最初は驚いた。
なんてったって、寝て起きたら全然知らない場所にいるんだから。それに、自分が何でここにいるのか、点で思い出せない。むしろさっきまでどこにいたのかさえ、分からないぐらいだ。
この場にいても仕方ないので、周辺を探索していると、人を襲う生き物"鬼"が襲いかかって来たり、仮面を付けた爺さんに助けて貰ったりした。
その爺さんに、"呼吸の素質が有る"とかなんとか言われて、呼吸?今してますが?って答えたら違うと否定されてしまった。
鬼なんて化け物がいる以上、無策のまま放り出されるわけにもいかなかったので、ある程度力をつけてもらう予定で、爺さんについていく事にした。
爺さんとの修行で教えてもらうのは、"全集中の呼吸"と言うのもので、一度に大量の酸素を血中に取り込むことで瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる技とのこと。
そして、爺さんが扱う"水の呼吸"は、水のように変幻自在な動きだとか、古くからある呼吸法だとか言っていた。
爺さんの説明を話半分で聞いていたところ、頭に鈍い痛みが走った。
八葉一刀流ーーそれは、無明の闇を切り裂く一閃の剣である。
こうして、鋭い痛みとともに、頭に残る微かな残滓を片隅に置き、修行に励むのだった。
修行をやり始め、1年ほど。
あの時の残滓はどんどん時が経つごとに明瞭になっていき、まるでそれを扱えと言わんばかりに、頭に語りかけてくるようになった。
そこで、そのイメージを水に変わる"新たな型"として試してみたいと爺さんに相談した所、新たな型を作る自体が珍しいらしく、爺さんも驚いていたが、やってみろと許可を得た事で早速行動に移す事にした。
そして今、新たな型を極める修行の日々を終え、俺は鬼狩り部隊の最終選抜に来ている。
7日目の夜明けが近づき、この鬼だらけだった地獄もようやく終わりを迎えようとしている。
「お、お前らごときに、この俺の首が斬れるわけがーー」
目の前には、俺より遥かに図体のでかい悪鬼。
先程までの意気揚々とこちらを喰らおうと勢いづいていた姿から、無数にあった手を全て切り落とされ、今の現実に恐怖し慄くその姿は、到底同一人物とは思えない程に様変わりしていた。
ーー次で決める。
"呼吸"を整え、鞘から刀を抜き放ち、目標を目掛けて駆け抜ける。
その横を同じ速度で"少女"が追走する。
「消えろ」
「眠りなさい」
ーー"閃の呼吸" 壱ノ型 螺旋
――"花の呼吸" 肆ノ型 紅花衣
身体の回転運動を利用し、刀身から炎を生み出す強烈な一撃を、悪鬼の首筋に叩き込む。
瞬間、断末魔をあげることなく、悪鬼は意図も容易く頭を切断され、地へと伏した。
「時間的に、これで終わりか」
キンと甲高い音を立てて刀を鞘に戻すと、辺りの気配を探る。
そして、この辺りに他の鬼は居ないことを確認して後ろを振り向くと、そこには消えゆく鬼の亡骸に向けて、手を合わせる少女の姿が見えた。
「"胡蝶"、無事か?」
「うん。特にケガは無し。心配してくれてありがとう、"凛"くん」
「礼は良いよ」
「それでも助かったわ。"あの時"もそうだけど、私1人であの鬼を倒せたかどうか。本当にありがとう」
そう言ってこちらに笑みを浮かべる彼女ーー"胡蝶カナエ"と出会ったのは、2日前。
最終選抜も佳境を迎えた頃、一度に多数の鬼と交戦している少女を助けに入ったのが、胡蝶との出会いだった。
他の選抜参加者と比較して、剣術、呼吸法ーーどれに置いても群を抜いている胡蝶と言えど、多数の鬼との戦いで疲れの色が見えていた。
俺も度重なる戦闘で疲れていた事もあって、2人で交代して休息を取る事を条件に、2人組で行動することを提案すると、胡蝶は快く承諾し、今に至る。
「いよいよ夜明けだな」
「えぇ。やっと終わりなのね」
「それじゃあ、集合場所に向かうとするか」
「この付近の鬼は粗方倒したと思うけど、注意は怠らずに行きましょう」
東から顔を出し始める太陽を見て、7日間に渡る長い戦いの終わりを実感する2人。
何事もなく集合場所に戻ると、そこには参加者が集っていた。
怪我をしている者もいるが、参加者全員がこの場にたどり着けたようだ。
中には、胡蝶が助けたと思われる人も居るんだろう。
その後、説明役の少女から鬼殺隊として認められたやら何やら話が始まり、刀の核となる"玉鋼"を選ぶのと、小煩い烏を貰って解散となった。
「また会いましょう。もっと力を付けて、今度は私が凛くんを助けられるようになるから」
「ああ、楽しみにしておくよ。俺も胡蝶に負けないようにもっと力をつけておくから」
そして、胡蝶との別れの挨拶を最後に、俺は爺さんに合格した事を伝えに、山へともどるのだった。
ーー爺さんもアイツらも元気にしてると良いが。特に"あの子"は、鍛錬バカ共に振り回されていないと良いが。ま、男を尻に引くタイプっぽいし、それは杞憂か。