を制するのに特に必要な自分の中の部分を発達させなければならない。
(Crowley, Magick, Book 4 p.134)
──────◆
「大丈夫ですか右型さん?」
「平気平気。個性の後遺症にも慣れてるし、今も大事を取って休まされてるだけだから」
警報はマスコミの侵入によるものとされ、相澤先生を始め各先生方が敷地内を調べるとの事で今日の午後の授業は自主勉学。安全が確認されるまでは下校禁止となっています。
特に危険性も無いということで右型さんは保健室へ、私はその付添でこうして保健室にいます。
「右型さん、一つだけ聞いても良いですか」
「なにかな?」
「先程の警報の時、どうしてあそこまで冷静な判断が出来たのですか?」
食堂にいた誰しもが恐怖と焦りに心を支配され真っ先に出口へ向かおうとする中、右型さんは的確な行動を取ることが出来ました。それはヒーローとして当然の事で、しかし私にはできなかった事で。
ヒーローを目指す身としても、学級委員長としても私が出来なければならなかったこと。
「僕の母さんってとても不幸体質でね」
「はい?」
「特に個性とかの影響でも無くて、ただただ不幸な目に遭いやすくて」
話の流れの意図は掴めませんが、何か懐かしい話をする様に優しい口調で話は続けられる。
「昨日の熱も、僕の入学祝いだって外食しようと母さんが張り切ってたときに出たし。この前なんかは恋人を奪った人に似てるって理由でヴィランに追い掛けられたりしたし」
「それは何というか」
コメントに困ってしまいます。
「それでね今はこうして個性のある僕だけど、当然個性がまだ発現してなかった時もあって。そんな無個性な僕と母さんが立て篭もり犯と何度目か遭遇したときなんだけども」
中々に奇天烈な人生を送ってきたというか、何度も立て篭もり犯と出逢うことはそうそう無いでしょうに。
「ずっと前の出来事なんだけど今でも鮮明に覚えててね。人質として集められた僕らの前にヴィランが近づいてきて『この中から一人を選んで殺す』って言ってきたんだ。その時僕は母さんが殺されちゃうって思ってね、今思うとただの脅し文句だったけど」
何度も話してきたおとぎ話の様に、滞りなく淀み無く口から物語が紡がれる。
「母さんの背中から前に出て『母さんを殺すな』って大声で言ってやろうと思ったんだ」
「思っただけですの?」
「うん。前に出ようとした瞬間、母さんに手を掴まれてね。じっと目を見られたんだ」
「目を……」
「すると母さんが殺されるなんて嘘の恐怖が無くなって、ヴィランの前だってのに怖さが無くなったんだ。その時の母さんはヒーローみたいに強く見えた」
よいしょと、保健室のベットから体を起こし凝った体を解すように肩を回す。
「ヴィランを倒すだけがヒーローじゃない。戦わなくたって、声を出さなくたってその場で出来る最善の事をするのが大切ってことが分かった瞬間だった。それから母さんと共に巻き込まれる度に、周りを見て観察して、助けに来てくれたヒーロー達の動きを観察して、自分だったらとどうするか何ができるか考えてきたんだ」
それこそ八百万さんが言ってた下学上達ってやつだね。と言ってベットから立つ。それと同時に5限の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「結局何が言いたかったかと言うと、焦る必要は無いってこと。僕が出来たのは経験があったから、けどその経験はこの学校で得るのが普通だからまず自分に出来ることからするのが大切だと思う。それこそ
自分に出来ることをやる。
身不相応な事をやって成功することは無いと知っていたはず、日々の積み重ねが大事であると知っていたはず。
まずは自分のできる事をリスト化して認識することが大切。
「一時間もあればもう見回りも終わって、6,7限の授業は再開されるかな? 取り敢えず教室に戻ろうか」
「はいそうしましょう」
「じゃあ教室までの時間でもう一個昔話をしよっか。母さんが家の食材を全てダメにしちゃった話なんだけど」
──────○
「でっかーーー!」
人命救助訓練と言うことでバスでやってきたこの
すこし恥ずかしいが他の皆も同じようだから良かった。ただ相澤先生の一瞥はとても怖かったです。
13号先生による僕達の個性の可能性と危険性、そして個性を救助のために使う事を目的としてるという話を聞く。
そうして救助活動訓練が始まるという時、首筋に嫌な気配を感じた。その直感に従って後ろの噴水広場に目をやる。同じタイミングで後ろを向いた相澤先生と同一のものを見る。
黒い靄から現れる多数の人間。そして身の毛がよだつほどの純粋な悪意。
「一かたまりになって動くな!」
相澤先生の言葉が無くても経験でわかった、ヴィランたちがやって来たのだと。
息を止めるな‼ 正常な判断をする為には呼吸を止めず、思考を保つ事が大切になる。相澤先生と13号先生を挟みヴィラン達がいる。今は相澤先生が相手取っているが、まだ見せてない手があるかもしれない。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか⁉」
斬島君と爆豪君が黒い靄のヴィランを攻撃する。しかしあれじゃ13号先生の射線を潰した形になってしまっている。ならば動ける僕がヴィランを倒さなければ。
脚に力を込めるが、個性は発動しない。
「っ!?」
驚きに息が止まる。
次の瞬間目の前は黒に覆われた。
───精神世界
ここは?
「靄に覆われてゲームオーバー、とかじゃないから安心してよ
目の前には僕がいる。ただ鏡を見たときのように左右が反転しているような事はなく、そのままの僕がいる。
ここは何処だ?
「ここは地球上にある一地点さ。けれどここに来れるのはボクと
跳ばされた?連れてきた?
「まぁそんなつまらない事は気にしないでさ。さっき個性が使えなくて焦っただろ?」
いつもの個性の出力を確認するルーティーンをしなかった為、驚きが大きく出てしまった。
「この前
僕が八百万さんに言ったこと……。
「自分に出来る事を考え実行する」
だから僕は二人を除けようと。
「おいおいそれは違うだろ? さっきやろうとした事は『個性で出来る事』だろ?」
それになんの違いがある?
「結果だけで見ればその違いは無いさ。けれどそれは『
僕か僕の個性か……。
「個性に使われるなんてことはあっちゃならないのさ。君の美徳をわすれちまったか、個性があろうがなかろうが人を助ける事だろ? それを個性を使ってヴィランを倒そうなんて、自分を穢してどうする」
でもあの時はそうするしか!
「二人に声を掛けるだけでよかった、そうすれば個性を使わなくてもどうにかなった。そうだろ? あそこで随分と変容したな」
っ⁉
「まぁ、元から周りの思いによってブレるところがあったから仕方がないか。それで
誰なんだよ君は。
「それが分かるのはもう少し先のことさ」
ちょっと待てよ‼
「けど忘れないでくれよ。
───
意識が再覚醒する。嫌なほどにはっきりとしている。さっき自分に言われた個性に頼るな、他者を助ける為に使えと言う言葉。
ヴィランを倒すのではなく、斬島君と爆豪君をヴィランから遠ざける為だったら個性は使えたのか。今となっては分からないから考えても仕方がない。
先程までいた場所とは風景が少し変わっている、跳ばされたと言っていたから少し位置が変わったのだろう。おそらく皆も同様に飛ばされたのだろうと予想がつく。みんなを手助けに行かなければ、そう思うと前回とは違い脚に力が入る。
そうして向かう最中、クラスメイトを見つけ出すために強化されたであろう目に見たくないものが見えた。
「相澤先生ェェェ!!!」
脳みそが剥き出しが相澤先生の腕を曲がらない方向へ
その光景を見た瞬間、頭が沸騰したように熱くなる。進んでいた向きを90度変更し、壁を蹴って急接近する。
「ギョアッ⁉」
これまで体感したことの無い速度で拳を振り抜く。振り抜く先は靄から最初に出て来た手を顔に貼り付けている奴。
「黒霧ィ!」
だが男は靄によって別のところへワープする。脳みそ男は壁にぶつかり血を吹き出す。
「相澤先生!! 大丈夫ですか⁉」
腰のポケットから応急セットを取り出し相澤先生へと投げる。本当は相澤先生の治療をしたいがそうはいかない。
砂埃の中から未だにこちらへ悪感情を向ける視線がある。それに、手男も黒霧と呼ばれた男もこちらを見ている。
「う……右型……よせ」
「なら早く治療してください。それを使えば数分は動けるようになるので、片手でも使用できます!」
冷たい対応になってしまったが仕方がない。なにせ相手も超高速で突っ込んで来たのだから。
高速で動く相手を見る。先程殴った所、感覚的には凹ませた筈なのだが変化はない。超回復の個性でもあるのか、はたまた時間を巻き戻せるのか?
「取り敢えず眠ってろ」
人の急所である顎を蹴る。グラリと身体が揺れるのを確認して、胴体に続けてもう一発。相変わらず馬鹿みたいなほどの威力が出ている。ということは少なからず相手を圧倒する為にはこれ位の力が要るということだ。
蹴った勢いで空中で3回転するが、間を置かずに距離を詰める。所々に出現する靄を空気を蹴って軌道を変え避ける。
「なにっ!」
避けた靄の一つから脳みそ男が現れ足を掴まれる。そのまま地面へと振り落とされる。背中と頭に強い衝撃がやってくる。
「カハッ!」
肺から空気が抜ける。だがそれがなんだ。それだけで止められる訳にはいかない!起き上がり顔面に肘を喰らわせる。
顔面がひしゃげて、脚の拘束が緩まる。その隙をついて距離を取る。
「はぁはぁ」
個性を使っていて息切れするのは初めてだが、まだまだ行ける。そして相手についても分かってきた。ひしゃげた顔はすぐに治る、と言うことは超回復系の個性を使っているということ。またそれが相澤先生では抹消出来ない偉業型であること。
さてでは同対処すればいい。ヒーローとして殺してはいけない、だが殺さなければ活路を見いだせない。
───いやそれは違う。先程言われた筈だ。
僕の個性は人を守るためにある。先程手男と黒霧が一人を逃したと言っていた。つまりヒーローの助けが来る。
それまでここを守りきれば良い。
あぁならもう大丈夫だ。
その言葉を聞いて体の力が抜けていく。
これからの戦闘の邪魔にならない様に、最後の力を振り絞って後方へ跳ぶ。
「おい大丈夫か?」
簡易治療を終えた相澤先生に抱かれる。
なぁボク。今回は上手くできたかな?
───
「っ!」
目が覚め、右腕を伸ばしやって来る何かを掴む。目の前にはギラリと光るナイフがあった。
「個性の後遺症で気絶しているときでも、危険時には目を覚ますと」
「あ、相澤先生? 何してるんですか?」
「個性使ったあと気絶して、周りにヴィランがいたらどうなるか知るためだ」
「それ本物のナイフですよね?」
「本物の殺気がなきゃ分からないだろ」
「じ…じつに合理的ですね……」
ナイフが引かれ、周りを見てみるとどうやら病院のようだ。
「あの後はどうなりました?」
「オールマイトさんが片付けて終わりだ」
「そうですか」
聞いたところ他の誰も怪我はなく、相澤先生が一番重症でその次が意識が無い僕だった。
「おまえのその個性、緑谷程ではないが使った後のダメージがでかすぎる」
「ですよね」
「恐らく場合に迫られれば、無限に活動する事もできるだろう。だが今回の戦いだけで数時間の気絶だ。考えておけ」
「分かりました」
これまでの中で最大出力だった事は間違いない。あれほどまでの事は早々無いだろうが、考えて損はないだろう。
「考えて考えて分からなかったら、一緒に考えてくれますか?」
「……そりゃ先生だからな」
もし続きを書いたから、更新
-
する
-
しない
-
どっちでも