英雄がヒーローになります!給料次第ですけど。 作:聖剣エクスカリ棒
誤字報告助かってます。
スタジアムに蔓延する煙によって、視界と呼吸が一気に遮断される。
『オイオイこりゃどーなってんだ!?イレイザー!』
『耳元で叫ぶな。ただの煙幕だ。サポート科のやつだろう』
実況のプレゼント・マイクに聞かれ、イレイザーヘッドが解説をする。
そんな実況や観客席の混乱をよそに、スタジアムでは既に状況が動いていた。
爆豪が爆風で、アルスが魔法で、拳藤は手のひらを肥大化させ、対処出来る個性を持った生徒が続々と煙を晴らしていた。
「ハチマキがねぇ!」
スタジアムの煙が晴れていく中、1組の騎馬がそんな叫び声を上げる。それを皮切りに次々とハチマキを奪われたことに気づく騎馬が現れた。
そんな中、ハチマキを奪われなかった事で冷静に周囲を見ていた轟焦凍はその犯人であろうグループを発見した。
「さっきのはあいつらか…!」
轟の視線の先には、ガスマスクに奇妙なゴーグルを付けた4人組の騎馬。
「やっぱりえびせんぱいも居るのかぁ」
轟の視線の先を見た右翼のアルスが呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな声を出す。
「俺たちの狙いは変わらねぇ。1000万だ。あいつらにも注意するのを怠るな」
「ああ!」 「はい!」 「おぅ!」
「うははははは!やばい、楽しすぎるぅ!」
「雑魚どもがよォ!俺たちに勝てると思ってんのかぁ!?」
「お前らイキリすぎだろ!まぁ分かるけども!」
「こうやって作戦が上手くいくのは爽快ですね!」
葛葉を騎手とした騎馬がスタジアムを縦横無尽に駆け回る。騎馬を組んでいるエクスと加賀美、剣持の足には補助アーマーが着いており、走っても走っても疲労が溜まりにくくなる上に足音をかなり軽減している。
ガスマスクとゴーグルを脱ぎ捨てる葛葉を見ながら、加賀美が笑う。
「かんっぜんに作戦通りです!むしろ、多少ですが予想よりも多くのポイントを取れたのはかなりでかいです!」
最初に煙幕と足のアーマーを使って一気にポイントを稼ぐ作戦は加賀美の作戦の第1段階だ。
煙幕で視界を遮り、足音を消してハチマキを取る。単純ながらもサポート科がほぼ居ないこの状況において、使えるチームは他に居ない。
そして、熱を探知して人間のみを探すゴーグルで近くにいた騎馬のポイントを片っ端から奪ったのだ。
「いや〜、やっぱすごいっすね。社長のサポートアイテム!これぞ至高!って感じですね」
「嬉しい限りです。でもやっぱり耐久性とか改良出来る点はまだまだありますね」
脱ぎ捨てられたゴーグルを振り返って加賀美が言う。その言葉通り、ゴーグルは地面に落ちた衝撃だけでそこそこ破壊されていた。
騎馬の3人が付けている補助アーマーについてもそうだ。こちらはバッテリーがかなり少ないため、もうじき機能を停止するだろう。
だが、あくまでまだ第1段階。葛葉の背負う円錐形の装置などまだまだ使えるものはある。
「皆さん、バッテリーが切れたら次のステージに入ります!移動しましょう!」
加賀美の合図で葛葉の騎馬はスタジアムの壁に向かって走る。目的は壁に近づく事と、1000万ポイントの緑谷チームから離れることだ。
ここで欲を出して1000万に近づきすぎればそれだけ狙われやすくなる。1000万を狙うのは最後だ。
「社長!バッテリー切れました!」
エクスが声を発すると同時に葛葉の騎馬はスタジアムの壁にたどり着いた。
「剣持さん、お願いします!」
「任せ…ろっ!」
振り返りざまに発動した剣持の個性により、葛葉の騎馬の周りの地面が研磨されてツルツルの表面になる。葛葉達を追って来ていた騎馬が数機、足を滑らせて転倒した。
「このまま行けば、間違いなく入賞は出来ます。でも皆さん!それでいいんですか!?このポイントに、甘んじていいんですか!?答えはNOです!我々が、1位を取ります!」
「「「イェェエエーーー!!!!」」」
「その為にも、今から終了の3分前までこのポイントを守り抜きます!」
「ふざけた真似しやがって…!」
自分のポイントを奪っていった騎馬を睨みながら爆豪が呟く。
その憎き騎馬は現在、目標である1000万を持つ緑谷の騎馬とは逆方向に走り去っている。そのせいでポイントを奪い返すことが出来ない。
もしもここでポイントを奪いに行けば1000万を他のチームに奪われる可能性がある。それが轟の騎馬ともなれば苦戦は必至だろう。
だが、逆に1000万ポイントを取りに行けば万が一1000万を取れなかった時点で敗北する事となる。
ほかの騎馬のポイントを取ろうにも、それで時間をかけて1000万が取れなくなっては意味が無い。
何より、1位で無ければ気が済まない以上、1000万は必ず取る。しかし、自分達のポイントを取った騎馬を放っておくのも頭に来る。
「チッ…まずは1000万を取る!んでその後にアイツらも潰す!」
「…ッ!アルス!」
「あいー!」
押し寄せていた敵をアルスの魔法と自身の氷結で撃破していく。
真っ先に葛葉達の騎馬が状況を掻き乱したせいで一気に打開するのを目指した騎馬が1000万に集まり、結果、轟達の元にも数々の騎馬がやって来ていた。
「(これじゃ1000万には届かない…、これもアイツらの作戦の内なら本気で厄介だぞ…!)」
周囲を囲む騎馬と戦いながら、未知数の力を持つライバル達に思いを馳せる。
「(緑谷も葛葉も今は逃げに徹しているせいでこっちから攻撃出来る状況じゃねぇ…、そんな隙見せたら数に押される!)」
ただひたすらに数が多い。その1つの事柄で轟達は中々前に進めずにいた。
下手に周りを凍らせてしまえば、それは自分達にとっての壁になり更に行動範囲を狭めてしまう。それも、自分達の周りを円形に囲まれている今なら尚更だ。
「何とかして道を切り開く…!じゃねぇと次に進めねぇ!」
迫り来る騎馬に対し、最低限の攻撃を行うだけで向こうは勝手に滑って騎馬を崩す。たとえ崩さなったとしても、葛葉の持つ銃から放たれる殺傷能力0の麻痺弾によって強制的に崩される。その姿はまさに鉄壁だった。
「やばいっすねこれ。しゃちょうのさくせんどおりにしかすすんでませんよ」
「いやもうマジで楽っすわ。社長居てくれて助かるわ〜」
「ほんとにそう。社長を取らなかったメンツは見る目ねぇな!」
「もう大丈夫ですから…ほんとにやめて…」
3人にべた褒めされて、顔を覆いたくなるほどの羞恥心に襲われる加賀美。そんな和やかな空気の中、また1つの騎馬が迫ってきていた。
「また来たな。エクス、頼んだわ!……エクス?」
敵が来ているのが見えるはずなのだが何故か動こうとしないエクス。エクスは瞳が虚ろになっており、動く気配がない。
「クソっ!」
葛葉が迫る騎馬に銃弾を発射する。発射された銃弾は真っ直ぐに騎馬の先頭である少女の腹部へと進み――
「甘い」
その銃弾は、少女の蹴りで弾け飛んだ。
「嘘だろ、マジか!」
「剣持さん!」
「あぁ、もう
加賀美が右を見れば、15メートル程先まで続く巨大な漆黒の壁が出来ていた。
その壁がゆっくりと動き、最初に右翼の剣持を、次に葛葉、エクス、最後に加賀美を呑み込んだ。それと同時に壁は元から無かったかのように消失した。
「エクスさん、分かりますか!?」
壁によって距離を稼いだ直後、加賀美がエクスの体を揺する。数秒後、エクスの瞳に生気が宿る。
「ぁ…、社長……?」
「大丈夫ですか、エクスさん。どこまで覚えてます?」
「っそうだ、僕多分敵の個性にやられて…」
「具体的にどんな状態だったか覚えてますか?」
「最初は違和感無かったんですけど、なんかどんどん頭が回らなくなって気づいたらここに居た感じです」
エクスの言葉を聞いて加賀美がハッとする。言われてみれば、途中からエクスの滑舌に違和感があった。
「しまった…!もう少し注意しておくべきだったんだ…。違和感はちゃんとあったんだ。油断していた…!」
自分の失態に苦悶の表情を浮かべる加賀美。
「社長!今くよくよしててもしょうがねーっすよ!次どうするか考えましょう!」
葛葉の激励に加賀美が顔を上げる。
「そう、ですね。まずはあの騎馬をどうにかしないと――!」
こちらに近づいてくる例の騎馬に視線を向ける。
「恐らく、エクスさんがやられたのは思考に影響するタイプの個性で誰が持っているかは不明。
しかし、剣持さんの個性で撤退したらエクスさんが目を覚ましたこと、それとエクスさんのみを狙った事から範囲も対象もそこまで大きくはない!
そしてもう1つ、銃弾を弾いた女性は間違いなくエクスさんや葛葉さんと同タイプの異形型!情報的にはまだ負けてない!」
闘志を燃やす加賀美の姿に、エクス、葛葉、剣持、3人の士気も高まる。
「それで、どうします?何か策とかあるんですか?」
剣持の問いに、加賀美はニヤリとして答える。
「最初からこちらに攻めてこなかったことや、エクスさんの症状が直ぐには出なかったことから、作戦はとても単純です!皆さん、力を貸してください!」
「どうじゃリオン?個性は発動出来るか?」
「まだ無理、もっと近づかないと」
「やっぱりリオン様の個性って射程不足だよねぇ」
「おま、そういうこと言うとまた…」
「あーもー!仕方ないでしょ!」
金髪のツインテールが特徴的な少女と、額から角を生やした少女、ピエロのようなメイクをした青年、和服が似合いそうな青年の騎馬が騒ぎながら進んでいく。
「ヒーロー科、特にあの白髪のやつ!私が苦労してポイント稼いでるよこで楽そうにロボットを蹴散らしてやがった!まじで許せねぇ!」
「リオンの個性はロボットに対しては効果が薄いからの〜」
「いてっ!ちょっ、足踏みやめて」
「いてぇ!今絶対爪曲がったって!」
騎馬の上ででドンドンと地団駄を踏む少女、鷹宮リオンとそれを辞めるように訴える青年が2人、ジョー力一と舞元啓介。それを振り返りながら笑っているのが竜胆尊だ。
「ん…?なんか向こうの騎馬こっちに近づいてきてない?」
力一に言われて見てみれば明らかに敵対している騎馬はこちらに向かって疾走してきていた。
「もうお嬢の個性が割れたのか…!?早すぎじゃねぇ!?」
「舞元燃やして!」
「おうよ!」
舞元が個性を発動する。その個性により、先頭のエクスにとても小さな火がついた。
「こっから2分もあればかなり燃えるぜ!」
「それ時間足りなく無い!?」
「りきいちぃ!」
リオンに呼ばれた力一が個性を発動する。次の瞬間、リオンたちの騎馬から幾つもの同じ騎馬が現れた。
「これで時間稼ぎに…」
が、葛葉の放った銃弾が寸分違わず全ての尊の額に向かって吸い込まれていく。例の如く、本物の尊は銃弾を弾くものの偽物は全て消えてしまった。
「うっそぉ…。リオン様、個性は?」
「まだ無理ぃ…あーもー、負けたくねぇぇえ!」
「これは…ダメみたいじゃな」
「だよなぁ」
尊が蹴りを放つ。が、エクスはそれを痛みに顔を歪めるものの見事に耐えきり、そして
「取ったァ!」
腕を振り回すリオンの額に巻かれたハチマキを葛葉が綺麗に奪い取った。
「ふざけんなっ!」
咄嗟にリオンも葛葉のハチマキを取ろうとするが、伸ばした腕を掴まれてしまう。そして、恐怖に顔を引きつらせるリオンに対して葛葉は可愛らしい笑顔を浮かべた。
「なんで負けたか、明日までに考えといてください。ほな、対戦ありがとうございました」
「ああああああああぁぁぁ!!!」
煽り耐性が低い為ブチ切れて発狂するリオンを他所に葛葉達の騎馬は再び壁際まで走り去っていった。
「ヒーロー科って怖いね」
「なるべくしてなった、って感じだな〜」
「うわぁぁぁん!尊ママ〜!」
「よしよし、リオンはよくやっておったよ」
「…リオン様がこれじゃもう無理か」
「端に寄っとくか」
戦いの後とは思えない空気感でリオンチームはスタジアムの端に歩いていくのだった。
再び緑谷チームと離れた壁際で身を守る葛葉チーム。騎馬戦の終了は刻刻と近づいてきていた。そして――
「社長!もうすぐ3分前です!」
剣持の声に、加賀美が声を張り上げる。
「皆さん!1000万、取りましょう!」
「おー!」 「ふぅぅう!」 「いぇー!」
叫び声を上げながら今までとは逆に緑谷チームへ突き進んでいく。緑谷チームは現在、轟チームとタイマンで対決していた。
だが、その2チームを囲うように氷壁が張られている為このままでは戦いに乱入出来ない。
「社長、あの壁ってどーします?」
「……ぶち壊しましょう!」
「これ絶対こうなること想定してなかったでしょ。ですよね社長?」
「なんで剣持さん煽ってくるんですか」
小馬鹿にした様子の剣持にジト目を向ける加賀美。1つため息をついて、視線を鋭くする。
「1000万、取りましょう!」
「いぇー!」 「ふぅぅぅ!」 「おー!」
「いや全然噛み合ってない!?」
リオン様ファンの皆様、すみませんでした!次はもっとカッコよく書きます…。
リオン様達のチーム、奇襲が成功すれば滅茶苦茶強いんです。成功すれば。
テュティパティ。ソシテ。