モンスターハンター~狩人の狂気~   作:金科玉条

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前回ジュートさんの回想の中にちょこっとだけ出てきた娘さんのオハナシ、第一弾。
きっとハンターって、思っている以上に大変なお仕事なんでしょうね。
ハンターって打とうとしてはにゃーって打ってしまったので死んできます



2,水面の想い1/2

刃を振るって敵を知り

  

   刃を知って敵を断つ

 

       敵を断って命を知り

  

          命を知って刃を断つ

 

             刃を断って死を感じ

 

                 死を知ってなお、生きようとした

 

 

 

…っ…

ぼやけた霧の漂う孤島の村の朝、ベッドの上でガリシア・ウル・エルゼルペインは眼を覚ました。

誰の歌だろう。窓の外から、遥かに薄く、遠く、小さく…何か聞こえてくる。

 

 

 

理を知って現を愛し

  

   愛を理って現を知った

 

        愛を知って理を愛し

 

            愛の理に現を抜かす

 

                理を抜かして現を見て

 

                    愛を逃して、現へ帰った

 

 

 

男の声―――だろうか、きっとそうだろう。

よく通る、それでいて涼やかでのびのびとしていて、美しい。

吟遊詩人だろう…孤島には、そういった類の人間が立ち寄ることが多い。

隔絶された空間には、伝承歌やなんかが、きちんと継承されていることが多いからである。

そんなことを教えてくれたのは父だったか。

思い出したくない父親の顔はしかし、上手い具合にぼけてかすんでいて、上手に思い出せなかった。

安堵の息を漏らして、ベッドから降りる。

彼女が凍土の街を抜け出してから早一年、孤島の小さな村の専属ハンターとなったガリシアは、細々と暮らしていた。

よそ者に対しての風当たりが非常に強く、迷信も多いこの村で、彼女の存在は悪い意味で神と同等であった。

つまり、そこにいて、ありがたい存在でありながら、触れる事はしない…否、したくないといわんばかりに。

どこか、壁や仕切りを置いて接したがるのである。

仕方がない、と言えば仕方のない事であるのかもしれない。ガリシアも、そこは受け入れていた。

だけど、ふらっと立ち寄っただけの人が嫌がらせや迫害を受ける姿は、見ていてとても辛いし、嫌な気分になる。

やっぱり自分には合わないのではないだろうか―――と、一年目にしてようやく気付いたガリシアはしかし、どうすることもできないと感じていた。

それに、なによりも強い想いが一つあった。

父親に、見つかりたくない。

この小さな村に身を潜めていれば、絶対に見つからないだろう。

そうして、ガリシアは独りで生きてゆきたいと願っていた。

死んだ妻と娘を、重ねて見るような父親など、もう二度と会いたくなかった。

だけど、なぜだろう。

この澄んだ歌声を聞いているうちに、いてもたっても居られなくなる。

手早く上着をつっかけただけの姿で、彼女は家を出た。

 

 

色をつけて人を見て

   色を見て人につき

      人を見て色をつけ

          色を…

「おい、シル。いつまで歌ってんだ?船が出るぞ」

一枚岩の上で、空を見上げて歌っていた細身の青年は、目を細めて声の主を見た。

見上げるほどの大男で、岩山のように屈強な肉体を持っていることが一目でわかる。

体にまとった、同じく岩のようなゴツゴツの鎧も、彼の性格を裏打ちしているようだった。

シル、と呼ばれたその青年は、年齢に反して銀灰色の長髪をなびかせて、薄い岩を降りる。

日の下で見ると、肌は異様に白く、青い瞳と相まって、ともすれば女に見えないことも無いほどだった。

「ゼル、もう少しくらいいいじゃないか?」

そう言いつつも、シル――シルギスの名を持つハンターは、もう歌うつもりはないようだった。

ゼル、と呼ばれた大男も、踵を返して彼に続く。

「ここはいいところだね、ゼル」

「ああ、まあ…そうだな」

とはいえ、彼は景色を楽しむ精神を持ち合わせていない。

「ユクモ村へ行くんだろう?こんな所で燻ぶるつもりか?」

「ううん…まあ、正直なところ、ユクモへ行くのに期限はないからね」

「…ま、俺は戦えればそれでいい」

「これだから戦闘狂は…」

やれやれ、と溜息をつき、シルギスは村のはじ――船着き場へ、向かう。

 

 

 

「待ってください!」

そんな二人の背中に声をかけたガリシアは、にこやかな好青年の笑みに、毒気を抜かれて立ち尽くす。

「なんですか、お嬢さん?」

「あっ…ああ…いえ…」

「何か用か?」

変わって応対したゼル――ゼルローンは、打って変わって酷く無愛想である。

そのことで逆に勢いを取り戻し、ガリシアは続けた。

「先ほどの唄は…?」

とはいえ、少し尻すぼみになるのは仕方のない事であった。

恥ずかしそうに、シルギスが頬を掻く。

「僕ですが…すみません、騒がしかったですよね」

「そう…なんですか、とても、素敵でした」

「…聞いたかい、ゼル」

「ああ、聞いた」

「いくらだっけ?」

「…500だな」

「それじゃ、今すぐ払って貰おうか」

今度はゼルが、やれやれと肩をすくめた。懐を探り、硬貨を出す。

「ほらよ」

「やっぱり僕が勝っただろう?」

「うるせえ」

「…あの…」

おずおずと切り出したガリシアに、シルギスは再び微笑んだ。

「ああ、すみませんね…ちょっと、賭けをしてまして」

それは見ればわかるって、と心で突っ込みを入れるガリシア。

「じゃ、俺達は急ぐんでな」

と、ゼルは背を向けたが、シルギスは動かない。

「それで?僕の歌を褒めて下さった素敵なお嬢さんの要件はなんですか?」

どうやらかなり気を良くしているらしく、その笑みが途切れる素振りは少しも無い。

「…どこかへ、行かれるのですか?」

初対面で、いきなり何を言い出すのだろう――そんな疑問も、一瞬で消えたらしい。

「ちょっとユクモ村までね」

「おい、シル。余計な事を言うな」

「負けた君こそ黙っていたまえ」

ぴしゃりと言い負かして、また笑む。

「それで何かな?僕たちと共に来るかい?」

んなワケねえだろうが、と、ゼルは顔をそむけて吐き捨てる。

「――――っ」

浮かんだ父の顔が、今度こそいやらしく笑っているようで。

閉ざされたこの島に、いつかやってくるんじゃないかと思えて。

「行かせて、くれるんですか?」




一話で終わらせるつもりが、長くなってしまった+疲れた+何やってんだかわからなくなった+間が空いてしまって申し訳ない
ので、二話にわけて語ることにいたします
どうぞ、ゆるりとお付き合いください

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