≪side 椛≫
私は、今夜道を歩いている。あれから結局、牙様は罰として減給を食らった。運が良いことに私はお咎めなしだ。
それでも、ずっとこの現状が続くのはまずい。
そう思い悩んでいた時、私は誰かが倒れているのを見つけた。
「大丈夫ですか!?」
声をかけた私は驚いた。なぜなら…
「牙様…!?」
そこで倒れていたのは、私の悩みの種である風間 牙様だったのだ。
「…酒臭い。」
小声で私はそう言いながら彼を担いで家に帰った。
【犬走家にて】
担いで帰ったのは良い物の、この部屋のアルコール類を赤の他人の男性に見せるのはまずい。これではあらぬ誤解を生んでしまう。
…あいつめ!
牙様が眠っている間に隠してしまおう。幸い明日は二人とも休みだ。じっくり彼に訳を聞こう。
[次の日]
「う~ん。」
どうやら起きたみたいだ。昨日は寝ずに彼が起きるのを待ってたからな。
「おはようございます。」
そう言って私は彼に水をあげた。
「…おはよう。」
寝ぼけているのか、はたまた気づいているのか彼はいけしゃあしゃあと返事をし、水を飲んだ。
………別に寝てなかったからってイラついてる訳じゃないぞ。
「ん?…ん?…ん?…んー!!!」
どうやら前者のようだった。コップと私を何度も見比べて最後には驚いて声を出していた。
「な、な、な、なんで?!お、お前が俺の家に?!?!」
……
「ここは私の家です。昨日の事を覚えていないようなので説明いたします。私が昨日の夜、帰路についている途中恐らくお酒を大量に飲んだあなたが倒れているのを発見しました。私はあなたの家を知らないので私の家に連れてきた所存です。」
そう説明すると彼は
「そうか、本当に申し訳ない。この仮は後日返させてもらう。それではさらばだ。」
そう言い彼は出ていこうとする。
「ちょっとちょっと!待ってください!あなたが深酒するだなんて絶対おかしいです!それに今回のミスも何か不自然です!これ以上何かあってはまずいので私に包み隠さずすべてを打ち明けてください!」
「だからなにもないといっているだろう!しつこいぞ犬走!」
…このガキは何を言っているのだろうか…
「いい加減にしろ!!!!」
思わず怒鳴ってしまった…
ついでに魔力も少し漏れてしまった…
……別に寝れなかったから怒ってる訳じゃないぞ。
私の剣幕に驚いたのか、はたまた私の魔力にあてられたのかどうやら牙様は腰を抜かしてしまったらしい。
そ、そんなにびっくりする事じゃないのに。
「…コホン、まあゆっくりでいいので話しをしましょう。立てますか?」
そう言って私は彼に手をさしのべる。
「お、おう。ありがとう。」
[数分後]
…さっきからずっと彼は黙っているが、まあ辛抱強く待とう。
「お前を巻き込んでもいい内容かわからない。いや実際はわかりきっている事なんだが…」
ようやく彼は口を開いた。
「構いません。ですのでゆっくりと話してください。」
そうして彼はとんでもない事実を話し始めた。
「結論から言うと、大天狗がクーデターを起こそうとしている可能性がある。」
「!本当ですか?」
「実際はどうかわからないがこの間の集会でその情報を聞いた。」
なんでも偶然聞いたそうだ。しかしそれなら…
「それなら、天魔様に報告はできないのですか?」
私がそう提案する。
「いや、どうやら大天狗には配下が大勢いるらしい。天魔様にお会いする前に奴等に目をつけられるかもしれない。それに奴等の話では、とある白狼天狗が逆らえずにしたがっているらしい。」
白狼天狗?それほど厄介な相手なのか?
「して、それはどなたなのですか?」
「それは…天星だ。」
………………は?
「そうなんですか?!」
これはさすがに驚いた。まさかあの方が…
いや、しかしまだ疑問が残っている。
「彼女が支配されているのはわかりました。それが何故天魔様に報告ができない理由になるんですか?」
「俺とあいつは同期だ。そのお陰であいつの能力を知っている。」
…うん
今日は驚かされてばかりだな。まさか彼と天星様が同期だったとは…
それと天星様の能力か…確かに聞いた事がないな。
「どんな能力なのですか?」
「それは…認識を合理化する程度の能力だ。」
……なるほど、なかなかにむちゃくちゃな能力だな。
確かにその能力さえあればやりたい放題だ。
「…そうですか…
他には何か情報はありませんか?」
そう聞くと
「他に情報…何か禁術を使っていると聞いた。」
禁術?
「かけられた者が術者に逆らうと死ぬらしい。」
…うん、なんでそれを早く言わない。
あの人なら天魔様に直接報告できると思ったが、天星様の能力によって天魔様も曝露されている可能性が高い。
「そうですか。なら私も調べるとします。」
そう言うと彼はひどく驚いたようだった。
「いや、お前がそんなことをする必要はない。さっきはお前の迫力に気圧されてつい話してしまったがこの件には関わるな!それに証拠もなにもないんだぞ!」
…………
私は彼の両肩にそっと手を置き満面の笑みでこういった。
「う る さ い」
…別に寝れなかったから怒ってる訳じゃないぞ。
彼が言っていた禁術、あれは私達が作ってしまった物に似ている。
偶然だとは思うがあれは生命を冒涜する物に他ならない。私はそれを破壊しなければならない。例えそれが私達の作り出した物とは別の物であっても。
それこそ私が犯した罪の償いの一つだと思っている。
そうして私は首すじの入墨をさすった。
「Ⅰ」
難しいな…