<妖怪の山本部にて>
≪side 椛≫
あれから異変の混乱は徐々に落ち着いてきた。シロギーに集められた魂は無事に元の体に戻った。
幸い春を贄に復活しただけで魂にはまだ手を出していなかったようだ。
そして私は今、いつもの哨戒任務を終え休憩していたのだが…
「犬走、怪我はないか?」
そう天星様が聞いてくる。
「いえ、たいした怪我はしてませんから。」
「そうか、なら良かった。」
そうだ!
「私が飛んで行った後天狗たちはどうでした?」
ふと疑問に思ったので聞いてみた。
「あの後、新しい大天狗様達が駆けつけて皆に指示を送りそのお陰で事態は収集したよ。」
ん?
「新しい大天狗
確かにあの時の大天狗はもういない普通に考えればその空席を埋めるのは当然だろう。
しかし…
「ああ、そうだった。この事はまだ発表されていないのだったな。天魔様はあのような事件の再発を防ぐために大天狗の座を五席用意されたようだ。」
ふむ、確かに大天狗が何人かいれば重要事項の決定も話し合いの末に出すことが出来る。
「因みに大天狗の一席には射命丸様もおられるが…彼女はまあなんと言うかその…。」
「そこまで真剣に仕事しないでしょうね。あるいはこの妖怪の山の情報担当ですかね?」
まさかあの人が大天狗になるなんて。
…それならそうと言ってくれたら良いのに。
「そちらは何か分かったのか?」
「それがですね…。」
私は冥界であった事を彼女にすべて話した。
シロギーの事、幻想郷の賢者との話し合いの事をも包み隠さずに言った。
「ふーむ、そうか。そのシロギー殿だったか?彼女は冥界に預けられるのか。」
「まあ、そうですね。」
「所であのお面はどうされたのですか?」
私はずっと疑問だったことについて聞いた。
「あれは、死んだ父の形見だ。」
予想だにしない回答だった。
「そんな!今すぐ返しますよ!」
私はあのお面を取り出そうとした。
「いやお前は私の恩人だ。どうせなら恩人であるお前に受け取ってほしい。たのむ。」
そ、そこまで言うのなら。
それきり会話が途切れてしまった。
ああ、そうだった。
「私、宴会に誘われたんですけど。」
「!行くのか?」
「いえ、行きませんよ。」
「それもそうか。」
天星様も納得のようだった。
「万が一正体がばれたら幻想郷で生活しにくくなるものな。それに魔神について詳しく知りたいやからもいるだろうし。」
…そこまで大層な理由じゃないけど。
ただ単に酒があまり好きじゃない上に知りもしないやつとは飲みたくないし。
この事は心にしまっておこう。
そんな事を思っていると。
「探しましたよ天星様と…犬走椛。」
面倒くさい奴が来た。まだ楽な方だが…。
「今回はお見事でした!大天狗様達が駆けつけるまでの統率!その上倒れた者も次々と救助していくなんて!」
そう天星様を誉めちぎる彼女は私を親の敵のように憎む音。
「その反面、あなたは何をしていたのですか犬走さん?」
まったく敬意を感じない敬語で私に聞いてくる。
「…えっと、私は持ち場に残って哨戒任務を続けて居ました。」
嘘だがしょうがない。
魔神相手に殴り合いしていたとは口が裂けても言えない。
「ふ~ん。」
そう彼女は興味無さそうに返した。
聞いてきたのはアンタだろ!なんで私が滑った見たいになってんだ。
嘘だから別にいいけども!
そんな事を思っている私をよそに彼女は…。
「さあ、さあ、天星様!あちらで話しましょう!」
「お前なぁ、いくらなんでも失礼過ぎるぞ。」
そう天星様が彼女に説教する。
「それでは私はこれで。後は御ゆっくりとお話しください。」
「え?!もう行くのか?!」
そんな天星様の声を後ろに私はそそくさと立ち去った。
あの人を迎え撃つために。
「もーみーじー!」
来やがった。
「椛は大丈夫でした?!」
そう文様が聞いてくる。
「ええ、大丈夫ですよ。倒れたわけではありませんし。」
私はそう返した。
すると…
「そうだったんですか?!あの異変かなりの妖力を持った天狗でさえも倒れたんですよ。白狼天狗のなかでも倒れていなかった人は数えるほどしかいませんでしたよ!」
しまった。
「ぐ、偶然ですよ!ほら!烏天狗の中にも倒れた人もいるでしょう?」
私がそういったとたん周りの視線が私に集中した。
やってしまった。すっごくにらまれてる。
「それでも少数ですよ!実は椛には隠された力があったりして。」
「ないです。」
「ありゃ、即答ですか。もう少し自信持ちましょうよ。」
「無いものは無いです。」
…ちょっと焦った。
「そうだ!」
何かを思い付いたのか彼女はこう言った。
「霊夢さんから宴会のお誘いがあったのですが来ますか?」
そんなの決まってるじゃないか。
「行きませんよ。仕事もありますし。」
私は拒否した。行ってばれたりでもしたら注目の的になるに違いない。もしかしたら攻撃して来るかもしれない。あまり手荒な真似はしたくないから出来れば危険を侵すようなことは避けたい。
「えー。行きましょうよ!」
相変わらずしつこいな。
「だから無理だって言ってるじゃないですか。」
「むー!」
「そんな駄々こねても行きませんよ。」
「…どうあっても行かないのですか。」
…おや?諦めてくれたみたいだ。
それは良かっ…
「この手はあまり使いたくなかったのですが…。」
ん?なにするつもりだ?
「椛。私実は大天狗の位に赴任したんです。」
ここでその事を言うのか。あれ?…
………おい、まさか!
「大天狗として命じます。犬走 椛!私と共に宴会へ来なさい!」
この人ついに禁忌を使いやがった!
≪side out≫
<博麗神社 宴会の席にて>
≪side 霊夢≫
異変の混乱も落ち着き、ここ博麗神社には多くの妖怪達が集まって宴会を始めていた。
元凶である西行寺 幽々子までもが来ていた。その従者の妖夢とあの規格外の力を持つ魔神までもが。
「どうしたんだよ霊夢。そんな顔をして。酒が不味く成っちまうぞ。」
私のよこで魔理沙が話しかけてきた。
「…そりゃあ、ねえ。この異変を解決した本人がいないのは残念だけど折角の宴会だぜ!楽しもう!」
「…分かったわ。」
そうだ。この宴会には銀色の狼は来ていない。私達はまた彼女の手がかりを見つける事が出来なかった。
あれから私達は何をしたかと言うとパチュリー達に頼んで一緒に魔神について調べた。しかしこれはただ時間を無駄にしただけであった。
本当にないのだ。魔神について書かれた情報は。
まるではじめからこの世界には存在しないのではないかと疑うほどに。
しかし、現に魔神はいる。銀色の狼しかり、シロギーしかり、そして紅魔館の小悪魔しかり。彼らは確実に存在するはずだ。なのに情報がない。悔しく思わないはずがないでしょう。
「あらー、霊夢。そんな所にいたの?」
紫が突然ぬっと出てきた。
「なに?」
私は、ぶっきらぼうに答えた。
「もう、そんな面倒くさそうな顔しないの。」
「そんなつもりはないけど…。」
無意識にそんな顔してたのか…
「にしても怖かったわ~。あの時。」
あの時?ああ、銀色の狼が威圧してきたときか。
「あなたでも怖かったの?」
彼女もかなりの化け物だ。なんせこの幻想郷を作った妖怪の一人だからね。
それも外の世界とは一切干渉しないように。
「怖かったわよ。何せ動いたら殺されると思ったほどよ。こんな思いをしたのはいつぶりかしら。私じゃ手に余るわ。」
彼女にここまで言わせるだなんて。
「それにこの間から誰かに見られてるような気がするわ。」
「…それは考えすぎじゃない?」
「そうかしら?」
そんな会話をしているとふと目の前に座っている二人組が目に入った。
「えへへ。椛、お酒美味しいですか?」
「………。」
「何か食べたいものはありますか?持ってきますよ?」
「………。」
「うぅ…。無理やり連れてきたことは謝りますから機嫌直してください。」
「…もうしないって誓ってくださいねあんなこと。あんなことされたら私はもう自分の意思で行動できなくなりますよ。」
「…はい。」
あんな文初めて見た気がする。
ん?そういえば文は大天狗とか言う位に就いたらしいけど、結構偉かったはずよねそんな彼女に説教出来るなんて何者?
「あれは哨戒天狗ね。哨戒天狗は皆あんな服を着てるわよ。」
私の疑問に答えたのは紫だった。
確か妖怪の山の門番みたいなやつらだっけ?でもそれって…
「かなり位が低いはずよね?」
「そうよ。」
文の交友関係ってちょっと変わってるような気がする。
「ん?あ!霊夢さん!」
さっきまで項垂れていた事が嘘のように文が私に話しかけてきた。
「紹介しますね。彼女は白狼天狗の犬走 椛って言います。椛、こちらは博麗の巫女の博麗 霊夢さんです。」
そう彼女が紹介したかと思うと。
「はじめまして、博麗さん。犬走と申します。よろしくお願いします。」
「博麗 霊夢よ。霊夢で良いわ。こちらこそよろしく。」
すると…
「おお!私は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだ!よろしくな。」
「よろしくお願いします。」
魔理沙が突然乱入してきた。
一番驚いたのが
「あなたは椛って言うのね。いい名前ね。おっと、私は八雲 紫よ。知ってるかもしれないけど。」
「?申し訳ありません。私何分、無知なもので。」
そんな彼女の疑問に答えたのが文だった。
「彼女は幻想郷を作り上げた賢者の一人です。」
「!?あの!?そうとは知らず申し訳ありませんでした!」
まぁそれが普通の反応よね。
でも少し意外だった。妖怪の山の天狗は警戒心が強いはずなのに彼女は最初私や魔理沙にたいして普通に話してきた。それも礼儀正しく。それに魔理沙と私は人間、妖怪であるはずの彼女は気づくはず。私はともかく魔理沙にも威嚇はしてなかったわね。
いい子じゃん。
「所で霊夢さん!銀色の狼について教えてください!」
突然文が聞いてきた。アンタは少しぐらい我慢を覚えなさい。
「そう聞かれても、わからないわよ。何にも情報を残さなかったし。こないだ話したので終わりよ。」
「…そうですか。残念です。」
「それじゃあ椛も震えてることですし向こうへ行ってきますね!」
そういって彼女は椛の手を引いてどこかへ行った。
その時椛の首の後ろに赤黒い何かが見えた。
「あの子結構肝っ玉がすわってるわね。」
そう紫が言った。
「まあ、大天狗である文のそばにずっといるからね。」
そりゃあ結構な度胸がないと文のそばにはいられないしね。
て言うかむしろ文の方が積極的なんだと思うけど…
「ふふふ、違うわ霊夢。」
?何が違うのだろうか?
「彼女は私を見ても驚かなかったわ。」
「いや、ガクガク震えてたでしょ。」
「あなたや魔理沙、そして文はかなりの実力の持ち主だから気づいてないかもしれないけど私の出す妖力は白狼天狗程度じゃ立っているのもやっとよ。」
!?
「白狼天狗の中にはそれほどの実力を持つ者もいるかもしれないわ。でもね霊夢。案外近くに答えはあるかもしれないわよ。」
ただの偶然かもしれない。でももしかしたら…!
≪side out≫
長くなってしまった。
今回で春雪異変の章は終わりです。