エテメンアンキ ~魔法世界は感情化学?~   作:久国嵯附

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1話

  午後10:30頃、ある弱冠18歳の少年「米澤夕麻」は坂道を自転車で登っていた。

 

 その日は300年に一度あるかないかといわれる「惑星直列」の最終日であった。「惑星直列」とは太陽系の惑星「水金地火木土天海」としておそらく中学生あたりで暗記させられる、太陽系の惑星「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星」が太陽から一直線上に並ぶという、とても珍しい現象のことである。

 

 この現象が起こると、世界中の宗教家やオカルト研究家たちが、「世界の終わりだ」とか「ラグナロクの始まりだ」とか騒ぎ出すが、一般の市民としては「太陽系の惑星がたくさん見ることができる天体ショー」でしかない。その少年も一市民として天体観測をしようと、近くの丘の上へと自転車で向かっていた。

 

 

 上機嫌で丘の上へと向かっている道中、幼い女の子を見つけた。まだ幼稚園児ぐらいだろうか、その女の子の顔はにこやかであった。「こんばんは」と声をかけると、舌足らずな声で返事が返ってきた。少年は深夜にであるいているその女児のことを少々気にかけつつ丘の上へ道を進んでいた。

 

ブウゥゥゥゥン!!!

 

 坂の下のほうから轟々と鳴り響く車の音が少年の耳に入った。少年が振り返ってみると、煌々と輝く車のヘッドランプの中に、先ほどの女児が呆然と立ち尽くしていた。

 どうやらその車を操る主は酒を嗜んでいたようで、女児・少年ともに眼中にはなく、車は一直線に坂を上っていた。

 少年は自転車から飛び降り、がむしゃらにその女児へと奔っていった。

 

「危ないっ!」

 

 ドン!と女児を突き飛ばした少年の目には、イノシシのように迫りくる車の、光り輝くヘッドランプの明かりだけが映し出されていた。

「うわあああぁああぁぁぁ!!」

 

 少年の叫びが、丘のふもとに響き渡った。

 

 その叫びは、それが『1と0の数列の電子上の計算によって擬似的に再現されているもの』であると知っている唯一の存在、その人物の耳にかすかに響いた。

 

 

 

 白い、広々とした空間。その中心にはごちゃごちゃと機械が置かれている。

 モニターやコンピュータらしきもの、液体の入ったポッド・水槽。

 その傍で、ネコの耳をはやした少女が寝息を立てていた。

 

 ピクリと、その少女は特徴的な耳を動かし、もぞもぞと起き上がった。

 

「 誰じゃぁ、わしの眠りを妨げる者は…」

 

 その見た目に見合わない口調でぼやいた少女は、大きな伸びをしてモニターに歩み寄った。

 

「さて、なにか面白いデータは取れているかの」

 

 その少女は、宙に漂うたくさんのモニターをせわしなくつつきはじめた。それらのモニターには、グラフやら数値やらがずらりと並び、その様子は映画の司令部のようであった。

 

「ん? 重力値がおかしいのう…?」

 

 すこしワクワクした様子で、ある一つのモニターを手元に引き寄せ、素早い手つきでそれを操作していく。

 

「えーっと… そうじゃ!惑星直列じゃ!」

 

 納得のいった表情でしみじみとうなずき、いすに腰掛ける。そして机の上にあったコーヒーを飲み、宙に浮いた半透明のキーボードをたたき始めた。

 

「変な宗教家とか、終末論者とかがわいてくるかもしれんのう」

 

 モニターが切り替わり、映像が映し出された。大勢で集まってワイワイと天体ショーを楽しむ人々や、二人だけで静かに寄り添って空を見上げるカップル、そして群衆の前に立つ偉そうな男などが映っていた。

 

「何言ってるんじゃろうか、このおっさん」

 

 少女がキーボードをたたくと、男の尊大そうな声が流れ始めた。

 

「…いま、私たちの地球に起きている自然災害は、私たちへの警告なのです!しかし、もうどうしようもないのです!この世は終わりなのです!私たち一人ひとりの力では何もなすことはできないのです!だからこそ、今日、天界への扉が開くこの日に、天界へと昇ろうではありませんか!」

 

 男は演説を終えると同時に、銃を取り出した。

 

「やべぇな、このおっさん」

 

 少女がそう呟いていると、突然モニターに「データ受信中」という通知が現れた。

 

「なんじゃこれ。発信元は不明、中身は…生体データ?」

 

 突然の出来事に慌てる様子もなく、少女はそのデータを開いた。

 

「人間のデータか。性別は男、年齢は18歳。うーん、何故こんなものが急に?」

 

 少女は首を傾げつつも、手を止めることはなく、キーボードをたたいていた。

 

「これは、シミュレータの中の人間じゃの。復元したらなにか聞けるかもしれんのぅ」

 

 少女はキーボードをたたき終えると、部屋の隅にある機械が動き始めた。その様子を眺めながら、少女はその機械に歩いて行った。機械の横にはポッドがあり、なにかが形成されていく様子が見て取れた。しばらくすると、そのポッドには人が出来上がり、機械が止まった。

 

「ぽちっとな」

 

 少女がポッドの横にあるスイッチを押すと、プシューとポッドの蓋が開いた。なかには、先ほどのデータ通りの少年が横たわっていた。

 

「聞こえるかの? 少年」

「…ハッ!?」

 

 少年は驚いたように飛び起きた。そして、周りを見渡してとぼけた顔をした。

 

「どこだ、ここ…」

「騒ぐでない、おちつくんじゃ。ほら、自分の名前を思い出してみるんじゃ」

 

 少年は、少しの間目をつむって考え、口を開いた。

 

「米澤、夕麻…」

「そうか、そうか。」

 

 少女はそういうと、指を鳴らした。するとキーボードとモニターが現れ、少女はキーボードを操作し、モニターに何かを映し出した。

 

「米澤夕麻、18歳、性別男、AB型、私立葦名高校3年生、趣味はラノベとゲーム、こんなところかの」

「なんで俺の個人情報がこんなに!?」

「うーん、なにから説明していいやら…」

「まずあんた何者だよ!?」

 

 少女は顎に手を当ててなにかを考え、しばらくすると咳払いをして話し始めた。

 

「わしはアナナキじゃ! おぬしが18年生きてきた世界の創造主であり、管理者である」

「…ラノベか?」

「ちがう、どちらかというとSFなんじゃ。おぬしが居た世界はシミュレートされた世界なんじゃ。原子レベルで物事をシミュレートすることによって、限りなく現実に近い仮想世界が実現できているんじゃ。それと、今わしらの居るこの空間もシミュレートされたものなんじゃ」

 

 そう言い終えてアナナキがモニターを操作すると、夕麻の前に服が現れた。

 

「じゃから、こういうこともできるんじゃ。とりあえず服を着るがよい」

「あ、なんかすいません」

 

 

 

 夕麻は服を着終えると、アナナキに復元される前のことを思い出していた。

 

「俺はさっきまで自転車に乗って、丘を登っていたんだ。惑星直列を見ようとして。そこで、ちっちゃい女の子が轢かれそうになって…」

「ふむふむ。そういうことだったら、履歴から見たほうが早いの」

 

 

 そういってアナナキはモニターを操作した。そこには夜の坂道を自転車で登っている夕麻が映っていた。しばらくするとモニターの中の夕麻は、トラックに轢かれそうになった女児を押し飛ばし、はねられた。

 

 

「なるほど。お主は死んだんじゃの。」

「本当にシミュレータなんだな…」

「なんじゃ、まだ信じられんか。それともショックなんか」

「いや、べつに… というよりここもシミュレータの中ってことは、現実はどうなってるんだ?」

「おお、それが気になるか。目の付け所がいいの」

 

 

 アナナキは大きいモニターを出現させ、説明を始めた。

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