英雄がヒーローになります!給料次第ですけど。 作:聖剣エクスカリ棒
にじさんじ×ヒロアカの新作を見つけた嬉しさで一気に仕上げる事が出来ました
駅のホームに次々と現れる雄英生。
各々の職場体験先へ向かうため、自分の乗る電車を待つ生徒達の端で、エクスは緑谷と並んでいた。
「そういうわけで、ハッカさんのところにしました」
「そうなんだ。 あそこの事務所のドーラさんも、近接戦においてはトップクラスだから、きっと良い経験になるよ」
緑谷と言葉を交わしているうちに実感した、知識というものの強さ。
授業は聞いているものの、知識面でスタートラインから出遅れている自分は、何よりも
故に、強さと同じくらい専門的で実践的な知識を学べる事務所を選択した。
「緑谷さんのおかげです。 ほんとありがとうございました」
「こちらこそ、役に立ててよかった。 お互い頑張ろう!」
胸の前で両手を握る緑谷に、エクスも笑顔でガッツポーズを作る。
緑谷の助言を受け、実績や所属するヒーローを見て悩むこと数日。 追加で緑谷に相談をもちかけながらも、エクスは無事に体験先のヒーロー事務所を選ぶことが出来た。
「マジで緑谷さんのおかげなんで、なんかあったら言ってくださいね! 絶対助けます!」
「エクスくんこそ!」
緑谷へ手を振りながら、エクスは電車に乗り込む。 緑谷はこの列車では無い為ここでお別れだ。
アルスやレヴィも違う事務所であり、ここからは正真正銘自分一人。
雄英に入ってから、大半の時間を友人と過ごしていたエクスは、深呼吸で緊張を和らげる。
窓の外の景色は次々と後方へと流れて行き、見慣れた街をだんだんと離れていく。
今回エクスの向かうヒーロー事務所・YASHIROは、都心部から少し離れた場所に位置する場所で、雄英高校からは電車で十数分ほど。
やたらと重いコスチュームや必要な道具が入った大きなキャリーバッグを引き寄せ、エクスは少しだけ気を引き締めた。
無骨なコンクリートの中に木々の緑も混じった、美しさを感じる立派なビル。
此処こそが、ヒーローランキング8位のヒーロー『ドーラ』の所属する大手ヒーロー事務所、『YASHIRO』。
そのエントランスに入ったエクスは、自分の案内に現れた人物を見て首を傾げる。
「なんで葛葉さんなんですか」
気まずそうに首の後ろを擦りながら現れたのは、クラスメイトにして友人の葛葉。
まさしく予想外の人物が、事務所の案内役としてやってきた。
「まぁその辺も後で説明するわ。 こっち着いてきて」
「あ、はい……」
居心地の悪そうに歩き始める葛葉。 その後に続いて、大勢の人が行き交う事務所を進んでいく。
エントランスの正面に設置されたエレベーターに乗り込み、葛葉は最上階のスイッチを押す。
いかにも最新型といったエレベーターは、一定の感覚で表示されたデジタル数字を増やしていく。
いつもとは様子の違う葛葉は口を開く様子が無く、エレベーター内は沈黙が続く。
やがて、数字が6に切り替わった時、エレベーターが停止してドアが開いた。
「……いくか」
意を決した様子の葛葉に、エクスは短く返事を返してエレベーターを降りた。
6階はワンフロア全てが1つの部屋になっており、正面の壁は全てがガラス張り、左右の壁はファイルの詰まった本棚が端から端まで並べられていた。
そして。
「ん? おぉ、きたきた。 いらっしゃい。 ようこそ、ヒーロー事務所・YASHIROへ」
部屋の中心に設置された、社長席と思しき豪華な机と椅子。
そこに腰かけていた男性が、軽い調子で手を挙げる。
「案内してくれてありがとな葛葉。 えっと、エクスくん、だっけ?」
「あ、はい。 エクス・アルビオです」
「ヒーロー名は?」
「『英雄 エクス』です」
「おお〜。 名前が横文字だと、そのまんまでも様になるなぁ」
高そうな椅子を左右に揺らしながら、楽しそうに笑う男性。
威圧感などは全く無く、どう見ても親しみやすいおじさんでしかない。
状況を掴めないまま困惑するエクス。 それを見た男性は軽く咳払いをして、机に肘を乗せて左右の指を組んだ。
「私が、このヒーロー事務所・YASHIROの所長『ワークヒーロー ハッカ』。 君を指名したプロヒーローです」
「はい。 よろしくお願いします」
「よろしく。 まぁ一旦座ってよ」
明るい声で話す男性──ハッカは、自分の机の前のソファへと手を向けた。
ソファは向かい合う形で2つ置かれており、その間には低い長机が1つ鎮座している。
エクスと葛葉が並んで左側のソファに座ると、ハッカも社長席から向かい側のソファへと移った。
「じゃあまず、2人にひとつ質問。 職場体験にここを選んだ理由を教えて欲しい」
チラリと2人で視線を向け合う。 そして、先に葛葉が口を開いた。
「将来はここで働くつもりだし、今のうちから経験しとこうかなって」
「なるほどね」
葛葉の話を聞いたハッカが、手元の書類に何かを書き込む。
「エクス君は?」
ハッカが視線を向ける。
エクスは、膝の上に置いた手を軽く握りしめた。
「はい。 俺はまだ全然弱いですけど、それ以上にヒーローの事とか、色んなことを知らなさすぎるので。 だから、戦闘力よりも情報とかで有名になったハッカさんに、色々教わりたくてここに来ました」
「なるほど……。 確かに、そういう知識的な面を求めるなら俺は適任だね。 しかもウチには強いヒーローもいるからね」
社ヒーロー事務所に所属する、強いヒーロー。
緑谷から教わった名前が、咄嗟に口から出る。
「ドーラさん、ですよね?」
「そう! だからまぁ、ここならエクスくんが求めるものは得られると思うよ」
頑張り次第だけどね。 と言って、ハッカは書類からペン先を離す。
「うん。 葛葉は雑だけど、まぁ大目に見てやるか。 じゃあ、はい。 コレがスケジュール」
それぞれに差し出されるプリント。
そこには、職場体験期間中の日程が記されていた。
「書いてあるとおりだけど、基本は現場に出て、実際に色々見ながら勉強してもらいます。 んで、終わるちょっと前にまとめ的な座学。 途中からは実践も交えていくから」
プリントにはその日に何をする予定かまで細かく記載されており、3日目からは実践の内容が追加されている。
「その辺は後から覚えてもらえばいいよ。 今日はとりあえず2人の実力を見たいから、コスチュームはある?」
「あります」
「じゃあ着替えて、10分後に外集合」
ソファから立ち上がり、エレベーターへと乗り込むハッカ。 それを見送って、エクスはソファに深くもたれかかった。
「これがプロヒーローか……」
学生の自分とは違う、仕事をしている雰囲気。
プロがどういうものかを再確認し、エクスは1度だけ大きく息を吐いた。
「先生達もだけどな」
気だるげに、コスチュームへと着替えていく葛葉。
手早く黒と赤の戦闘用スーツを身に纏い、上から同色のパーカーを羽織る。
「はやくしろー」
「葛葉さん早すぎるって」
サポート科によって強化された、伸縮性のあるアンダーウェアと金属製の鎧。 仕上げに大剣を背負い、エクスはエレベーターの前で待つ葛葉へと駆け寄った。
葛葉がボタンを押し、エレベーターを2人で待つ。
「そういえば、なんでハッカさんって葛葉さんの事呼び捨てだったんですか?」
さっきのハッカとの会話の中で、エクスが抱いた疑問。
エクスは君付けだったが、葛葉は全て呼び捨てにされていた。
その疑問を受けて、葛葉は思わず頬をかく。
「ん? あー……。 まぁ親父だからな」
「……はぁ!!? 親父ぃ!?」
ピンポーン、と。
エクスの叫びと同時にエレベーターが到着した。
「え、嘘でしょ!?」
「マジ。 俺の親、ハッカとドーラ」
「ドーラさんもなの!?」
明かされた衝撃の事実。
エクスはその事実に驚きつつ、今日の葛葉の不自然な態度に納得する。
「そりゃ気まずいわ。 親の仕事場に職場体験来たんでしょ?」
「そ〜なんだよなぁ〜! まじでもっと考えときゃ良かった〜!」
エレベーターの密室で、頭を抱えながら葛葉は絶叫した。
多くの指名の中から偶然名前を見つけ、ほぼ即決で決めてしまった葛葉は、その選択を後悔していた。
事務所の中で出会う両親や知り合いのヒーロー達の、まるで微笑ましいものを見るような視線は、葛葉にはこれ以上なく恥ずかしいのだ。
エレベーターが1階へと到着し、扉を開く。 広いエントランスは、全くと言っていいほど人が減る気配が無い。
すれ違う人に挨拶をしながら、足早にエントランスを通り抜ける。
「おーい、こっちこっち」
エクスと葛葉が並んでビルを出ると、どこからか声が聞こえてくる。
つられて視線を右へと向けると、1人の女性が手を振っていた。
葛葉が嫌そうにうめき声を上げた。
「来た来た。 こっちおいで」
一見普通の人間のように見えるものの、頭には角が生え、腰からは大きな尻尾が伸びている。
人間とは違う肉体に堂々とした佇まい、そして微かに感じる熱が、その女性が何者なのかを雄弁に物語っていた。
「今日は築と代わってワシが見るからな〜」
ヒーローランキング第8位、『ドレイクヒーロー ドーラ』。
日本トップクラスにしてヒーロー事務所・YASHIROの最高戦力が、当然のようにそこに居た。
「ドーラさんが直々に、ですか?」
「そ。 強さを測るだけなら、築よりもワシが適任じゃろ?」
「なるほど」
考えてみれば、当然の返答。
ハッカが来ると思っていたが故に困惑したが、実力を測るだけならばドーラの方が適任だ。
「すぐそこにウチの事務所のトレーニング施設があるから、そこに行きます。 ちゃんと荷物置く場所もあるから安心してください」
「実力測るって、要するに母さんとバトるってこと? 嫌なんだけど」
説明を聞いた葛葉が手を挙げながら文句を言うと、ドーラは咳払いをして葛葉へと歩み寄る。
そして、笑顔でデコピンを放った。
「ぐえぇ!?」
豪快な音と共に、葛葉が頭からアスファルトに叩きつけられる。 どう見ても5mは吹き飛んでいた。
「今は『母さん』じゃなくて『ドーラ』。 それに自分でここ選んだんだから、今更文句言うな」
額を押えて悶える葛葉をみおろしながら、腕を組むドーラ。
一部始終を見ていたエクスは内心冷や汗が止まらない。
「じゃあ行きましょうか?」
「はい……」
にこやかに笑うドーラに逆らう選択肢は、エクスには無かった。
トレーニング施設の一室。 体育館ほどの広さのレクリエーションルームにて、エクス・葛葉コンビは、ドーラと向かい合っていた。
ドーラは髪を一つに纏め、黒い戦闘用スーツに身を包んでいる。 ヒーローとしてよく知られた、鱗のようなコスチュームでは無い。
「心配しなくても、ちゃんと手加減はします」
準備運動に軽いストレッチを行うドーラ。
それを見るエクスと葛葉は目が死んでいた。
「勝てる気しないんですけど」
「まぁ無理っしょ。 どうする?」
「逃げ切れると思います?」
「ゼッッタイ無理」
顔を見合せて、同時にため息。 結局やるしかないらしい。
エクスが拳を構え、葛葉は腰のホルスターから拳銃を引き抜く。
戦闘態勢に入った二人を見て、ドーラは不敵に笑う。
「じゃあ、行くぞ〜」
軽い告げられた開始の合図。 ドーラの姿が視界から消えた。
「ごぉ……っ!?」
エクスの身体が吹き飛び、コンクリート製の壁に激突する。 反射的に屈んだ葛葉の頭上をドーラの脚が通り過ぎた。
「遅い」
目の前のドーラへと拳銃を向けようとするも、襟元を掴まれて思い切り投げ飛ばされる。
「そぉい!」
「が」
空中で追撃とばかりに振り抜かれる右の拳。 防御も間に合わず直撃を食らい、エクスと同じように壁に叩きつけられる。
1度の攻撃で痛感させられた力の差。
トップヒーローと自分達を隔てる壁を、エクスと葛葉は身を持って理解する。
「どうした? ワシはまだ熱くもなっとらんぞ」
「化け物すぎでしょ……」
身体を起こしながらエクスがボヤく。
ドーラの個性の真髄は、身体能力では無く圧倒的な熱。
ファイヤードレイクの力をフルに使い、体温を最大で数百度にまで上げることで、周りを火の海へと変える。 そうやって自分の有利な環境を作れるのがドーラの強みだ。
そんな強みを使うまでもなく、エクスと葛葉は一瞬で叩きのめされた。
その上、思い切り吹き飛ばされたり、壁に叩きつけられたりしたと言うのに、2人はまだ大した怪我は負っていない。
明確に手加減されている。
起き上がったエクスが、両手で自分の頬を張る。 腕試しという考えを捨て、格上を倒す為に思考をフル回転させた。
そして、拳を握ってドーラへと駆け出す。 ドーラは一切避ける素振りを見せない。
「挟むぞ、エクス!」
腰に翼を生やした葛葉が、反対方向から高速で接近。 思い切り右脚を振るう。
正面からはエクスの拳、後ろからは葛葉の蹴り。 どちらは視界から外れる同時攻撃を前に、ドーラはまだ動かない。
「言っておくけどな。 ワシ相手にその程度じゃ牽制にもならんぞ?」
鈍い音が重ねて響く。 それはエクスと葛葉の攻撃が、ドーラに間違いなく当たった事を証明していた。
USJの際に襲撃してきた並のヴィラン程度なら、問答無用で再起不能に出来る程の攻撃。
それがどちらも直撃したと言うのに、2人の攻撃は、ドーラを動かすことすら出来なかった。
通じていない。 1秒にも満たない時間でそれを理解したエクスは、即座に距離を取る。
しかし空中に居た葛葉は、反応がワンテンポ遅れてしまった。
「これは、思ってたよりもダメかもなぁ。 なぁ、葛葉?」
掴まれる左腕。 それを蝙蝠にしてバラそうとするも、その前に大きく投げ飛ばされる。
1度壁にぶつけられている以上、葛葉に2度目を受けるつもりは無い。
翼を使うことで体勢を整え、地面を足で削りながら勢いを殺す。
その横を駆け抜けたエクスがドーラの前へと躍り出る。
そして、打撃が効いていないなら斬ればいい。 とばかりに背中の剣を抜き、両手で横向きに切り払った。
金属同士が擦れるような不快な音がレクリエーションルームに響き渡る。
「っ、まじか」
剣を握る手に力が篭もる。
全力で振るった剣は尻尾に容易く絡め取られており、エクスの力では押すことも引くことも出来ない。
「剣を使うのは分かったが、動きがチグハグじゃな? 無理矢理動かされとるように見えるぞ」
見る事すら難しい速度で右肩、胸、腹へと掌底が叩き込まれ、衝撃で3m程後ろへと転がる。
痛みはあるが骨に異常は感じられない。
エクスと代わり、葛葉がドーラへと迫る。
葛葉が選んだ戦法は速攻。
「ウラァ!」
翼を2対に増やし、あらゆる方向からドーラへと蹴りを打ち込み続ける。 が、相も変わらず動かせる気配は無い。
「葛葉さん、合わせて!」
復帰したエクスが腰だめに拳を構える。 それに合わせ、背後から葛葉がドーラへと組み付いた。
「連携はまぁまぁ。 じゃけど、シンプルに弱いな」
尻尾で葛葉を掴み、身体を捻ってエクスへと投げつける。
葛葉は咄嗟に全身を蝙蝠にバラし、エクスへの直撃を回避。
蝙蝠の中を突っ切って、エクスの拳がドーラへと突き刺さる。
そして、お返しとばかりに放たれた蹴りで再び壁に激突した。
「ほぅらどうした? もうギブアップか〜?」
煽るように手を叩くドーラ。 足元の剣もエクスの方へと放り投げてやる。
「ちなみに、あと1時間は続けるからな。 初日だし」
軽く笑いながら、体を解すように準備運動をする。 それは、『これからが始まりだ』と言外に告げているようで。
「“Plus ultra”。 ワシを超えてみるか? ガキ共」
赤い竜を前に、卵2人組は微かに頬を弛めた。
1年前からみそトーにどハマりしてます。