エテメンアンキ ~魔法世界は感情化学?~   作:久国嵯附

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3話

 モニターには地球そっくりの惑星と、その周りを取り巻く【赤色】、【青色】、【黄色】、【白色】の4つの月が映し出されていた。

 

「使わせてくれるって、今ここでじゃないのか?」

「そうじゃ。ここに映し出した仮想の惑星『ヨルド』は、言わば『魔法の世界』なんじゃ」

 

 アナナキがくるりと手を回して惑星を拡大させていくと、地球とはちがう様子が映し出されていた。

 

「月が4つもある…?」

「そうじゃ。これらの月には秘密があるんじゃよ。」

 

 4つの月のうち赤い月が拡大され、その断面図とともに映し出された。断面図を見ると、赤い月の内部には大きな装置が埋め込まれていた。

 

「えっ、魔法の世界なのに機械がある…」

「この巨大な装置はNFAなんじゃ。これとおなじように、他の3つの月にもNFAが埋め込んである。」

 

 そういってアナナキがモニターを操作すると、残り3つの月が拡大され、その内部が表示された。

 

「これら4つの月は等間隔でヨルドの周りを公転しておる。ヨルド上全体にNFAの影響が行き渡るようにの。」

「じゃあ、ヨルド上のどこでも魔法が使えるのか?」

「そういうことじゃの。そもそもこの仮想の惑星は、『魔法のある世界だと人類はどう進歩するのか』を見るために作ったんじゃからの。これらの月とNFAも、初期設定でわしが置いたものじゃ。それともう一つ」

 

 アナナキがモニターをつつき、地球の太平洋に当たる部分を拡大した。

 

「あ!ムー大陸がある!」

「その通りじゃ。わしが初期設定で設置したのじゃ。」

「科学的に存在するはずがないんだったな。それで、設置した理由は?」

「まぁ、わしの趣味というのも理由の一つなんじゃが」

 

 夕麻の質問を聞いたアナナキは、モニターを操作して一本の線を引いた。

 

「それは、赤道か?」

「そう、赤道じゃ。ムー大陸は赤道が通る場所に位置しておる。赤道に近い土地を増やしたかったのじゃ。」

「なんでそんなに赤道にこだわるんだ?」

 

 アナナキがモニターを操作すると、自転する地球が現れた。

 

「赤道は惑星が自転するときに一番外側にくる点を結んだものじゃ。これは知っておるの?」

「ああ、学校で習ったことあるな」

「実は赤道上の地域は、惑星の自転による遠心力が一番強く働いて、重力が小さくなるという性質があるのじゃ。」

 

 夕麻は少し考え、あっとつぶやいて頷いた。

 

「葦名台と同じか!」

「あれは重力異常地帯でちょっと例外じゃが… まぁ、似たようなものじゃの。つまり、NFAが強く効く場所なわけじゃ。」

「魔法が強くなるってことか」

「それはどうか知らんが、何かしらの影響があるはずなんじゃ」

 

 アナナキはパンッと手を鳴らして、モニターにヨルドの世界地図を出した。

 

「さて、話を進めるかの。お主にはヨルドの世界に降り立って、文化や技術を体験してきてもらいたいのじゃ」

「それって、具体的には何するんだ」

「現地の人々と交流、生活、あるいは探索といったところかの」

「交流って、言葉が通じないんじゃないか?」

 

 それを聞いたアナナキは軽く咳払いをし、わけのわからない言葉を話し始めた。

 

「 =.&##%?#&?」

「なにいってんだお前?」

「 -+-?!&-*/%」

「やめてくれ、言いようのない不安がこみ上げてくる…」

 

 んんっと咳払いをしたアナナキは、今まで通り日本語を話し始めた。

 

「いったいなにをしたんだ?」

「エレツに搭載されておる翻訳システムを使ったのじゃ。ここで活動している人間はだれとでも会話ができるのじゃぞ。『そんなん無理だろ、文法が全然違う言語だってあるわけだから』と言おうとしたな?」

「えっ… なんでわかったんだ?」

 

 気味の悪そうな顔をして言った夕麻に対し、アナナキは笑いながら言葉をつづけた。

 

「脳波からどういう意味の言葉を発しようとしているのか、どういったニュアンスを込めているのかといった情報を読み取ったんじゃ。この手法を転用したのが、エレツの翻訳システムなんじゃ。」

「なるほど。そういう仕組みなら、まぁ先に言われたが、文法的問題もないわけか。」

「そうじゃ。試しに使ってみるが良い」

 

 ヒョイとアナナキが手を振ると、夕麻の視界の右上に【日本語】という表記が現れた。

 

「ん?なんか出たぞ?」

「ちゃんと有効化できたようじゃの。それを切り替えるようなイメージをしてみるがよい」

 

 言われたとおりにその表記を【英語】に置き換えるイメージをすると、そのイメージ通りに切り替わった。

 

「あー、あー、マイクチェック。本日は晴天なり。ちゃんとなってるか?」

「うむ、日本人らしいイングリッシュが聞こえたぞ」

「あれ?」

 

 夕麻自身としては自分は日本語を発し、自分の耳にも聞き慣れた自分の声が聞こえていた。

 

「本人には自分が発したとおりの声が聞こえて、周りには指定した言語で伝わるのじゃ。もちろん、本人の声帯の声での」

「無駄に高機能だな」

「聞く側の機能としては、相手が話している言語が表示されて、さらに音として聞こえる言語を翻訳して聞くことができるのじゃ」

 

 よく見ると、アナナキの頭上には【日本語】という文字が出ていた。

 

 他にどんな言語があるのか気になり、一覧を出すイメージをすると、視界いっぱいに項目が現れた。

 

「うわっ!?」

「お主やらかしたな? 仮想世界で独自に作られた言語も含まれておるから相当数並んだじゃろう。」

 

 夕麻がその一覧を消すイメージをすると、彼の視界はもとのように日本語だけの表示に戻った。

 

「ふぅ。あと、異世界転生みたいなものだから、やっぱりこれだけは外せないよな」

「ん?なんじゃ?」

 

 

「チートな特典はないんですか?」

 

 

「はぁ。来ると思っておったわ。」

 

 アナナキはため息を付きながら右手を振り、先ほど見たあの神々しい剣が現れた。

 

「えっ、草薙の剣をくれるのか!?」

「まぁ、これぐらいあった方が調査もはかどるじゃろう。それともうひとつ。」

 

 草薙の剣を夕麻に手渡したアナナキは、パチン、と指を鳴らした。すると、黒いボールのようなものが先端についた長い杖が現れた。

 

「杖か。まぁ、魔法の世界には必要だよな」

「ただの杖ではないぞ。この黒い球は小型のNFAなのじゃ」

「ガチの魔法の杖ってことだな」

 

 アナナキが杖を掲げると、先端の黒いボールが少し浮いて回り始めた。

 

「今、何か魔法が使えるのか?」

「うむ、NFAになれるためにすこし練習してみるがよい」

 

 草薙の剣を机の上に置き、アナナキから杖を受け取った夕麻は、燃え盛る火の玉を思い浮かべた。

 

 ボォッ!!

 

「うわぁっ!? マジで出たよすげぇ!」

「まだ信用してなかったんか、お主は…」

「そりゃぁ、あんな説明で理解するのは無理があるわ」

 

 初めて発動させた魔法に感動している夕麻に、アナナキは真剣そうな表情で話しかけた。

 

「一つだけ注意することがあるんじゃ」

「ん? なんだ?」

「さっきも言った通り、その杖は小型のNFAがついておるわけじゃが、NFAの特性上周りのやつにも効果が出てしまうんじゃ」

 

  アナナキがパチンと指を鳴らすと、一筋の光が放たれた。それはビュゥンと音を立てながら一瞬にして壁に当たり、壁に深い傷を残して消えた。

 

「うむ。相変わらずわしのフィンガースナップは好調じゃの」

「あっぶねぇなあ!なんだよ今のは!」

「ん?わしがNFAをつかってフィンガースナップを披露しただけじゃが?」

 

 今度は夕麻にその手を向けたアナナキは、不敵にわらって指を鳴らした。夕麻は咄嗟に強固な壁を思い浮かべ、床を強くたたいた。

 

ゴゴゴゴッ! バシュッ! ガラガラガラ...

 

「なんじゃ、つまらんのぅ…」

「人に向かって打つんじゃねぇよ!俺がうまくガードできたから大丈夫だったけどよ」

「魔法のセンスはあるみたじゃの。じゃがそれを確かめるために、お主に真空波を飛ばしたわけではないのじゃ」

 

 アナナキは一つ咳ばらいをしてモニターを出現させ、NFAの画像を表示した。

 

「さっきも言った通り、NFAの効果は装置の周囲にドーム状に波及し、距離によって減衰する。お主に渡した杖でもそれは変わらん。わしがフィンガースナップで真空波を飛ばすことができたのも、NFAの効果があったからなのじゃ。」

「さっきのって、あんたがシステムでなにかやったとかじゃなかったのか?」

「システムなぞつかっておらん、NFAでの魔法じゃ。つまりお主がその杖を使うとき、周囲の者も魔法が使えてしまう、もしくは魔法が強化されてしまうということじゃ。」

 

 スタスタと夕麻に近寄ったアナナキは、彼の手から杖を奪った。そして杖の上側、ボールが乗っている皿のあたりを指さした。

 

「ここをよく見るんじゃ。NFAのギアを調節するツマミがついておる。場合によって使い分けることじゃの。」

「最大ギアだとなにが起きるんだ?」

「さぁ、何が起こるかはわからんのう。わしは試したことがないんじゃ。ヨルドで試してみることじゃな。」

 

 アナナキは手を振って分厚い本と肩掛けカバンを出現させ、杖と一緒に夕麻に渡した。

 

「ヨルドの世界の地図と各国の簡単な説明がかいてある。さらに、自分の現在地が表示される魔法の本じゃ。まぁ、システム設定を利用したまがい物の魔法なんじゃが。旅の参考にするとよい。」

「え、どうやって調べたんだ?」

「仮想世界のこれぐらいのレベルの情報なら、システム上で収集できるんじゃよ。」

 

 夕麻が本を開いてみると、世界地図から地域の地図、地形図にいたるまでヨルドの完璧な地理データが記されていた。さらにページをめくると、様々な国とその政治体制、公用語などがつづられていた。まさに、ヨルドの資料集である。

 

「いや、これはありがたいけど…、なんだかなぁ」

「お主がするのはあくまでも文化や技術の体験・収集じゃからの。」

「でもさぁ…」

「うるさいのぅ。説明も装備の提供もすんだわけじゃから、さっさといくんじゃ。ほれ、あそこから」

 

 アナナキが指さした先には、先ほどまではなかった、『ヨルド☆』というプレートが掛かったドアがあった。

 

「なんか子供部屋のドアみたいなんだが、あんなのでちゃんとつながってるのか?」

「もちろんじゃ。そのドアの先はムー大陸のとある山奥につづいておる。」

「そうか…。なんか味気ないが。じゃあ、そろそろ出発するか。」

 

 夕麻は、資料集をカバンに入れて背負い、机に置いていた草薙の剣と杖を腰に携えた。そしてドアへと足を進め、そのドアノブを握った。その刹那...

 

「いってらっしゃい、なのじゃ!」

 

パチン! ガコン! ウワァァァァァ...

 

 アナナキが挨拶とともに指を鳴らすと、ドアの前の床がガバッと開き、夕麻は奈落の底へと落ちていった。

 

 




設定の説明のような話が続いていましたが、これで一応準備の話は終わりです。

また、次話は少し遅れるかもしれません...
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