奏で響く双撃槍(仮) 作:テスト
「反応絞り込みました! ですがこれは───」
「ノイズとは異なる高質量エネルギー、なおも増大中!」
「───聖遺物の暴走だとでも言うのか!? だが、あんな場所に聖遺物など───」
「このパターン───これってまさか、アウフヴァッヘン波形?」
スクリーンにデータバンクと一致したコードが表示される。
それは私の良く知る聖遺物。
それは二年前に私の前で砕け散ったもう一つの力。
それは、今も眠り続けている───
「馬鹿な、ガングニールだとッ!?」
「──────!! ───ッ!」
「翼ッ!? 待てッ!」
考えるより先に走り出していた。
何かの間違いかもしれない。
それでも私は行かなくてはならない。
あの日、ガングニールは永遠に失われた。
しかし、何かの間違いで今そこにそれがあるのなら。
いつか必ず帰ってきてくれる人の為に───!
「クソッ、もう止まらんか! ───全職員に通達! 大至急、市民を聖遺物及びノイズから遠ざけるんだッ! 急げッ!」
「了解! ───司令! 二課へ緊急の通信が入っています!」
「───よりにもよってこんな時に! どこの誰からだ!」
「それが、二課医療施設から───」
─────────
──────
───
少女の視界を埋め尽くしていたノイズたち。
それが、今は殆ど残っていなかった。
黒い影が飛び込む度、塵になって消えていく。
唐突に現れた山のような大きさのノイズも、一瞬で影に引き裂かれて消滅した。
もはや、少女が炭素の塊にされる事はない。
ノイズも残り僅か。
それすらも、見ている間にいなくなるだろう。
しかし、少女の身体は震え続けている。
「ハァーッ、ハァーッ、ウウウアアアアッ」
「お、お姉ちゃん。もう、ノイズはいなくなったよ」
「グウウウウウ、ウウウウウウウッ」
「私は、もう大丈夫」
「グウウウウ───」
「ねえ、お姉ちゃ───」
「ウウウウアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
───黒い、人型の怪物。
現場に辿り着いて見た物がそれだった。
ノイズなど、ただの一匹もいなかった。
この怪物がノイズを倒したのか?
それとも、これは新種のノイズ?
───まさか。
「───これが、ガングニール?」
茫然と、口から零れる。
私の知っているガングニールは、こんなにも恐ろしい姿ではなかった。
間違っても、こんな物では───
「───! ──────!!」
「ッ!? 生存者!?」
怪物を端に捕らえながら、辺りを探す。
───いた!
小さな女の子だ。
近くへ寄ると、震えながら座り込んでしまっている。
幸い、大きな怪我はないように見える。
「もう大丈夫よ。助けに来たから───」
「助けて───お願い、助けて!」
「───怖かったのね。すぐに安全な所に連れて行くからね」
「違う、違うの。お姉ちゃん、助けて」
───もしかして、どこかにまだ家族が?
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが!」
「───うん、わかったよ。私がお姉ちゃんを助けてくるから、お姉ちゃんは今、どこにいるかわかる?」
「あのね、ノイズがたくさんいて、お姉ちゃんがね」
そうか。
この子の姉がノイズから妹を庇ったのか。
ならば私は、せめてこの子の傷を少しでも小さな物に───
「お姉ちゃん、ノイズをやっつけたのに、元のお姉ちゃんに戻らないの!」
───ノイズをやっつける?
───元に戻らない?
どういう事だ?
よく見れば、女の子は私を見ていない。
まるで「お姉ちゃん」がその先に今もいるかのように。
震える手で、「黒い怪物」を指差している。
「お願い、お姉ちゃんを、助けてッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!」
一体、ガングニールはどこに?
この子は、何を知っている?
「お姉ちゃん」を助けるとは?
答えの出ない疑問がどんどん湧いてくる。
しかし───
「考えている暇はない、か」
Imyuteus amenohabakiri tron───
─────────
──────
───
Gatrandis babel ziggurat edenal───
Emustolronzen fine el baral zizzl───
Gatrandis babel ziggurat edenal───
Emustolronzen fine el zizzl───
───歌が、聞こえる。
私の胸の奥から、何度も音が奏でられる。
私と言う音だけが、私の中に響き渡っている。
奏で響きあう音は歌となって、世界を満たしている。
歌が世界を満たし、世界も歌う。
そこには歌だけがある。
私は、その音を奏でるだけの箱。
───どうして、そう思う?
それは、自分の歌がないから───
───違う。歌ならある。私が気付いていないだけだ。
Imyuteus amenohabakiri tron───
───歌が、聞こえる。
私の胸の奥からじゃない。
───それは、私の歌ではない。
私は聞いたことのない歌。
───けれど、私は知っている歌。
初めて聞くはずなのに、とても懐かしいような気がする。
「天、羽々斬?」
知っている。
私は知らないのに、私の中の何かはその歌を知っている。
Croitzal ronzell gungnir zizzl───
───歌が、聞こえる。
『おい死ぬなッ! 目を開けてくれ!』
『生きるのを諦めるなッ!』
『───いつか、心と身体、全部を空っぽにして思いっきり歌いたかったんだよな』
これは、私の記憶?
それとも、私の胸の中の───
『今日は、こんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ』
『だからあたしも、出し惜しみなしで行く』
『とっておきのをくれてやる』
『───絶唱』
『Gatrandis babel ziggurat edenal───』
『Emustolronzen fine el baral zizzl───』
───ああ、そうだった。
あの人の歌は、本当に綺麗で。
とても、透き通っていて。
そして、少し寂しかった。
そんな歌を聞いて私は、何か───何か、を。
何故だろう、思い出せない。
あの時、私は何を───
『Gatrandis babel ziggurat edenal───』
『Emustolronzen fine el zizzl───』
「───あなたは、この何かを知っているの?」
自分の胸、更にその奥へと語りかける。
いつかきっと、教えてくれると信じて。
だから、私は歌うんだ。
あの人から受け取った、私の歌を───
Balwisyall Nescell gungnir tron───
─────────
──────
───
「───ふっ!」
「ガアッ!? ───ウガアアアアアッ!」
───まるで獣。
峰打ちでは止まる気配もない。
かと言って、斬りつけるなど以ての外。
影縫いも刺さる前に落とされてしまう。
正直、あまり打つ手がない。
一先ずは、目をこちらに向け続けてもらうしかないだろう。
「このまま、この場に留まっていてくれれば良いのだが───」
「ウガアアアアアア、アア、ア、ガ?」
「───む?」
常に動き回っていた身体が、不自然に止まった。
警戒を続けながら、ゆっくりと足を進めていく。
黒い怪物は、胸を抑えながら唸っていた。
「ウウウ、ううううううう、歌、歌が聞こえ、ル」
「───歌?」
「あの人の、歌、私の、歌」
Balwisyall Nescell gungnir tron───
「───聖詠ッ!?」
黒に染まった身体から、影が引いていく。
胸に吸い込まれるように全ての影が消えると、そこにはどこかで見た子がいた。
ただ記憶の中の彼女と決定的に違うのは、自分の物に似た機械のパーツが身体に装着されている事だ。
「纏っている、それは───シンフォギア?」
「───そっか、そうなんだ。これは、あの人の───」
「貴女、その力をどうやって───」
「お姉ちゃん!」
震えていた少女が飛びつく。
それを、シンフォギアを纏う彼女は抱きしめ受け止める。
「ごめん、ごめんね。怖かったよね」
「───怖く、なかったよ。お姉ちゃん、かっこよかったよ」
「───そっか、うん、ごめんね、ありがとう」
涙を流しながら抱き合うその姿は、まるで本当の家族が再会したようだった───
─────────
──────
───
「───よもや、こんな時になんてな」
二課司令、風鳴弦十郎は眉間を手で押さえながら呟く。
聖遺物の暴走という非常事態が起こった直後に、二課医療施設より弦十郎へ届いた緊急通信。
弦十郎は、その内容次第では二課司令という立場を無視して、通信の切断まで考えていた。
しかし、通信は最後まで続けられ、医療施設へは友里と緒川が派遣された。
「失われたはずのガングニールの反応と、目を覚ましたお前」
「───俺は、これを偶然で片づける程ロマンのない映画ばかり見た覚えはないぞ」
翼にはどのタイミングで切り出した物か。
この事を伝えれば、また飛び出していくだろう。
「手放しで喜べない立場ってのは、案外苦しいんだぞ。───なあ」
───奏。