モンスターハンター~狩人の狂気~   作:金科玉条

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前回の舞台から遥か北、凍土のお話。
これから繋げていきます…ゆるりとお付き合いくださいな


1、吹雪と氷雪、悲哀と別離

吹きすさぶ寒風が、窓をガタガタと揺らして吹き抜ける。

それでも、今日は珍しく雪も霰も雹も降っていない…

つまり、外に出るときにも重装備でなくてよい、ということである。

それは幸いなことであった。何しろ、終わるともしれない旅に出るのであるから。

旅…いや、放浪する、と言ったほうが正しいだろうか。

居場所を捨て、自らの全てを捨て、彼は歩み出そうとしていた。

 

否…歩み出せるのだろうか。

彼は、逃げようとしているのかも知れない。

小さな家の中には、何も無い。

必要と思われるものは全て荷物として詰め込み、そうでないと判断したものは全て、彼が壊してしまっていた。

もう何もいらない…と、そう、決めていた。

彼には何も残っていなくて、何もいらなかった。

「ソーシア…」

ふと漏れたのは、愛しい人の名。もうここに居ない、誰よりも愛しい名前。

何を壊そうとも、忘れられるものではない。

半ば諦めながらも、忘れたらどうなるのかが怖くもあった。

何よりも、忘れたくない…

 

いつも通りに、鎧、篭手、腰当、具足をつけていく。

防具というにはややファッショナブルな、白くエスニックな意匠の施されたソレは、白兎獣と呼ばれる牙獣種のモンスターの毛皮から削りだされた装備品である。

この地域では普段着に等しいが、ハンターの使用、すなわちモンスターの攻撃にも耐える代物であった。

もうどれくらいになるのだろうか。この永久氷雪地帯で、初めてこの鎧を着て、初めてモンスターと対峙して、初めての狩りを成功させて――

怒涛のような思い出の渦も、彼を引きとめる事はできない。

巨槍を背負い、彼は永い事住み家としてきた家を出る。

銀の風と吹雪がいつも通りに挨拶をし、フードを被ることでそれに応える。

全くいつも通りだった―――誰にも称賛もされず期待もされず、実りの乏しいこの地に居座って刃を振るい続ける彼は、誰の見送りも受けたことがなかった。

ただ一人見守るように笑んでくれていたひとも、もういない。

…やめよう。

振り切るように、扉を乱暴に閉めた。

軋むちょうつがいを止める者はいない。

夜の闇が、白く舞う薄片に色を奪われて紫に滲んでいた。

それでも、彼の目を滲ませるものはない。

真っすぐに、ただ、進むべき道のみを見据えて―――

自嘲気味に、唇をゆがめる。

亡き妻の面影は、とうの昔にこの地に果てているのかもしれない。

それでも、やはり諦めきれずにいるのだった―――

彼には、娘がいた。名を、ガリシアと言う。

2年も前になるだろうか…母、ソーシアの死から1年と少し。

彼―――凍土の専属ハンター、ジュート・ロウ・エルゼルペインは、失意の底にあった。

今になって思えば、ジュートは娘に負担をかけすぎていたのだろう…

ソーシアの影を引きずり、娘をないがしろにして。

その面影を色濃く残す娘を、果たして愛していると言えるのだろうか。

それは本当に、ガリシアへの愛だったのだろうか。

耐えきれず逃げ出したガリシアを責めることなど、彼には到底できない。

そして今、彼は何をしようとしているのか?

答えは単純だった。

ガリシアを探し出すこと。

そして、諦められない負の連鎖から逃げ出すこと。

逃げ出すために逃げるとは、こりゃまた傑作だ…と、ジュートはフードの中のひさしを降ろした。

ぽつぽつと降り出した霰の中、ジュートは歩きだす。

行くあては、なかった。ただこの場所から遠ざかりさえすればそれで良いと思った。

否―――漠然とした目的地は、彼の中に設定されているのだった。

「…ユクモ村、ねえ」

ここから遥かに南、山の中にぽつりと存在する辺境の温泉村。

ハンターはいるのだろうか―――

寒かった。考えに立ち止まったのも悪かったが、なにより心の内が冷たくふぶいていた。

氷点下でも適温に変えるこの装備も、内からの凍風には効果を発揮しない。

これを埋める暖かさが欲しかった。

人でもいい、温泉でもいい―――

冷たさから脱し、温かさに触れたかった。

ユクモ村についたら何をするか――と、今の内から妄想に心を膨らませ。

どこか小さく期待していた―――ガリシアがいるんじゃないか、と。

会えたところで、どうにかなるものでもないのに…

なぜなら、彼女が自由へと逃げ出した時と、彼が何も変わっていないから。

最低な家族だな、と零し、今度こそジュートは止まらずに歩きだす。

むしょうに人が恋しかった。

抱え込んだ思いを理解してくれるような、友と呼べる存在が欲しかった。

それでも――何を得るにしても、まずは歩きださなければならない。

ますます強まる霰の中、慣れ親しんだ悲しみの里に別れを告げ。

一人の男が、門をくぐった。

 

セルクとクルアがユクモ村へ向かい始める、数週間ほども前の事である。




寒さって、寂しいものですよね
今日は雪が降りました…僕の住んでいるところでは珍しいです、むちゃくちゃ寒かったです
ジュートさんの境遇を想うまではいかずとも、ある程度は理解できたかな、なんて…
読者様には、前回の分も合わせて、ありがとうございます
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