というよりか、前2話が長すぎな気もします。
たぶんこれからはこの長さ位だと思います。
エイナさんのスパルタ講習が終わり、解放されたのは日が沈み始める時間でした。
道中のお店などに興味はあったけれど、ヘスティア様との約束があるので真っすぐお家……うん、お家に帰ります。
歓迎パーティなるものをしてもらったけれど、食べるものがじゃが丸くんだけ。数が多いので豪華らしいです。うん、軍用携帯食よりかなりましだから豪華……ですね。(白い目)
おいしいんです。えぇ、普通に。ただ、ずっと油ものってつらいわけです。
これは明日からの稼ぎを頑張らないと……
後は寝るだけってなった時に、ちょっとした問題が起きました。
寝床です。主にベル兄いの。
ヘスティア様が
「ベル君もベッドで寝よう!」
って言い始めて、当然それを頑なに拒むベル兄いの間でベル兄いの腕をかけた綱引き……腕引き?が発生。
面白いから傍観していたらベル兄いから援軍要請が来たので、とりあえず仲裁しました。
結局、ベル兄い一人でソファーで寝ることになりました。
私?当然ヘスティア様とベッドですよ?
目覚めはヘスティア様の胸の中……オラリオに来て二日目で死を迎えそうになるとは……!!
初めてヘスティア様に戦慄を抱いた瞬間でした。
あと一秒遅かったら、私は窒息死でもしてたかもしれません。
……ひょっとしてこれを毎日ですか!?うそーん……
ちょうどいい目覚ましと考えればいけなくも……いや、無いですね。命を懸けた目覚ましとか冗談じゃない。
ぐっすり眠ってるベル兄いの幸せな顔に少し腹が立つ。
八つ当たりとして、鼻を塞いで起こしさっさと準備を済ませて、出勤しましょ。
少し肌寒い朝の空気をしっかりと吸い込み、眠気を吹き飛ばします。
部屋から出てきたベル兄いと体操をして柔軟して装備チェックし終わって、私たちはメインストリートを歩いていました。
昨日の喧騒や人混みもなく、大通りがとても広く感じられ、なんだか新鮮です。
二人して、エイナさんにローンを組んでもらって買ったナイフを腰に挿し、防具を私服の上からつけてバックパックを背負ったスタイルでダンジョンに潜ります。私だけナイフと反対の位置に銃を挿して、その銃を隠すために灰色のマントを上から着込みます。
私たちのどちらもエイナさんのテストに一発で合格したので、一応潜る許可は頂いたけれど、それでも心配そうに声を掛けられました。
『何度も言うけれど、絶対に無茶はしないように。グレイちゃんがいるから大丈夫だとは思うけれど、明日は間違っても2層以下まで行こうなんて考えないでね。』
無茶しようものならすぐに死にそうな見た目してますし、実際死にますから、この注意は素直に受け取っておきましょう。
しかし、ベル兄いの信頼感がない……まぁ、この迷宮に夢を見過ぎてるきらいがありますから、仕方ないといえば仕方ないのかも。
ゴブリンが突き出す腕を弾いて、がら空きになった首元にナイフを突き刺し撃破。
続いて背後から跳躍してきたコボルトの突進を横に回り回避。立ち上がるとともに腹に蹴りを入れ距離を離す。一拍置いて交差し、首を傾け攻撃を回避しつつ、胸を切り裂いて撃破。
場面が変わって迷宮一階層。
相手が一匹だった場合、片方が吶喊して相手の攻撃を誘い、弾いて隙を作り、もう片方が即座に弱点に攻撃を叩きこむ。
相手が複数いた場合、両方が突撃して分断し各個撃破するという方法で、偶に沸くゴブリンやコボルトを狩っています。
いくら敵が弱く数も少ないとはいえ、命の取り合い。人形の時にはなかった死の恐怖を感じながらモンスターを相手するのは疲れます。
「お疲れ、グレイ。」
「うん、ベル兄い、怪我はないですか?」
「大丈夫。特にないよ。それより、僕は周りを見ているから、グレイは魔石を拾って。それが終わったら、今日は帰ろうか。」
「わかった。」
言われた通り、それぞれが狩ったモンスターの魔石を、一つずつ拾っていきます。面倒ですね。
「拾い終わったよ!」
たくさんモンスターを狩れたわけではないけれど、今日が初めてで様子見の意味合いが大きいので、無理のない内に帰ることにしました。
「あ、ゴブリン。」
緑色の皮膚に小柄な体。顔は醜悪そのもので、らんらんと輝く赤い目は私達に気づいていなようで、あらぬ方向に向けられていた。
「ベル兄い、銃を使ってみるから動かないで。」
そう言いつつ、腰のベルトからC96を引っ張り出す。ベル兄いが心配そうな顔をしているけれど、駄目だった時はナイフで切り殺すだけの話です。
銃口をゴブリンの脳天に向けて狙いを定め、セーフティーを解除。
こちらに気づいてこちらに顔を向けようとするけど、
「『Feuer』!」
宣言と共に放たれた弾丸がゴブリンの額に刺さり……ゴブリンの額が消えた。
それからゴブリンの体が力なく倒れ、霧となって消え、魔石が転がり落ちる。
「ほあっ!?」
「おー……」
しっかりと魔物相手にも通用するという結果を得られて満足満足。モンスターとはいえ所詮は生ものですし当然と言えば当然……とは言えないのがモンスターの怖いところです。
銃声の余韻もそこそこに、気を取り直してベル兄いが褒めてくれます。
「その魔法すごいね!!」
「ありがとう。でもベル兄い、これ自体は魔法じゃないですよ?」
「それでも、魔法から作っているから、実質魔法じゃん!いいなぁ……僕も魔法が欲しいなぁ」
「兄よ、本を読め。」
「いや、でも買う余裕が……」
「おかしなことを言いますね。ベル兄い、ギルドにはそれ関係の書物が無数にあるって、エイナさんが言ってなかった?借りればいいじゃないですか。」
「あっ……それもそっか。」
まさに、その発想は無かったと言わんばかりに、ベル兄いはポツリとつぶやきます。目から鱗が本当に出るならきっとナイアガラの滝のように落ちているでしょう。
まぁ、図書館って概念が村にはなかったですからねぇ~。借りるっていう発想はなかなかでないものなのかも。
そういえば、一応ベル兄いにも銃をあげることができるんですよね。っていう話をしたら、
「そんなことするより、グレイがそれで遠距離から先制攻撃して、僕がそこに突撃して……って感じで前衛と後衛を分けた方がいいと思う。」
と、真っ当なご意見をいただいたので、ベル兄いが銃を使うことはなさそうです。
たぶん、英雄譚の英雄たちのように、剣と盾を使って……みたいなのに憧れているからだと思うんですけれど。
いくら、ダンジョンの中が多少明るくても日の光が目に染みる真昼間。
私たちを出迎えたのは、朝の静けさではなく、昨日と同じ賑やかな街。
ダンジョンからの帰り道に適当に食事を済ませた後、商店街で野菜と塩といくつかの香辛料、パスタや少量の肉を買っていきます。これで本日の稼ぎがある程度飛びましたが、食わねば働けないんじゃ。
まだまだ駆け出しのぺーぺですし、稼ぎがほぼこれだけになっているのでローンやポーションは後回しです。ヘスティア様のアルバイト代?どうやら以前屋台を吹き飛ばしたらしく、かなりの割合が天引きされているとか。
何やってるんですかあの駄女神様は。
安定した生活はまだまだ遠そうだと、少女が零したため息は、人の波に消えていくのであった。
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