50年前に滅びた世界で   作:たかき_438_16

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第40話『叫び』

『いやぁ、すまんのう。わしが間違っていたかもしれんと思ってもう一度やったんじゃが』

「いやいや、傷がさらに深くなってますよ」

 

もう一度調べたら実は魔力があったとか、そういうことを言うのが普通ではないのか。それなのにやっぱりないって言うだなんて、このワイバーンはお世辞というものを知らないのだろうか。お世辞を言われたとしても嬉しくはないが。

 

『ほほ……それと、隣の少女の方も調べたのじゃが、こっちはあまり強くないが、ちゃんと魔力を持っておるぞ』

「それはまあ、一応知ってます」

 

強くないというのは知らなかったが、魔力を持っていること自体は目の前で魔法使ったり回復魔法使ってもらったりと、魔法を使っていたので魔力があることはわかる。

と、ここで1つの疑問が出た。

 

「魔素って魔力持っている生き物には悪影響を及ぼすんですよね? でも、それならワイバーンさんとか、アンジェラちゃんが何ともないというのは、どういうことなんですか?」

 

俺が無事だというのは魔力を持っていないから(完全に信じたわけではないが)ということだと思うが、アンジェラとそこのワイバーンは魔力を持っているのにもかかわらずぴんぴんしている。それは一体どういうことなのだろうか。

 

『ああ……わしは魔素に対してかなりの耐性を持っておるからの。そういう奴はごくわずかしかおらんが、その中にワシも入っておるんじゃ』

「なるほど。じゃあアンジェラちゃんも……」

『うむ、そこの少女も耐性を持っておるのじゃないかの。それと魔力がやや弱いというのも、その分魔素の影響を受けづらくなるからの。じゃからこんな中でも平気でいられるんじゃろう』

「なるほど……」

「へー」

 

断定した表現は使っていないので、ワイバーンはどれほどの耐性を持っているのかを調べることはできないみたいだ。だが実際はワイバーンの推測通りなのだろう。アンジェラも特に反対意見とかは述べていないし。どうも魔力を持っていて、かつ耐性も持っている生き物はごく一部しかいないようだ。そんな耐性持ちが1人と1体、目の前にいる。これは相当レアな光景なのではないか。まあ、耐性がないと生きていけないような世界なので当たり前といえば当たり前なのだが。

 

「その、魔素ってのは今も周りに大量にあるんですか? 数十年たって量が減ったってことは……」

『いや、今も50年前とほとんど濃度は変わっておらんからのう。相変わらず耐性を持っておらんと、生き抜くことは無理じゃろうなぁ』

 

ふと思ったことを質問したが、魔素は今も昔も濃度がほとんど変わっていないみたいだ。ということは、もし俺が魔力9999とか∞とかを持った状態で召喚されていたら5秒で死にそうだから、全くない方がかえって良かったのかもしれない。まあそこも耐性を持っているとかでカバーすればいい話なのだが、魔力を持っていなくてよかったと思いたいのでそれは考えないことにした。

 

「……そういえば、ちょっとお願いというか、見たいものがあるんですけど」

『ん、何がじゃ?』

「えーっと、ワイバーンさんの飛んでいる姿、ちょっと見てみたいなーなんて」

 

目の前にいるワイバーンが空を飛んでいるのを想像すると、かなり壮大な光景が目に浮かんだ。いや、実際に飛んでみたらそこまで壮大ではないかもしれないが、それでも見てみたいものは見てみたい。出会ってからずっと地面に足をついていたため、飛んでいる姿を見たことはなかった。というわけで少しでワイバーンにお願いをして、ちょっと飛んでみてくれないかと言ってみた。

 

「それはー……ちょっと無理かのう」

 

が、俺のお願いはやんわりと断られてしまった。まあ出会って数十分もたっていないし、そんなことを見せる義理はないもないだろう。断られてもしょうがない。

 

「さいですか……すいません、さっき出会ったばっかりなのに、無茶なことを言ってしまいました……」

『いや、違う違う。今は飛べないというだけじゃ』

「え、今は?」

『そうじゃ。わしも数十分ほど前までは空を颯爽と飛んでおったのじゃがのう』

「数十分前? ……何かあったんですか?」

『いや、年を取ったというのもあるのかのう、飛んでいるときに突然翼に激痛が起きて、今も痛くて全然飛べないんじゃ。痛みも少しだけ収まったが、起きたときなんかはもう大変じゃった』

「あぁ、ぎっくり腰的な」

『うむ。同じかどうかはわからんが、多分そうじゃ。今は何とかなっとるが動かすと……』

 

ワイバーンはそう言いながら羽をばさりと少し動かした。すると。

 

「グォォァォォォォォォォォォォォォォ!!!」

「ほげふぅ!」

 

いきなり雄たけびを上げてきた。それもテレパシーではなく本物の音で。雄たけびというよりは悲鳴といったほうが近いだろうか。いきなりそれをやっていたので、全く身構えることができなかった。慌てて手で耳を塞ぐが、それでも鼓膜が破れてしまったのではないかと思うほどだった。

 

「うおわぁ……ワイバーンさん声でかいっすねぇというよりもでかスギィ!」

『いや、すまんすまん。思わず声を出してしまった』

 

声というには規格外の大音量である。大きな大砲から弾が発射されたかのように、バカでかい音だった。今でもさっきの雄たけびが頭の中でこだましているような気がする。

ふと、さっきまで隣にいたアンジェラがいないことに気づいたが、同時に自分のすぐ後ろにいるということも分かった。彼女は俺の後ろに回り込み、ワイバーンから隠れるような体勢をしているみたいだった。

 

「うう……びっくりした」

 

どうやら今の声で相当ビビっているみたいだった。涙は出ていないみたいだが、今にも泣いてしまいそうな感じが出ている。普通にかわいい。

 

『これは申し訳ない。痛くてつい……』

「うう……もうあんな声出さないでね……」

『いやーしかし、この痛みも何日続くかわからんからのぉ。痛みが引かなかったらまた言ってしまうかもしれんのう……』

「……痛くなくなったら、言わないんだよね?」

『うむ、それはそうだが……』

 

ということをワイバーンが話すと、顔だけをひょっこりとワイバーンの方へと出した。

 

「私、回復魔法使えるから……早く元気になって、もうあんな声言わないでね」

 

どうやら先ほどの雄たけびが相当こたえたみたいで、一刻も早くその原因を取り除いたいみたいだ。確かにさっきは痛くてあんな声を出したのだから、痛みがなくなったら声を出すことはなくなるだろう。

 

『ホントかのう? それはありがたい。わしは回復魔法を使うことはできんからのう』

 

ワイバーンが回復魔法を使えないというのはちょっと意外だった。魔法にも向き、不向きとかがあるのだろうか。そんなことを思っている間に、アンジェラがワイバーンに魔法をかけていた。

これでさっきみたいに雄たけびを上げることはなくなるのだろうか。明日には良くなっているということを願うばかりである。




2020年中に投稿しようと思っていたら、2021年の2月になっていただと……
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