奏で響く双撃槍(仮) 作:テスト
Gatrandis babel ziggurat edenal───
崩壊するライブ会場。
Emustolronzen fine el baral zizzl───
止まない悲鳴の嵐。
Gatrandis babel ziggurat edenal───
押し寄せるノイズの群れ。
Emustolronzen fine el zizzl───
まるで地獄のようなこの光景を、あたしが忘れる事はないだろう。
「あー! また授業に遅刻するぅー!」
ひたすらに走り続ける。
どこへ?
もちろん、教室だ。
昨日は木から降りられなくなった猫を助けて授業に遅れてしまった。
その時は先生に何とか謝り倒して見逃してもらったけれども!
二日連続で同じ先生の授業に遅れるのは良くない!
早く、早く、早く!
───着いた!
教室の前で息を整えてから、忍び足で入り込む。
音を立てないように横を通る私を見て、くすくす笑われているけど気にする余裕なんてない
全神経を総動員し、ようやく未来の隣の席に辿り着く。
全力疾走からの全力忍び足のおかげで、体育の授業の後みたいに汗だくだ。
「おかえりなさい、響」
「ただいまぁ、未来ぅ」
今日は、何とかバレずに済んだ!
良かった───
「───はい、それでは皆さん前に集まってください。それと、ようやく挨拶が出来ますね立花さん。おはようございます」
───ぁ。
「───お、おはようございます、先生! 今日も、とてもお綺麗ですね!」
「ありがとうございます。言い訳は後で聞きますので、貴女は授業後に残るように」
隣から呆れた溜息が聞こえる。
今日は、流石に許して貰えなかった───
─────────
──────
───
お昼休み。
今日も変わらずおいしいご飯をいっぱい持ち帰り、未来がいるテーブルに着く。
「それで? 今日は何があったの、響?」
「んうぅ。あふぁね、ほれは───」
「響、ご飯は逃げないから飲み込んでから喋ってね」
「んぐ───。いやー実はね、木の上の巣から落っこちちゃった小鳥さんがいてね」
「その小鳥さんを助けてたの?」
「そうそう! 小さくてふわふわで、とっても可愛かったなー」
「昨日は猫、今日は小鳥───助けるのは良い事だけど、授業に遅れるのは良くない事だからね」
「あはははは───ごめんね。でも、困ってる誰かを見ると身体が動いちゃうんだよねー」
「もう。響ったら本当に変な子なんだから」
「えへへ、変な子と仲良くしてる未来はもっと変な子!」
いつもと変わらない風景。
いつも傍にいてくれる親友。
きっと、この日常がいつまでも───
「あれ、風鳴翼じゃない?」
「───本物だわ。学校に来る事、あるのね」
───風鳴翼。
反射的に立ち上がり、辺りを見渡す。
「───どうしたの、響?」
───いた。
遂に、会えた。
リディアンが誇る、超人気アイドル。
翼さんがこの学校にいると知って、私はここへの進学を決めた。
現役アイドルにお近づきになりたくて?
───違う!
私は、あの日の───二年前の真実を知りたくて。
その一心で、私は───!
「───貴女」
はっ、と気が付いた時、翼さんは私の目の前にいた。
頭の中で考えていた事が崩れる。
言わなきゃ!
聞かなきゃ!
「あ、あの! 私は───」
「ここ。それと───ここも」
「───へ?」
翼さんは、自分の唇の横と、鼻を指す。
「とても言いにくいのだけれど───色々着いているわよ」
「ひっ、響! こっち向いて!」
「んぇっ? 未来?」
「───貴女達、仲が良いのね」
慌てたような未来に、顔を拭かれる。
やがて私の顔から離れたハンカチには、新しくオレンジ色の模様が仲間入りしていた。
どうやら、ご飯に夢中で鼻の頭にまでソースが付いていたらしい。
そして、翼さんが何を指していたのかを理解する。
「───ッッ!? あ、あにゃ、あにょ、す、しゅみませんッ!」
顔が燃えるように熱い。
今すぐ家まで走ってベッドに飛び込んで顔を埋めたいくらいに。
「いえ、こちらこそごめんなさい。───仲が良い友人はかけがえのない物よ。大切にしたほうがいいわ。お互いにね」
翼さんはそう言って、静かに食堂から去って行った。
完全に翼さんの背中が見えなくなって、ようやく張りつめていた空気がなくなる。
一方私は、そのまま座り直してから顔を上げられなかった。
見てないけど、周りから見られている気がする。
「なんで───なんで言ってくれなかったの、未来ぅ」
「───ごめんね。気付いていたけれど、拭く前に響が立ちあがっちゃって」
「うぅ、絶対翼さんにすごく変な子だと思われた───」
「それは大丈夫だよ、響」
響はソースが付いていなくても、すごく変な子だから。
未来、それは酷いよ───
─────────
──────
───
放課後。
思い返しても酷すぎる翼さんとの初対面で、私はすっかり忘れていた。
翼さんのCDが、今日発売だって事を!
初回特典が充実していて、売り切れになっていてもおかしくない逸品。
リディアンから街のCD屋さんへと急ぐ。
今日は朝から走ってばかりの一日だ。
「はぁ、はぁ、CD屋さんまでもう少し───あれ?」
ふと、足が止まる。
私はリディアンからここまで駆け抜けてきた。
どうして誰ともすれ違わなかった?
それは道に歩いている人がいなかったから。
───何か、変だ。
改めて、周りを見てみる。
まるでゴーストタウンのような、いつもの街並と。
見える範囲だけでも、いくつもの大量に積もった黒い塵が───
「───ノイズッ!?」
「きゃあああああああああッ!」
ひたすらに走り続ける。
どこへ?
助かるならどこでもいい!
一分でも、一秒でも!
早く、早く、早く!
「頑張って! きっと助かる───いや、絶対助けるからッ!」
今私が力尽きたら、命を落とすのは私だけじゃない。
お母さんとはぐれたこの女の子の命まで消えてしまう。
───そんなの許せない!
───そんな物、認めちゃいけない!
だから!
走り続けるんだ!
『生きるのを諦めるなッ!』
あの時、私にそう言ってくれた人がいた。
だから私も───!
「絶対に諦めるもんかッ!」
─────────
──────
───
どれほど走ったのだろう。
この子を見つけた時はまだ夕日が見えていた気がする。
それが今は、空に星が輝いている。
無我夢中で走っていたから、どこを通ってここまで来たのか全然覚えていない。
でも、一つ確かな事は、ここはどこかの工場地帯で。
私たちは結局───ノイズに囲まれているという事だ。
「お姉ちゃん、私たち───死んじゃうの?」
しがみついて震える女の子がぼそりと口に出す。
死ぬ───私たち、死ぬ?
あれだけ走って逃げたのに?
この子のお母さんにも会えてないのに?
ここでノイズに殺されて死ぬの?
───違う!
生きる事を諦めなければ、出来る事はある!
「───大丈夫!」
「え?」
あの人が歌っていた歌を思い出す。
力強くて、暖かくて、優しい歌。
「私が守るから」
だから───
「生きるのを、諦めないでッ!」
そう叫んだ瞬間。
胸の奥から、歌が聞こえた気がした。
Balwisyall Nescell gungnir tron───
身体が熱い。
まともに立ち上がる事が出来ない。
頭がかき回されてるみたいだ。
なのに、歌だけがはっきりと聞こえてくる。
「───ッッ!! ───ァァァッ!」
身体も、頭も、私の全てがひっくり返されているような感覚。
「お、お姉ちゃん───?」
こんなに私がぐちゃぐちゃになっているのに。
胸から奏でられる歌が止まらない。
「グウウウウウ、グアア、アガアアアアッ!」
私の身体が歌に覆われていく。
それは私と言う存在が、歌そのものに変わっていくように。
やがて、歌に飲み込まれた私の中には、胸の歌だけが響いていた───
とある病院の一室。
その部屋のベッドには、二年前から意識を閉ざした少女が横たわっている。
しかし今、その手は何かを探すように空中を泳ぎ、その目は眩しい物を見るように薄く開いていた。
「───あ」
錆びついた喉から、声のような音が出る。
まるで、失った何かを確かめるかのように。
そして───
「───ガン、グ、ニー、ル?」
───運命は再び、少女を迎え入れる。