あくタイプはかくとうタイプに弱い   作:T-

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しょっぱなネタ切れで変な方向に進んでしまった…!多めに見て…?(つぶらなひとみ)


あくのはどう

 オレはあくタイプが大好きだ。

 

 何故あくタイプが好きなのかと問われれば、軽く半日は語ってしまう程、オレはあくタイプを愛している。

 

 あくタイプと聞けば、人によって顔を顰める人もいるだろう。

 が、少し待って欲しい。『あくタイプ』という五文字だけで、あくタイプの全てを判断するのは、あくタイプ使いとして許せないものがある。

 

 そんなI LOVEあくタイプと街中で叫ぶ事も辞さないオレ。

 

 我が宿敵、サイトウをぶちのめすべく、今日も元気にララテルタウンでバトルを…と思っていたが、今日はお休みだ。

 

 何故なら…

 

「ヤローの兄貴!これ此処に置いとけばいいっすか!?」

 

「おー頼むよー!」

 

 ここは、段々畑の間に家が並ぶターフタウン。

 

 オレは今、旅費を稼ぐ為に絶賛バイト中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた…!」

 

 ソルロックも高々と宙を浮くお昼時、どかりと俵の上に腰を下ろす。巻き上がった藁とウールーの匂い。思わず噎せ返りそうだ。実家のメリープ牧場を思い出すぜ。

 

「朝の6時に起きて、ウールーの世話に小屋の掃除、畑を耕して野菜を取り、直売所まで運搬その他諸々…!クソッ、ポケセンでの勧誘が余りにもフワフワしてたから騙された…!ヤローの兄貴見りゃわかんだろ、オレのバカ!」

 

 こんな大変な目に遭ってるのも、全部あいつ(サイトウ)の所為だ…!あの野郎遠慮もせずにボコボコケーキ食いやがって、お陰で今月めちゃくちゃ厳しいわどうしてくれんだッ!

 

「昼飯もこれっぽっちしか買えねぇしよぉ、ホント、チャレンジャー支援ホテルとかがなけりゃどうなってた事やら…なぁ、コノハナ!次はあの褐色銀髪をぶっ潰してやろうぜ!」

 

『…ッ…ッ…!』

 

 お陰で今日の昼飯はおにぎり三つと沢庵だけだ。

 

 隣で座っていたコノハナがオレの気持ちに合わせてガッツポーズをしてくる。

 動きに合わせて頭の葉っぱが揺れる姿はなんとも言えないものがあり、そのまま疲れているオレの後ろに回って肩やら腰を叩いてくれる姿に父性が湧いてきた。とても葉っぱで笛作って音色で人を不安にさせるポケモンには見えない。

 ごめんよこんな不甲斐ないトレーナーで。お前にはもっと美味しいもの食べさせてやりたいんだが、ほら、おにぎり二つ食っていいぞ。お水もしっかり飲め。

 

「…はぁ…疲れたなぁ…」

 

 しかし、最近ため息を吐くことが多くなったと。

 

 おにぎりを頬張るコノハナの頭を撫でながらそう思う。

 

 ため息を吐く理由、心当たりは…ありすぎて困るが、一番の要因はバトルの勝率が悪いと言う事だろう。

 

 昨日だって…

 

 

『やいサイトウ!今度こそバッチ貰って今まで奢られた分きっちり返してもらうからな!いけ、コマタナ!アイアンヘッdーー』

 

『インファイト』

 

『え、ちょまっ、コマタナ!?クソッ、ニュ、ニューラ!コマタナの仇をとっtーー』

 

『インファイト』

 

『ノータイム!?おま、ふざけッ…チクショウッ!相手はぼうぎょとくぼう二段階下がってんだッ、頼むコノハナ、一げkーーー』

 

『インファイト』

 

『ちょっと待てやァァァァァ!?』

 

 

 なんて事になって、一日中買い物に連れ回されたからなぁ…。

 何が「か弱い乙女に荷物を持たせる気ですか」だよ。お前全然か弱くないじゃん。なんだったらオレより力強いじゃん。

 

「何より凹むのは、その後オレより全然年下のガキ二人が簡単に勝った事だよ。なんだよサイトウのやつ、簡単に負けてんじゃねぇぞ…」

 

 確か、あの二人はチャンピオンから推薦を貰ったトレーナーだった。今年のジムチャレンジからトレーナーになったそうだが…とてもルーキーとは思えない。

 

 バランス良いチーム編成、技構成。力強く育てられたポケモンに、的確な指示。上位トレーナーになる為に必要な全てが詰まっていた。

 

 特に凄かったのは、あのニット帽を被った女だ。あいつはヤバかった。

 

 まるで未来でも見えてるのではないかと思うほど、サイトウの交代ポケモンを読み、相性の良いポケモンに入れ替えてくる。

 道具と特性を駆使して、爆発的に能力を上げ、一般的に使い辛いとされている技同士を組み合わせて、一方的なバトルに持ち込む、など。

 

 トレーナーのポテンシャルとして、規格外だった。

 

「ポケモンも六体所持していて、どれも実戦で使用出来るくらいに育ってんだろ?ジムリーダーでさえ一気に扱える数は五体が限界って言われてるのに、チャンピオンと同じ事出来るとか、あのガキ何者だよ。あぁ〜凹むなぁ〜…」

 

 詰まる所、オレは。

 

 トレーナーとしての才能の差を見せつけられて、こんなにも落ち込んでいるのだろう。

 幾らレベルを下げているからとは言え、折り返し地点として重要な役割を果たすあのサイトウ相手に、ダイマックス切らせて勝利するなんて。

 

 未だに奴のポケモン一体すら倒せていないオレからしたら、到底無理な話だ。

 てかなんであいつインファイト打たなかったんだ。使えよ。あの大事な局面で使ってたら勝てたかもしんねぇのに。

 

「あぁぁぁぁモヤモヤする…!なんだこれ、めっちゃモヤモヤする!サイトウが負けてざまぁみろって所なのに…!」

 

 何故だろう。今日は調子が悪いのだろうか。どうしてこんなに感情に霞が掛かるんだ。たかが他人のバトル、オレが直接負けた訳じゃない。しかも負けた奴は宿敵、サイトウなんだ。

 せせら笑う事はあれど、気に食わない顔をする必要はないんだ。

 

 一体全体、オレはどうしたのだろうか。アイツは負けていいんだ。いつも真顔でスカしてきた野郎が負けた。ハハッ、こんなに気持ちの良い事はない。清々するぜ。

 

…いや、それともオレはーーー

 

「悩んでるね、アクサキ君」

 

「男の癖に、うじうじしてみっともないわよ」

 

「え、あ、ヤローの兄貴に…ルリナパイセン、来てたんすか。お疲れ様ッス」

 

 思考の海から引きずり上げられる。頭を抱えていた俺に被る二つの影。声の方向に視線を飛ばすと、麦わら帽子を脱いで汗を拭っているヤローの兄貴に、バウタウンジムリーダー、ルリナパイセンの姿が。

 

 この感情の事は一旦後回し。立ち上がり、脱帽しながらお辞儀をする。

 

 二人ともジムチャレンジで戦った相手だし、カブさんの所でバッチを取った時に送り出してくれた。その後も色々お世話になってたりするし、二人には足向けて寝れない。

 オレは口も態度(人相)も悪いから、せめて礼儀だけはちゃんとしないとな。

 

「しかしどうしたんすかルリナパイセン。バイト?てことは今日の手持ちはルンパッパか」

 

「違うわよ。私はヤローとバトルしたかっただけ。最近あんたみたいなのに負け続けてるから、鍛えないとと思ってね」

 

「先日のサイトウさんと彼女の試合を観て、僕たちもジッとしてられないからねぇ。いやー彼女(チャレンジャー)のバトルの才能は凄いもんだなぁ」

 

 あーそういう事。ジムリーダーも大変なんだな。

 

 しかし、そうか。

 ジムリーダーである二人の目からしても、あのガキは異彩に見えるのか。

 

 案外自分と同じ考えという事に安堵しつつ、反面。

 ジムリーダーさえ鍛えようと考えるあのガキとの差を、再度はっきりと見せつけられた気がして、身体が重く感じやがる。

 

「てことで、今日はここまでにするんだな。はい、お給金。どうもありがとうね。君もコノハナもしっかり働いてくれたから、とても助かったなぁ。またよろしくね」

 

「あ、うっす。こっちこそまたよろしくお願いします」

 

 取り敢えず、これと後数回働けば次の振り込みまで耐えられるか。

 

 思考を強引にズラす。

 

 コノハナをボールに戻し、身支度を整える。思った以上に余ってしまった時間、さて、この後どうしようか。

 

 心の蟠りが残ったまま、サイトウとバトルしたって勝てるわけがないし、何も得られない。今日はワイルドエリアで育成でもしようか。

 いや、なんならもうホテルで寝ちまおうかな。うん、それがいいな。

 

 今日はすごく疲れたし、テンションが上がる気がしない。何やっても失敗しそうな雰囲気がする。こんな日は一日モチベの回復に徹するのが一番だ。今日は、休んでしまおう。

 

「アクサキ、あんたどうせこの後暇でしょ?ちょっとバトル見て行きなさいよ」

 

「え?まぁ、時間があるって言ったらあるッスけど、これまた急だな」

 

 しかし、そんなオレに待ったを掛けるルリナパイセン。

 

 自転車に跨ろうとしたオレを呼び止める。どうやら試合を観ていけとの事。

 

 別にこの後何もないから観ても大丈夫だ。寧ろジムリーダー同士のバトルなんてそう簡単に見れない代物。チケットなしで、

 しかもジムリーダー直々に招待してくれるなんてとてもレアだ。観に行くべき。観に行くべきなんだが…

 

 正直言って、乗り気じゃない。

 

 なんかもう、今日はダメだ。大好きなバトルでさえ気分が上がらないなんてもう終わってる。二人には悪いが、早くホテルに行って休みたい。

 

「誘ってもらってなんですが、オレ今日はちょっとーーー」

 

「よし、スタジアム行くわよ!」

 

「え、いや、ルリナパイセン?話聞いて下さい?」

 

「どうせあんたのちょっとなんて休むかカレー作るかの二択でしょ。そんなの後でいいわよ」

 

 んぐっ…バレてたか。

 

 しかし、今日はやけに強引だな。

 負けん気でとても気が強い事で有名だが、人の用事…用事?に割り込んでまで予定を入れてくる様な人じゃない。

 

 普段ならヤローの兄貴も止めてきそうだが、ニコニコ笑ってるだけで、なんなら地味にスタジアムに続く道へと誘導してくる。本当にどうしたんだろうか。

 

 だってーーー

 

「ーーー大丈夫よ。あなたの悪い様にはしないから」

 

 渋々道を辿って行くオレの顔を覗き込んで。

 

 不敵に笑う姿は、かつてない程にカッコ良かったから。

 

…本当にどうしたんだろうか。

 

 そう思ってしまうのも、無理はない。

 

 

 

 

 

 

 

「ダーテング、あくのはどう!」

 

「受けてシザリガー!すかさずゆきなだれよ!」

 

 スタジアムに立つ、二人と二匹。熱気と闘志がここまで伝わってくる。

 

 視界を埋め尽くすのは色取り取りの技。エネルギーが、縦横無尽に駆け回る。技と技の応酬、そこに加わる司令塔の的確な指示、作戦。状況を瞬時に把握できる力があるからこそ映える一戦に、一進一退の攻防に、鳥肌が立つ。

 

 ジムチャレンジの時の様な、課題として出すポケモン達じゃない。ジムリーダーとして、いや、それ以前に一トレーナーとして鍛え上げたポケモン達が、そこにいる。

 

「ハイドロポンプで牽制、接近してきた所をクラブハンマーで叩き潰しなさい!」

 

「にほんばれを放った後にソーラービームを溜めて!その間に扇で砂埃を巻き上げ狙いを定めさせるな!」

 

 しかも使っているポケモンが、シザリガーとダーテングというのが堪らない。

 

 シザリガー、ダーテング。

 

 どちらもあくタイプを所持しており、二人の専門タイプもそれぞれ入っている二体。

 

 最終進化系であるためステータスが高く、物理型が多いが特殊型もいけるという、二刀流スタイルで多くのバトルに起用される、あくタイプの中でも有名なポケモンだ。

 

 また、育てにくいポケモンとしても有名なポケモンである。二匹の進化前はそこまで扱いにくいという事はなく、たんぱんこぞうが少し練習をすれば捕まえられるレベルなのだが…進化した際に手が付けられなくなり、レンジャーを呼ぶケースが毎年百件にも上る。

 

 よって、シザリガーとダーテングを捕まえているトレーナーはエリートトレーナーと同じ実力があるとされ、育てられるブリーダーは食うに困る事はないと言われている。

 

 つまり、だ。

 

 その二体を手足の様に扱い切り、しっかりと鍛え上げる事ができるジムリーダーの二人は、トレーナーとして最高峰に位置付けられるのだろう。

 

「ダーテングとシザリガーか…オレも欲しいなぁ」

 

 こいつらもあくタイプ使いとしては憧れで、一種の目標みたいなもんだ。

 ボールから勝手に出て試合を観戦しているコノハナを見遣る。

 

…一応、目標の片割れを達成する条件は満たしている。コノハナからダーテングへの進化方法はリーフのいしを使う事だし、進化させようと思えばいつでもできる。

 

 じゃあなんで、欲しいなと言ってるだけで、手に入れようとしないのか。進化させる事が出来るのにしないのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 オレに、使いこなせるのかどうか。

 

 それが常に頭を過り、手が止まってしまう。

 

 オレだって、自分を信じたくない訳じゃない。今は停滞中だが、腐っても脱落者が多くでると言われている3番目のジムリーダー、カブさんに勝利したトレーナーだ。

 

 一応山場を越えたトレーナーとして、エリートまで行かないにしてもホープよりかは上、所謂中堅に属する実力はあると思っている。

 

 だが、これはあくまで()()()()()()()()()としての評価であって。

 

 あくタイプ使いとしては、オレは未熟者にも程がある。

 

 サイトウにいつまで経っても、ポケモンの一体すら倒せないのが良い証拠だ。

 

 あくタイプは強い。18あるタイプの中で、トップクラスに強いと言っても過言ではないほど、あくタイプは強い。それは、贔屓もあるが事実だ。少なくともオレはそう思っている。

 

 それ故に、難しい。育てるのも、バトルも、全てに何かしらの癖がある。育てがいがあると言えばそれで済んでしまうし、真摯に付き合えばしっかりと答えてくれるというのも、それはそうだが。

 少なくとも初心者にはオススメされないタイプだ。

 

 まぁ、なんというか

 

 ここまでグダグタ言ってきた訳だが、何が言いたいかというと…

 

 詰まる所、怖いのだ。

 

『…!…!』

 

 オレの袖を引っ張って、バトルの興奮を伝えてくるコノハナが、進化してダーテングになった時。

 

 今までと同じ様に、その屈託のない笑みを向けてくれるか。

 

 オレの言う事を、指示を、最後まで信じてくれるか。

 

 

ーーートレーナーとして、オレを見限らないでくれるか。

 

 

 それだけが、唯々怖い。

 

 当たり前だが、ポケモンだって感情を持つ生き物だ。

 

 オレがバトルで勝てば嬉しく思う様に、ポケモンも嬉しく思う。きちんとした好意を伝えてくる奴は好ましく思うし、的確な指示や意見を何回も伝えてくる奴の事は信用する。

 

 じゃあ、逆に負け続ければ?

 

 言うまでもない。オレが地団駄を踏んで悔しがる様に、今こうやって気分が落ち込んで暗くなる様に、彼等にも負の感情が湧き上がってくる。やるせない気持ちにもなるだろうし、機嫌も悪くなる。

 

 問題は、その溜まりに溜まった感情(不純物)の吐き出し先だ。

 

 当然…トレーナーに来るだろう。

 

 何度も間違った事言って、失敗を誘発させる上司が信用出来なくなる様に。

 

 弱小チームの敗因は、全て教え方が悪いと監督が責められる様に。

 

 ポケモンも、次第にトレーナーが自分を妨げる目障りな存在となって行く。仲良くなればなるほど、ポケモンは強くなるという話は、ただ道徳を育てる為に言われている訳じゃない。

 

 タイプ相性のせいだって?

 そんな言い訳、ポケモンに通じる訳が無い。向こうは例え相性不利でも闘ってくれている。

 それで勝てないというのは、結果的にトレーナーの力不足としてこれまた信用を失う事に繋がってしまう。

 

 カリンさんを見てみろ。あくタイプ使いという事を宣言しておきながら、今日まで四天王としての職務を全う出来ているんだ。

 完璧に、これはオレの力不足なのだ。

 

…あぁ、本当に今日はどうしたんだろうか

 

 折角好きなポケモンが、最高峰のトレーナーに使われている試合を見れているのに、まるで囈言(うわごと)を宣う病人だ。

 情け無い。本当に情け無い。

 

 マジカルシャインを当てられたかのように、バトルをしている二人と二匹、そして隣にいるコノハナが眩しくて。

 

 少し煩わしく思ってしまったオレに、嫌悪感と罪悪感が止まらないんだ。

 

「ちょっとアクサキ、何下向いてるのよ!ちゃんと観てたの!?」

 

「僕の粘りに粘った試合、自分なりに良かったと思ったけど…飽きちゃったかなぁ」

 

「え、あ、ちゃ、ちゃんと観てましたよ」

 

 そんな物思いに耽るオレを他所に、どうやらバトルは終わってしまったらしい。観戦席に上がってきたルリナパイセンとヤローの兄貴が、思い思いのことの葉を告ぐ。

 しまった。途中からあまり見てなかった。最低すぎんな、オレ。

 

「ったく、せっかく私達があなたの為になるポケモンを使ってあげたっていうのに」

 

「アクサキ君、僕が言うのもなんだけど、ジムリーダー同士のバトルは得られるものが多いよ?ちゃんと観てくれると嬉しいなぁ」

 

「そうよ。あなたがあくタイプだけで勝ち上がりたいって思うなら、今のバトルはちゃんと観なさい。ヤローからはダーテング、私からはシザリガーの立ち回りを学べる絶好のチャンス。そんな事ばっかしてると、いざこの二匹をゲットしてバトルする際、扱い切れなくなるわよ?あくタイプの事を良く思うのはいいけどね、過信は怪我の元なんだから」

 

「いや本当、すいません。せっかくのバトルを…今の手持ちでさえ、上手く扱う事ができないっていうのに、ダーテングやシザリガーなんて難しいポケモン、ハハハ…」

 

「…?」

 

 俯いて、弱音を吐き出すオレに、目を丸くするルリナパイセン。いつもならあくタイプは過信しても良いんだよ、だってあくタイプだからとか、反論している所なので、拍子抜けなんだろう。

 もう、今日は帰ろう。ホントに今日はダメだ。

 

「すいません、今日はもう帰るッス。試合、あざっした」

 

 二人と目を合わせないように、帽子を深く被り強引に席を立つ。コノハナが不思議そうに二人とオレを交互に見ながら後を付けてくるが、こんな姿をいつまでも手持ちに見せられないので、ボールに戻した。

 そのまま、いやに重たい身体を引き摺りながら、スタジアムの出口を目指して

 

「ーーーこの地方には、十八ものジムがあるの」

 

 足を止める。

 

 背中に投げつけられた言霊、反射的に首を回すと、仁王立ちをしたルリナパイセンの姿が。

 バトル前にいつもしているルーティーンの姿勢で此方を見つめてくる。ただ、少しいつもと違う所を挙げるとすれば、表情が柔らかい事か。いや、そんな事はどうでも良い。

 

 会話の意図が掴めない。ジムが十八もある、その事は知っている。だが、何故今それを…?

 

「ガラル地方のジムにはちょっとしたルールがあってね、メジャーリーグとマイナーリーグに分けられるの。十八人いるジムリーダーが競い合って、上位8名までがメジャー、それ以下はマイナーと言う感じで。まぁ、今年は少し例外で、メジャーが十個あるんだけど、そこは置いといてね」

 

 勿論、私もメジャーリーグに入っているジムリーダーよ?

 

 そう言って、尊敬しろと言わんばかりのドヤ顔をオレに向けてくる。それが、どことなくツボに入ってしまって、力なくも笑みが漏れてしまった。

 

 話は続く。

 

「ジムチャレンジャーは、そこから各々の実力に合ったジムを受けて、バッチ八個の獲得、本戦への出場、果てはチャンピオンを目指すの…ーーー突然だけど、ジムリーダーの仕事ってなんだと思う?」

 

 本当に突然だな。唐突に提示された質問を、ゆっくりと咀嚼する。

 

…ジムリーダーの仕事、か。

 

「ジムチャレンジャーを、倒す、とか…?」

 

「うーん、半分アタリで半分ハズレね。確かにジムチャレンジャーを倒すのも仕事に入るのだけど、正確に言うのならば…

ーーー選抜かしら」

 

「選抜?」

 

「そう、選抜」

 

 倒す事と、それの、何が違うのだろうか。

 

 頭の悪いオレにはよく分からないが、それをそのまま口にするのは憚られる。きっと、何かが違うのだろう。

 

「私達はね、常に挑戦者に壁を設けるの。それも、見上げる程高くなければ、飛び越えられる程低くない。必死になってよじ登る事が出来るギリギリのラインをついた、そんな壁をね。もし倒す事だけが目的ならば、わざわざ挑戦者に合わせたレベルのポケモンを出す必要はないでしょう?」

 

…確かに、そうだ。倒す事が目的なら、オレの時もそのシザリガーを出していれば良い話。わざわざポケモンも三体にしなくていい筈だ。

 

「相手に合わせたポケモンで、トレーナーとしての真価を測り、更なる高みへと登り詰める補助をする…それがジムリーダーの仕事だと、私は考えているの。

でも、そのためにはーーー勝利の喜びを与えなくてはならない。

…この意味、分かるかしら?」

 

 つまり私達は…

 

()()()()()()()()()()()トレーナーってことよ」

 

「ーーー」

 

 息を飲む。ゴクリと喉がなる。蒼い瞳に、射抜かれる。

此方をどこまでも真っ直ぐ見つめてくるそれは、まるで広大な海に全てを曝け出しているかの様な錯覚を起こす。

 

…いや、実際見抜かれているのか。

 

「勿論、バトルはバトル。ジムリーダー以前に一トレーナーとして本気で望むわ。本気で勝ちに行く。

ーーーそれでも、負けてしまう時は負ける。

よじ登れる人はどんどんと私を踏み台にして登っていく。それを私は是としなければならない」

 

ーーー当然、ポケモン達にもそれを強要する。

 

 どくり、心臓がなる。確実に核心をついてくる言葉に動悸が早まる。

 そんな事をしてしまえば、ポケモンが信用してくれなくなるじゃないか。ポケモンとの間に亀裂が入ってしまう。負け続ける司令塔など、彼らにとって必要ーーー

 

「ったく、うじうじと男の癖に、みっともないわね」

 

 ガバリと上げた顔に、ふわりと潮の香り、頬を撫でる。視線に絡まるのは、やはり海のように綺麗な青で。

 

「あく使いが、あくのはどうを恐れてどうするのよ」

 

 全てを、押し流してくれた。

 

「さ、こんな長くてしみったれた話は終わりっ!さ、アクサキ、もう自分がやるべき…ってもう居ない。挨拶ぐらいして行きなさいよ…」

 

「それは無茶の話だなぁ、ルリナさんが焚き付けたお陰で、彼、すっかり火がついちゃったんだな。このまま勢いでワイルドエリア、突っ切っちゃうんじゃないかな?」

 

「もう、何から何までピンキリな男ねアイツ…リーグスタッフに一応連絡入れときましょうか」

 

「それが良いんだな。して…どうするルリナさん?勢い付いてるチャレンジャー達に負けないためにも、もう一戦…今度は負けるつもりはないんだなぁ」

 

「あら、望む所よ」

 

 そんな二人の会話が霞む程、気付いたら走り出していたオレ。挨拶もせずに飛び出してしまった。衝動に突き動かされて、勝手に身体が動いたとはいえ、だいぶ失礼な事をしちまった。後日、お礼も兼ねて詫びをしよう。

 

 腰にかかっている、黒と緑のカプセルに触れる。

 

 ぐんぐんと風を着る音、もうやるべき事は、決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

「あ」

 

 晴れ渡る蒼い空、暖かなそよ風、漂う自然の香り。コロコロと気候が変動する特徴を持つこの地域からしたら珍しい、絶好のワイルドエリア日和。

 

 キャンプグッズを片手に、鼻歌を歌いながらスキップをしていた矢先。

 

 何故かカイリキーと組み手をしている、サイトウと、ばったり。

 

 いや何やってんだこいつ。ポケモンと殴り合いて。カントーの四天王シバじゃあるまいし、薄々感じていたが、やっぱこいつ頭の方がちょっと…

 

「何か失礼な事考えていませんか?」

 

「はっ、なんのことだか」

 

 しかし宿敵のあたおかな一面を見てしまった反面、これはナイスタイミングでもある。この二日間、ワイルドエリアとヤローの兄貴の元で修行を付けた成果、今発揮できる絶好のチャンス。

 見てろよサイトウ、今日という今日こそは度肝を抜いてやる…!

 

「ここであったが百年目!今日こそテメェをボコボコにして、今までの金全部返してもらうぜ!残念だったなサイトウ、今日ここでオレに会っちまったのが運の尽きだ!これが公式戦じゃねぇ事が惜しまれるぜ、なぁおい?」

 

「正確には私たちが出会ってから流れた月日は二カ月と七日、十三時間とちょっとですね」

 

「え、あ、そうなんだ、早いな、もう二カ月も経ったのか…ん?あれ、でもジムチャレンジが始まったのって、一カ月半前くらいじゃ…ってそんな事はどうでも良いんだよッ!?さっさと準備してオレとポケモン勝負しやがれ!」

 

 てか十三時間とちょっととか。サイトウも冗談なんて言うんだな。全然面白くねぇぜ。

 

「あと運の尽き、と言いましたが、全然運尽きてないです寧ろアルセウスに拝んで良い程に運がツイてます」

 

「どうでも良いだろそんな事!?早よポケモン出せや!」

 

「どうでも良くはないですね、今私と貴方が出会っているこの時間に、どうでも良い事など無いのです。そこのところ、しっかりと教えてあげなくては」

 

 チッ、こいつさっきから訳のわかんねぇ事ばっか言ってやがる。ポケモンと殴り合いなんてするから、頭逝かれちまったんじゃないのか。

 

「クソ、ラチがあかねぇ!もういいさっさとやるぞ!

 

出てこい()()()()()!」

 

『ーーー!!』

 

 腰にかかっているダークボールを投げる。中から飛び出し、雄叫びを上げるはダーテング。

 

 コノハナに、リーフの石を使った姿。

 

 吹き上がる旋風、目を細めるサイトウ。どうだ、カッケェだろ?昨日までのオレだと思わない事だな。

 

「ほぅ、ダーテングですか…コノハナ、進化させられたのですね」

 

 貴方には、まだ当分先の話だと思っていました

 

 そう言って、油断なくファイティングポーズに移行したかと思うと、ボールを投げるサイトウ。選出は、カポエラー。

 

「おいおい、オレを誰だと思っているんだよ。あく使いのアクサキ様だぜ?ダーテングなんてお茶の子さいさいよ」

 

「つい先日まで、進化による命令違反など恐れていた癖に、どの口が言うのやら…減らず口は私が塞いであげましょうか」

 

「はっ、余裕ぶっこいていられるのも今の内だ。オレのダーテングを甘く見てると痛い目あうぜ?それになぁ…」

 

 あく使いが、あくのはどうを恐れちゃみっともねぇだろ?

 

「いくぞダーテング、あくのはどうッ!!」

 

 オレ達の、初陣が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「因みに私、ここ二日間くらいお預け状態みたいなもんだったので、空気とか一切無視しますね。溜まるものも溜まっていますし、さて、何して貰いましょうか」

 

「え、ちょ、まっ…!?」

 

 




アクサキ
ジョウト地方出身。
チャンピオンが推薦したトレーナーが、自分より上手にあくタイプを使いこなしているところを目撃、ハイメンタルブレイクされた。
ならせめてその取り巻き(何かと褒めてくれるショタ、方言シスコンホイホイ)だけでもと思い、勝負を仕掛ける。
がボコボコにされ、ハイメンタルブレイクされた。ちゃっかりメールは交換したらしい。
最近サイトウの事が少し怖くなってきている。バカ。

サイトウ
ラテラルタウンジムリーダー。チャンピオン推薦チャレンジャーにボコされた上に、二日間アクサキがジムチャレンジに来ないというアクシデントが重なり荒れに荒れた。
ワイルドエリアでばったりあった時は、理性をフル動員するので精一杯だったらしい。むっつりスケベ希望。

コノハナ(ダーテング) ♂
アクサキがホウエン地方を旅していた時にゲットした。
他地方からガラルへと持って来れた数少ないポケモン。アクサキの驚く姿が好きらしい。どんぐり

ヤロー
優しいお兄さん

ルリナ
優しいお姉さん


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