英雄がヒーローになります!給料次第ですけど。 作:聖剣エクスカリ棒
次回くらいでUSJ編も終わりですかね。
切り離された腕が宙を舞う。エクスはすぐさま剣をしまい、相澤先生を担ぎあげて逃げ出した。
「えびせんぱい、後ろ!」
「師匠!頼みます!」
咄嗟に相澤先生をアルスへ投げ、自分はその場にかがみ込む。
すると、今までエクスの頭があった場所を黒々とした剛腕が通り過ぎた。
「危ねぇー!死ぬかと思った!やばい、吐きそう」
地面を転がりアルスの足元まで移動する。
「師匠、先生を連れて逃げてください」
背中の剣を抜きながらエクスが言う。その言葉にアルスは眉をつり上げる。
「何言ってんの?勝てないから逃げるって言ったのはせんぱいじゃん」
「そうなんですけど…。あの黒いの、多分逃がしてくれないんですよ」
エクスの視線の先では黒いヴィランが斬られた腕を再生しているところだった。
その光景にアルスは息を飲む。
「そういう事なんで、行ってください。出来れば増援とか欲しいです」
エクスの背中を暫し見つめた後、アルスは立ち上がって魔法で発動した。相澤先生の体が浮き上がる。
「えびせんぱい、死なないでね」
「当たり前じゃないですか。俺は師匠の弟子ですよ。魔法使えないですけど」
相変わらずいつも通りのエクスにアルスはおもわず微笑する。
そして、エクスは剣に向かって手を伸ばした。
エクスの剣が雷に包まれる。
「後で、ちゃんと戦い方教えてね!」
「仕方ないですね。最強の奥義を伝授してあげましょう」
軽口を叩き合い、別れる。
アルスの後ろ姿を見届けながらエクスは剣をかまえた。
「泣ける話だなぁ、オイ。大好きな先生を助けに来たのか?」
つかつかと全身に手のようなものを付けたヴィランが歩み寄ってくる。それを見たエクスはおもわず呟いた。
「何あれ、趣味わっる…。品性を疑うわ。…キモイなぁ」
ヴィランの歩みが止まる。
「お前、死にたいの?」
「は?死にたいわけないじゃないですか。馬鹿ですか?」
ボリボリと首筋を掻き出すヴィラン。次第に血が滲んでくる。
「お前もう喋んなくていいよ。やれ、脳無」
ヴィランの声に反応して、脳無と呼ばれた怪物が動き出す。
とてつもない速度で迫るそれに、エクスも剣を振り上げて走る。
「…ハァッ!」
脳無が攻撃を繰り出すより速く剣を振り下ろす。肩から胸にかけてを斬り裂いた雷剣は傷口を焼き、電撃を脳無の体に走らせる。
剣を振り下ろした勢いを利用して体を横に回転させ、腹部を横に斬る。
そして、脳無を蹴ってエクスは後退した。
「この剣凄いな。いつもより切れるわ。殆ど使ったことないけど」
再び剣を構えるエクス。そこで違和感に気づいた。
「…なんで、再生しないんだ?超再生持ってるんじゃないのか…?ああもう、本当に嫌になるよ…」
ヴィランが首筋を今まで以上に掻き出す。
脳無の傷口が先程までとは打って変わって再生しにくくなっていたのだ。
「お前、何した。どーやった」
「え、俺!?いや、なんだろうなぁ…。英雄パワーとか?」
「は?」
「いや、俺も知らんから…」
実は、これはアルスによってエンチャントされた剣の効果だ。
傷口を焼くことで再生しづらくしつつ、体に流れる電気が脳の電気信号を阻害して体のあらゆる機能を低下させている為に脳無の回復能力も落ちているのだ。
「なんか知らんけど今なら勝てそう!」
脳無に向かって走り出すエクス。もう一度腕を切り落とす為に剣を振り下ろす。
「やはり厄介な生徒だ」
「…ぅ?」
エクスの剣が、エクスの左肩に食い込んでいた。
「葛葉!起きれるか!?」
「…っ、再生…まだまだかかる……っ」
身体中に火傷を負う葛葉を切島が庇うようにしゃがみこむ。
「クソ髪!そいつ、どっかに運べ!そいつがいると邪魔だ!」
「分かった!すぐ戻るからな」
葛葉を担ぎあげ、自分達が通った倒壊ゾーンへ走り去る切島。
そして、叶と爆豪だけがその場に残った。
「僕は1人で十分ってこと?凄い自信だね」
「自信なんざあるか。あいつを一瞬で片付けたお前に油断なんか出来ねぇだろ」
「あはは、凄い…僕が強キャラみたいだ。じゃ、期待に応えさせて貰おうかな…!」
アサルトライフルから稲妻が連続して発射される。爆豪は、それを飛ぶことで回避する。
「てめぇが攻撃を躱す手はさっき見たからなァ。次もそういくと思うんじゃねェぞ!」
爆豪が稲妻を掻い潜り叶に接近する。叶は爆豪の後ろにロトを出現させた。
「死ねぇ!」
爆豪の右手から放たれた爆発が叶と入れ替わったロトを粉砕する。
その後ろで叶が爆豪へ向けて銃を構えていた。
「甘えんだよ!」
後ろから発射された稲妻に対して爆豪は、空いていた左手から爆発を起こして体をずらすことで回避した。
「っ、まじかよ」
「トドメだァ!」
舌打ちをする叶。叶の方へ振り返った爆豪が篭手のピンを引き抜く。
BOOOOOOOM!!
「どうだ!?」
爆風で少し吹き飛ばされるが、即座に受身をとり半身を起こす爆豪。
叶がいた場所は黒煙と砂埃に隠れて確認することが出来ない。
「爆豪!」
突然切島が爆豪の前に飛び出してくる。続けて、金属と金属がぶつかる甲高い音が鳴り響いた。
「仕留め損なったか…。これは痛いな…」
煙の中から叶が歩いてくる。多少服が乱れてはいるが傷は無いようだ。
「大丈夫か爆豪」
「あぁ…、助かった。クソ髪、手ぇ貸せ」
「おうよ!」
切島が腕を硬化させて叶に殴りかかる。
「ならこいつで…!」
アサルトライフルからショットガンに持ち替え、発砲する。
小さな稲妻が辺り一面に広がっていく。
「らァ!」
その弾丸を爆豪が爆風を利用して逸らす。
切島の拳を叶はショットガンの銃身で受け止める。ショットガンが歪み、叶も押されて後ろへ数歩下がる。
「まだまだぁ!」
爆豪が更に爆破で追撃を加えていく。叶はショットガンを上手く盾にして躱していく。
「りゃあ!」
「ぐっ…」
爆豪によって出来ていた死角から切島が現れて叶の胸に蹴りを入れる。叶は数メートル先まで転がった。
「やっぱ2対1じゃ勝ち目薄いな…。ここは退くか」
「っ!させるか!」
叶の言葉を聞いた爆豪が飛び出すも、叶がばらまいたスモークグレネードによって叶を見失ってしまう。
煙が晴れると、そこにはネコのぬいぐるみが転がっているだけだった。
「逃げられたか…クソっ!」
「爆豪!俺は葛葉のとこに戻る!先に広場に行っててくれ!」
「俺に指図すんなやァ!」
走っていく切島に背を向け、爆豪も広場へ向かって飛び上がった。
「っ!」
鈴原の蹴りを左手で防ぐ。が、もう片方の足で放たれた蹴りをモロに食らいチャイカは後ずさった。
「さて…そろそろ慣れてきましたし、今度はこっちのターンです」
ナイフを逆手に握り、ナイフの刃を舐める。
「抵抗しないと、すぐに殺しちゃいますよ?」
「望むところよ。くっ殺にしてやるから覚悟しときなさい」
「それは…凄く楽しみです…!」
鈴原が一気に距離を詰める。横薙ぎに振られたナイフを半歩下がることで回避し、その手を掴んで鈴原を拘束する。
「テヤッ!」
そこへレヴィのハイキックが命中する。が、鈴原は特に痛がる素振りも見せずにチャイカの左腕に噛み付いた。
「いって!こっ…のぉ!」
鈴原の腹部にアッパーをいれる。紙のように吹き飛ばされる鈴原だが、すぐに起き上がる。
チャイカの腕は一部が抉られており、ドクドクと鮮血が流れていた。
「あは、あなたの肉って美味しいですね。筋肉が引き締まってます」
「ごめんね。あたし、食人趣味はないの」
「せんせイ!大丈夫ですカ!?」
「心配しなくても、唾つけときゃ治るわ」
怪我のない右手でレヴィの頭を撫でるチャイカ。
「…そうね。アンタは広場の方に行きなさい。包帯の手助けしてやって。こっちはあたし1人でいいわ」
「何言ってるんですかせんせイ!今でも2人で互角なのニ…」
チャイカの言葉にレヴィが反論する。
レヴィの言葉に、チャイカは静かながらも有無を言わさぬ迫力のある声で答えた。
「アンタはまだ子供で、あたしは大人。どっちが強くて、どっちの方が未来があるか。それはわかりきってるでしょ」
それに、とチャイカは続ける。
「あたしはそう簡単には死なないから」
ニヤリと笑うチャイカ。レヴィは涙をうかべ、広場の方へ走り去っていった。
それを見届け、チャイカは鈴原と向き合う。
「じゃ、第2ラウンド開始ね」
「頑張って、死なないでくださいね?」
鈴原とチャイカが激突する。
肩に感じる剣の冷たさ。体が勝手に地面に倒れ込んだ。
溢れ出す血が地面を赤く染めていく。
「黒霧。教師共はやったのか」
「13号は行動不能にし、花畑は鈴原が交戦中です。しかし、生徒が3名逃げ出しました」
「……黒霧。お前、ワープゲートじゃなかったら粉々にしたい気分だよ」
ヴィラン2人の声が聞こえる。
立ち上がろうと力を入れるが左手が動く気配がないどころか、全身が思ったように動かない。
痛みと出血で意識が朦朧とする中、誰かの走ってくる音が聞こえた。
「えびせんぱいっ!」
視線を動かせば、エクスの方へ駆け寄るアルスの姿。
「アイツ、イレイザーヘッドを逃がしたやつか…!」
「どうします?死柄木」
「決まってるだろ。脳無!」
脳無が再び活動しだす。アルスが放つ雷を正面から受けるが、足を止めることなくアルスに向かって進む。
「っ、《シールド!》」
アルスが咄嗟にバリアを張る。が、脳無は一撃でそのバリアを破壊した。
バリアを張りながらギリギリで脳無の攻撃を躱していくアルス。
「し、しょ…なんっ……で」
エクスの口から血とともに吐き出された言葉。それに、アルスは大声で答えた。
「弟子がピンチなのに、師匠が指くわえて見みてるだけなんて…そんな事出来るわけないだろぉ!」
アルスの言葉にエクスは目を見開く。
「いつもめっちゃ煽ってきて腹立つし、図々しくてムカつくけど…。でも、えびせんぱいが居るから毎日楽しいんだよ!」
風の魔法で脳無を吹き飛ばす。続けざまに氷の杭で脳無を押さえつけ、雷と炎で焼き払う。そして、トドメと言わんばかりに土魔法で脳無を地面に閉じ込めた。
「やはり腐っても雄英生ということですか」
「死ね」
黒霧を通じて死柄木がアルスに手を伸ばす。
アルスは瞬時に地面に向かって風の玉を投げつけ、起きた風に乗ってそれを躱す。
そして、エクスの傍に着地するや否や結界を張った。
「えびせんぱい、大丈夫?今治すから」
息を整えながら、エクスの傷に手を当て治癒魔法をかけ始める。
結界の外ではヴィラン2人がなんとか結界を越えようとしているが、結界内にワープすることも出来ずに立ち尽くすだけだった。
「ししょ、う…しぬほど、つよいじゃない…すか」
「当たり前だろ?…まぁ、だいぶ魔導書使っちゃったけどね」
エクスの傷口薄い緑の光に包まれ、暖かいものが傷口に溶け込んでいく。
「この結界には個性が通じないから安心していいよ。ボクの魔力と魔導書のページが無くなるまでは絶対に消えない結界だから」
アルスの傍に置かれた魔導書には何やら魔法陣が描かれており、それが淡く光っていた。
「…ひどい傷。これ、この場で完全に治すのは無理だよ」
「あー、やっぱりですか。まぁ、思いっきり剣振りましたからね」
エクスの傷は未だに裂けており、なんとか左手も動かせる程度にしか治癒されることは無かった。
「ごめんね、ボクが治癒魔法を鍛えてれば治せたのに…」
「気にしなくて大丈夫です。これだけでもありがたいですから」
傷口は未だにズキズキと痛み、何もしていなくても涙が出そうになる。だが、それでも動けるようになっただけで十分と言えるだろう。
「さて、これからどうしようか」
アルスが結界の外を見ながら呟く。外には相変わらず2人のヴィランが居り、結界を解除した瞬間に襲ってくるのは明白だ。
「ヒーローが来るのを待ちましょう。下手に戦わない方がいいですよ」
エクスがアルスの正面に座り、腕を組んで言う。
「そう…っ!?えびせんぱい!」
突然、アルスがエクスを押し倒した。あまりにも唐突すぎる出来事にエクスが反応出来ないでいると、次の瞬間、アルスが吹き飛んだ。
そして、自分にかかる大きな影。
「…は?」
そこでようやく、エクスは何が起きたかを理解した。
地面に埋められた脳無が地面からエクスの背後に現れ、エクスを庇ったアルスが代わりに脳無に殴られたのだ。
「師匠ぉおおお!!」
エクスがアルスの元へ駆け寄る。アルスの目は固く閉じており、揺すっても起きる気配が無い。
自分の身体の中を、何かが塗りつぶしていく感覚。その感覚がエクスを満たしていた。
「今度はなんだ。いい加減にしろよ」
首を掻きながら、立ち上がったエクスを見て呟く死柄木。
先程までとは違ってエクスの鎧は黒と赤に染まり、その瞳は爛々と輝いている。
「脳無。纏めて叩き潰せ」
脳無が動き出す。それを見たエクスが手をかざすと、落ちていた剣がエクスの元へ飛んできた。そして、エクスが剣を握ると剣もまた黒と赤に染まった。
脳無が拳を振り上げる。
「殺す」
脳無の体が2つに分かれた。
設定紹介
《アルスの魔導書》
コスチュームの1部で、魔法陣を書いたりこれを媒介にして魔力を回復させたりするアイテム。だいたい200ページくらい。
エビオとフレンのコラボも何気に楽しみですよね。