英雄がヒーローになります!給料次第ですけど。 作:聖剣エクスカリ棒
本編と大して関係ない日常回です
金曜日の放課後。まばらに生徒が残った教室で、エクスはバン! と机を叩いた。
勿論、自分の机ではない。
「師匠! 特訓しますよ!」
ホームルームが終わるなり自分の席へ来たエクスに、アルスは胡乱気な瞳を向ける。
「ほんとぉ? 前は結局、1回走っただけだったじゃん」
「そうですね。 だから、今回はちゃんとやります」
鞄をゴソゴソと漁り、2枚のプリントを取り出す。
「スポーツジムとラウンドワン、どっちがいいですか」
その一言で、アルスの顔が思い切り歪んだ。
しばし悩んだ後、絞り出すようにアルスが口を開く。
「ラウンドワンって何するの…」
「他にも何人か誘って、サッカーとかバスケとか。 体動かすスポーツを片っ端からやります」
再びアルスの顔が歪む。
「ジムは?」
「筋トレですね。 ランニングマシンとかありますよ」
アルスは額を机に打ち付けた。
あくまで自分は最低限、近接の心得的なものを学べればよかった。 なのに、どうしてこうなってしまったのか。
まあ、致命的にアルスには体力が無いからなのだが。
「ぶっちゃけどっちでもいいですよ。 まずは師匠に体力付けるところからなんで」
顔を上げ、2枚のプリントを見比べる。 唸り声を上げ、やがて、片方のプリントを指さした。
「こっち…」
「分かりました。 日曜空いてますか?」
「うん…」
「じゃあ後で連絡します」
それじゃ、と、プリントを片付けて帰っていくエクス。
アルスは過去の発言を死ぬほど後悔した。
日曜。
朝から呼び出されたアルスは、悩まに悩んで選んだ洋服で集合場所にやって来た。
集合時間にはまだ時間はあるが、見慣れた顔が幾つか見える。
「おはよーござーまー」
「お! アルスちゃん! おはよー!」
挨拶した途端、芦戸に抱き抱えられる。
悲しいかな。 同い年のはずの2人には、10cm以上の身長差があった。
「うわー、ほっぺモチモチだー」
当然、アルスに抵抗など出来るはずもなく、頬ずりをただ受け入れるしか出来なかった。
「おはよう、アルスちゃん。 今日は楽しみね」
「梅雨ちゃんあーよー。 三奈ちゃんそろそろそれ辞めてよ、喋りにくいんですけどー」
「はーい」
蛙水に挨拶を返そうとして、頬ずりされていては思ったように言葉が出ないことに気づく。
不満を訴えると、芦戸は大人しくアルスを離した。
「アルスちゃんオハヨー!」
息つく間も無く、再び抱き上げられるアルスの体。
後ろから抱き上げて来たのはレヴィであり、アルスとの身長差は脅威の15cm以上。
アルスはもう何も言わないことにした。
「おーっす、もう結構揃ってんな!」
「うおおお! 女子の私服! 普段の制服とはまた雰囲気違ぇ!」
「アンタってホント、そういうとこ」
手を挙げながらやって来たのは切島。 その後ろから、上鳴と耳郎が歩いてくる。
「おはよー! 3人で来たの?」
「おう、さっきそこで会ったんだよ」
「上鳴ちゃん、耳郎ちゃん、おはよう」
「おはよう梅雨ちゃん! 私服似合ってんねぇ!」
「ケロ、ありがとう。 上鳴ちゃんもかっこいいわ」
「梅雨ちゃん、コイツのことは無視していいから」
「酷くね!?」
切島達が合流した事で、人数も7人になり、一気に騒がしくなる。
アルスも挨拶しようとして、動けないことを思い出した。
「レヴィちゃん、ゴー!」
「アイアイサー!」
アルスを抱えたレヴィが3人に突撃する。
「みんナ、オハヨー!」
「おはよぉー」
「おお、レヴィ! と、アルスも! おはよう!」
「おはよ。 こうやって見ると、アルスってやっぱ小さいね」
「おはよう! 今の2人、大きさも合わせて姉妹みたいだな!」
思わず、顔を見合わせるレヴィとアルス。 尚、アルスは上を見上げ、レヴィは見下ろす形になっている。
アルスの顔を眺めるレヴィの顔が、どんどん輝いていく。
「アルスちゃン、ボクの妹にならなイ!?」
「なりませーん。 僕は皆と同じ16歳ですぅー」
べーっと舌を出すと、何が気に入られたのか、より強くレヴィに抱き締められる。
「おはようございまーす。 皆早いっすね」
「…おはようございます」
「………」
程なくして、残りの3人も到着した。 集合時間2分前だ。
「集まりましたし、もう行きます?」
「行こ行こ! ちょー楽しみ!」
「そういえば、なんで今日はこのメンバーなの? ウチとエクスって対してあんまり話した事ないからびっくりしたんだけど」
「あー、適当っすね。 LINEで上から順に聞いて、OKしてくれた10人です」
「とっても雑だわ」
まさかの、とんでもない選び方だった。 もう少し何か無かったのか。
「オイ待て、俺は断ったぞ」
「爆豪さんは断るって分かってたんで。 絶対来てもらうって決めてました」
「テメェ…!」
青筋を浮かべた爆豪がエクスに掴みかかり、エクスが即座に逃げる。
あまり知らないが、アルスには、爆豪が本気で嫌がっているようには見えなかった。
「んじゃ、行くか! 今日はアルスの体力作りだっけ?」
「らしいわ。 確かにアルスちゃん、走るのも跳ぶのもダメダメだったものね」
「さっき抱えた時も軽かったからねー」
「うるせー」
怒ったように頬を膨らませると、周囲が笑い声に包まれた。 視界の奥では、未だにエクスと爆豪が鬼ごっこを続けている。
「レヴィちゃん、キツくなったら降ろしていいからね」
「ンー? ダイジョブ! アルスちゃん軽いシ、ボク、チョー力持ちだかラ!」
「今のは降ろしてくれーって意味だったんだけど! 恥ずかしいよ!」
「アレ!? そうだったノ!?」
渋々といった様子で降ろされる。 途端に低くなる目線。 アルスは少しだけショックを受けた。
「皆さんって、ラウンドワンとか行ったことあるんすか?」
「ウチは友達と何回か」
「俺も。 そう頻繁にじゃないけど、何回かはあるぜ。 葛葉は行ったことねーの?」
「無いっすね…」
そのまましばらくの間、談笑をしながら街を歩く。
今の時間帯はまだまだ人通りも多くなく、戻ってきたエクスと爆豪を入れても、歩道の幅を気にすることなく歩くことが出来た。
そして数分。目的地へと到着する。 割引込のフリータイムを選び、建物の中へと足を踏み入れる。
「えびせんぱいって来たことあるの?」
「何回もありますよ。 師匠は…まぁ初めてですよね」
「悪いかよぉ、初めてでよぉ」
「まぁまぁまぁ、安心してください。 難しいヤツあったら僕がちゃんとサポートするんで」
《サッカー》
「ヘイパス! 俺に来い! …ナイスパス! オラァ!」
「おっと、危な! レヴィさん!」
「よーシ、イケッ!」
「そう簡単に入れれると思ってんじゃねえぞ! カエル女!」
「ケロッ。 任せてちょうだい!」
「おっと、行かせねぇぜ梅雨ちゃん!」
「梅雨ちゃん! アタシにパース!」
「させないっての…! レヴィ!」
「つ、つかれた…」
「…あちぃ」
《バスケ》
「フッ…! あーくそ、外した…」
「リバウンドサボんな金髪! クソ髪ィ、ボール寄越せやぁ!」
「お前にはやらねぇ…だぁ!?」
「がら空き。 上鳴!」
「っしゃ、任せ「三奈ちゃン!」ぇええ!?」
「ナイスカット! 梅雨ちゃん!」
「任せて。 ジャンプは割と得意なの」
「ま、待ってぇ…」
「…きちぃ」
《ローラースケート》
「うおっ、思ってたより難しいな、コレ!」
「ぅわっとぉ!? いっ…てぇ…!」
「大丈夫かしら、上鳴ちゃん」
「足を八の字にするとコケないよー」
「レヴィちゃん、手、離さないでね…!?」
「ほーラ、ガンバレーガンバレー」
「おい、テメェ浮いてんぞ」
「気のせいっすよ」
「あっははははは! 師匠ぉ! 足ガックガクじゃないですか!」
「そう思うんなら助けろよぉー!」
《バレーボール》
「師匠、行きますよー」
「へぇっ!…あれ?」
「目閉じたらボール見えないでしょ」
「死ねぇ!」
「っと危ねぇ! 流石だな、爆豪!」
「見とけよ、俺のスーパーサーブ!」
「…アウトっすね」
「梅雨ちゃんっ、パス!」
「レヴィちゃん!」
「テイッ!」
「「おおー」」
………
……
…
「楽しかったー!」
「やっぱ大人数だと楽しいな、こういうの!」
「ねー!」
「爆豪も途中からめっちゃ楽しんでたな!」
「うるせぇ」
既に時刻は夕暮れ時。 夕日に照らされた道を歩きながら、今日の思い出を語り合う面々。
その数歩後ろをエクスとアルスは歩いていた。
「師匠、どうでした?」
「めっちゃキツかったー。 誰かさんは『サポートする』って言ってたのに全然助けてくれないしさぁ」
「いや、特に難しいことやってないからね? バレーは一応俺が相手したけど」
ジト目を向けられ、弁明をするエクス。 そんなエクスを見て、アルスはいじけたようにそっぽを向く。
「はいはい。 どーせ僕はへなちょこ雑魚饅頭ですよー」
「ひねくれてるなぁ」
ツンとした態度で大股気味に歩くアルス。 それを見て苦笑を零しながら、エクスが優しく声をかける。
「こんな感じなら続けれそうですか?」
「……うん」
「じゃあ、たまにこうやってみんなで遊びましょうね」
「…なんか舐められてるみたいでムカつく!」
「いや、なんでだよ!」
いーっ!と威嚇して他のメンバーの所へ駆けていくアルス。
その後を追うようにエクスも合流する。
「おー、エクス! またこうやって遊ぼうぜ!」
「今度は他のみんなも誘いたいわ」
「良いですね、是非また遊びましょ。 アルスさんは強制参加で」
「もぉぉぉ! 僕そのうち死んじゃうー!」
2・3週間に1回、アルスの体力作りという名目で、A組で集まって遊ぶようになりました