いや、本当にアニメは面白かった・・・。
というわけで、拙い文章力ですが、暖かい目で見守って下さい・・・。
太陽が姿を潜め、妖しく輝く三日月が空を支配する、鬼にとっての活動時間。
都市部から遠く離れた位置に存在するこの村で、俺は単独で鬼滅の任にあたっていた。
村全体が見渡せる高台にて、精神を集中し、村の様子を観察していた。
近頃、この村で夜な夜な村人が攫われる事件が発生しており、その事件の解決を言い渡されたのだ。しかし事件に関する情報が少なく、捜査は難航しており、結局このように村を監視するしか対策がないのだ。
…無力な自分が恨めしい。
他の鬼殺隊はほとんどが鬼の気配を感じ取れる何かしらの能力があるものだが、自分にはその能力が欠如しており、鬼が現れるまで何もできないのだ。
今も鬼によって善良な何の罪もない人たちが苦しめられているかもしれないのに…。
特にこの村の人たちは、みんないい人ばかりで、突然の俺の来訪にも暖かく出迎えてくれたほどだ。
だが、それだけに自分たちの村の人間が消えていくこの状況に皆、心を痛めていた。そんな村人たちを見て、俺も早く事件解決に臨んだが、結果は今の通りだ。
何もできない自分に腹を立てていたところに、突然
「ぎゃーっ!!??」
村の東の方から悲痛な叫び声が聞こえた。
俺は迷うことなく、すぐさま声がした方に向かう。呼吸を駆使し、絶対に村人を救い、鬼を滅するために、疾風の如く村を駆けていく。
―そして、見つけた。影の関係で鬼の顔はよく見えなかったが、普通の人間ではあり得ないほど伸びた爪から、人ではなく鬼と分かる存在が村人を襲おうとしていた。村人である男性は畑用具である桑を振り回し、鬼をけん制しているが、体が再生する鬼にそんなものは意味を成さない。実際、鬼は構わず、男性に飛び掛かろうとしている。
よし、間に合った!
水の呼吸―壱ノ型―水面切りっ!
水平方向に勢いよく繰り出された斬撃は、鬼が村の男性に攻撃を加えるより先に鬼に一撃を加え、片腕を吹き飛ばした。
鬼は俺の攻撃を受け、たまらず逃走していったが、俺はそれをあえて見送った。
「た、助かったけど、あの鬼はいいのか!?」
先ほど襲われていた男性も俺の行動を見て、そう叫んでくる。自分たちを脅かす存在が、退治されずに逃げようとしているのだから当然だろう。
「大丈夫です、あの鬼は必ず滅します。それよりも早く家に帰った方がいい。」
そう男性に声をかけ、俺は鬼が逃げていった方へ走り出す。男性は、何か言いたげだったが、邪魔になると判断したのか、「気を付けてくれよ」とだけ言って、家へと帰っていった。
ちなみにだが、鬼を見つけ、その場で退治しなかったのには理由はある。
稀ではあるが、鬼は群れで行動する場合があるのだ。他にも仲間がいた場合、そいつも退治しないと事件は解決とは言えないからだ。
というわけで、逃げていく鬼に感づかれないように適度な距離を保ち、尾行すること10分。
既に村から遠く離れ、完全に森の中だ。
そんな森の中で、鬼は突然立ち止まった。
…急に立ち止まったが、何かあるのか?
鬼の行動が読めない為、茂みに身を隠し、しばらく鬼を観察することにした。
…しかし、夜の森は不気味だ。月が出ているとはいえ、森は漆黒の闇に包まれており、好んで来たいとは到底思えない。村人は攫われた後、この森に連れてこられたのだろうか…。
そんな考えを巡らせた時、突然鬼が再度走り出した。
っ!?
完全に不意を打たれた形になり、距離もそこそこ取っていたため、鬼の姿を見失ってしまう。急ぎ、先ほどまで鬼がいた場所まで来て、とりあえず鬼が走り出した方向に向かう。
…くそっ! 尾行がばれていたのか?? そんな素振りはなかったが…。
森を突き進んでいくが、いかんせん暗闇のせいで視界が悪く、鬼を見つけられる気がしない。向こうに気付かれることを覚悟で明かりを灯すか…?
そんな考えを浮かばせていると、突然少し離れたところから、叫び声が聞こえた。
今の叫び声は女性?? 他に攫われた村の人かっ!?
その可能性が頭に浮かんだ瞬間、今日一番の速度で声がしたほうへと向かう。
…いたっ!!
人影を確認し、近くにあった巨木に身を隠す。
…どうやら、尾行の意味はあったようだ。
巨木の陰から覗いた箇所は少し開けた場所になっており、三日月から放たれる微かな光が合計四匹の鬼と一人の女性の姿を映しだしていた。
女性は、木に押し付けられるように、四匹の鬼に迫られていた。女性の顔、体は複数個所、傷を負っており、痛々しさが伝わってくる。女性は、酷く怯えており、対照的に四匹の鬼は下品な笑い声をあげながら、女性を馬鹿にしたような目つきで見ている。
そして、一匹の鬼が腕を振り上げ、女性に攻撃するような動作をとった。
女性もそれを察してか、腕で頭を守るような恰好をとり、せめてもの抵抗をとる姿勢だ。
水の呼吸―肆ノ型―打ち潮っ!
鬼が攻撃のモーションをとった瞬間、体が勝手に動いていた。そして四匹の鬼の首をあっけなく切り落とした。
鬼は、最後まで俺の存在に気付かなかったようで、「何がおきたっ!?」と、首だけになった鬼が喚き散らしているが、鬼殺隊の剣で切られた鬼たちは、間もなく塵となって消えていった。
鬼の消滅を確認し、剣を鞘に戻すと、女性の方へと向き直る。
「…ひっ!」
女性は酷く怯えていた。目には涙を浮かべ、全身は小刻みに震えている。
…無理もない、こんな暗い森の仲、それも鬼四匹に囲まれ、意識を保っているだけでもむしろ凄いと思う。
「…もう大丈夫ですよ。鬼は退治しましたので。」
「…え、あ、え、鬼?」
しかし、まだ状況が飲み込めず混乱しているようで、鬼という単語にピンと来ていないようだ。そういえば、鬼というのは一般の人には馴染みのない言葉だって言ってたか…。
「…あ~、まあとにかく、あなたはもう無事だという意味です。」
「え、は、はぁ…。」
女性は、まだ事態を飲み込めていない様子で混乱している。
…こういう時、女性にどう接するればいいのかわからないんだよ。
生まれ育った土地は母以外に女性はいなかったし、何より兄に女性はおっかないと聞いていたため、今まで努めて接しないようにしてきたのが、裏目に出てしまっている。
…それに、この女性、凄く綺麗なんだよな。
腰まで届いた黒く艶のある髪、整った顔立ちに、すらりとした手足。まさに大和撫子を体現した存在であると言えよう。それだけにその体や顔にある傷をつけた鬼の存在が憎まれる。
どう声を掛けたらいいか分からないが、とりあえず村に戻るか…。
「あの、とりあえず村に戻るので俺が負ぶっていきますよ。」
そう言い、俺はおんぶをする態勢をとる。
「あ、あの、でも私…」
しかし、なぜか動こうとしない女性、というより動けないといった感じの雰囲気だ。
…まさか、俺みたいな男におんぶされるのは嫌だ、とか?
そうだとしたら、かなりショックだがいつまでもこの森にいることは危険だ。
鬼以外にも夜行性の動物だっているのだ、できるだけ早く村に戻りたい。
…やむを得ないか。
「ちょっと、失礼。」
俺は、その女性をいわゆるお姫様抱っこの形で強引に村まで戻る作戦を実行した。
「え、ちょ、ええっ!!」
女性は酷く驚き、嘘でしょう!? と言わんばかりにその見た目に似合う小さな悲鳴を上げていた。
…嫌なのは承知だが、勘弁してくれ。心の中でそう詫びを入れて、森の中を突き進んでいくのだった。
それにしても軽いな、いい匂いもするし…て、何を考えているんだ!? 集中だ集中!
この出会いが俺の運命を大きく変えることになるのだが、この時の俺にはそんなことを知る由もなかった。
つづく