英雄がヒーローになります!給料次第ですけど。   作:聖剣エクスカリ棒

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ものすごくお待たせしてすみません。


今日はなんかやる〜

リストをパラパラと捲る。 知らない顔、知らない顔、知らない顔。

……

 

「何してんの?」

 

「職場体験どこ行くか迷ってます」

 

「あー。 俺も全然決まんねぇわ」

 

エクスのリストを覗き込みながら、上鳴が大きくため息をつく。

 

「将来に関わるって考えると、やっぱしり込みしちゃうよなぁ」

 

「有名な事務所が絶対良いって事でもないですしね」

 

リストを机の中に放り込み、天井を仰ぐ。 有名どころの事務所からも数件指名が来ているものの、ヒーローについて一般程度の知識しか無いエクスには判断がつかなかった。

 

「……あ」

 

「どした?」

 

エクスの脳に電流が走る。

知識が無いなら、有るものに借りればいい。

 

「緑谷さんってこういうの詳しそうじゃないですか?」

 

「おー! それだいぶナイスアイデアじゃね!?」

 

善は急げ。

再びリストを引っ張り出しながら、金髪コンビは緑谷の席へ突撃した。

アホが2人活発になったのを見て、クラスの何人かは心の中で緑谷に手を合わせた。

 

「緑谷さんってヒーロー好きですよね?」

 

「えっ…? うん、そうだけど…」

 

「指名来てる事務所で、俺らに合いそうなとこ教えて欲しいんだけど!」

 

お願いします! と、両手を合わせて頭を下げる。

頼まれた側の緑谷はそんな2人をみて、案の定首を横に振った。

 

「む、無理だよ! 僕なんて好きなだけで対して詳しくないし…」

 

「ヒーローノート持ってるじゃないですか」

 

「そ、それはそうだけど…」

 

「このクラスで1番ヒーローに詳しいのはお前なんだからさ! 頼む!」

 

今にも土下座をしそうな2人。 というか、既にエクスは土下座していた。

緑谷は、机の中のノートを僅かに引き出す。

 

それは無個性だった自分が必死に積み重ねた研究の証であり、自分の憧れを象徴する大切なもの。

かつては馬鹿にされ、ぞんざいに扱われていたそれが今、必要とされている。

 

「…分かった」

 

「! マジで!?」

 

「うん。 自信はそんなに無いけど、出来る限り協力するよ」

 

「やっぱ緑谷さん最高っすわ。 同じクラスでほんと良かったです」

 

純粋に喜ぶ上鳴とエクスを見て、緑谷は小さく吹き出す。

裏表のない人達だな、と。 心からそう思った。

 

「それじゃあリストを見せて。 全ヒーローは流石に無理だけど、有名な人や事務所なら役に立てると思うよ」

 

自慢げに机に置かれたノートを見て、2人はリストを差し出す。

 

「お願いします」 「お願いします!」

 

恭しく差し出されたリストを受け取り、パラパラと捲る。

どちらのリストにも膨大な数の事務所が書かれており、中にはヒーローランキング上位の名前もある。

指名数0の緑谷は、自分の師匠のように血を吐きそうになった。

 

「ふ、2人とも凄いね…。 指名の量も質も…」

 

「まぁまぁまぁ、僕ならこれくらいは当然ですよ」

 

「緑谷、なんかスマン」

 

気を取り直して、続きに目を通す。

暫く経った後、緑谷がリストを閉じた。

 

「うん。 それじゃ、どっちからがいい?」

 

2人で顔を見合わせる。

そして、上鳴がエクスを指さす。

 

「じゃあエクスだな。 発案者だし」

 

「じゃあ僕からで。 お願いします」

 

「分かった。 それじゃ、エクスくんだけど」

 

エクスの指名リストを開き、予め目星をつけていたページを見せる。

そして、当該ヒーローのことが書かれたノートのページも開いた。

 

「実績も相性も考えたら、イチオシはここかな。『リゼ・ヘルエスタ』」

 

写真に写っているのは水色の髪をした女性で、どこか気品を感じさせる風貌をしていた。

 

「このリゼさんは剣使いとして有名なヒーローだし、この事務所にはバンケンさんって言う肉弾戦が得意なヒーローも居るから、良い経験になると思う」

 

「なるほど」

 

緑谷のレポートによれば、リゼというヒーローは『ヘルエスタセイバー』なる剣を振るうらしく、過去には、飛来するトラックを一太刀で真っ二つにした実績もあるようだ。

 

「あとはここ、『紅頼雄斗』! 武闘派ヒーローと言ったらやっぱり彼かな!」

 

「切島さんが好きなヒーローでしたっけ」

 

「そう! 戦闘スタイルは拳で戦う時のエクスくんによく似ているから、ここでもきっとレベルアップに繋がるよ!」

 

切島に近い髪型と髪色の彼は、いかにも硬派といった出で立ちだ。

エクスも切島経由とは言え名を知っているほどなので、確かに実力も実績も十二分にあるようだ。

 

「エクスくんの得意なところを伸ばせて実績も豊富なところなら、とりあえずこの2つが僕のオススメかな。 逆に苦手なところを克服したいなら、そっちでも2つほど候補があるけど…」

 

「いや、大丈夫です。 めちゃくちゃ参考になりました。 ここ以外で探すならポイントとかあります?」

 

「やっぱり無難に、有名な事務所は選んで損をしないと思う。 それと、剣的な物か肉弾戦が得意なヒーローだよね。 スマホで調べれば、ヒーローの戦闘スタイルは直ぐに出てくるよ」

 

「うわ、もう神。 後光が差してるやん。 ホントにありがとうございます」

 

ペコペコと何度も頭を下げる。 自分に合う事務所と、探すコツを教えて貰えたのは、ヒーローの知識が薄いエクスには大きなプラスだった。

次に上鳴向けの講座が始まったのを聞いて、エクスは体験先選びに戻るのだった。

 

 

 


 

 

 

「ここバッテリーあるよ」

 

「んあー、貰っとく」

 

その日の夜。

宿題を早々に切り上げたエクスは、パソコンでゲームに勤しんでいた。

 

「そういえばさー、イブラヒムってどんなヒーロー知ってんの?」

 

「ぇなんで?」

 

「なんとなくだけど」

 

中学時代からの親友であり、1学年下の後輩『イブラヒム』。 今日は久々の2人でオンラインプレイだ。

画面の中で特にやる事も無くなったエクスは、スコープで敵の位置を見ながら話題を振る。

 

「でも、いざ誰を知ってるか? って聞かれたら難しいよね。 最近だとMt.レディとか有名じゃない?」

 

「え誰それ。 知らんわ」

 

「エクスアルビオヒーロー志望じゃないの?」

 

「一応これでもヒーロー志望だけどね。 こっち敵来てるね。 3人」

 

ピンを指して見えた敵の位置を知らせる。

 

「突っ込む? 俺ウルトあるよ」

 

「おけ、虚空いる?」

 

「まだいい」

 

ヒャッホーウと叫び声を上げながら、エクスが画面の中のキャラクターを操作し、それに追従するようにイブラヒムのキャラクターも走る。

そして響く、連続した銃撃音。

 

「ウルト投げた! 右の方見て!」

 

「おけおけおけ、1人やった。 2人!」

 

「ナイスゥ! …ラスト1人アーマー割った! 肉当てた激ロー!」

 

「ナイスナイス、やった!」

 

「ナイッスゥ! イブラヒム強すぎ!」

 

倒した敵の物資を漁り、削れた体力を回復する。

他のパーティが来ている音は聞こえない。

 

「いや、今日エイム良いかもしれん。 めっちゃ当たったわ」

 

「当ててたねぇ。 今日もしかして調子良い?」

 

「めっちゃ良い」

 

嬉しそうなイブラヒムの声に、エクスの頬も自然と緩む。

索敵を済ませ、新しい目的地へ移動を始める。

 

「それで話戻すけどさぁ、イブラヒムはどんなヒーローなりたいとかある?」

 

「え、俺ヒーロー志望じゃないよ?」

 

「え゛ぇ゛!?!? そうなの!?」

 

ふと問いかけた質問に対する予想外の答えに、エクスは声を張り上げた。

エクスの叫びに軽く笑いながら、イブラヒムは答える。

 

「うん。 だって俺、普通に実家の温泉継ぐし」

 

「だって前ヒーローになりたいって言ってたじゃん」

 

エクスの中学時代、イブラヒムは確かにヒーローに憧れているといった趣旨の話をしていたはずだ。

 

「なりたいはなりたいけど、実際やるとなると1歩引けちゃうんだよね」

 

「あー…」

 

イブラヒムの言うことも、分からなくはない。 実際、エクスもヒーロー科に行くことを長いこと悩んだからだ。

それでもヒーロー科に入ったのは、個性がヒーロー向きなことと、シンプルにトップヒーローの年収が凄かったからだ。

 

「てことは、イブラヒムってもう一生安泰じゃん」

 

「まぁ、割と楽に生きれる感はあるよね」

 

イブラヒムの実家の温泉は全国で知らないものは居ない程の有名どころであり、海外からその温泉目当てにやってくる人も決して少なくない。

幼い頃からその手伝いをしていたイブラヒムは、まさしく、中学3年生にして人生の勝ち組だった。

 

「うわー! 俺も楽して生きてぇー! イブラヒムのとこで居候してぇよ」

 

「別にいいけど、働いては貰うぞ。 言っとくけど、サービス業マジ大変だからな」

 

「だよなぁ。 好きなことして生きるのって難しいわ」

 

「な」

 

エクス・アルビオ16歳。 この日、世界の不平等さの片鱗を知った。




※脳みそが前日のゴミズペクスに引っ張られてます
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